宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
俺はその後、発信機を頼りに『主人公ちゃん』を追跡する事にした。
数日の尾行と聞き込みにより、彼女が難民の運び屋で、名をニャアンと言う事を知った。
思ったよりも可愛い名前だな。
ニャアンは運び屋の仕事を続けながら、時折赤いガンダムが隠されていると思しきエアロックへと足を運んでいるようだ。
ジークアクスと赤いガンダムも何度かクランバトルへと参加しており、今のところは連戦連勝。
しかしクランバトル中に別の場所にいるニャアンも現認した事から、彼女が『主人公』では無さそうだと言う事が分かり、捜査は振り出しに戻ったことになる。
さて、どうしたものか。
赤いガンダムの
無い物ねだりをしても仕方がない。こういうときは地道に足で稼ぐとしよう。
漆黒の宇宙空間を、パーソナルカラーの象牙色で塗装されたゲルググMで駆ける。
ソドンが未だにコロニーの中に留まっており、サイド6当局から監視されている以上、俺は容易に帰投することが出来ない。よって推進剤等の補充も出来ないため、慣性航行に努めて節約して動く必要がある。
一応は軍資金を持たされているので、いざとなったらそこらのジャンク屋に頼んで現地調達も出来るが、節約するのに越した事はないからな。
今は前回のクランバトルの際にジークアクスが去っていった方角を探索しており、占領時代の外壁データから割り出した、今は使われていないエアロックを虱潰しに調査している所だ。
使われなくなったはずのエアロックに最近開閉した痕跡があれば、そこからジークアクスが出入りした可能性が高い。そこに張り込んでジークアクスと接触できれば、何かしら事態は進展するだろう。
接触したあと? そこはまぁ、流れで。これが『続編』なら脚本家の人が上手いことやってくれる事だろう。
「ここもハズレか……ジークアクスの帰還する方向的に、ネノクニ方面なのは間違い無いんだけどなぁ」
今日何箇所目かのエアロックを検分するが、最近開閉された痕跡は残っていない。未調査のエアロックはまだ十数か所ある。MSの速度であれば全てを見て回るだけならあっという間だが、今はサイド6当局に見つからないようなルートを選んだ上、推進剤節約のために大した速度を出せないから、それなりの時間はかかるだろう。
俺はノーマルスーツのヘルメットを外すと、カロリーバーと水を取り出して小休止することにした。
ゲルググをアンカーで固定し、ぼおっとモニターに映る宇宙空間を眺めながらカロリーバーを齧る。
ジオンのパイロット用カロリーバーは決して美味しくはないが、昔から憧れていたロボットのパイロット感があって結構お気に入りだ。でもパッサパサで喉が渇くので飲み物は欠かせない。本当はコーヒーと合わせると、そこそこ食えるのだが……
と、水の入ったボトルのストローを咥えた時だった。
何も無いはずの宇宙空間で、何かがキラリと瞬いた。
星の光ではない。
まただ、光は僅かに位置を変えながら、細かく瞬いている。
俺はこの光を知っている。
何度も瞬きを繰り返しながら素早く動く光はMSの戦闘機動による物だ。
ノーマルスーツの腰ホルダーに挿していたスマートフォンを取り出し確認するが、現在クランバトルの中継は行われていない。
何者かがコロニーのすぐ近くで戦闘をしている。
軍警の捕り物か? だとしたら追われているのは誰だ?
