宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
廃屋の鏡。
ベットの下の暗がり。
柳の根元。
夕暮れの校舎。
人は見えないハズの物をそこに見て、畏れを抱く。
ならば、見えない明日こそを懼れるべきだ。
「ゲーツ中尉!」
『金の月輪か! 貴官にはガンダムの抑えを任せたはずだ!』
「シャリア・ブルに俺の裏切りがバレている」
『なにィ!? 隠蔽工作は完璧じゃなかったのか!』
「完璧だと思っていたさ、さっきまではな!」
モビルフォートレス形態のサイコガンダムに取り付き、ゲーツ中尉のハンブラビに向けて通信を飛ばして状況を説明する。
「キシリア暗殺は俺も協力するが……無理にキシリアを狙うな、シャリア・ブルさえ落とせば後はどうとでもなる」
『この作戦の指揮官は俺だぞ!』
「意見の具申だ! 指揮官ならそれくらいの度量は持て!」
『お前を信用しろと言うのか!?』
「協働しろと言っている!」
『あー! もう、うるさい! ボクの上でごちゃごちゃ騒ぐな!』
ドゥーの声を引き金に、サイコガンダムが立ち上がる。
固定されていた腕部が展開し、体育座りのように折り曲げられていた脚部が下ろされ、持ち上がった頭部ではアイカメラを防御するシャッターが閉まった。
体前面の五連装拡散メガ粒子砲の砲門が開けば、あっという間にモビルスーツ形態への変形が終了する。
MS形態になったサイコガンダムにいつまでも掴まっている訳にもいかず、俺とゲーツは僅かに浮き上がって進むサイコガンダムに並走する形になった。
「……ひとまず俺は軍警の排除に移る、戦闘が始まればソドンも仕掛けてくるはずだ、油断するなよ」
『チッ……分かっている! 少なくともソドンのメガ粒子砲ではIフィールドは抜けん、やれるな? ドゥー』
『ふふっ、今日はキラキラするのかな?』
サイコガンダムとハンブラビを見送り――にしても、この二機かっけえな、特にサイコは良いアレンジだ――手近なビルに着陸する。
ウェポンバインダーから折りたたみ式レールガンを引き抜くと砲身を展開し、サイコガンダムを遠巻きに伺う軍警ザクの一機に狙いを定めた。
電磁加速されたタングステン弾は特徴的な発射音を響かせ飛翔し、火薬銃を大きく上回る速度でザクの胴体を貫徹した。
空中で味方が爆散した事で、周囲の軍警が動揺している間に更に二機を撃墜、ワンショットワンキルだぜ。
流石の軍警も留まっていてはマズいと考えたのか、散開して
そこからも動きの鈍いやつを狙って二機落としたが、いい加減位置が露見する頃だろう。レールガンを仕舞ってショットガンを取り出す。
ビルを蹴って、ウェポンバインダーの推力により低重力のコロニー上空へと飛び立った。
「フフフ……選り取りみどり」
軍警を圧倒する推力で追いかけ、追い抜き、反撃を回避しながら一機ずつ丁寧にショットガンで落としていく。
ザクなんかをいつまでも使ってるからこうなる。なぁ父さん、外交ってのは武力の裏付けがあってこそ成立するんだ。んなコトは釈迦に説法だろうが……MSの性能差を甘く見たな。
こちらを囲んでいた軍警の殆どを落とすか追い散らすかして一息つき、軍警本部の方へと目を向けると、ソドンのメガ粒子砲を裸になったサイコガンダムが両腕で弾いて――
「裸になったぁ!? 何だあれ、装甲をパージしてビットに出来るのか?」
見ればサイコガンダムの周囲を飛び回るビットが、体当たりで残り少ない軍警ザクを叩き落としていた。
「おぉ、ビックリドッキリメカァ……」
そうしていると、ついにサイコガンダムは軍警本部へと辿り着いた。ミノフスキークラフトなのか何なのか、浮き上がってその最上階へとしがみつくように手をかける。
ソドンが体当たりを仕掛けようとするが、装甲ビットに阻まれ近付けない。
「シャリア・ブルはどこだ?」
この期に及んで、奴はまだ姿を現さない。
いや、何処かに居るはずだ。索敵機能を最大に、カメラを巡らし、空中の動体反応を検知、コロニーの端から舐めるように視線を動かし――居た!
