宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
9話からは隔日投稿になる……と、思われます。
結構書き溜めも進んでるし、なんとかなるなる!
それでは、本編をどうぞ。
シャリア・ブル中佐と落ち合ったのは、イズマコロニーの中心地に近い、オルドウィッチにあるバーだった。
内装は小洒落ていて、落ち着いたジャズが流れている。
薄暗いが閉塞感は無く、席同士の間隔も広いためゆっくりと寛げるいい店だった。
それにしてもよくこんな店を見つけてくるな。本当にイズマコロニーに来るのは始めてなのか?
「お待たせしましたかね、軍曹?」
「いえ中佐、お気になさらず」
「では……マスター、バーボンをロックで」
「よろしいので?」
「君も何か頼むといい。奢りますよ」
「ですが、私は――」
「そう畏まらなくてよろしい。君が私……いえ、私達に隔意を抱く気持ちも分かりますが、今は同じ釜の飯を食べ、こうして酒を酌み交わす仲です」
「隔意を持っているつもりはありませんが、そう仰るなら。マスター、俺にはとびきりスモーキーなスコッチを、ストレートで」
なんだかいつもより優しいな。
隔意、隔意か……
そんなもん持ったつもりはなかったが……あぁ、そうか。普通に考えりゃ俺は決死隊の囮にされて、同期の仲間を全員失っているワケで……その決死隊を率いていた赤い彗星とシャリア・ブル中佐には思うところがあって然るべきか。
ならば彼がこれまで俺と距離を取っていた理由も分かる。普通に気不味かったんだな。
そう思い至った頃、カウンターにグラスとチェイサーが置かれる。
シャリア・ブル中佐がグラスを掲げ、言う。
「ソドンを離れての調査、お疲れ様でした。乾杯」
「乾杯」
キン、と澄んだ音が鳴った。
俺は琥珀色の液体を口に含み、嫌になるほど煙たいそれを口の中で転がし、飲み込んだ。
灼熱感が喉を通り抜ける。
美味いな、コロニーでこんな美味い酒が飲めるとは。店の雰囲気通り、かなり上等な店なのかも知れない。
「良い店ですね、以前から行きつけで?」
「いいえ、サイド6政府の方から教えてもらいまして」
なるほど、お偉いサマ御用達の店なら納得だ。
というか、そんな伝手まで持ってるんだな、このオッサン。
「オッサンと言われる年……でもありますか。特に君のような若い子相手なら」
「平然と心を読まないで頂きたい」
「これは失礼」
口の中を潤してから、グラスの中で揺れるスコッチを眺めつつ、俺はこれまでの情報を並べていった。
ジークアクス捜索中、不審なMSと戦闘を行った事。
その相手である、クランCRSのパイロット、一年戦争の『魔女』ことシイコ・スガイについて。
CRSを抱えるドミトリーがペルガミノ大統領と繋がっているらしいこと。
そのペルガミノ経由でゲルググが横流しされている事。
『魔女』を上回る実力を持つ赤いガンダムのパイロットと、その拠点と思しきエアロックの事。
そこに出入りする難民の少女の事。
ポメラニアンズのオーナーであるカネバン有限公司の事。
そして――
「ジークアクスのパイロットの名は――アマテ・ユズリハ。俺の妹です」
「それは……」
「今回お呼びしたのは、情報共有だけが目的ではありません。どうか俺に、引き続きジークアクス確保の任務を任せて頂きたい」
シャリア・ブルがこちらをじっと見つめてくる。
俺の思念を読み取ろうとしているのだろう。
だが、俺の心に偽りは無い。
妹を心配し、出来ることなら怪我をさせること無く、俺の手で捕まえたいという気持ちは確かだからだ。
まあその裏に、主人公と関わるチャンスを逃すわけにはいかないという打算もある訳だが……それすら読まれたらお手上げだ。
「どうやら私は、君の事を少し誤解していたようだ」
「誤解、ですか?」
「君が私達を『物語の登場人物』のように見ている事は分かっています。ですが、妹さん相手にはそれが無い――いえ、一人の人間として見ている比率が高い、と言うべきでしょうか。そして思えば、エグザベ少尉やコモリ少尉にも少しはそういう感情があった。何故か私には全く無かったので、隔意を抱いているのだと思っていましたが」
「…………」
驚いたな、そこまで読まれていたのか。
「前回のクランバトルで『遊んでいた』理由も分かりました。ジークアクス捜索の任、改めて軍曹に任せる事とします」
「ありがとうございます、中佐」
内心でほっとする。
まぁここでソドンに戻されて、エグザベ少尉あたりがジークアクスの捜索に当たっても、それはそれで楽しめただろうがね。
「そういう事ならば、君には話しておいたほうが良いでしょう」
言って、バーボンを口に含むと片手でマスターを遠ざけた。
声を潜め、言う。
「ゲルググを横流ししているのは、キシリア様です」
「っ……!? それは」
