宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
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宇宙という暗黒空間に浮かぶ大小のデブリを縫って、トリコロールカラーのゲルググが最大戦速で突っ込んでくる。
索敵もクソも無い愚直なまでの突進は普通ならばただの的だ。
だがニュータイプの直感とエースの技量があればその限りではない。
こちらの射撃をまるで『分かっている』かのように最小限の動きで回避し、速度を落とすこと無く接近してくる。
……やはりニュータイプ相手に一対一の射撃戦は不利か。
そう悟り、ビームサーベルを抜く。
相手の手品の『タネ』は割れている。だが、いつ来るかまでは分からない。
限界ギリギリの機動戦の最中に、視認し辛いワイヤーフックを避けるのは至難だ。
「ならばあえて受けて、逆に振り回す!」
バーニアを吹かし、デブリの影から飛び出る。
彼我の距離がみるみる内に縮まっていく。
そして相手と自分がすれ違う瞬間、斬りかかると見せかけてさらに速度を上げた。
一瞬にして視界から消えたゲルググが、今は後方に見える。
左脚に過負荷警告。
手応えからして、ワイヤーフックが刺さっているのは膝のやや下か。
「後は釣り上げるのみ!」
左脚を振り上げ、その対角線上にある右腕を後方に回しながら体を捻る。AMBACによる方向転換で瞬時に転回、スラスターを小刻みに噴射する事で速度を落とす事無く最小半径で進路を180度変えて加速する。
ゲルググは俺に引きずられた速度を殺し切る事が出来ず、真っ直ぐこちらに突っ込んで来ている。
「もらった!」
必殺のつもりで突き出されたサーベルは、しかし宙を切った。
「何ッ!? あっ」
反射的に空いている左腕を掲げて盾にし、反動で身体を逃がす。
同時に俺の機体の左腕がバックラーシールドごと断ち切られた。
「なんとぉ!」
突き出したままのサーベルを振るうが手応えはない。
やられた。
ワイヤーフックは
片方のワイヤーを緩めて保持し、こちらが反転した時点で左膝に突き刺さっていたワイヤーを自ら切除、瞬時にもう一方のワイヤーを巻き取り、その反動で俺を軸とした円運動の軌道に入ったのだ。
いくらタネが割れていても、一度『魔女』の術中にハマってしまえば抜け出すのは容易ではない。
それでも――
「意地があるんですよ、男の子には!」
機体に掛かる負荷から読んで、ワイヤーは恐らく左腕の付け根に突き刺さっている。
ならば!
俺は右手のビームサーベルを自身の左肩へと突き刺す。
先ほど半ばから断ち切られたせいで使い物にならない左腕ごとワイヤーを切除、大量のアラートが鳴り響くが無視。
相手の円運動の角度から現在位置を計算、そちらへ向けてビームサーベルを投げる。
そして、腰部から抜いたビームスプレーガンをサーベルの刀身へと連射した。
「ビームコンフューズ!」
回転するサーベルの刀身にぶつかったビームが広範囲へ拡散し、周囲のデブリごと空間を穿つ。これならばニュータイプと言えど避けられぬはず――だが。
「驚いたわ、ビームサーベルにそんな使い方があるのね」
「三本目のワイヤーフック!?」
「御名答。ご褒美にこれをあげましょう」
同時、背後からコクピットにビームサーベルを突きこまれ、俺は撃墜された。
シミュレーターから出ると、俺はヘルメットを脱いでその場に座り込んだ。
ノーマルスーツの首元を緩め、手の甲で額の汗を拭う。
興奮で熱くなった息を吐きながら見上げたそこは、CRSの格納庫の天井だった。
すぐに研究員の女性が駆け寄ってきて、俺にスポーツドリンクを手渡してくる。
女性の頬は上気しており、分厚い眼鏡の向こうの瞳は興奮に潤んでいる。
野暮ったいが、可愛らしい女性だ。
「ありがとう。情けない所を見せてしまったかな」
「そんな! あのスガイさん相手にここまで戦えるなんて凄いです! それにあのAMBACによる180度転回! 確かに理論上は可能ですが、ソレを出来るパイロットはフォウさんくらいですよ!」
「あれも、貴女が施してくれたマグネットコーティングのお陰ですよ。本当にすごい技術だ」
「そんな……あれはモスク・ハン博士の理論が素晴らしいだけで、私は……」
「いやいや、キミの動きは私の想定以上だよ!」
女性研究員と俺の会話に上機嫌で割り込んできたのは、件の博士――モスク・ハンだった。
「惜しむらくは、これが実戦でのデータではなくシミュレーションの物だと言う事だな。クランバトルの日程はまだ決まらんのかね?」
「今ドミトリーの方からサイド6政府へと働きかけている所です。近日中には赤いガンダムとの対戦が成立するかと」
博士へと答える女性研究員の言葉に引っかかるものがあった。
今彼女、サイド6政府と言ったか?
