Fate/stay night IF BEYOND THE EVER 作:Мир
土曜の朝、教会に客が来た。
扉を押し開けた少年は中へ入ってからも何度も後ろを振り返った。外の道に人影がないことを確かめ、ようやく扉を閉める。
その音が礼拝堂に響くと、今度は前を向いた。
「……いるんだろ。出てこいよ」
返事はなかった。
少年は長椅子の間を進んだ。握っていた手を開き、何もない手のひらをズボンに擦りつける。
「話があるんだ。監督役なら、ちゃんと仕事を」
「聞こえている。そう大きな声を出す必要はない」
祭壇の脇から、黒衣の神父が現れた。
間桐慎二は足を止めた。
「……僕を、ここに置いてくれ」
「学校の件は聞いている。ライダーを失ったのか」
「そうだよ。あいつら、二人で来たんだ。遠坂と衛宮で。こっちは一人だっていうのに、セイバーまで呼んで」
「それで、保護を求めに来た」
「そう言ってるだろ。もうサーヴァントはいないんだ。こんな状態で襲われたら、どうしろっていうんだよ」
神父は慎二の手を見た。
本を持っていた手には、何もない。慎二はその視線を嫌うように、腕を体の後ろへ隠した。
「戦争から退くなら、この教会に留まることはできる」
「ああ、それでいい。しばらく誰も通すなよ。あいつらが来ても、僕がいるって言うな」
「身を隠したいのなら、静かにしていることだ」
神父が祭壇の脇へ向かおうとした。
「待てよ」
慎二が呼び止める。
「誤解するなよ。僕が負けたわけじゃないからな」
神父が振り返った。
慎二は返事を待たずに続ける。
「ライダーが弱すぎたんだ。セイバーが来たら、急に何もできなくなってさ。あんなの、誰が使ったって同じじゃないか」
「君は、よく働かせていたようだが」
「準備はしたよ。ちゃんと言うことを聞かせて、何日もかけて。なのに、あいつは――」
廊下に落ちた血と、消えた黒い姿を思い出したのか、慎二の口が歪んだ。
「衛宮なんかに。あいつ、何も知らなかったくせに」
「彼のサーヴァントなら、勝てたと?」
「当たり前だろ。あんなに強いやつを持ってれば、誰だって勝てる」
神父はしばらく何も言わなかった。
慎二がその沈黙に気づき、顔を上げる。
「なんだよ」
「君が求めているのは、休む場所だけではなさそうだ」
「……どういう意味だよ」
「戦う手段さえ残っていれば、まだ続けたい。そう聞こえるが」
慎二は神父の顔色をうかがった。
「あるのか。そんなものが」
神父は答えず、礼拝堂の奥へ目を向けた。
その先で戸が開き、金色の髪をした男が無言で姿を現す。
慎二の肩が跳ねた。
男は戸口で足を止め、赤い目を慎二へ向けた。
慎二は何か言おうとした。けれど、口を開いただけで声が出なかった。
男はそれを見て、わずかに笑った。
「サーヴァントを失って、命乞いに来たのだろう。好きなだけ匿ってやればよい」
「それだけなら、おまえに引き合わせる必要もあるまい。彼は、自分に相応しい力が与えられなかったと言っている」
「ほう」
男の視線がもう一度慎二へ戻る。
その目を向けられて、慎二は半歩下がった。
「……おまえ、サーヴァントなのか」
問いには答えず、男は戸口に寄りかかった。
そこで神父が口を開く。
「紹介しよう。ギルガメッシュだ」
慎二はその名を繰り返しかけた。
神父はもう一度、逃げ込んできた少年の顔を見る。
「座りたまえ。もう少し、君の望みを聞こう」