宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
1つ目の「◆」以降は、サブタイの挿入歌を流しながら読むと雰囲気出るかも知れません。
命からがら敗走し、何とかシイコさん達と合流した俺は、シャトルの中でぐったりとしていた。
「フォウさん、大丈夫ですか?」
「ええ、ご心配をおかけしました。だが、キミが何故……」
俺の事を気遣わしげに伺う眼鏡の女性研究員に問いを投げた。
それに答えたのは、同じく何故かシャトルに同乗しているモスク・ハン博士だ。
「君達のお陰でマグネットコーティングに関するデータが集まったからな。このデータさえあれば、また連邦で返り咲く事ができる」
「赤いガンダムのアルファ・サイコミュに関してのデータもありますし、そちらも解析が終われば武器になるはずです!」
なんともまぁ、バイタリティに溢れる博士と助手だ。
家族や友人なんかは、サイド6に居ないのかな。
「あの、フォウさん? やっぱりお疲れなんじゃ」
「そう見えますか?」
「いつもの自信満々で、格好いいフォウさんとは――あ、いえ、今が格好悪いとかじゃなくてですねっ!?」
テンパる
だが、そうか――格好悪いか、今の俺は。
裏切りがバレ、バレた相手を殺しに行って返り討ちにあい、妹に命を救われ、その妹まで置いて逃げた。
流石の俺でも凹む。ダメダメだ、駄兄である。
しかし、そうだな……格好悪いままってのも、駄目だな。俺にだってプライドがある。
それに全てを失った訳じゃない。命は拾ったし、連邦との伝手も手に入れた。
逃げたら一つ、進めば二つだ。一つ手に入るなら、逃げるのだってそう悪い事じゃない。
よし、切り替えていこう。メンタルリセットだ。
俺はメガネちゃんに礼を言うと、同じ客室に居るシイコさんに振り返った。
「それで、このシャトルは何処に降りるんです?」
「ニューホンコンよ、そこでブライトくんと会うわ」
パイロットスーツのままのシイコさんがにっこりと微笑んで言った。
俺は内心を誤魔化すように口を開く。
「シャトルが押さえられていなくて助かりました」
「あっちの強化人間の子達とは別口だったからでしょうね。うふふ、パルダまで迎えに来てもらうのも楽しみだったのだけど」
「そうなれば勿論行きましたよ、タキシード姿で、真っ白なMSに乗ってね」
「あらやだ、年甲斐もなくときめいてしまいそう」
あははうふふと笑い合う。
なんだかメガネちゃんの視線が痛いが……これで復調アピールは出来たかな?
次に、客室の隅に座るゲーツと、倒したシートに寝かされたドゥーへと向かった。
こちらへちらりと目を向けたゲーツは、一度不機嫌そうに鼻を鳴らして視線を窓へとやる。
あからさまな話しかけるなアピールだが、俺は空気を読まずに通路を挟んだ隣へと腰掛けた。
「ドゥーはどうだ?」
「目立った外傷はないが、詳しくは研究所で検査を受けなければ分からん。あの錯乱も気になるしな」
「錯乱? 戦闘を見る限り、そんな風には見えなかったが」
「あの時起こった小規模のゼクノヴァ、あれ以降明らかに様子がおかしかった」
小規模のゼクノヴァ。
それについては聞いていた。シイコさんもシャトルへ向かう途中で感じたと言う。
曰く「薔薇が目覚める」と。
「地球に降りた後はどうするつもりだ?」
「何故そんな事をお前に……」
「お前達をサイド6へ送り込んだのはバスク少佐なんだろう? そのバスク少佐と会いたい」
「あの方はスペースノイドがお嫌いだ」
「嫌いだろうと、利用するくらいなら抵抗は無いだろう。俺は、使えるぞ?」
言うと、ゲーツ・キャパは鼻で笑った。
「『灰色の幽霊』に無様に負けたお前がか?」
「そっくりそのまま返してやるよ、任官したての新品少尉に、良いようにあしらわれたゲーツ中尉殿」
「貴様ッ!」
いきり立つゲーツに手のひらを向け、ニヤリと笑う。
「俺は、キシリアが何をしようとしているのか、知っているぞ?」
『コロニー内に侵入したテロリストのMS二機は、ジオン軍のMAにより撃退され――』
『――未成年でありますが、事件の重大性に鑑み実名報道に――』
『容疑者の兄はジオン軍のエースパイロットであるとの情報も――』
短く整えられた黒髪に白髪を混じらせた五十搦みの男が壁に背を預けながら、喫煙所の壁にかけられたモニターで、速報を届けるニュース番組をじっと見つめていた。
ジッ……と短い音を上げて紙巻きのタバコが灰に変わる。
男は煙を細く吐き出し、灰皿へと灰を落とす。
立ち昇った煙が排煙設備に吸い込まれ、一瞬だけ白く染まった喫煙室はすぐに無色透明な色を取り戻した。
喫煙所には男一人だった。