俺はボトルを放り投げ、ゲルググのアンカーを外すとバーニアを軽く吹かした。
一瞬の加速を与えられた愛機が慣性のまま滑り出す。
予定変更、野次馬と洒落込もう。
その後も細かくスラスターを吹かし、相手に気付かれないよう接近する。
近づくにつれ、スラスターの光がはっきりと視認できるようになってきたが、同時に違和感に気付いた。
実弾兵器のマズルフラッシュやビームの光条が見えない。
あくまで戦闘を想定した機動を取っているだけのようだ。
そして、俺の観察眼が正しければ機体は2機。
なるほど、機動訓練か。
見る限り、1機の動きに見るところはないが、もう1機はとてつもなく
「はてさて、いったい何処のどいつがこんな場所で訓練なんかやってんだ?」
光学センサーを最大望遠に。
するとモニターに映し出された機体は――
「ジムぅ!? ……いや、ジムカラーのゲルググか、あれは?」
赤と黄色と白で塗装されたゲルググは、どう見ても
この世界のゲルググはガンダムのマスプロダクトモデルであり、なんとなくジムっぽい見た目をしているから、色までジムっぽくされると全く見分けが付かない。
「というか、あんなパーソナルカラーのゲルググ、居たか?」
俺の知る限り、パーソナルカラーを許されたエースにあんな配色をするパイロットは居なかったと思うが……俺が知らないだけかも知れないが、そうと仮定すると、ジオン軍人じゃない『誰か』が、旧式とはいえ未だ払い下げられていないゲルググに乗っているという事になる。というか今更だが、IFFも出していない。少なくとも正規の軍事作戦ではない。
……横流しか。何処かの馬鹿の独断ならともかく、組織的にやっているのなら現場のイチ軍人が知っちゃまずいヤツだ、見て見ぬふりをしても良いが――
「こんな
大丈夫大丈夫、なんとでも言い逃れは出来るし、二機とも落としてしまえば死人に口なしだ。
俺はそんな事を考え、フットペダルを蹴り、ぐっとスロットルを押し込むと、
「ゲルググ
最大戦速でジムカラーのゲルググへと突っ込んだ。
ゲルググ・モーントライターは
史実世界のゲルググMは海兵隊仕様の《マリーネ》だが、この世界では何故か開発されなかった。
海兵隊で使われているのは普通のゲルググだし、そもそもシーマ様率いる海兵隊も宇宙海賊になっていない。
ジオンが勝った事でコロニーへの毒ガス注入が有耶無耶になった上、『ソロモン落とし』の裏で行われていたルナツー攻防戦で戦果を上げた結果、普通に実戦部隊として重用されており、シーマ様も大佐に昇進している。
何を隠そうこの俺も一時期海兵隊に所属し、シーマ大佐には目を掛けてもらった。
海兵隊の事情はさておき、この世界では戦後(あるいは戦中も)キシリア閥ではギレンを警戒し、拠点であるグラナダを防衛するための月面仕様のゲルググが生産された。
対MS・MA戦を想定し、史実のゲルググ・マリーネ同様スラスターとバーニアが増設され、プロペラントタンクも装備可能。主武装はビームマシンガンで、ビームサーベル2本と、ワイヤーアンカーの代わりに110mm腕部速射砲を装備。仮想敵がギレンのビグ・ザム部隊であるため、ビームマシンガンにはIフィールド対策で外付けグレネードランチャーがマウント出来る他、通常のゲルググの物より大きなシールドには射出式のスパイクが仕込まれており、パイルバンカーのように使うことが出来る。うーん、男の子だな。
その中でも
ちなみにシーマ様のゲルググも名前こそマリーネライター(ゲルググ・マリーネは無いのにマリーネライターはある不思議)だが、パイルバンカーがオミットされ、ビームマシンガンの代わりに高出力ビームライフルを装備している以外、仕様はモーントライターとほぼ同じだ。おそろである。やったぜ。
まぁつまり、何が言いたいかって言うと――
「MSの性能差が、戦力の決定的差であるという事を教えてやる!」
横流しの型落ち品に、俺が負ける訳無いって事!
まずは挨拶代わりにアリバイ作りのための停戦信号を発射。
同時に自分で撃った停戦信号をガン無視してビームマシンガンを掃射、動きが悪い方のゲルググから落とす狙いだ。
こちらの奇襲に反応できなかったライトグレーのゲルググはあえなく爆散。
いや~、集弾率の低いビームマシンガンで威嚇射撃をしたら、運悪く直撃して撃墜しちゃったな~ 不運な事故だし仕方ないよな~
まぁ実際、最大戦速で加速しながらビームマシンガンを直撃させられるパイロットは中々いない。これだけで俺の技量はもう一機のゲルググに伝わったはずだ。
さあ、そんな相手に僚機を落とされたぞ、どうするジムカラー?
