宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
「エグザべ少尉は現行犯逮捕。よって、地位協定は適用されません」
「身柄の要求はできない、と……ジークアクスは?」
状況報告のために上がったブリッジでは、軍警に逮捕されたエグザべ少尉について喧々諤々の議論が繰り広げられていた。
総帥府へ通報される事を恐れるラシット艦長。技術士官のコワル中尉はジークアクスを失うことを案じている。セファ伍長は小声でオシロ軍曹に何やら話しかけていた。
エグザべ少尉の心配をしているのはコモリ少尉だけか……
俺としても、エグザべ少尉を失うのは惜しい。
彼とのマヴは戦いやすいし、ニュータイプ故か何も言わずともこちらに合わせてくれるので、マヴを組んでいて楽しいのだ。本人の人柄も良く、素直に尊敬できる上官だ。
ならば、やる事は決まっている。
俺は神妙な表情を浮かべながら、新たな闘争への期待で胸を膨らませつつ口を開く。
「……あれだけ大口を叩いておきながら、エグザべ少尉に着いて行けなかった自分の責任です。どうか、自分にエグザべ少尉救出の任をお与えいただきたい」
「軍警と事を起こすつもりか!?」
ラシット艦長が叫び、ブリッジ要員がぎょっと目を剥く。
「自分は海兵隊に居た頃に、潜入や白兵戦の訓練も受けています」
「血の気多すぎ……」
仰る通りで。
肩をすくめて見せればコモリ少尉の半眼がさらに細まった。
「今日の天気は?」
と、これまで黙考していたシャリア・ブル中佐が口を開いた。
「予定表では、晴れです」
「それでは、ツクヨ軍曹の提言を採りましょう。ただし――全員で、です」
「イズマ管制への警告期限を過ぎました!」
「ルート・オールグリーン、行けます!」
「総員、対ショック態勢」
「対ショック態勢!」
「イズマ管制から停船勧告が来ていますが」
「構いません、このまま微速前進」
「無茶苦茶ですよこんなのぉ!」
ブリッジで叫ぶコモリ少尉の声を通信機越しに聞きながら、イズマ・コロニーへと強襲揚陸するソドンを見送る。
「ホント、無茶苦茶だよ。何考えてるんだ、あの狸親父」
俺は突貫作業で何とか動かせるようになったゲルググMの中で呟いた。
エグザべ少尉を
「まさかエグザベ少尉とジークアクスを
あっちはエグザベ少尉担当、そして俺はジークアクス担当と言うわけだ。
目指すはジャンクヤード方面。
そこから今は使われていないメンテナンスハッチを利用して、イズマ・コロニーのスラム街『ネノクニ』に潜伏する。
「しかし、クランバトルか。機会があれば参加してみたい物だが……いや、素人相手に踊ってもな」
ソドン突入の混乱の影響か、コロニー内へは至極あっさりと潜入できた。
今は使われていない整備用トンネルにゲルググを隠し、5年ぶりのイズマ・コロニーを闊歩する。
ネノクニと言えば当時は何も無い開発予定地だったが……
「数年で、こうもゴミゴミとするものか」
乱立する違法建築に闇市。治安の悪さはグラナダの郊外以下だ。こうも不法移民が溢れているとなると、故郷に残した両親と妹が心配になる。
「未練かな、自分から捨てたって言うのに……ん?」
見窄らしい格好の露天商が商う骨董品に目が惹かれる。
龍の装飾の入った鉄扇、古めかしい壺、破れかけた掛け軸、狐を模した半面。
「ふふっ……ガンダムと言えば仮面キャラだよな」
ひと目で気に入った仮面を購入し、食料品や日用品を買い込んで整備用トンネルへと戻り、一夜を明かす。
寝心地は最悪だった。
コロニーの富裕層に生まれ、その後も比較的資源の豊富なグラナダ暮らしが長かったから、艦隊勤務に配属されてからは水の使用制限に辟易とした物だが、それどころかシャワーすら浴びられずに眠るのは気持ちが悪い。しかも窮屈なコクピットでとなれば尚更だ。
だが、この後に待っている『続編』の『物語』のためなら我慢はできる。
「奪われたジークアクス……ガンダムのお約束に則るなら、パイロットは民間人か」
独り言ち目を閉じた。
一夜明け、再びネノクニに戻り周辺を探索しながら見上げる空には、大気に霞むソドンの影。
今頃シャリア・ブル中佐はサイド6政府に接触している頃だろうか。
そんな事を考えながら、スラムと市街の境目にある高速道路へと差し掛かった時だった。
「学生? こんな所にか?」
古びた自転車を隣に停め、ガードパイプに腰を預けた少女が視界に入った。
女性にしては背の高い、目立つ少女だった。
黒髪に浅黒い肌、つり目がちな瞳は荒んでいて、どうにも育ちが良さそうには見えない。
難民か? では、あのサイズが合ってない制服もコスプレかな。
少女は俺の視線に気付いたのか、顔を隠すように頭の上にかけていたサングラスを下ろした。
俺もすぐに視線を切り、見えない位置まで通り過ぎてから、高速道路の高架の柱に体を隠しつつ引き返す。
ジークアクスを奪ったのが民間人だと仮定すれば、いかにもな格好の目立つ少女は甚だ怪しい。少し観察してみる事にしよう。
ハズレで元々、彼女が只の女学生だったなら……そうだな、アマテの顔でも見に行くか。
とは言え、もう『物語』が始まっているのだとすれば――ここで俺が『主人公』と出会うのは物語上の必然とも言えるだろう。
彼女がガンダムの主人公だとすればニュータイプの可能性が高い。
ニュータイプ特有の勘に気付かれないよう距離を取りつつ、慎重に観察する。
程なくして、車通りの少ない道を一台のキッチンカーがやってきた。
高架の柱の陰に身を潜め、様子を伺う。
白い古ぼけたキッチンカーは案の定少女の隣へと停車し、彼女と何やら話した後に小包を受け渡した。
「闇取引……ガンダム、売るよ! ってか?」
あの小包が現金なのか、はたまた別の何かなのか……流行りのクランバトルの事を考えればインストーラーデバイスって線もあるな。ジークアクスを奪ったは良いけど、インストーラーデバイスが壊れていて――とかかな?
