宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
※主人公はジークアクス公開前から転生してきています。
ジオン公国軍 強襲揚陸艦『ソドン』が警笛を鳴らすと、進路上で縺れるように取っ組み合っていた二機のザクが、慌てて互いを突き飛ばし、艦の左右へと離れていく。
モニタに映し出されたザクの
インストーラーデバイスの接続されていない、非武装の民間機だろう。
噂に聞くクランバトルとやらではなさそうだが――だからこそ、余計に、自嘲気味に口角が上がるのを抑えられなかった。
「俺があの時、命を預けた
“少尉”との機種転換訓練に区切りがつき、データ取りと整備で俄に慌ただしくなった格納庫では、誰にも聞かれるはずのない呟きだった。
だが、耳が良いのか――いや、“勘”が良いのかな――その呟きを聞きつけたエグザベ少尉が、興味深そうな視線をこちらへ向ける。
整備員に群がられる
「軍曹は
「ええ、少尉。自分は連邦の『ソロモン落とし』の際、グラナダの基地で新兵訓練中でした。当時の我が軍はルナツー攻略に掛かりきりで人手が足りず、訓練途中の自分もザクに乗って出撃しました。シャア大佐の決死隊ではなく、ソロモン護衛艦隊の注意を惹きつける……囮としてですが」
念願のモビルスーツに乗れると思った矢先、まさか赤い彗星のために囮となって死んでこいと言われるとは思わなかった。
いや、そもそも――
「それで、初陣にも関わらず、しかも武装に乏しい
「内6機は共同撃墜です。仲間がみんな死んじまったから、プロパガンダのために単独撃墜って事になってる」
「それは……」
「おっと、これはオフレコで」
「それと何度も言いますが、少尉。貴方は俺の上官なんだ、敬語は辞めて下さい」
フラナガンスクールの首席で、シミュレーションでは何度も俺を負かしていると言うのに、
「確かにソドンでは俺が先任ですけどね、年も近いしモビルスーツの腕前は俺より上です、それに何より――ニュータイプでしょう、少尉は」
「そう――だったな。了解した、ツクヨ軍曹」
エグザべ少尉の返答に敬礼を返し、再びザクを見上げる。丁度整備が終わったのか、搭乗指示が下った。
「お先に失礼します、少尉」
整備の終わったザクへと跳ぶ。コクピット横で待機していた整備士に手を引かれザクへと乗り込むと、整備状況の説明を受けながら手早く起動前のチェックを済ませてハッチを閉じた。
すぐに訓練を再開するかと思いきや、待機指示が出される。
不審に思いブリッジに通信を繋げば、そこでの会話からサイド6の軍警察が赤いガンダムを追跡しているらしい状況が把握できた。
「驚いた、本当に『赤い彗星』なのか?」
「これまでも『赤い彗星』を騙るバカは沢山いました。どうせこいつも偽物ですよ」
ラシット艦長の呟きに、コモリ少尉が呆れたように主張する。そこに、落ち着いた低い声が続く。
「コモリ少尉も知っているでしょう、大佐の出自を」
シャリア・ブル中佐。
木星帰りの男。
灰色の幽霊。
赤い彗星のMAV。
そして、彼が言う『大佐』――シャア・アズナブル。
言わずもがな、日本人なら『機動戦士ガンダム』を見たことがない人でも名前くらいは知っている超有名キャラクターだ。
そう『キャラクター』のはずだった。
だが現実に彼は存在し――何なら俺は、グラナダで握手した事まである――俺もまた、この世界で22年間生きてきた。
つまり俺は、『機動戦士ガンダム』の世界に転生した転生者で、そんな転生者が現れたバタフライエフェクトなのか何なのか、何故かジオンが一年戦争に勝利してしまっていた。
前世からの夢であるモビルスーツ乗りになるべく、故郷のサイド6がジオンの占領下に置かれた機に家を飛び出し、年齢を誤魔化してジオン軍に入隊(サイド6ってポケ戦の舞台だし、連邦寄りの中立じゃなかったっけ? と思わないでもなかったが、MSに乗れるならジオンでも連邦でも良かった)した俺はグラナダに送られ、そこで赤い彗星と出会う事になる。
その後はエグザベ少尉に語った通り訓練機のザクで出撃し、同期の仲間達のお陰でただ一人生き残り、停戦交渉を有利に進めたいザビ家の思惑によってグラナダ防衛の英雄の一人にでっち上げられ、軍縮を進めるジオン軍の中でなんとか生き残った結果、5年経ったU.C.0085の現在では軍曹にまで昇進していたと言う訳だ。
「オメガサイコミュの起動デバイスを使用します」
シャリア・ブル中佐の発言にブリッジが騒然とし出す。
俺としては、なんとなく予想していた展開だ。この『赤い彗星』に脳を
そして、それは俺も同じだ。
新たな物語が始まる予感。
正史とは外れてしまったこの世界で、『続編』が始まる事を俺はずっと待ち望んでいた。
一年戦争では中立のサイド6に生まれてしまったせいで連邦にもジオンにも所属できず、戦争終結間際になんとかジオン軍に入隊できたものの、新兵故に決死隊にも同行できなかったが……今は違う。
今度こそ『ガンダム』という物語の登場人物になってみせる。
『赤い彗星』が一足先に
だって条約で禁止されているサイコミュを平然と乗せた『新型のガンダム』なんて、主役機ないしライバル機だとしか思えないだろ?