そう思い視線を遣れば、ジムカラーのゲルググは既にそこに居ない。いい反応だ、まず反撃や防御より先に、動いて
だが、この程度のミノフスキー粒子濃度、索敵能力を強化されたモーントライターなら近距離レーダーで補足出来る。
「そこだ!」
背後へビームマシンガンをばら撒くが手応えはない。避けたか、存外にやる。
「そうでなくては食い手がない!」
相手はそれも悠々回避すると、機体を回転させながらバーニアを噴射して向かってきた。
冷却の終わったビームマシンガンで弾幕を張る。移動先を制限して速度を殺させるのが目的だったが、相手はバックラーシールドを構えながら最小限の動きで回避、ほとんど速度を落とすことなく駆けてくる。
俺はビームマシンガンを腰にマウントすると、近接戦闘に備えてビームサーベルを引き抜いた。
「
構えたビームサーベルを逆袈裟に振り切る。
だが、間合いに捉えたはずの敵機はそこには居ない。
「後ろ!?」
接近警報、反射的にスラスターを噴射、上へと逃れた直後に足元をビームの光条が貫いた。
「何だ、今の動きは!?」
AMBACだけでは説明のつかない無茶苦茶な機動、ひとまずそのままバーニアを吹かし上へ上へと逃れながら腕部速射砲を放つ。
一直線に追いかけてくるジムカラーはバックラーシールドで防御するが、こちらが大推力任せで距離を取りつつビームマシンガンを引き打ちすると、堪らずバレルロールで離脱する。
その動きには一瞬の淀みもなく、まさにエースと言っていい滑らかさだが、近接時の動きに比べれば想定の範囲を抜けない。
奴の機動は脅威だが、何かしらの
推進剤の節約など、もはや頭に無かった。
全力でバーニアを焚き、伸し掛かるGに耐えながら急旋回、離脱した相手に食らいつく。
ビームマシンガンを掃射、相手の動きを止める。片手でマシンガンを打ちながら、反対側の腕部速射砲で回避先へと射撃。いいぞ、未だ予想の範疇での回避行動、110mm弾は相手の装甲を着実に削っている。
冷却剤が切れて強制停止したビームマシンガンを腰に戻すと、速射砲での射撃は止めないまま、その手でビームサーベルを引き抜く。
敵機も覚悟を決めたのか、バイタルパートだけをバックラーシールドで守りながら、ビームサーベルを構えて突貫してきた。
速射砲も弾薬切れで停止する。お互いの距離が急速に縮まる。
トリコロールの目立つ機体が視界から消えた。
「だが、今度は見えたぞ!」
弧を描くようにして俺の左後方へとスライドするのが見えた。
右手に構えたビームサーベルから逃れる位置取りだ。
だから、シールドの取り付けられた左腕をそちらへ回す。
右後方へと動いていれば、俺の負けだったかも知れない。
だが相手は狙い通りにサーベルを警戒して左後方へと動いてくれた。
「貫けッ!」
シールドに仕込まれたスパイク射出機能を解放する。
大型バックラーシールドの内側に仕込まれたパイルバンカーめいたスパイクが、今まさにビームサーベルを振り下ろさんとする敵機の頭部を貫いた。
「浅い!?」
俺が狙ったのはコクピットだった。
だが、相手はギリギリで足を振り上げ、AMBACで軸をずらしたのだ。
そして振り上げられた足が俺の胴へと突き刺さり、こちらのコクピットが大きく揺らされる。
パイルバンカーはほぼ俺専用のビックリドッキリメカだぞ、それを相手が知っているとは思えない。見てから回避できるタイミングでもない以上、何かしらの隠し武器がある事を読んだか、それとも――
「ニュータイプか!?」
相手は俺が機体を立て直す間に大きく距離を取るが、メインカメラをやられた上に推力に劣るゲルググでは、いくらニュータイプとは言えもはや抗し切れまい。
それでも離脱する隙を狙っているのか、ジムカラーのゲルググは一定距離でその動きを止めた。
後は視界の狭まった相手を大推力で追いながら嬲るだけで落とせるだろうが――
「痛み分けだな」
もう推進剤は残り少なく、
近距離戦に持ち込んで、あの機動のからくりを探るのも楽しそうだが……相手がこちらの推進剤不足に気付き、逃げの一手を打った場合取り逃がしてしまう。
それは……相手が特命を帯びたジオン軍人だった場合、ちょっとマズい。
ま、そんなのは限りなく本音に近い建前だ。
ソレ以上に俺は、あの意味の分からない機動と、それを使いこなすパイロットに興味が湧いてきた。
決着は、交渉が決裂してからでも遅くはない。
通信機を起こし、オープンチャンネルでマイクオン。ミノフスキー粒子の濃度は然程濃くない、
「ゲルググのパイロット、こちらはソドンMS隊のツクヨ・ユズリハ軍曹だ。降参しろ、悪いようにはしない」