「キシリア様はとある計画のため、ペルガミノへ資金援助を頼んでいる。その見返りの一部としてMSを渡していたのです。まぁ、リバースエンジニアリングのためにバラすでも、戦力として使うでもなく、民間軍事会社に売り払うとは思っても居なかったでしょうが」
なんともまぁ、欲の皮の突っ張った元社長らしい。
「そして近々、その交渉のためにキシリア様がサイド6を訪れる予定です」
「……いや、まさか。では、ソドンが赤いガンダム捜索の名目でイズマコロニーに留まっているのも……キシリア様を護衛するため?」
「理解が早くて助かります。赤いガンダムを確保したいのも嘘ではありませんが、アレに大佐が乗っていない事が確認できた時点で、目的の殆どは達成されていますしね」
大佐。赤い彗星の事か。シャアが赤いガンダムに乗っているとマズい? そうか、そもそもアイツが生きている事が、ザビ家としてはマズいのか。シャリア・ブルは思ったよりもザビ家寄りの思考なのだろうか。それとも単純に、争いの火種を消しておきたいだけか……ちょっと突付いてやろう。
「……やはり、赤い彗星がジオン・ズム・ダイクンの遺児であるという噂は本当なのですか?」
「察しが良すぎるのも考えものだ。私も余計な事を言い過ぎました。話を戻しましょう」
まぁ、そう簡単に胸の内は話してくれないか。
で、何の話だっけ?
「キシリア様がイズマコロニーにお見えになるまで、ジークアクスと赤いガンダムを確保するのは上手くない」
そうそう、キシリアが来るって話だったな。
「イズマコロニーに駐留し続ける名分を失ってしまいますからね」
「ええ、しかし、キシリア様の交渉が終わり次第すぐに出立できるよう、確保する準備は整えておきたい」
なんとも都合のいい話だ。
だが、そうなると――
「図らずも、君のお陰で既に準備は整っているようですが」
「赤いガンダムの
「よろしい。何か欲しいものは――あぁ、そうでした。モーント・ライターは中破して動かせませんね」
自分で質問しておいて、心を読んで一人で納得するのはマナー違反だろ。
まぁ
丁度良い、そろそろ調整の済んでいるだろう『アレ』でも頭に思い浮かべておくか。
「君も大概、良いように私を使いますね……ですが、分かりましたよ。『アレ』を手配しておきます」
「ありがとうございます。実に、楽しみだ」
シャリア・ブル中佐との密談を終え、翌日。俺はシイコさんの入院する病院へと向かっていた。
もちろん、狐面装備。
この世界はシャアが頑張りすぎたせいで仮面ファッションに寛容で助かる。
まぁ、終点のネノクニから乗り込んだ所なので、俺に注目する人間がそもそも殆ど乗っていないのだが。
だと言うのに、この車両に乗り込んできた年配の男は態々俺のすぐ近く、座席を一つ空けた隣に座ってきた。
「貴様は、誰のために動いている?」
「ジオン軍人なら、ジオンのため以外に何がある」
キシリア機関の
まぁ、
「シャリア・ブルと何を話した」
「別に、ジークアクス捜索任務の報告をしただけですよ。ヘマこいた直後なんで、直接会って言い訳がしたかったんでね」
「隠すと貴様のためにはならんぞ」
「隠す事なんてありませんよ」
「……キシリア様に引き立てて頂いた恩を忘れるなよ」
捨て台詞を吐くと、アセットは席から立ち上がった。アナウンスが次の駅への接近を告げる。
恩もクソも、早い昇進や小隊長の地位はグラナダ防衛戦の時の口止め料だって分かってんだよこっちは。
腹立ってきたな。ちょっと
「こっちは上手く行っていませんが、そっちの戦況はどうなんです?」
「…………貴様が気にするような事ではない」
列車が停車し、アセットが降りていく。
再び動き出した電車の中、俺は今の反応を含めて頭の中を整理する事にした。
シャリア・ブルは『ゲルググを横流ししているのは、キシリア様です』と言った。『民間軍事会社に売り払うとは思っても居なかったでしょうが』ともだ。
それに対し、俺は『欲の皮の突っ張った元社長らしい』と思ったが――本当にそうか?
造船企業連合『ワンナヴァル』の主席議長まで務めた男が、いくら欲に目が眩んだとは言えイチ民間軍事会社なんかに横流し品を渡すだろうか。もっと良い買い手は居るだろうし、売り払う以外にも利益に還元する方法はいくらでもあるはずだ。
手間を惜しんだというなら分からなくもないが、その程度の手間を惜しむ男が巨大企業のトップに立てるとは思えない。
しかも相手は連邦系の企業だ、横流しがバレたらジオンにいい顔はされないだろう。キシリアが横流し元だから大丈夫だと思った? そんな訳無いな、キシリア派閥には言い訳が通ったとしても、ギレン派に通るわけがない。企業連合の主席をしていた男だ、この程度の政治的なバランス感覚は持っているハズ……
そう、バランスだ。
奴はバランスを取ろうとしている。
キシリアとギレンの間で、ではない。
ジオンと連邦の間で、だ。
CRSは連邦の技術士官であったモスク・ハン博士を抱えているように、連邦との繋がりが深い。その繋がりが、俺の思っている以上に深いものだったとしたら?
