巨大ロボに選ばれたら、味方まで追ってきた。   作:シラヌイ321

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『巨大ロボに選ばれたら、味方まで追ってきた。』を開いてくださり、ありがとうございます。

変身ヒーローと巨大ロボの熱い戦いに、思わず笑えるドタバタを添えて。「ニチアサ」を楽しむ気分で読んでいただけるとうれしいです。
基本は毎週日・火・木曜日の朝9時に投稿予定です。

格好よく決めたい新人ヒーロー、ライズ。
今日の仕事は、古代兵器の発掘現場での警備です。

まずは昼ご飯を食べたい彼の一日から、どうぞお楽しみください!


第1話 俺を拾ったのは、巨大ロボだった

 俺の弁当には、から揚げが三個入っていた。

 

 一個は最初に食う。

 一個は途中で食う。

 最後の一個は、ご飯の残りを見て決める。

 

 そこまで考えたところで、無線が鳴った。

 

『ライズ。交代が遅れる。もう少し頼む』

 

 俺は開けたばかりの蓋を見た。

 

「グラント。その、もう少しって何分?」

『東の搬入口に資材が引っ掛かってる。どかしてから行く』

「大槌持ってんだろ。なんとかならない?」

『運搬業者の車を叩き潰していいなら』

「待ってる!」

 

 朝倉アキラは、冗談でも声が真面目だ。

 養成学校で同じ班になってから、ずっとそうだった。

 

「預かっとくよ」

 

 弁当を配っていたおばちゃんが、蓋を閉じてくれた。

 

「頼んだよ、ヒーロー」

「任せてください!」

 

 頼まれたので胸を張った。

 

 間宮ハル、十九歳。

 ヒーロー名はライズ。

 

 初めてその名前で呼ばれてから、まだ一年ほどだ。弁当の蓋にまで書いてもらえるようになったのは、結構うれしい。

 

 今日の持ち場は、古代兵器の発掘現場だった。

 掘り下げられた広い穴の底に、建物みたいな砲台が埋まっている。長い砲身の下を、黄色いヘルメットが行き来していた。

 

 あれが動いたら、俺の剣じゃ届きそうにない。

 夕方まで、あのまま寝ていてくれ。

 

 報道用のドローンが、頭の上を通った。

 

 もう一度、背筋を伸ばす。

 弁当を見送った顔より、こっちを撮ってほしい。

 

 

 【ヴェイル】

 

 搬入口の陰で、俺は襟をずらした。

 左の鎖骨の下に指を当てる。

 

 皮膚の奥で、硬い何かが脈打った。

 

 埋め込まれたあと、俺の体に馴染んで、影を生むようになった怪核だ。貸してくれと言われても、ベルトみたいに外して渡すわけにはいかない。

 

『ヴェイル。帰り道は見たか』

 

 耳元に、師匠の声が届いた。

 

「二本。片方は今、車が詰まってる」

『なら一本だ。二本と数えるな』

「はいはい。もう一本、探しながら行くよ」

 

 指先に力を込める。

 

「解放」

 

 鎖骨の下が熱くなった。

 黒い外殻が腕を伝い、胴を包む。仮面が口元まで閉じると、自分の息が少し低く響いた。

 

 ワイヤーの先の刃を握る。

 腰のあたりから薄く剥がれた影を、足元へ戻した。

 

 今日の仕事は、回収班を通すこと。

 正面の警備についたヒーローは、まだ資材箱の向こうだ。そいつを引きつければいい。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

 隣にいた怪人が柵へ突っ込んだ。

 

 

 【ライズ】

 

 柵が吹き飛んだ。

 

「伏せて!」

 

 おばちゃんの肩を抱き、資材箱の陰へ押し込む。

 頭の上で、鉄の棒が箱を叩いた。

 

「ここにいて!」

 

 返事を背中で聞き、箱の前へ戻る。

 ジャケットの裾を跳ね上げた。

 

 黒いベルトの中央に、掌ほどの銀色のバックル。

 琥珀色の丸いレンズを左手で押さえ、側面のレバーを引き下ろす。

 

 こいつは俺専用だ。

 外せばポケットに入るが、今は腰にあってよかった。

 

「変身ッ!」

 

 腰から光が走った。

 服の上を黒い特殊繊維が包み、踏み込んだ脚をぐっと押す。

 胸、肩、両腕。薄い金属とセラミックの板が重なり、朱赤の装甲がすねまで覆った。

 

 膝の裏は柔らかいままだ。

 そこを曲げて身を低くした瞬間、白いガードが左の前腕へかぶさる。

 

 右より幅広く、中の板も厚い。

 こいつには、今日も前に立ってもらう。

 

 胸を縁取る金の線が光り、左腰へ空の鞘が留まった。

 赤いヘルメットが顎まで閉じ、細い金色のバイザー越しに、飛んでくる刃が見えた。

 

 後ろへは避けられない。

 

 左腕を突き出す。

 

ガギィンッ!!