軍警ビル直上、二つの反応、スラスターの輝き、どっちだ? 片方は白い、エグザベ少尉のギャンだ、真っ直ぐ軍警本部へと降りていく、では――
俺は画像解析しながら取り出していたレールガンを構え、砲口をサイコガンダムの真上へと向ける。
「当たれよォッ!」
トリガーを引いた。
有線式メガ粒子砲がサイコガンダムの片腕を吹き飛ばすと同時、ギリギリでスラスターを吹かしたキケロガの装甲をタングステン弾が抉る。
「浅いかっ!」
言いながら、弾倉を撃ち切るまでレールガンを連射するが、NT能力でこちらに気付いたシャリア・ブルには当たらない。
「これだからニュータイプは……接近戦に持ち込む!」
弾薬の切れたレールガンを捨て置き、バーニアをフルスロットルで焚く。ショットガンを構えて飛翔した。
狙撃が無くなった事で自由になったキケロガは、まずハンブラビを落とすことにしたのだろう。有線メガ粒子砲によるオールレンジ攻撃をゲーツへと仕掛けている。
そこにサイコガンダムのメガ粒子砲が横槍を入れた。
キケロガがたまらず回避行動に移ると、その隙にハンブラビがMA形態へと変形する。
『正史』のハンブラビよりも変形に時間がかかるのか? 一時的に推力を失って落下しながらの不格好な変形だが……それでも、だ。
かかかかか格好いい~~~~!!
何を隠そう、俺はヤザン・ゲーブルが大好きだ。いつか誰かに言ってみたいな「お前もその仲間に入れてやるってんだよォ!」って……
っと、胡乱なことを考えている場合じゃないな。
MA形態になったハンブラビは、機動力が増した事で辛うじてメガ粒子砲を避けている。
キケロガはそんなゲーツを追い回しながらも、サイコガンダムのリフレクタービットによるオールレンジ攻撃を避けているのだから流石だ。
さて、そろそろ俺も踊るとしようか!
ハンブラビとすれ違うように飛び込み、有線ビットにショットガンを連射。
なるべく狙いをバラして撃つことで避け辛くさせる。
シャリア・ブルは当たりどころが悪くて砲門を破壊される事を嫌ったのか、ビットをハンブラビから引かせた。
『助かったぞ、月輪!』
「フォウと呼べ、ゲーツ!」
キケロガがビットを引かせたタイミングでサイコガンダムの胸部拡散メガ粒子砲が閃く。
うおっ!? 俺が居るのにお構いなしか。
重力に従って落ちつつ射線から
ハンブラビが背部ビームライフルを撃つがそれも当たらない。なんて運動性だ!
というか、ハンブラビはそれしか武装がないのか。海ヘビを見たかったんだが……
「ゲーツ、サイコガンダムの援護は俺がする。お前はキシリアを殺れ」
「俺に命令を――チッ! 任せたからな!」
「白いギャンは手練れだ! 油断するなよ」
武装に乏しく、ここからは足手まといになるであろうゲーツを先に行かせ、キケロガへと肉薄する。
ショットガンを全弾撃ち切りキケロガの装甲を削るが、細かく機体を制御して被弾角度を調整しているのか貫徹には至らない。
弾切れのショットガンを捨て、ヒートソードを引き抜く。
体を地面と平行に倒してメガ粒子砲を避けながら、その勢いを活かして機体を回転させ、遠心力の乗ったヒートソードを叩きつけた。
「避けられた!? ぐぅっ!」
メガ粒子砲がケンプファーの肩を掠め、ショルダーアーマーが持っていかれる。
だが、直撃はしていない。俺が近すぎて上手く狙えないのだ、下手をすれば自滅になるからな。
それは当然シャリア・ブルも分かっているのだろう、MAらしい推力で距離を取ろうとするが、そうするとサイコガンダムの拡散ビームの的になる。装甲ビットが奴に纏わりついているのも鬱陶しいだろうな。
ウェポンバインダーのスラスターを真横に噴射、ビームを避け、手を広げた空気抵抗で落下速度を弱める事でキケロガの上を取った。
「落ちろってんだよ!」
手足を縮めて落下。真上からヒートサーベルを突き下ろすが、相手も宙返りで回避。逆に上を取られる。
四方向から有線ビットがこちらを狙っていた。
「お、おぉぉぉお!」
ウェポンバインダーを真上に向け、足から真っ直ぐ
だが、それすらもシャリア・ブルはまるで見えているかのように躱す。その際に引き戻していた4つのビットを同時に発射、束ねられたビームが落下中の俺を狙う。
左右のウェポンバインダーを別々の方向に向け、急上昇しながらのバレルロールで避ける。五本のビームが足元にあるビルを貫き――まて、五本!?
