宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
シイコさんって、本編中でボカタからの言葉をほぼ無視してるんですよね……
良かった……ジムカラーのパイロットはジオン軍人じゃなかった……
ジムみてぇなゲルググに乗っていたのは、元連邦軍のシイコ・スガイという女性だった。
警備会社ドミトリーの所有するクラン「CRS」に所属するパイロットだという。
先程まで殺し合っていたのに何故そこまで事情を知れたかと言うと、単純に交渉が上手くいって普通に意気投合したからだ。
どうも彼女は一年戦争時に僚機を落とした赤いガンダムに執着しているらしく、先程俺が落とした仲間の事も、自分が所属するクランの事も、最新技術とやらで強化されたゲルググのことも――いや、ゲルググについては型落ち機ということで不満があるようだったが――何なら連邦の事すら、然程関心が無いらしい。
それよりも俺が、赤いガンダムとMAVを組んでいるジークアクスを追っており、尚且つ自身に比肩する実力を持つ事の方に関心があるようだった。赤いガンダムとの戦いを邪魔せず、足を引っ張らないMAVが欲しかったらしい彼女は、俺とMAVを組む事を喜んでくれたくらいだ。
そう、俺はCRSに所属し、シイコさんとMAVを組む事になったのだった。
CRSの実質的な責任者であるモスク・ハン博士も、ゲルググのカスタム機であるモーントライターにマグネットコーティングを施したデータが得られるならばと、内心はどうあれ歓迎して――ってマグネットコーティング!? あのアムロの操縦について行けなくなったガンダムを超強化した!? いや、そうか。名前だけじゃピンとこなかったけど、モスク・ハンって史実世界でアムロと意気投合してたあの博士か! いやぁ、居るところには居るもんですね、原作キャラ。
ちなみにマグネットコーティングだが、正直よく分からん。なんとなく動きが良くなった気もするが、元よりガンダムよか性能の良いモーントライターの反応速度が良くなった所で、俺程度の技量では目に見えて動きが良くなることは無いのだろう。流石にアムロ並の操縦技術があるとは自惚れていない。
ただCRSの整備班の話に拠ると、俺の操縦はモーントライターの関節にかなり負担を強いていたらしく、マグネットコーティング後はそれが軽減されていると言う。
そういうモンだと思ってたから全然気付かんかった。道理で毎回整備に時間がかかると思ってたんだ。ソドンの整備クルーの皆、ごめんな?
そんなこんなで、俺は今シイコさんと一緒にネノクニのスラム街を歩いていた。
何故かと言うと、ガンダムの情報を収集するため、彼女の知己であるジャンク屋を訪う事になったからだった。
俺は隣を歩く小柄な女性を見下ろし、内心でガッツポーズする。
見様によってはこれはデートだ。
俺は小柄で童顔で胸が大きくて気の強い女性が好きだった。
シイコさんはドタイプだ。きっちりエスコートして見せる!
「ところでツクヨくん――あっ、外ではフォックスくんだったかしら?」
「そうですね、これでもそれなりに有名人ですので。ジオン軍人がサイド6を堂々と歩いているのはマズいですから」
「うーん、呼びづらいしフォウくんでいい?」
「フォーウ!」
「うふふ、気に入ってくれたみたいね」
そう言っていたずらっぽく笑うシイコさんは可愛い。
顔につけた狐の半面を直すフリをしてニヤけた口元を隠す。
そう、俺は今狐面装備だ。
一応ジオンのエースとして面も割れてるしね、シイコさんは知らないみたいだったが……戦中の俺はただの新兵だったし、しゃーなしだ。
「ワンワン!」
「おっと、サーセン」
「いえ、大丈夫ですよ。可愛らしいワンちゃんだ」
と、目的地が近付いた所で、黒い毛並みのポメラニアンに吠えられた。
ジャージ姿のメガネの男性が申し訳なさそうに頭を下げてリードを引っ張るが、それでもポメラニアンは俺に対して唸り続ける。
はっ……バカ犬。
唸り続けるバカ犬に腰が引けているシイコさんを庇いつつ、一歩踏み出した時だった。
路地の間から出てきた赤髪の少女が、片手を上げてポメラニアンの気を引き、俺達から引き離す。
その少女の顔を見て、ホッとした顔のシイコさんも、メガネの男も、バカ犬も気にならなくなった。
「アマテ……?」
マチュことアマテ・ユズリハは、カネバンに用があると言う小柄な女性と狐面の男性の二人組を事務所へと案内すると、事務所の面々と一緒に彼女と対面していた。