 

 顔の横に火花が散った。

 靴底が土を削る。

 

 重い!

 

 刃につながるワイヤーが張った。

 俺はガードを外へ振り、刃を箱から遠ざける。

 

 粉塵の向こうで、黒い仮面の男が武器を引き戻した。

 

「いい立ち姿だったね」

「見てたなら邪魔すんな!」

 

 白いガードに、深い溝が一本。

 灰色の下地まで出ている。

 コンクリートの塊を受けたときは、塗装が剥げただけだった。それが、一発で下地まで。

 

 何度も受けていい相手じゃない。

 

 右の親指で、バックル中央のレンズを押し込んだ。

 

 キィィンッ!

 

 澄んだ音に続いて、バックルが告げた。

 

『ライズセイバー!』

 

 伸ばした手の中で光が固まり、ずしりと重い柄になった。

 赤い柄。金の線が一本走る、銀色の真っすぐな刀身。

 

 入学して最初に受けたのが、バックルと武器の適性検査だった。

 俺はバックル型、アキラは大槌そのものを使う武器型。隣で槍を振り回していたやつもいた。

 剣は、バックルから呼び出す俺の得物だ。あのときから、手に馴染んでいる。

 

 だから、頼むぞ。

 

 刃を立て、箱から離れるように走る。

 作業員たちが横の避難路へ流れ、資材搬入の通路が空いた。

 

「ヴェイル! 正面は任せたぞ!」

 

 柵を越えた怪人が叫んだ。

 黒い男が俺を追ってくる。

 

 ヴェイル。

 こいつの名前か。

 

 振り向きざまに斬りつける。

 剣先が仮面をかすめる手前で、男は身を引いた。

 

 ワイヤーが地面すれすれを走る。

 足首へ来た刃を、跳んでかわす。

 

 靴の下へ、光の板を一枚。

 

 俺の能力は、光を操ることだ。

 足を置ける硬さにまとめると、空中にだって立てる。

 

 着地した俺の隣へ、ヴェイルも乗った。

 

「便利だな、それ」

「お前用じゃねえ!」

 

 肩を押された。

 落ちる。

 

 二枚目を背中側へ出し、踵で踏ん張った。

 ヴェイルが一枚目を蹴って追ってくる。その刃を、剣で弾く。

 

 この狭さじゃ、振りきれない。

 二枚とも消して、真下へ落ちた。

 

 ヴェイルも落ちた。

 

「消すなら言ってくれる?」

「降りるなら言えって言ってんだよ!」

 

 そんなことは言っていないが、こいつのせいで俺の足場が忙しい。

 

 地面へ着く前に、一枚目を低く作り直す。

 俺はそれを蹴って前へ飛び、ヴェイルは何もない地面へ軽く降りた。

 

 その足元から、もう一人が起き上がった。

 

 黒い仮面も、体格も同じ。

 二人のうち、手ぶらのほうが先に来る。

 

「シャドウ・クロス!」

 

 影の拳を白いガードで流した。

 左腕が胸まで押し戻される。

 

 こいつ、ちゃんと殴れるのか!

 

 本物は俺の横へ走っていた。

 ワイヤーの刃が剣にぶつかり、火花の向こうで、細い線が手首へ回り込む。

 

 正面には拳。

 横には刃。

 

 膝を沈め、頭上へ出した二枚目へ跳び上がった。

 さらにその上へ、三枚目を出す。

 

 これで全部。

 四枚目が欲しくても、どれかを消すまで出せない。

 

 下から伸びてきた影の手を蹴り離し、最後の足場へ飛び乗った。

 

 眼下に、二つの黒い頭。

 その後ろの通路には誰もいない。

 

 逃がした人たちの姿を確かめ、剣を両手で握る。

 

 人の乗っていない一枚目と二枚目を解き、その光を刃へ集める。

 足場よりずっと小さく。薄く。ぎりぎりまで押し込む。

 

 刀身が白く輝き、銀色の輪郭が見えなくなった。

 握った柄から腕へ、細かい震えが上がってくる。

 

 こいつを撃ったあと、腕がどうなるかは知っている。

 

 でも、ここを抜かれたら、後ろにはまだ人がいる。

 

「ライズ――」

 

 最後の足場を蹴り抜き、その光まで刃へ引き寄せる。

 肩の後ろまで引いた剣を、落ちる勢いごと振り下ろした。

 

「ブレイカーッ!!」

 

 影が両腕を交差させた。

 その腕ごと、光の詰まった刃が食い込む。

 

 黒い体を斬り抜く寸前、剣の腹を横から叩かれた。

 

 ヴェイルの刃だ。

 受け止めず、ほんの少しだけ押し流す。

 

 剣先が逸れた。

 斬り裂かれた影が散り、その向こうで本物の黒い肩が、刃の下から消える。

 

ドガァァンッ!!