そうした繋がりのあるクランが、他にもあるのだとしたら?
戦争はもう、始まっているのかも知れない。
サイド6を舞台に、工作員同士、薄闇の中で。
「アセットのおっさんも、そこは惚けなきゃあダメでしょうよ。硝煙の匂いが言葉から香ってくるぜ」
そして、それが本格的な武力衝突になる日も近いのだろう。
でなきゃシャリア・ブルも、キシリアの護衛にソドンまで持ち出すまい。
「それを確かめるのも含め、シイコさんが手伝ってくれれば良いけどな」
電車を降り、駅を出る。
シイコさんが入院している病院はここからほど近い。
受付で名前を告げ、シイコさんの病室へと向かうと、そこには先客が居た。
「ママ、だいじょうぶ?」
「平気よ、坊やもお利口さんにしてたかしら」
「おりこうさんだったよ! ね? パパ!」
「あぁ、とってもお利口さんに……と、お客様かな?」
シイコさんと戯れる幼児。そしてその傍らに立つ男性。
彼女の息子と、夫だ。
「家族水入らずのところ、申し訳ない。出直しましょうか?」
「いいのよ、フォウくん。入って」
ニコニコしながら手招きするシイコさんに従い、病室に入る。
「シイコさんの同僚の、フォウと申します」
向き直り、軽く頭を下げた。
互いに自己紹介をし、息子さんを交えて軽く雑談に興じる。
「ぼくはねぇ、よんさい!」
「そうかぁ、お兄さんはいくつに見える?」
「ん~? ごさい!」
「はっはっは! 凄いな、大正解」
嘘じゃないぞ、俺が今世で初めて生を実感したのは、グラナダでの初陣でMS戦をした時だからな。あの瞬間に生まれたのだとしたら大体そのくらいだ。
俺と坊やのやりとりを見て、シイコさんも旦那さんも微笑ましそうに笑っている。
子どもはいいね、特に坊やは素直でお利口さんだ。
ま、俺は生意気なクソガキも大好きだが。
そして旦那さんも良い人だ。
彼が俺の仮面を気にしていたので、先の戦争の負傷を隠すために仮面を付けていると言うと(勿論嘘だ)、とても労しそうに謝ってきた。嘘なので全然気にしないで下さいって言いかけたぞ。歴戦の『魔女』も、この優しさに絆されたに違いない。
そんな旦那と息子を置いて、本当にシイコさんは
「私はね、赤いガンダムのパイロットを通して見たの」
旦那さんと坊やを見送ってから、出し抜けにシイコさんが言った。
多分これは、俺の疑念への返答だ。
この人、ニュータイプなのを自覚してから、ニュータイプ能力を全く自重しなくなったな。
「薔薇の少女が選んだのは、赤い士官服のジオン将校だった」
家族が出ていった扉をじっと眺めていたシイコさんが、俺の顔を見上げる。
仮面越しに、青い瞳と目が合った。
「赤い彗星は生きている――薔薇の少女に守られて」
「シャア・アズナブル……」
「薔薇がある限り、本当の『選ばれた人間』は、あの赤い彗星ということになってしまう……」
シイコさんの顔が憎しみに歪んだ。
『魔女』と呼ばれるに相応しい凶相だった。
「だから私は――薔薇の少女を殺す。殺して『選ばれた人間』なんてモノを否定する!」
ああ、なんて美しいんだろう。
自分勝手な『納得』のために、見ず知らずの少女を手に掛ける決意。
俺はその決意を肯定する。
肯定しなければならない。
彼女と同じ、自分勝手な『欲望』のために生きる人間として。
「では、行きましょう」
「ええ、いつでも」
その日、一人の女性が病院から失踪した。
女性は直前まで、面会に来た家族と会っていたと言う。
彼女の名前はシイコ・スガイ。
パルダコロニーに住む、主婦だった。
ゲルググの横流し元や、そこからのツクヨの推理は、本編の隙間を埋める独自設定です。
矛盾はないと思いますが、ジークアクス関連のインタビューなど全てを読んでいるわけではないので、間違いがあっても『この世界ではそうなんだ』の精神でお願いします。
その他、矛盾等あったら寛大な気持ちでお目溢しくださいませ。
今後も独自解釈・独自設定は出てきますので、そのあたりも楽しんでいただければ幸いです。