宇宙世紀に転生した。何故かジオンが勝った。妹がガンダムに乗ってた。 作:今峰鏡
マチュとニャアンがノーマルスーツの洗濯を終え、食事を買い込み、いつもの地下道を通ってシュウジが待つエアロックへと向かっている時だった。
スマホのライトで照らした地下道の先、シュウジによって描かれたストリート・アートの中に、人影が立っていた。
エアロックへ通じる扉の前に立つのは、スラッとしたスーツ姿の男性の後ろ姿。
青みがかった黒髪はシャギーの入ったウルフカットになっており、かっちりしたスーツ姿とは対照的だ。
しかし、髪型よりもアンバランスなのは、演劇で使われるような狐の半面で顔の上部を覆っている事だった。
マチュは彼に見覚えがある。
忘れもしない、駅の改札の前で彼と話した事。
そして、戦いの中で彼と交わした言葉も。
「フォウさん? なんで」
「おや、マチュくんか。それにニャアンちゃんも」
先日のクランバトルで戦った相手の言葉に、二人は顔を見合わせた。
「知り合い?」
「そっちこそ」
カネバンで顔を合わせ、その帰り道で話をしたマチュはともかく、ニャアンに面識はなかったはずだ。
だが、この髪型と背格好は、どこかで……
「以前道に迷っていた時に助けてもらってね」
「あっ! あの時の!」
マチュやシュウジと出会うきっかけになったインストーラーデバイスの配達の際、運び屋の元締めであるマーコとの合流場所で出会った青年だ。
無遠慮に距離を詰めてくる迷惑な男だった。道を教えたらさっさと行ってしまったが。
(あれ? 私、名前なんか名乗ったっけ?)
「ていうか、こんな所に何の用? ここは何も無いよ」
マチュの言葉に、ニャアンは思考の海から浮き上がる。
恐らくここがシュウジの隠れ家だという事を誤魔化したいのだろうが……
「ここに赤いガンダムがある事は分かっている。君達が頻繁に出入りしている事もね。生憎今は留守のようだが」
「シイコさんの仇討ちに来たの……?」
「いいや、仇討ちをするならMS戦でするさ。それに彼女は無事だよ、今は
あの時、シュウジにコクピットの真横を貫かれ、更に頭部を切り飛ばされたゲルググを思い返す。
直撃こそしなかったものの、恐らくパイロットは死んでいるか大怪我をしているだろうとケーンに聞かされ、相手を殺す覚悟がなければシュウジの所まで行けないと、そう思い悩んでいた事もあり、マチュはほんの少しだけ安堵した。
と、唐突に赤黒い非常灯が灯り、警告音が鳴り響き始めた。
ギョッとするマチュ達の視線の先、エアロックの向こうから地響きが聞こえてくる。
足音だ。
巨大な鉄の巨人が起こす地響き。赤いガンダムの物だった。
「家主も帰ってきたようだ。後は、彼を交えて話そうか」
「なるほど、君がガンダムのパイロットか」
無造作に散らした青い髪の少年を前にして、俺はゾクゾクとした物を抑えきれなかった。
別に突然男色に目覚めたとかいうワケじゃない。確かに熱っぽい目をして、タンクトップ一枚の姿でこちらを見上げる整った容貌の少年からは、妙な色気が立ち上ってるけど……こらアマテ、えっちな男の子を見て生唾を飲み込むんじゃない。
それはさておき。
まさか、まさかだ。
まさか――
いや、おかしな話では無いんだ。
そもそも『主人公』がアマテという『オリキャラ』だし、これまで彼女たちが戦ってきた相手も『原作』に登場しない
いかん、さっきから美少年に興奮するお兄さんになってしまっている。
一旦落ち着こう。
や~、でもさ。
主人公サイドの重要人物に原作キャラとか入れたくなるでしょ、普通。
俺てっきり、ガンダムのパイロットはアムロとかカミーユとか、そこまで行かなくても、この世界ではバーニィと出会わなかったアルとか、大穴でカツ、はたまたアルテイシアあたりが来るかなとか思ってたんだよね。
っていかんいかん、落ち着こうってば。
「俺の事はフォウと呼んでくれ。今はそれで通している」
そう言って手を差し出すと、少年――マチュ曰く『シュウジ』はその手を無視し、こちらへと体を寄せてきた。
反射的に取り押さえてしまいそうになるが、身体を止める。殺気も感じないしな。
今回は喧嘩をしに来たワケじゃない。てか近いな。……何!? なんか美少年に匂い嗅がれてう!? 怖いけどちょっとドキドキしちゃう!!