 

 通路に敷かれた厚い鋼板が、裂けた。

 その下のコンクリートまで砕け、剣の通ったところが一直線に沈む。

 

 破片が跳ねた。

 俺は膝をつき、抜けかけた柄を抱えるように押さえた。

 

 右の肩が熱い。

 遅れて、両腕の中を痛みが走った。

 

「っ、だあ……!」

 

 指が、うまく曲がらない。

 肘を伸ばそうとして、思わず息を止める。

 

 数歩先で、ヴェイルが立ち上がった。

 胸の黒い装甲に浅い傷。握った刃を持ち替え、割れた通路を見ている。

 

「……いいな、それ」

「足場だけじゃ足りねえのか」

「そっちじゃなくて。今の一撃」

 

 軽かった声が、そこだけ少し低くなった。

 

 俺は震える指を柄へ戻す。

 見栄を張るなら、今だ。

 

「欲しけりゃ、もう一回――」

 

 言いかけたところで、肩がずきんとした。

 次はまずい。剣を落とす。

 

 ヴェイルが首を傾けた。

 

「今、ちょっと迷ったね」

 

 背後で警報が鳴った。

 

 発掘場の底が、持ち上がっていた。

 

 砲台に赤い灯りがともる。

 砲身が土を割り、その周りの作業通路がまとめて崩れた。

 

「お前らが動かしたのか!」

「動くとは聞いてない!」

 

 男も走り出していた。

 俺は穴の縁へ飛び込んだ。

 

 下へ落ちる作業員の尻の下に、一枚。

 

「うわあっ!」

「そのまま! 動かないで!」

 

 低い位置へ二枚目を作り、男を背中から抱え直す。

 腕へ体重が乗った途端、右の手が開きかけた。

 

 まずい。

 

 ガードをつけた左腕を男の脇へ深く入れ、胸で支える。

 足場を一段ずつ下げて地面へ着いたときには、汗が目に染みていた。

 

『ライズ、遺物庫を確保しろ。侵入者に渡すな!』

 

 無線から、現場指揮の声が飛んだ。

 

「人が落ちてます!」

『だが――』

 

 崩れた遺物庫の前で、鉄骨の下から声がした。

 俺はそっちへ走った。

 

 作業員の脚が挟まっている。

 隣には、肩の装甲が割れた怪人。

 

 剣を地面へ置き、鉄骨へ手をかけた。

 力を入れる。

 

 指が滑った。

 もう一度掴んだが、今度は肩に力が入らなかった。

 

「くそ……!」

 

「見栄を張ったぶん、響いてるね」

 

 黒い腕が、俺の隣へ差し込まれる。

 ヴェイルが鉄骨を持った。

 

「持つほう、頼めるか」

「そのつもり。早く抜いて」

 

 反対側に、一体だけ影が立つ。

 二人分の力で鉄骨が浮いた。

 

 俺はガードを瓦礫の角にかませ、作業員の脇へ腕を回す。

 足で地面を蹴って引いた。

 

 一人。

 次に、怪人の胴へ腕をかける。

 

 影の脚が、煙みたいにほぐれ始めた。

 

「急いで!」

「分かってる!」

 

 尻で土を滑り、怪人ごと後ろへ転がる。

 靴先のすぐ前で、鉄骨が落ちた。

 

 ヴェイルも跳び退いた。

 息を吐き、俺が抱えていた怪人を肩へ引き取る。

 

「足場、借りるね」

「今度はいい! 人が乗ってる間は消さねえから!」

 

 左手で剣を拾い、腰の鞘へ滑り込ませた。

 作業員へ肩を貸す。歩けるほうの脚で踏ん張ってもらい、二枚の光を階段にする。

 

 上で、大きな打撃音がした。

 

 搬入口へ倒れかけた柱を、グラントが大槌で受けている。

 グラントハンマーの頭が沈み、その一振りが、受け止めた衝撃ごと柱を無人の斜面へ押し返した。

 

『東は通せる! ライズ、上がってこい!』

「頼む、そっちに二人!」

 