差し詰め新作のタイトルは『機動戦士ガンダムクアックス』あたりだろうか。
「主人公はエグザべ少尉か、それとも赤いガンダムのパイロットか……ともあれ、俺も舞台に上げてくれよってな」
呟き、通信機のマイクをオンにする。
ブリッジではクルーの大半(特にコモリ少尉)がシャリア・ブル中佐の指示に否定的なようだが――
「ツクヨ軍曹であります。オメガサイコミュに不安があると言うのならば、自分も出ます。何があってもエグザべ少尉は自分が連れ帰って来ます」
「だけど軍曹、貴方のゲルググMはジェネレーター回りの不調で動けないはずでしょ!?」
「はい、コモリ少尉。ですから
叩き上げの先任下士官にここまで言われては、任官したての新品少尉がこれ以上言い募ることは出来ないだろう。
ブリッジを映すカメラの中では、シャリア・ブル中佐とラシット艦長がアイコンタクトを交わしている。
艦長に否やは無いだろうが……さて、この狸親父はどう出るか。
「わかりました。任せましたよ、ツクヨ軍曹」
「ハッ! お任せ下さい!」
驚いた、思ったよりあっさり許可を出すな。この人は俺に含むものがあると思っていたが……まあいい。
敬礼し、ブリッジとの通信を切る。
代わりに通信をつなぐ相手はジークアクスのエグザべ少尉だ。
「と言う訳です。出しゃばるようですが、少尉の足手まといにならぬよう善処します」
「いや、助かった、軍曹。中佐はああ言ってくださるが、正直不安だった」
「……正直言って、少尉の操縦技術は生半なベテランよりも上です。自身を持って下さい」
励ましたところで、再びブリッジから通信が入る。
冗談めかしたような低い声、またシャリア・ブル中佐か。
「ああそうそう。ちなみにこれ、秘密作戦ですので諸々よろしく」
「よろしくって――!」
「大丈夫です、エグザベ少尉。君も――ニュータイプでしょう?」
揶揄われてるな、少尉。もしくは可愛がられているのか。
シャリア・ブル中佐は、俺には淡白だから……
確かに佐官と下士官という階級差を考えればそれが当然なのだが……決死隊に加わっていないにも関わらず、グラナダ防衛の英雄に名前を連ねているのが気に食わないのかもな。
取り留めも無い事を考えている内に、ザクとカタパルトの接続が完了する。
各種機器オールグリーン、問題ない。
「ツクヨ・ユズリハ軍曹、出ます!」
瞬間、全身を襲うGに身構える。
体がシートに押し付けられる感覚に耐え、慣れた動きでフットペダルを操作。
宇宙へと打ち出されたザクは、あっと言う間にソドンを後方へと置き去りにする。
後から発進したジークアクスがこちらへと追い付き、ショルダーシールドへ触れる。接触回線だ。
「赤いガンダムはコロニー南端のジャンクヤード方面へと向かっているらしい。俺が先行する、MAVの後衛は任せた」
「了解しました、後ろはお任せ下さい」
イズマコロニー南部、ジャンクヤード。
正方形に形成されたジャンクが太陽光遠心炉に焚べられるまでを待つ区域だ。
デブリ帯程ではないが障害物は多い、隠れるにはうってつけだろう。
濃密なミノフスキー粒子が漂う宇宙空間を駆け、程なくしてジャンクヤードへとたどり着く。
赤いガンダムは拍子抜けするほどあっさりと見つかった。
「丸見えじゃないか、隠れようともしていない」
「それだけ機体の性能か、自分の技量に自信があるんでしょう。仕掛けますか?」
「いや、まずは停戦信号を打とう」
ジャンクの影からジークアクスが飛び出し、信号弾を放つ。
その後に続き眼下を見下ろせば、まさに赤いガンダムが2つのビットを切り離し、今更ながらバレルロールで姿を隠した所だった。
さて、見せてもらおうか。赤いガンダムの性能とやらを!
「停戦信号は無視……ならやるしかない。オメガサイコミュを起動する!」
「了解!」
余計な思考は隅に追いやり、オメガサイコミュ起動中のジークアクスを守るべく周囲へと視線を巡らせ――
「エグザベ少尉!」
俺の叫びより早くジークアクスが身を翻す。
直前までジークアクスの居た空間を、ビットから半たれたビームが焼き焦がす。
続いて放たれた別角度からの攻撃も辛うじて回避、いや、ビームライフルが持っていかれた!