って、なんか微妙に嫌そうな顔して距離を置かれた。
普通に傷つくんですけど。
「あー、出た。シュウジのくんくん」
「出たね、くんくん」
なんだよくんくんって。これ会う人みんなにやってんの? 大型犬系彼氏なの? 匂いで相手を判断するのは大型犬系っていうか普通に犬の所業だろ。
「いい、かな? 話しても」
「…………」
「マチュくぅん!?」
「あつい……」
「まぁ、大体こんな感じ。ってシュウジ?」
アマテに助けを求めている間に、シュウジは寝そべらせたガンダムへとあっという間によじ登ると、その装甲の上へ身を横たえた。「冷たくて気持ちいい……」とか言ってるが、こう、軍人としての教育を受けた身からすると、あまりにも兵器への接し方では無いというか………………はぁ、いいだろう。郷に入っては郷に従えだ。こちらもそちらの流儀でやらせてもらう。
俺はスーツの上着を脱いで肩に担ぎ、ガンダムの装甲をひょいひょいと蹴ってその上へと登る。
スーツを丁寧に(そこそこお高いヤツだからな、シワは付けたくない)畳んで置くと、寝そべる彼の隣に足を投げ出し片膝を立てて座る。
「俺は、赤いガンダムとジークアクスを回収する任務を受けている」
「地球に行くまでは、渡さない。と、ガンダムが言っている」
「薔薇を探しに行くんだな」
「ガンダムは薔薇を探している」
「お前はガンダムの操り人形なのか?」
「……僕には僕の望みがある」
「それは?」
「君なら分かるんじゃない? 君は『こちら側』の人間じゃない」
「ララァ・スンか」
「彼女の望みを叶える事が、僕の望みだ」
「――ララァは、シャアと
シュウジが、初めてこちらの目をしっかりと見た。
彼が頷く。
そうか、ララァは
方法は知らんが、ララァほどのニュータイプならどうとでも出来るだろ。
だが――
「もー! シュウジもフォウさんも何なの!」
「よく、そんな軽々と登ってこれます……ね」
マチュとニャアンか。
普通の女子高生がここまで登ってこられるのも中々だと思うが……
まぁいい、あまり知りすぎても楽しみが減るから、シュウジの話はこれくらいでいいだろう。
次は、アマテだ。
「マチュくん、俺は君にも話がある」
「えっ、はい」
出し抜けに言われ、適当に胡座をかいていたアマテが姿勢を正した。
ニャアンはその隣りに座ってこちらへ警戒するような目を向けている。
「まぁ、気楽に聞いてくれ。まず最初に、俺は君達と敵対するつもりはない」
「この場所もバレてるし、フォウさんからは嫌な感じがしないから信じるけどさ」
おい、嫌な感じがしないの所で「マジ?」みたいな顔をするな、ニャアン。
「ではまず、俺はジオン軍人だ。ジークアクス捜索の任務を受けてここに居る」
「っ!?」
マチュは動揺で身体を固まらせている。対してニャアンの反応は早いな、警戒していたからだろうか、腰を浮かせている。
「敵対する気は無いと言っただろう。今すぐ兵隊を引き連れてカネバンを襲おうだとかは考えてない」
「……どうだか」
「そこは信じてくれとしか言えないな。まぁそれはいい。マチュくん、ジオンに入隊する気は無いか?」
「は?」
「君には才能がある。何ならジークアクスを君の専用機にするよう上官に掛け合っても良い」
アマテを傷付けず、穏便にジークアクスを回収するならばこれが一番だろう。
彼女の実兄として、共に戦うポジションはかなり美味しいしな。
「イヤ。私はクラバに勝って、お金を貯めて、皆で地球に行くんだ」
地球。
また地球か。
「それは、シュウジくんのためか?」
「そう! シュウジのため!」
「……それが、君の望みなんだな、
アマテの瞳をじっと見つめる。
俺と同じ翡翠色の瞳の奥を覗き込む。
「えっと、上手く言えないけど……シュウジのため、だけじゃなくて。地球に行ったら何か変わる気がするんだ」
若いなぁ……
俺も肉体年齢的には若いけどさ。一応転生者だからな、好き勝手やっている自覚はあるが、目的地も見えないまま突き進む無鉄砲さは無い。無いと思う。
まぁ要するに、アレだな。将来への不安と、同じ毎日を繰り返す閉塞感。そこに混ざり込んだ非日常に夢中になっているヤツだ。学校にテロリストが乗り込んできたら~という妄想とそう代わりはない。
だけどその若さ、嫌いじゃないぜ?