少し、カマをかけてみるか。
「ペルガミノは欲の皮が突っ張っていますからね。金さえ積めば話は早いでしょう」
「そうだな、あんな小悪党が大統領だと言うのは考えるところもあるがね」
「それでも金で便宜を図ってくれるなら、有能な正義漢よりよほど有用だ」
「無能も使い様と言う事か。ふん、確かに奴が大統領でなければ、ゲルググは手に入らなかったが」
ビンゴだ。
クランバトルには少なからずサイド6政府ないしペルガミノ大統領が関わっている。
そしてソレを当然のように語るCRSの実質的な責任者の言葉……ゲルググの横流し元はサイド6政府?
だが、サイド6は何処からゲルググを仕入れてきたんだ?
「勝者を放っておいて、負け狐くんにばかり構うのね」
からかうような声音に、俺は思考の海から引き上げられる。
黄色いパイロットスーツにわがままボディを押し込んで、小脇にヘルメットを抱えるボブカットの女性――先程のトリコロールカラーのゲルググのパイロット、シイコさんだ。
「完敗です。流石は『魔女』だ」
「フォウくんこそ、あのビームサーベルの使い方には驚いたわ。ジオンでは普通なの?」
「まさか、俺のとっておき中のとっておきですよ。成功率もそう高くないので、実戦で使ったことはありません」
ビームコンフューズは原作だとキュベレイのファンネルを撃ち落とすためにカミーユが用いた技だが、実際にやってみると回転するビームサーベルの刀身に狙ってビームを当て、粒子を上手く拡散させるのは相当難しい。さっきも何発かビームスプレーガンを撃って、有功射となったのは一発だけだ。
それでもガンダム好きとしていつかやってみたいと思っていた技の1つだから、シミュレーションで密かに練習していたのだった。
「フォウくんのお陰で、大分実戦の勘を取り戻せたわ。今ならきっと、ガンダムだって……」
憂い顔で呟くシイコさんの横顔を見て思う。
ガンダムのパイロットは誰なのか、何故アマテがジークアクスに乗っているのか、クランバトルとサイド6政府の関係性。
『物語』の核心に迫っている感覚がある。
なにせ俺は、推定『主人公』の実兄だ。このままガンダムに関わっていけば、きっと主要な登場人物になる事が出来るはず……いや、今作の仮面枠になる事も夢じゃない。
「私は諦めない。赤いガンダムは、必ずこの手で――」
手に入れたいもの、たどり着きたい場所。
シイコさんが望むように、俺も俺の望みを叶える。
そのためにも――
「見極めさせてもらうぞ、お前が『主人公』なのかどうか」
『今回の敵は連邦系の軽キャノン、制圧ビーム砲を装備してるよ』
『敵クラン『CRS』が軍事警備会社の宣伝クランなのは公然の秘密だ』
ポメラニアンズの皆の声を無線機越しに聞きながら、マチュは数日前に出会った男女の事を思い浮かべていた。
連邦のユニカム、魔女、望むもの全てを手に入れるために戦いに身を投じた、お母さんとはぜんぜん違う『母』。
自分の事を赤いガンダムのMAVだと気付いていた彼女は、きっとシュウジと同じで、言葉にしなくても相手の気持ちがわかってしまう不思議な人。
そして――
「フォウさん……あの人も――」
でも、彼だけは何か違うようにマチュには感じられた。
(あの人が私の気持ちに気付けるのは、きっと違う理由だ)
だけど、何が違うのだろうか。
分かりかけているのに、思い込みがそれを否定しているような、自分の直感に納得できないもどかしさがあった。
『バトルに集中――と、ガンダムが言っている』
シュウジの声にハっと顔を上げる。
(そうだ、今はクランバトルに勝つことを考えよう。)
勝って、シュウジと地球に行く。
今マチュが考えるべきはその事だった。
モニタの光学センサに敵機が映る。
それぞれ赤白とクリーム色に塗装されたMSが、大胆に姿を晒していた。
ジェジー達に習った有視界戦闘での初撃の有利、それを完全に捨て去る所業に思わず目を剥く。
それに――
「なんか、教えてもらったMSと違うような……」
『ゲルググだ! ジオンが開発した、ガンダムのマスプロモデル!』
答えを齎したのは、ミノフスキー粒子が散布され始めたばかりだからか、未だにかろうじて届くケーンの声だった。
疑問への解を咀嚼する暇もなく、信号弾が上がりクランバトルが始まった。
同時、二機のゲルググがこちらへと突っ込んでくる。