「なんだこれ!?」
エグザべ少尉が叫ぶ。
そんな暇は無いだろうに――!? 来た!
ジャンクの影から飛び出してきた赤いガンダムがジークアクスへと斬りかかる。
エグザべ少尉も専用ビームサーベルを抜くが間に合わない。たまらずシールドで受ける。
赤いガンダムは鍔迫り合いから膝蹴りで距離を離し、頭部機関砲を掃射。ジークアクスは弾丸を受け破損したビームサーベルを投棄すると、爆散したソレは瞬く間に宇宙の塵となった。
「少尉から離れろォ!」
一瞬で武器を失ったジークアクスから赤いガンダムを引き離すべくザクマシンガンを掃射するが、ブースト1つで簡単に回避された。
なおもマシンガンを打ち続けるが、赤いガンダムにはカスリもしない。
「少尉! オメガサイコミュは!?」
「ロックが外れない! なんで起動しないんだ!」
オメガサイコミュが起動しない? これだからバイオセンサーにしろサイコフレームにしろ、エスパー頼りの兵器は!
「うおおおおおおお!!!」
ともあれ、起動しないならば仕方がない。サイコミュ制御が使えない所為か、精細を欠いた動きをするジークアクスを守るべくマシンガンで牽制をするが、ビームサーベルを構えた赤いガンダムは構わず無防備なエグザべ少尉へ紅刃を振るう。
「駄目だ、こうも近くちゃジークアクスに当てちまう。ならば接近戦で……待て、ビットは!?」
考えた瞬間にスラスターを吹かす。
それでも、ビットから放たれたビームはショルダースパイクをかすめ、吹き飛ばした。
「気づかなければやられていた――もう一発!?」
もう一基のビームをショルダーシールドで受けるが、ビーム砲の熱量に耐えられず右腕ごと持っていかれる。
「そこだ!」
被弾と同時に左手に持ち替えていたマシンガンをマガジンいっぱいまで放つ。
遠方で爆炎が1つ。右腕と引き換えだが片方のビットは貰ったぞ!
「少尉! サイコミュが起動しない状態では手に負えません、離脱を!」
ビットを破壊されるとは思っていなかったのか、赤いガンダムが怯んだ隙に距離を取っていたエグザべ少尉へと怒鳴る。
だが――
「軍曹、後ろだ!」
「何ッ!?」
反射的に身を翻す。
いつの間にか後ろへと回り込んでいた赤いガンダムのビームサーベルが、腹部の動力パイプを溶断した。
「うおあっ!?」
「軍曹!」
コイツ、
九死に一生を得た俺だったが、動力パイプを貫かれた事で下半身の大半が稼働不能になり、さらに右腕を失った所為でAMBACによる姿勢制御が覚束ない。
「俺が宇宙で溺れるとはっ!」
叫ぶ。
なおもビームサーベルを振り下ろしてくる赤いガンダムに辛うじてヒートホークを合わせた。
一合、二合、三――
視界の端を何かが横切る。
反射的にそちらへヒートホークを振るえば、そこには突進を仕掛けてきていたもう一基のビット。
「しまっ――」
ヒートホークは砲塔を破壊し本体へとめり込むが両断には至らず、全開までスラスターを吹かしたビットに固定されてしまう。
右腕は動かない。左肩の装甲も吹き飛ばされている。次のビームサーベルを受けることは不可能。
つまり、死――
「軍曹ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そのままスラスターを吹かし、赤いガンダムをジャンクへと叩きつけ、それでもなおエグザべ少尉はジークアクスを走らせる。俺から赤いガンダムを引き離そうというのだ。
「エグザべ少尉っ――ぐあっ!」
ヒートホークを抑え込んでいたビットが限界を迎え、俺のザクはその爆発に巻き込まれた。
吹き飛ばされ、ジャンクへと機体を強かに打ち付けられる。
僅かに残ったスラスターでなんとか機体を制御し周囲を確認するが、赤いガンダムとジークアクスの姿はどこにもない。
「少尉! どこですか少尉!? クソッ! ミノフスキー粒子が濃すぎて通信が繋がらない!」
ジークアクス、赤いガンダム、共にロスト。
これだけの騒ぎを起こしたのだ、すぐに軍警が駆けつけるに違いない。エグザべ少尉の安否は気がかりだが、何とかしてソドンへと戻らなければ……
「アレだけ啖呵を切っておいて、エグザべ少尉を連れ戻せないとは、情けない……だが……」
5年前に消えたはずの赤いガンダム。
それが今になって目の前に現れたとなれば……
「『物語』は、もう
静かな叫びを聞く者は居ない。
ただ真っ黒な
俺の口元は、知らず、弧を描いていた。
本編7話のあたりまでは書き溜めてあるので、書き溜めが尽きるまではなるべく短い間隔で投稿していきます。
色々と独自設定・解釈も多いですがよろしくお付き合いくださいませ。