「分かったよ。そう思うのなら、迷わず進むと良い」
「……」
「なんだ、その顔」
「や、なんていうか……やっぱりお母さんとは違うなって」
ああ、まぁ、母さんならそうだろう。あの人はまともな人だから。
話せば分かるんだがなぁ……流石にクランバトルはダメだろうけど。
「普通の親ならそうだろうな。それこそ軍人になるのなら母親も納得するだろうし、地球から帰ったらジオンに入るのも良いんじゃ無いか? 進路希望にジオン軍人とでも書いておけば親も納得するだろう」
「それこそお母さんは反対するよ」
「何故?」
「ジオンは、お兄ぃを奪ったから」
ん?
待て、実家ではそういう認識になってんの?
「マチュの、お兄さん?」
ニャアンも興味深そうな目でアマテを見ている。
シュウジは……寝てるのか? 自由なやつだな、本当に。
「お兄ぃは、MSが好きだったから。何億人も人を殺したジオンは許せないけど、それでもMSに乗れるならって出ていった」
そんな事言ったっけ……家を出る前にアマテと話したのは覚えてるけど……ってか、俺の事をそんなに想ってくれてたんだな、お兄ちゃんちょっと泣けてきた。
「ジオンが来なければ、お兄ぃが家を出ていく事はなかった」
「マチュ……」
ニャアンと二人でしんみりしてるけど、そのお兄さんならココに居ますけれどもね。
そこまで想われてると思うと、正体バラしちゃおうかなとか考えちゃうが……まだ早いな。まだ黙っている方が
「まあ、いいだろう。次は俺の目的を話そう」
ちょっとね、お兄ちゃんとしては自分の事でしんみりされるのもアレなのでね、話を変えさせてもらいます。
「まず、赤いガンダムとジークアクスについて」
ごくり、とアマテがつばを飲み込んだ。
「正直これはどうでもいい。任務ではあるが、それはジオンの都合だからな」
「不良軍人……」
「努力はするさ。だが、何としてでも取り戻したいわけじゃない」
実際、『主人公』から『ガンダム』を取り上げられるとは思わない。
それが出来るとしたら、乗り換えが発生する中盤以降だろう。
奪われ、敵として現れるガンダム、しかし主人公は新型のガンダムに乗って戦う!