 出口の手前には、遺物庫から転がり出た保管箱が散らばっていた。

 割れた箱をまたぐと、小さな鎖が靴に絡む。

 

『そこの者』

 

 足元で、獣の顔に似た飾りが光っていた。

 

「今、順番! 怪我人が先!」

『では、歩きながら聞け。私も手を貸そう』

 

 話の早い遺物だった。

 

「何ができる?」

『あれを止められる』

 

 飾りの奥で、金色の光が砲台を向いた気がした。

 

『ただし、広い場所へ運べ。ここでは出られん』

 

 俺は作業員を壁へ預け、一度しゃがんだ。

 鎖を拾って首へかける。

 

 両手を空け、もう一度、男の体を支えた。

 

 地上へ出たとき、砲口に白い光が集まっていた。

 

 長い砲身が下がる。

 その先には、避難した人たちがいた。

 

 男を救護の人へ預ける。

 救助に使った足場を消し、砲身へ向かって三枚並べた。

 

 順に蹴る。

 飛びついた砲身へ、白いガードを押し当てた。

 

「上、向けえ……!」

 

 靴底が足場を滑った。

 腕だけじゃ駄目だ。肩も、背中も使って押す。

 

 びくともしない。

 

 さっき通路を割った剣でさえ、これと比べたら小さな刃物だ。

 

『降りろ。君がそこにいては、私が掴めん』

 

 胸元から声がした。

 

 俺は歯を食いしばったまま、頷いた。

 砲身から離れ、足場を渡って資材搬入用の空き地へ降りる。

 

 人はいない。

 頭上にも何もない。

 

「ここだ!」

『よい。下がれ』

 

 ペンダントから光が伸びた。

 目の前の空間が、縦に大きく開く。

 

 銀色の足が出てきた。

 

 俺が寝そべっても、爪先まで届きそうにない。

 分厚い足が土を踏み、もう一本が並んだ。

 

 膝を見上げる。

 太腿のあたりに、二階建ての現場事務所の屋根が見えた。

 

 まだ上がある。

 

 六階建てぐらいか。十八メートルはあるんじゃないか。

 首を反らして、ようやく顔が見えた。

 

 獅子だ。

 

 がっしりした顎と、短く突き出た鼻先。頬を囲む角張った装甲が、金属のたてがみみたいに後ろへ重なっている。

 金色の細いバイザーが、俺へ向いた。

 

 幅のある肩から、太い腕が下がっていた。

 胸には銀色の装甲が何段も重なり、絞られた腰の下へ、黒い関節が見える。

 

 あの砲台を止めると言った。

 言ったけど。

 

 これを「手を貸す」で済ませたのか。

 

 巨体の背後で、光の裂け目が閉じた。

 

「お前、これの中にいたの!?」

『格納空間だ。小さくなっていたわけではない』

 

 砲台が唸った。

 銀色の巨体がすぐに片膝をつく。

 

『我が名は護牙。ゴウガと呼べ』

 

 差し出された掌は、俺一人なら余裕で立てる広さだった。

 

『乗れ』

「乗っていいのか!」

『そのために手を出している!』

 

 飛び乗った。

 指が後ろへ曲がり、地面が遠ざかる。

 

 胸の装甲が開いた。

 掌がその縁へつく。奥にある一人分の座席へ、俺は駆け込んだ。

 

 ベルトが肩と腰を押さえる。

 目の前いっぱいに、外の景色が映った。

 

「俺、操縦なんかしたことないぞ!」

『前の握りに手を置け。行きたい方向を示せばよい。細かい動きは私が合わせる』

 

 握った右手に、痛みが走った。

 

『腕を傷めておるな』

「動く! まだ動くから!」

『なら、握り潰そうとするな。私の腕まで、君一人で動かす気か』

 

 肘を支えへ乗せる。

 握りを掴み直すと、押し返してきた重さが軽くなった。

 

『名は』

「ライズ!」

『行くぞ、ライズ!』

 

 押した。

 

 景色が一気に前へ来る。

 ゴウガは一歩で、さっき俺が必死で走った距離を進んだ。

 

 両腕で砲身を掴む。

 体が座席へ叩きつけられた。

 

 砲台が横へ回ろうとする。

 足が滑る。地面へ長い溝ができた。

 

「上だ! 空へ向けろ!」

『うおおおっ!』

 

 銀色の腕が持ち上がった。

 砲身が浮く。

 

 その下の土まで、ごっそり浮いた。

 

 台座がついてきていた。

 

「砲台まで持ち上がってる!」

『持てる!』

「向きが変わってねえ!」

 

 巨大ロボットが、巨大な大砲を横抱きにしている。

 俺はこんなにすごい持ち上げ方を、今まで見たことがなかった。

 