なんとも異様な状況だ、とマチュは思う。
どちらも場末のジャンク屋には相応しくない二人組だった。
方や穏やかな雰囲気を漂わせる、柔和な笑みを浮かべた小柄な女性。
方や狐の半面を付けた、スーツ姿の男性。
(狐の人、雰囲気がな~んか誰かに似てる気がするんだよなぁ……)
「あ~……バイトなのよ、ねぇ?」
ジャンク屋に似つかわしくないのはマチュも同じだった。
その事を訪ねた女性を、アンキーが誤魔化す。
「こんな可愛い子が居るなんて、意外ね。むさ苦しいところだって覚悟してたのに」
「彼女はシイコ。今は――スガイだっけ? 一年戦争では『魔女』って呼ばれたユニカムよ。……で、そちらの方は――旦那?」
アンキーが狐面の男性へと視線を向けると、シイコは可笑しそうにクスクスと笑う。
「職場の同僚。ネノクニのジャンク屋に行くって言ったら、危ないからって付いてきてくれたの」
「フォウだ」
狐面の男が、シイコの後ろに直立不動で立ったまま、短く名乗る。
その男はそれっきり口を開こうとせず、口を真一文字に引き締めて後ろに手を組んだ。
「ユニカムって?」
「撃墜王だ……」
「『魔女』って、100キル超えした元連邦軍のスーパーユニカム!」
ケーンは手元のラップトップパソコンで『魔女』について調べ、興奮したように宣っている。
このおっとりとした女性がそんな異名を持つ撃墜王だとは到底思えないマチュだったが、それよりもその後ろに立つ男の表情が目についた。
――なんでドヤ顔?
鼻から上を覆う狐の半面で分かりにくいが、晒された口角は上がっており、どこか誇らしげだ。
しかし訝しげに見るマチュの視線に気付いたのか、再び唇を真一文字に引き結び直した。あ、顔そらした。
なぁんか、どっかで見たことある反応。
どこだっけ、というか誰だっけ?
「ソロモンで堕ちたって聞いて吹っ切れたつもりだったけど――」
と、考えている間に話が進んでいた。
どうやらシイコは赤いガンダムに因縁があるらしい。
「戦争に負けても、私は負けてない――赤いガンダムは、私が倒すのよ」
結局、赤いガンダムについてシイコに話せるような情報も無いまま、雑談に終止して彼女は帰宅の途に着いた。
アレからひと言も話さなかった狐面の男が気になっていた事もあり、マチュは彼女達を駅まで送る事にした。
駅までの道中、何を話すべきかと悩むマチュの視界の端を、幼い少女が走り抜けていく。
目を遣れば、そこには幸せそうな家族の団欒があった。
ふと立ち止まって、同じように視線を向けるシイコに、意を決して話しかける。
「お子さんが居るのに、何で?」
「坊やは可愛いわ、旦那も優しいし――でもね?」
シイコは笑んでいた。
悩んでいるような、吹っ切れているような、心の底からの思いを吐露しているような、それでいて内心を隠す仮面のような笑みだった。
「何かを手に入れるために、何かを諦めなきゃいけないなんて……そんなの理不尽じゃない?」
マチュがハッと顔を上げる。
狐面の男が、口元に弧を描いた。
それは何処までも強欲で、限りなく傲慢な願望だった。
それでいて純粋で、しかし世界が理不尽だと知っているが故の諦念に満ちた願い。
「望むものすべてを手にする事が出来たら、どんなに幸せか……ニュータイプとかいう選ばれた人達なら、それが出来るのかしら?」
だから彼女は夢を見るのだ。
ニュータイプという存在に。
だから彼女は否定するのだ。
ニュータイプという理不尽を。
「出来ますよ、それを貴女が――我々が望むなら、ニュータイプで無くたって」
出し抜けに、狐面の男が言った。
「だから人類は、宇宙にまで出て来れた……マチュ、だったね。君に叶えたい夢はあるか?」
「私、は……」
「夢中になれる事は? 手に入れたいモノは?」
「…………」
分からなかった。
ただ漠然と、このまま『普通』の女子高生として生きていていいのだろうかという焦燥感だけがあった。
暇つぶしのショート動画をぼんやり眺めて居る時のような、時間を無駄にしている自覚はあるのに、その時間をなにに使えばいいのか分からない苛立ちだけがあった。
「身近なモノでいい。単純で、馬鹿らしいものでもいい。欲しいもの、したい事、全部を手に入れる権利が人間にはある。俺達はそれを行使しているだけだ」
良いのだろうか。
欲しいもの手に入れる過程で、他人に迷惑をかけないだろうか。
私のしたい事は、お母さんの期待を裏切らないだろうか。
私が今、一番欲しいものは、何だろう?