王道だな。その場合ジークアクスに乗るのは俺か、エグザベ少尉か、はたまたシャリア・ブル中佐か。
「次に、俺も薔薇を探している」
「薔薇?」
「薔薇って、シュウジの……」
おっと、ニャアンは薔薇について知らなかったか。
「シイコさんも薔薇を欲しがっている。だから俺も彼女のために薔薇を探す事にした。マチュくんと同じだな」
「私と……」
「もちろんそれだけが目的じゃない。だが、今の大きな目標は薔薇だ」
シイコさんの『納得』のためというのも理由の一つだが、本音で言えば、まず間違いなく物語の核心にあたる『薔薇』を追うことで、物語の本筋も追えるだろうと考えたからだ。
「そして――」
「まだあるのぉ?」
「これが最後だ。最後で、最大の願い。――俺は、もう一度キミと戦いたい」
アマテがジト目から、キョトンとした顔になる。
「これでもエースでね、負けっぱなしは性に合わない。今回は俺達を倒したMAVを見定めるため、そして宣戦布告をするためにここに来た」
アマテがその表情を真剣な物に変えた。
「次も、負けない」
「次は、俺達が勝つ」
じっと見つめ合う。
翡翠色同士の視線がぶつかり合い、火花が散ったように見えた。
これは本心だ。主人公の好敵手として、仮面の男は何度もその前に立ちはだからないといけない。
それに、妹に負けっぱなしでは、兄としての威厳が――
と、アマテが何か違和感に気付いたかのように眉を上げた。
「おっと、そろそろクランバトルの時間じゃないのか? 早く行かないと不戦敗になるぞ」
「ホントだ! 行こ、ニャアン」
「う、うん」
言い合い、バッグを片手に二人が駆けていく。
それを見送って、俺は溜息を吐いた。
危ない危ない、対面で変に兄としての思考を強めると、ニュータイプ能力で俺がツクヨである事を察せられてしまう可能性がある。気をつけなければ。
「なんで……マチュに、言わない……の?」
「その方が面白そうだから」
「へぇ……兄妹って、そう……いう」
「おい、何か変だぞ、大丈夫か?」
寝そべっているシュウジを抱き起こす。
体温が異様に熱い。呼吸が荒く、目も虚ろだ。
どこからかやってきたオレンジ色の角張ったタチコマみたいなロボットが、触腕を伸ばしてシュウジの額にセンサーを
ロボットの頭部の液晶パネルに表示されたのは、恐らく彼の体温だろう。
「38度9分……完全に風邪だな。おい、これを飲め」
潜入任務の際に持ち歩く最低限の薬と、少しの水が入ったスキットルを取り出し、シュウジの口元にあてがう。
コクリコクリと小さく喉を鳴らして薬を飲み込むと、彼はぐったりとしながら立ち上がろうとする。
「動くなって、寝ろ!」
「クランバトルが、始まる……と、ガンダムが……言っている」
「クランバトルって……今回の相手は『黒い三連星』だろう! そんな体調で行ったら死ぬぞ!」
「だい、じょうぶ……と、ガンダムが……」
「流石のガンダムも休んでろって言うわ! しかし、クラバか……」
クランバトルはすっぽかすと莫大な違約金が課せられると聞く。
その違約金を盾にガンダムの譲渡を迫る?
いや、そんなセコい真似はしたくないし、コイツなら踏み倒して逃げるだろう。
ガンダムに乗って宇宙へ飛び出していく三人、ただし理由は借金! みたいな? そんなガンダム嫌だ!
「あーもうしゃーねぇ、俺が行く! お前は寝てろ! おいタチコマモドキ、コイツの面倒見とけよ!」
合点承知とでも言うかのように、両脚を持ち上げるオレンジ色のロボット。
こいつが今作のハロ枠か? そういやハロもアマテが持ってたな。喋らないからおもちゃか何かかと思ったが……まあそんな事はどうだっていい。
シュウジをエアロックの外に運び、備蓄されている水やら缶詰やらを探し出して枕元に置き、毛布をかけてやる。
しっかりとエアロックの気密を確認、ガンダムのコクピットへと乗り込み、ハッチを開いた。
「見せてもらおうか、赤いガンダムの性能とやらを!」
皆様の感想、評価等、とても励みになっております。
一日あいだを置きましたが、書き溜めも順調なので暫くはこのペースで行けると思います。
需要があるかは分かりませんが、作者のX(旧Twitter)のアカウントも貼っておきます。
進捗状況なんかをつぶやくかもしれません。
他には不定期にネタツイやポエムを投げたりしております。
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