空気にすら税金のかかるコロニーにおいて、タバコにはとんでもない額のタバコ税がかかっているため、元より喫煙者は少ない。
男も、こうしてタバコを吸うのは久しぶりだった。
実に
それでもこうしてタバコを吸っているのは、来るであろう連絡を待っているからだ。
気付けば咥えたまま、根元まで吸っていたタバコのフィルターを苦労して唇から剥がし、灰皿へと押し付けた所で、男のスマートフォンが震えだした。
マナーモードにしていたそれをスーツの内ポケットから取り出すと、尻ポケットのハンカチで一度手を拭ってから画面をスワイプする。
「もし――」
『あなた! アマテが!』
「落ち着け、タマキ。俺もニュースを――」
『落ち着いてなんかいられないわよ! どうしてこんな……』
「タマキ、今は――」
『ごめんなさい……私がちゃんとアマテを見ていてあげられたら』
「お前の所為じゃない」
『私の所為でしょ! ずっと一緒に居たのに、私――』
「アマテはジオンが保護している」
錯乱する妻――タマキ・ユズリハに、その夫である男が強く、しかし落ち着いた声音のまま言うと、スピーカーの向こうからは困惑したかのような沈黙だけが返ってきた。
彼は外交官としてのテクニックを駆使し、相手の想定していない情報でイニシアチブを取ると、聞き心地の良い低い声で、ゆっくりと妻へと状況を説明しだした。
「伝手を使ってソドンのシャリア・ブル中佐に連絡を取った。応答したのはシムスという大尉だったが……彼女が言うに、アマテはジオンが保護しているそうだ」
『何で、ジオンが……』
「新型MSの盗難と、軍人に対する攻撃の現行犯で拘束されたが、民間人である事、ニュータイプの素質がある事から、今は保護に切り替えているそうだ」
『待って、MSの盗難? ニュータイプ? 全然わかんないわよ、そんな、アマテは普通の子で、ツクヨとは……』
夫婦の長男であり、5年前に失踪した息子の名前に、自分で口に出したにも関わらずタマキは口籠った。
男は諭すような声で、数日前の再会を思い出しながら言う。
「ツクヨも普通の子だ、俺達の子どもだ、タマキ」
『そうね、ごめんなさい……ねぇ、アマテはすぐ帰って来られるのよね?』
「無理だそうだ、機密に触れすぎた事もあるが、ニュータイプというのが大きいらしい」
『っ! そんな事! ねぇなんで!? なんでジオンは私の子をみんな奪っていくの!? ツクヨだけじゃなくてアマテまで!』
「ツクヨとアマテは別の話だ。それに、ツクヨは自らの意思でジオンに行った」
『じゃあ何で帰ってこないのよ! それに、ニュースじゃエースパイロットだなんて言って、あの子が人殺しなんて、そんな事出来る子じゃ……アマテだって今は反抗期だけど優しい子なのよ? MSに乗って軍人を攻撃するなんておかしいわよ!』
タマキの慟哭を、親の贔屓目だけの都合の良い現実逃避だと非難するのは、余りにも男性的すぎるだろうと、男は口を噤む。
これでも20年以上夫婦をやってきたのだ、いくら普段留守がちな彼でも、彼女の心境を慮ることは容易かった。
だから努めて優しい声音でスマートフォンへと言葉を吹き込んだ。
「俺もそう思う。だが、ツクヨがジオンのエースである事と、アマテが保護された事自体は事実だ。二人が自分の意思でやった事で、これはその結果なんだ。俺達は、二人を信じて待とう」
『そう、ね。ごめんなさい、私……』
「いい、気持ちは分かっている。それよりも、じきに俺達にも軍警が捜査に来る。下手なことは言わず、落ち着いて知っていることだけを話すんだ。いいな?」
『はい……でも、知ってる事なんて無いわ』
「ならそう言えば良い。そうして落ち着いて行動することが、結果的に二人の――」
言いかけた所で、喫煙室へゾロゾロと人が入り込んできた。
外交官が詰める庁舎には相応しくない、黒い制服の各所へボディーアーマーを配した、荒事の匂いを感じさせる集団だった。
軍警察だ。
「すまん、またかける」
言って、男がスマートフォンを懐に戻すと、軍警の一人がIDを見せながら前に出てくる。
「ユズリハ外交官ですね。テロリスト一味の捜査に関して、お聞きしたいことがある。署までご同行願います」
「それで、ツクヨ軍曹の離反に関しては公表しない方向で行くんだな?」
「はい、軍曹はグラナダでは人気がありますから。市民の混乱を防ぐためにも折を見て、戦死したことにして公表すると」
ラシット艦長の言葉に、コモリ少尉が返した。
沈んだブリッジの中、オシロ軍曹がポツリとこぼす。
「でも、何で裏切りなんて……」
「……アイツはグラナダ防衛戦で決死隊の囮にされ、同期を全員失っているからな。それを指示したキシリア様に恨みがあったんだろう」
「それを連邦に利用されたという事ですか?」