「シュウジ……」
知らず、彼の名前が出た。
「ねぇ」
考え込むマチュに、シイコが穏やかな声音で問うた。
「赤いガンダムのパイロットって、どんな人?」
赤いガンダムのパイロット。
シュウジ。ハラヘリムシ。キラキラを見せてくれる、不思議な男の子。ガンダムの操縦が上手くて、なのに何処か抜けていて、それで――それで?
「……行きましょう、シイコさん」
「そうね。また会いましょう、可愛いバイトさん」
改札の向こうに消えていく二人に、マチュは何も言うことができなかった。
答える言葉が無かったから。
『君に叶えたい夢はあるか?』
『夢中になれる事は? 手に入れたいモノは?』
「私は……」
私は、シュウジの事を何も知らない。
だから、シュウジの事をもっと知りたい。
でもそれは、良いことなのだろうか。
塾をサボって、クランバトルに出て、地球を目指すためにお金を貯めて……お母さんに、嘘をついて。
『欲しいもの、したい事、全部を手に入れる権利が人間にはある。俺達はそれを行使しているだけだ』
そうして良いと、彼は言った。
そうする事が出来ないのは理不尽だと、彼女は言った。
「お母さんとは、全然違う」
つぶやいた言葉は誰の耳にも届かず、ただマチュの脳髄だけを揺らした。
「あの娘、ガンダムモドキのパイロットよ」
アマテと別れてから乗った地下鉄の列車の中で、シートに腰掛けたシイコさんが言った。
がらんとした車内のベンチシートからこちらを見上げる彼女の顔にはうっすらとした笑みが浮かんでいる。
吊り革につかまったまま、腰を屈めて顔を寄せる。
「本気で言ってます? 根拠は?」
「女の勘?」
「……信じましょう」
「あら、自分で言っておいて何だけど、信じるの?」
小首を傾げる仕草は童女めいていて可愛らしい。
「エースの勘は信じる事にしているので」
ニュータイプの勘はジッサイ当たる。古事記にもそう書かれている。
「では、俺からも1つ」
「あら、何かしら」
「あの娘――俺の妹です」
「まぁ……」
シイコさんは本気で驚いたのか、ぽかんと開けた口を隠す事もせず、目を見開いて呆けていた。
「ですので、ジークアクス――ガンダムモドキの相手は俺がします。シイコさんは赤いガンダムを」
「そ、そうね……ガンダムモドキは任せるわ。それにしても……似てないわね?」
「……そうですか? 美男美少女の兄妹で有名だったんですが」
「フォウくんはどちらかと言うとシュっとした感じのイケメンでしょ? バイトちゃんは可愛らしい感じだったから」
「そうでしょうそうでしょう! アマテは可愛いんですよ!」
「あぁ、うん……大丈夫? ちゃんと戦えるの?」
呆れた顔でシイコさんが言う。
「大丈夫ですよ。あの程度の動きなら、手加減しつつあしらうくらい簡単だ」
強がりでも何でも無い。たとえアマテがニュータイプだろうと、ジークアクスを大きく損傷させずに無力化する事だって出来る。それくらい俺とアマテの実力は隔絶している。
もしシイコさんが赤いガンダムを落とせたなら、ジークアクスごとソドンまで連れ帰ってしまおうか。
アマテもそろそろ進路に悩む頃だろうし、いっその事ジオンに入隊してしまえばいい。今は俺には及ばないが、正規の訓練を受ければすぐに頭角を表すだろう。それくらいにはスジが良い。ニュータイプならなおさらだ。
だが、もし――
もし、アマテが『主人公』なのだとしたら。
きっと、そうはならないのだろう。
俺はこの後行われるクランバトルに思いを馳せ、口元の笑みを濃くするのだった。
感想、評価、誤字報告、本当にありがとうございます!
皆様の応援が続きを書く原動力になりますので、これからも『うないも。』をよろしくお願いします。