キケロガのメガ粒子砲は、連装×2、単装×2、計6門のはず、もう一つは……ッ!?
体を捻り、横を向く。
目の前にメガ粒子の光を溜めたビットの砲門。
死!? 否――!
「なんとかなれェーーーーー!」
腕ごとヒートソードを突き込む。
行き場を失ったエネルギーがビットごと弾け、ケンプファーの腕を肩口から吹き飛ばすが、俺は生きている!
爆風に吹き飛ばされながら見た頭上、もう一機の単装メガ粒子砲が光を放った。
「あっ」
真っ直ぐに伸びる光の柱は、俺の
『アアアアアアアアッ!?』
ドゥーの悲鳴。
宙に浮いていたサイコガンダムが二つに溶断される。
下半身は空中でヴァズヴュウと爆音を上げて四散する。
投げ出された上半身は力を失い、真っ逆さまに落下すると、ビルの麓に叩きつけられた。
「ドゥー!? 応答しろドゥー!」
くそっ! 衝撃と感覚のフィードバックで気を失ったか。
まずいな、サイコガンダム無しじゃ――!?
軍警ビルへと叩きつけられ、瓦礫の中から立ち上がろうとした俺を、三つのビットが狙っていた。
「ツクヨ軍曹、何故ジオンを裏切ったのです」
呼びかけ、返答が返ってくる前に、シャリア・ブルは彼の答えを識った。
「敵になりたい? 実の妹ですよ」
『聞いておいて、勝手に納得するのはマナー違反だと、以前も言ったはずですが』
「聞いた覚えはないですね」
『ああ、逐一考えた事を読んでる訳じゃないのか……そうですね、俺は――』
「大佐のように……? いや、なんだこれは……大佐にライバルなど――白い、悪魔?」
その時、シャリア・ブルの脳内に流れたのは、赤いMSと白いMSが戦うビジョン。
下半身のどっしりした赤いMSと、ガンダムに似た白いMSが小惑星の上で戦っている。
――アクシズ? 大佐はアクシズを地球に……これは、ゼクノヴァ? いや――
『おっと、それ以上は駄目だ。ネタバレは面白くないでしょう』
「ええい、33歳人妻のあられもない姿を思い浮かべるのを止めなさい! というか人妻に手を出したのですか、君は!」
『あくまで想像ですよ、流石の俺も子持ち人妻に手を出したりしない』
「そんな事はどうでもよろしい! しかし……やはり、君は――『向こう側』の人間なのですか?」
『向こう側』。刻の先。
「
ハッタリだ。シャリア・ブルは瞬時に理解する。だが、何故だ? 彼は
「君は、一体――!?」
敵意を感じ、キケロガのスラスターを吹かす。
その横を、どこからか現れたジークアクスのビームサーベルが通り過ぎた。
『シュウジはどこ!?』
その瞳は紫に発光し、四肢の付け根に黒い球体が浮かんでいた。
球体は時折
『シュウジがいないと、キラキラになんないよ!』
『アマテ!?』
ジークアクスのパイロットの叫びに、ツクヨが驚愕の声を上げた。
二人は協働している訳では無い? いや、それよりも。
「エンデュミオン・ユニットが暴走している……!」
ジークアクスはまるで重力を無視しているかのような挙動でキケロガの周りを飛び回り、追随し、ビームサーベルを振るってくる。
動きは甘い。だが、片手間で対処できるような攻撃ではない。
「怒りを鎮めろ、ジークアクスのパイロット!」
呼びかけるが、返答はない。
だが、彼女の思念は伝わってくる。
怒り、悲しみ、困惑――
『ゲーツ! ドゥーを連れて商業港の3番ドッグに行け!』
『ぐっ……だが』
『サイコガンダムがこの状態では、無理だろ!』
『ッ――!! 覚えていろ、白いMS!!』
大盾を巧みに操るエグザベ少尉のギャンに、攻撃をいなされ続けていた連邦の可変型MSがビルから離脱すると、地上に横たわる大型MAへと降りていくのが見えた。
「エグザベ少尉、逃がしてはいけません!」
『ですが、キシリア様がっ!』
「ソドンは!?」
『敵機と軍警本部が近すぎる! ビルが崩壊すればキシリア様の命は無い!』
ラシット艦長の叫びに、ジークアクスの攻撃を避けながらシャリア・ブルは歯噛みをする。
眼下で連邦の可変型MSが飛び立つのが見えた。
待て、ツクヨ軍曹は――!?
