Fate/stay night IF BEYOND THE EVER 作:Мир
間桐邸の上階に、明かりがあった。凛は通りの曲がり角で足を止めた。門へは近づかず、塀の向こうの窓を見る。隣家の軒から落ちる影が、こちらの足元まで届いていた。
アーチャーは少し後ろに立っていた。凛と同じ窓を見てから、道路の反対側へ目を移す。車が一台通り過ぎた。光が二人のいる場所を外れ、先の道へ消える。
「二階か」
凛が声を落とした。
少し開いたカーテンの隙間に、しばらくして人影が立った。明かりを背にした顔が横を向く。窓から離れかけ、室内の何かへ腕を伸ばす。その時、顔に光が当たった。
「慎二ね」
「ああ」
慎二は部屋の奥へ引っ込んだ。窓の明かりは消えなかった。凛は門へ視線を動かし、それから、もう一度上階を見る。
「戻っているのは、確かね」
「いつからかは分からんがな」
「ええ。今、ここにいる」
言い直して、凛は息を吐いた。玄関の戸は閉じていた。人が出入りする様子はない。
「あの男は?」
「見える範囲にはいない」
それ以上を、アーチャーは言わなかった。凛も頷くだけにした。城で見た男の姿を思い出すと、塀の内側へ入って確かめるつもりにはなれなかった。
上階で、慎二がもう一度窓際へ来た。何かを苛立たしげに動かしている。口も動いたが、閉じた窓を通して、その声までは届かなかった。誰に話しているのか、それとも一人で何かを言っているだけなのか、凛には分からなかった。
カーテンが引かれる。最後に腕の影が横切り、部屋の中は見えなくなった。
「……本人に聞けば、早いんだけどね」
「顔を見るだけ、と聞いている」
アーチャーの返事に、凛は横を向いた。
「覚えてるわよ。行くなんて言ってないでしょう」
言い終える前に、もう足は来た道へ向いていた。アーチャーが周囲を確かめるのを待ち、門から離れる側の道へ入る。
*
合流場所へ向けて、予定していた道を戻っていた。時計を見る。約束の時刻には、まだ少し間がある。士郎たちの方が先に着いているかもしれない。凛は歩調を緩めず、次の角へ向かった。
塀が途切れ、公園の木々が見えた。枝の間に街灯の光がある。もう一つ角を曲がれば、入口へ出る。
アーチャーが、急に顔を上げた。
「どうしたの」
返事を待つ間に、凛も足を止めた。寒さとは違った。外套の下まで、何かが触れたように思えた。皮膚の上に何もないことを、手で確かめたくなる。
その先から、人を呼ぶイリヤの声がした。
「アーチャー!」
凛が呼ぶより先に、赤い背中が動いていた。凛も地を蹴った。公園へ続く角が、目の前まで来る。指はもう、胸元の宝石に触れていた。