まぁなんでも良い、接触してみるか。
俺はキッチンカーが去っていくのを確認すると『仮称:主人公ちゃん』へと声を掛けた。
「あの、すみません」
「っ……」
肩をビクリと震わせた後、無言でこちらへ振り向く少女。
視線はサングラスに覆われて伺えない。
だが、どこかうんざりとしたような、厭世的な雰囲気を感じた。
「久しぶりに帰省したんですが、どうも道が変わりすぎていて迷っちゃって……良ければ案内してもらえませんか?」
「…………」
「えっと、ここなんですけれど」
反応がないが、強引に体を寄せてスマートフォンを見せる。
あ、眉根が寄った。露骨に迷惑そう。
でももうちょっと近づいちゃうよ、ごめんね……っと。
少女が嫌々ながら画面に目を落とした隙に、後ろ手で彼女のリュックへと発信機を取り付けた。
主人公ちゃんは気付いていなさそうだ。
「……それならこの道を真っすぐ行って、3つ目の信号を右に曲がってすぐ」
「ありがとうございます、助かりました」
にっこり笑顔で頭を下げると、主人公ちゃんは深い溜め息をついてから自転車に跨がり去っていく。
はてさて、一体どこに行くつもりなのかな。
俺は懐に仕舞った狐面の縁を撫でると、主人公ちゃんが教えてくれた道を行き、先ほどスマートフォンに表示していたカフェへと入店する。
平日の昼間の早い時間だからか人もまばらな店内に入り、アイスコーヒーを注文して席につく。
スマートフォンで地図アプリを立ち上げれば、ネノクニ周辺の地図上で点滅する光点が1つ。
主人公ちゃんのリュックに取り付けた発信機の反応だ。
光点は用水路沿いに移動していき、橋の下でしばらく留まると、地上の道を無視して動き始める。
「なるほどね……占領時代の外壁データと照合――ビンゴ! マンホールから下水道を通って、廃棄されたエアロックにまで通じてるのか」
そうと決まれば即断即決、カフェを後にし整備用トンネルへと取って返すと、ゲルググМに乗り込んで宇宙へと飛び出す。
待ち伏せだ。
件のエアロックに細工をしてもいいが、万が一気付かれて
俺はジャンクヤードに浮かぶ成形済みジャンクの影に身を隠すと、最低限の機能を残してエンジンを落とす。これでミノフスキー粒子散布下でなくとも、MSに搭載されている程度のセンサーならジャンクに紛れて誤魔化せる。
そんな事をしているとソドンから入電があった。
釈放されたエグザべ少尉の話では、ジークアクスは女学生風の制服を着た少女に奪われたらしい。
「はい主人公ちゃん(仮)が主人公で確定! 冴えてるなぁ俺、もしかしてニュータイプだったか?」
なおバチバチのオールドタイプの模様。グラナダ時代にフラナガンスクールで検査を受けたが、俺には全く、欠片も、ニュータイプの素質は無かった。
悔しくないと言えば嘘になるが「まぁ知ってた」という気持ちのほうが強かった記憶がある。
数年前の事を思い出している内にレーダーに感あり、エアロックの一つからモビルスーツが飛び出してくる。
「ってガンダムじゃねぇか!!」
ジャンクの間を縫うように飛ぶのはどう見ても赤いガンダム一機のみで、ジークアクスは影も形もない。
「どういう事だよ、主人公ちゃんとガンダムのパイロットは同一人物なのか、それとも別人なのか……一当てして昨日と同じ動きをするか試してみるか?」
赤いガンダムの予想進路をトレースしつつ、エンジンに火を入れる。仕掛けないのなら見つからないに越したことはないが、これ以上まごついていてはガンダムを見失う。
よし、見つからなければ追跡、見つかったら一当てしてパイロットが昨日のやつと同じかどうか確かめることにしよう。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応だ!