「そう簡単に口車に乗せられるような男では無いと思っていたんだがな……それよりも恨みが勝ったか」
「それが事実だとしたら余計に公表できませんね、キシリア様への非難に繋がる恐れもあります……」
答えたオシロ軍曹が、ちらりと自分の背後を伺った。
背中合わせにあるオペレータ席に、相方の姿は無い。
「セファ伍長はまだ?」
答えたのは通信士のベノワ伍長だった。
同階級ということで、セファとは性別の垣根を越えて親しい。
「だいぶ落ち込んでいましたからね……艦長が自室待機を命じたのも致し方ありませんよ」
「ふん、役立たずを置いておくほど艦橋は広くないんだ。当然だろう」
そう言うラシットの声音には気遣わしげな雰囲気があった。ブリッジクルーの全員が照れ隠しだと気付き、相好を崩す。
「ところでコモリ少尉、シャリア・ブル中佐はどうした?」
「自室です、シムス大尉と何やらお話があるそうで」
「シムス大尉がワインを抱えてるのを見ましたよ」
「祝杯でも上げるんですかね、中佐はツクヨ軍曹が気に入らないようでしたし」
「おい、勝手な憶測でそういう事を言うな!」
軽口を叩いたオシロ軍曹が、ラシットの叱責にびくりと肩を震わせ、頭を下げた。
一時は軽くなった空気がまた重くなる。
「ち、中佐と言えば、キケロガの動きは凄かったですね。あのツクヨ軍曹ですら、ビットを一機破壊するだけで精一杯だなんて」
空気を軽くしようとしたのか、ベノワ伍長が努めて明るい声で言った。
答えたのは技術士官のコワル中尉だ。
「むしろあれは、ビットを破壊できたツクヨくんを褒めるべきだろうな」
「ですが、軍曹のMSは最新鋭機でしょう? キケロガは一年戦争時代の機体ですし、性能差があるのでは?」
「キケロガは一年戦争時代から内部に大幅な改修がされていると聞いている。あの可変機構もその際に追加されたものだとか……言うほどの性能差は無いどころか、NT専用MAであるキケロガの方が戦力としては上だろうな」
「はぁ……やっぱり凄かったんですね、ツクヨ軍曹って」
「シミュレータではエグザベくんが勝ち越してたけどね」
コモリ少尉の発言に、ブリッジが微笑ましい笑いに包まれる。
オシロ軍曹が苦笑しながら言う。
「コモリ少尉はエグザベ少尉推しですもんね」
「顔良いしねぇ」
「なんだ、コモリ少尉はエグザベ少尉が好きなのか?」
「違いますよぉ、推しです、推し」
「……最近の若者の言葉はよく分からん」
頭を掻いてそっぽを向くラシットに、再びソドンクルーに笑顔が溢れた。
同じ船で生きる者同士の気安い笑いには確かに温かいものがあった。
だがそこには、失った何かを忘れようとする軍人特有の寒々しいぎこちなさも、確かにあったのだった。
キシリアとの謁見を済ませたニャアンは、エグザベに連れられて自身に割り当てられた居室に向かい、パープルウィドウの中を歩いていた。
「何度も言うが君には才能がある。ニュータイプというだけでなく、あのツクヨ軍曹と戦って生き延びたんだから」
「ツクヨ……フォウさん、ですよね?」
「ああ、ジークアクス捜索任務中はそう名乗っていたらしいな」
「フォウさん、ツクヨさん、マチュの……お兄さん」
「あの人はすごい人だ。今から行くグラナダでは防衛隊の騎兵小隊長も務めていた事があって、市民にも人気がある……だからこそ、なんで裏切ったりなんか」
俯き、歩む速度を鈍らせたエグザベに、ニャアンが首を傾げて言う。
「私達には、またマチュと戦いたいって言ってましたけど……」
「確かにあの人はMSに乗るのが好きだったけど、そんな事で裏切るような人じゃないよ。任務に忠実で、軍人の鑑のような人だった」
シュウジの隠れ家で出会った
(私にはクランバトルの時や、あの日戦った彼が、本当のフォウさんだったように感じるけど)
MSに乗るのが好き? たしかにそうだろう。
だけど、それよりも――
(戦うのが好き。そのためなら、マチュの事だって……)
マチュは言っていた。
ジオンが来なければ、兄は家を出ていくことも無かっただろうと。
でもそれは、本当に正しいのだろうか。
(そうじゃなくても、あの人は戦いのために全てを投げ捨てたんじゃ無いかな)
そう考えるニャアンだったが、周囲の反応はどうも違う。
エグザベは言わずもがな、キシリアも「それほどまでに私を恨んでいたとはな。信を得ることが出来なかった私の落ち度か」と自嘲気味に呟いていた。
「ツクヨ軍曹との模擬戦では僕の方が勝ち越しているけど、実際に戦場で命のやり取りをした場合、僕には勝てる想像が出来ない。だから、君は誇っていい」
「はい……」
頷くニャアンから視線を外しエグザベがぽつりと零した。
「戦って勝ったとして、僕はあの人を――殺せるのか?」
ジークアクスの良い所は、挿入歌を贅沢に使いまくる事ですよね。