その内の一機、赤白に塗装された方がMAVの先陣だろうか。ビームサーベルを抜き放ったソイツの意識が、明確に赤いガンダムへと向いているのがマチュには感じ取れた。
「シュウジはやらせない!」
盾を構え、前に出る。
だが、赤白のゲルググはマチュの手前でひらりと身を躱した。
「何!?」
『上だ、マチュ!』
赤白のゲルググの後ろにぴったりと張り付いていたもう一機のゲルググによる蹴りが、ジークアクスの胸へと突き刺さった。
激しい衝撃にコクピットを揺らされ、マチュは思わず呻き声をあげる。
こちらへ蹴りを見舞ったゲルググはジークアクスに組み付くと、そのまま推力を上げてシュウジとマチュを引き離す。
「はなして、よっ!」
ゲルググを振り払うべく手足を振り回し各所のスラスターをデタラメに吹かすが、相手側の巧みな操作により、もつれ合ったままその場でクルクルと回転するに留まってしまう。
『また会ったな、マチュくん』
と、接触回線で相手のゲルググのパイロットから声が届いた。
「その声――」
『魔女さんは赤いガンダムに用があるらしくてね、しばらくは俺に付き合ってもらうぞ』
シャリア・ブルがツクヨ・ユズリハの事を忌避しているのには理由があった。
彼のニュータイプとしての感受性は、ツクヨの抱える闘争への渇望と、周りの人間をまるで『物語の登場人物』かのように見做す傲慢さを見抜いていたからだ。
それでもその非凡な戦闘センスと、闘争という手段自体を目的とする単純さから、戦場さえ与えておけば勝手に結果を出す、使いやすい駒であるとも認識していた。
しかし、シャリア・ブルが目指す『ニュータイプがニュータイプらしく生きていける世界』を実現する上では、いずれ排除しなければならない相手であるとも考えていた。
(彼は、ニュータイプを争いへと引き込む存在だ)
そして、今。
ソドンのブリッジからクランバトルの中継を見て、その思いをさらに強めることとなる。
「凄い……さすがは軍曹だ。ジークアクスを完全に手玉に取っている」
呟きは隣に立つエグザベ少尉のもの。
さらにその横で、ジト目になったコモリ少尉が言う。
「ココまで一方的なら、さっさとジークアクスを確保して来ればいいのに」
「余計な損傷を与えないようにしてくれているんだよ」
「でもさぁ、エグザベくん。今の軍曹って完全に遊んでいるわよね」
「ジークアクスのパイロットの技量を見極めているんだろ」
感受性はコモリ軍曹の方が鋭いですね、とシャリア・ブルは思う。
「どちらもその通りでしょう。少しずつ攻撃のテンポを上げて、相手の技量を見極めている。ですが……彼にしては珍しく、稚気が過ぎる」
「軍曹は必要ならば手加減こそしますが、格下を甚振って喜ぶような人では無いはずです」
「ええ、彼は全力の闘争こそを良しとする。ですからその原因はジークアクスのパイロットか、あるいは――」
――『魔女』か。
ライブ画面が切り替わり、赤白に塗られたゲルググと、赤一色のガンダムが映し出される。
二機は近距離でもつれ合いながら、ギリギリのドッグファイトを繰り広げていた。
形勢はゲルググに有利か。ガンダムはワイヤーによる遠隔操作を用いた置きビームガンと、変幻自在の機動に翻弄されているように見える。
「ガンダムが追い詰められている……!」
「あれが『魔女』のスティグマ攻撃。性能に劣る軽キャノンでもキルを重ねた、連邦軍ユニカムの必殺技です」
「AMBACの動きじゃない。軍曹でもこんな機動は出来ないはずです。……じゃあ、これは」
(彼との訓練は、エグザベ少尉に多くの学びを齎したようですね)
スティグマ攻撃の由来を解説しながら、シャリア・ブルは思う。
機体を巧みに動かし、AMBACによる慣性を無視したかのような機動を得意とするエース。あれほどまでにMSを手足のごとく操れるパイロットは他には居ない。
(――それ故に、惜しい)
ツクヨ・ユズリハ。
彼が闘争を望むのは、単にバトルジャンキーであるからだけでは無いと、シャリア・ブルは見抜いている。
だが、彼の『現実を見ているようで見ていない』精神性は、NT能力で深く感応することを拒んでいた。
まるで別の世界から
(もしかすると彼は、
ソドンクルーが見守る中、二機のガンダムと二機のゲルググの戦いは、どちらも終盤へと向かおうとしていた。