『オオオオオッ!!!』
片側が脱落したウェポンバインダーから白光を噴射しながら、こちらへと迫るケンプファーAIFを視認し、機体を動かす。だが――
「むうっ!?」
ジークアクスの蹴りがキケロガを揺らした。
そこにケンプファーが飛び込んでくる。
「まだです!」
シャリア・ブルは、スロットルを押し込んだ。
ヒートソードが振り切られる瞬間、キケロガが分裂した。
「は?」
分裂してヒートソードを避けたキケロガから有線ビットの支持架が飛び出ると、一瞬にして人型に変形し、手足を振ったアクロバティックな動きでジークアクスの追撃からも逃れる。
「どうなってんだよ!?」
俺は残ったウェポンバインダーを噴射し、攻撃を外して崩れた体勢を立て直して、人型になったキケロガの両腕薙ぎ払いビームを避けた。
「チッ……アマテは!?」
見れば、アマテのジークアクスは薙ぎ払いを避けきれず、真っ逆さまに落ちていく所だった。
俺はスラスターを吹かしてジークアクスに接近すると、ヒートソードを投げ捨てて、残った片手で受け止める。
クソッ! 高度が上がらない! 片方のウェポンバインダーだけでは無理か!
ジークアクスを抱いたまま、直下のビルの屋上を突き破り、数階天井をぶち抜いた所で停止する。
ここまでのダメージと落下の衝撃でモニターは真っ赤だ。武器もない。もはや戦えない。
「どうする? アマテは?」
実弾兵器しか持たないことでジェネレーター容量を確保しているケンプファーAIFなら、まだ暫くは飛べる。シャリア・ブルが俺を見失い、ジークアクスの破壊を躊躇っている今なら、壁をぶち抜いて逃亡に転じることは出来る。だが、
「アマテを連れて行く余裕はない」
シャリア・ブルはアマテをどうするつもりだ?
貴重な天然のニュータイプだ、確保したいだろうとは予想している。だが、その先で
「っ! しっかりしろ、ツクヨ・ユズリハ! 一度捨てた家族だろうが!」
アマテと再会し、父さんと会って、里心が付いちまったのか? お前はコイツの『敵』だろうが!
「けど――」
『お、兄ぃ?』
接触回線。
聞き間違えようはずも無い。
俺の妹の声だった。
俺が
「アマテ、しっかりしろ!」
『行って、お兄ぃ』
「何を……」
『欲しいもの、したい事、全部を手に入れる権利が人間にはある……でしょ?』
それは、俺が言った言葉だ。
俺が、アマテの迷いを晴らすために言った言葉。
そうだ、人間は『自由』だ。
NTであろうと、NTでなくても。
「…………すまない、アマテ。決着は、必ず付ける」
『うん、次も……負けない』
「俺が勝つさ」
俺はジークアクスから手を放し、ウェポンバインダーと残っているバーニア全てに火を入れる。
「またな、アマテ」
残った腕でコクピットを守り、壁をぶち抜く。
今出せる最大速度でビルを飛び出した。
その後ろを、メガ粒子が焼く。
後ろは見ない。
ただひたすらに駆ける。
こうして俺は、妹を置き去りにし――無様に敗走した。
感想、お気に入り、評価、どれもとても励みになります。
ツクヨくんへの罵倒も「残念でもないし当然」と思って読んでいますので、ぜひ遠慮なくどうぞ。
ただ、ツクヨくんは罵倒しても作者のことは褒めてくださるともっと嬉しいです。