十分に距離を開けガンダムを追跡する。なるべく慣性航行を意識して、センサーに引っかからないように飛べば、次第にミノフスキー粒子が濃くなっていく。センサー類が順次沈黙していき、有視界での索敵に頼らざるを得なくなった事で、ガンダムに見つかる可能性は下がったが……
「まさか、クランバトルか? 赤いガンダムが!?」
そんな俗っぽい戦いに参加しているとなると、やはりあのガンダムのパイロットは赤い彗星では無さそうだと思えてくる。
いや、意外と楽しんでそうでもあるけど……うーん、この世界のシャアの性格がいまいち良く分からない。
バーニアの噴射炎を見られないよう慎重にガンダムを追えば、コロニーからほど近い宙域でもう一つの光がガンダムに接近するのが見えた。
仲間と合流した?
ガンダムは一機で動いているんじゃないのか?
光学センサを最大望遠で拡大する。
モニタに映し出されたのは見覚えのある青と白の機体だった。
「ジークアクス!? アイツは何処から来た? パイロットは主人公ちゃんじゃ無いのか?」
整理しよう。
あのガンダムが目星をつけていたエアロックから出てきた以上、主人公ちゃんはガンダムのパイロット無いし関係者である事。
そしてジークアクスがガンダムとは全く別方向から現れた事から、ジークアクスのパイロットは主人公ちゃんでは無いと思われる事。
最後にジークアクスのパイロットとガンダムのパイロットとの間には何かしらの繋がりがあると言う事。
ミノフスキー粒子散布下で無ければ、今現在の発信機の位置を調べるのだが……まぁいい。今ここにミノフスキー粒子が撒かれ、マヴが揃ったという事は――
「クランバトルが始まる。見せてもらおうか、『今作』の『主人公』の戦い方とやらを!」
信号弾が上がる。
クランバトルが始まったのだ。
落ち着いた様子を見せるガンダムとは対象的に、ジークアクスは戸惑っているかのように無闇矢鱈とスラスターを吹かして宙域を飛び回り始めた。
「まるで素人――いや、素人なんだな。やはり民間人だったか! ワクワクしてきたぞ!」
さて、お相手は――そこか、水色とピンクのザクが二機。お手本のように、飛び回るジークアクスの上を取ってマシンガンの照準を合わせている。ジークアクスは当然のように敵に気付いていない。ガンダムは――殺気に気付いたか。射線を切ろうと動くが、ソレが良くなかった。
遅れて殺気に気付いたのだろう、ジークアクスが弾丸を避けた所為で二機は思い切り激突し、反作用で分断されてしまう。
そこからは一方的だ。
孤立したジークアクスに狙いを定めた二機のザクは、代わる代わるザクマシンガンを放ちジークアクスを追い詰めていく。
教本通りのマヴ戦術。相手は元ジオンのMS乗りらしい。
しかしジークアクスのパイロットも大したものだ、これだけ執拗に狙われていると言うのにその攻撃を全て躱している。
「だが、これではジリ貧だ」
思った刹那、水色のザクによるクラッカーの投擲――いや、閃光弾か!
視界を閉ざされたジークアクスにもはや成す術は無いかと思われた。
ピンクのザクが大きくヒートホークを振りかぶる。
水色のザクも格闘戦の構えに入った。
そこへ飛び込む光が1つ。
ガンダムだ。
ガンダムはジークアクスの腕を掴んで上方へと放り投げて逃がすと、ハイパーハンマーを盾代わりにしてヒートホークを防御、しかし水色のザクの蹴りに吹き飛ばされて宙を舞った。
ガンダムを追い払ったザクのマヴは再びジークアクスを追いかけ――
「挟まれるっ……いや、アレは!」
先ほど手放したヒートホークへとピンクのザクを誘い込むと
窮地に追い込まれた所から、あっという間の逆転。
「なるほど、これがニュータイプ同士のマヴか」
俺はもはや、ガンダムのパイロットとジークアクスのパイロットがニュータイプであることを疑っては居なかった。こんな芸当ができるのはニュータイプでしかあり得ない。
「こいつは楽しみだ、すぐにでも仕掛けてみたいところだが……そろそろ軍警に嗅ぎつけられるな」
何とかしてクラバに参加する方法を探るべきだろう。
俺はその場を離れていく赤いガンダムを追った。
ジークアクスの居場所も気になるが……今のソドンの立場を考えれば、万が一にも軍警に見つかるわけにもいかない。
お楽しみは、後に取っておく事としよう。