 そして今、欲しいのはそれじゃなかった。

 

 砲口が光る。

 

「下! 土台を押さえろ!」

 

 ゴウガが台座を地面へ戻し、その端へ左足を踏み込んだ。

 衝撃で座席が跳ねた。

 

 砲身だけを、両腕で持ち上げ直す。

 

 回転軸が軋んだ。

 左の肘から、銀色の破片が飛んだ。

 

 画面の端が赤くなる。

 

「ゴウガ!」

『離さん! 君は上を見ろ!』

 

 砲身の先が上がる。

 まだ足りない。向こうの建物の屋根が、射線に残っている。

 

 俺は背もたれへ体を押しつけた。

 震える手を、握りの上へ押し戻す。

 

「もう、ちょっと……!」

 

 ゴウガの膝が深く沈む。

 左腕の装甲が裂けた。

 

『合わせろ!』

「ああっ!」

 

 踏ん張った。

 俺の足も、何かの役に立ってほしかった。

 

 銀色の背中が伸びる。

 砲口が、空へ跳ね上がった。

 

ゴォォォォッ!!

 

 白い光が噴き出した。

 

 画面が焼ける。

 背中へ衝撃。肩のベルトが食い込み、息が押し出された。

 

 ゴウガの足が土を掘る。

 台座ごと押し滑り、無人の資材置き場の手前で止まった。

 

 腕は、離れていなかった。

 

 光が消える。

 砲身の先に、青い空が残った。

 

 避難所も残っていた。

 

「よし……!」

『まだだ。下を見よ』

 

 台座の灯りが点滅していた。

 引きずられた土の中から、太い給電ケーブルが露出している。

 

 ゴウガは砲口を上へ向けたまま、左足で台座を押さえた。

 右の踵がケーブルを踏み抜く。

 

 火花が散った。

 灯りが消えた。

 

 唸り声も、消えた。

 

 少し待っても、砲台は動かなかった。

 

『止まった』

 

 ゴウガが砲身を、誰もいない穴の底へゆっくり下ろした。

 

 俺はようやく息を吐いた。

 握りから手を離すだけで、少し時間がかかった。

 

 外で歓声が上がる。

 グラントが大槌を下ろし、こっちへ片手を上げた。

 

 柵の向こうを、黒い影が走っていく。

 ヴェイルだ。肩には、助け出した仲間をまだ担いでいた。

 

 追いかけようと身を起こし、右肩の痛みで止まる。

 

 今は、無理だ。

 あいつがいなかったら、鉄骨の下の二人は出せなかった。

 

 俺はもう一度、背もたれへ沈んだ。

 

「ゴウガ。腕、どうなった」

『動くが、修理は要る』

「ペンダントに戻っても?」

『傷んだものをしまっても、直りはせん』

 

 そりゃそうか。

 俺の剣だって、片づければ新品になるわけじゃない。

 

「悪い。いきなり無茶させた」

『私が掴むと決めた。君だけの仕事にするな』

 

 少し怒っていた。

 

「そっか。ありがとな」

『うむ』

 

 少し間があった。

 

『ライズ。君を、私のマスターとしたい』

「俺を?」

『敵にも、先に手を伸ばしていたな。君と共に戦いたい』

 

 俺は傷のついた白いガードを見た。

 その向こうには、銀色の大きな手がある。

 

 一人じゃ、どっちも助けられなかった。

 

「ああ。よろしくな、ゴウガ」

 

 腹が鳴った。

 

 かなり、はっきり鳴った。

 

 ゴウガが黙る。

 黙られると、こっちが困る。

 

「昼、食いそびれてて」

『あれだけ働いてか』

「交代が遅れて、そのあと、ずっと」

 

 また鳴った。

 腹だけは元気だった。

 

『承知した』

 

 ゴウガの声が、外から響いた。

 

『聞け、人々よ。我が主は、まだ昼食を取っていない』

 

「ちょっと待て!」

 

『食事を求める』

 

 堂々としていた。

 さっき大砲を持ち上げた右腕が、人々へ差し出される。

 

「あるよ!」

 

 おばちゃんが台車を押して出てきた。

 

「この子、食べる前に呼ばれちゃったんだよ!」

 

 説明までされた。

 

 胸の扉が開いた。

 ゴウガの掌へ乗り移り、台車の前へ下ろしてもらう。

 

 地面へ降りて変身を解いたら、腕が一段重くなった。

 アキラが救護の人と来て、肩へ冷やす袋を当ててくれる。

 

「弁当、食べたら診てもらえ」

「先に食っていい?」

「今、そう言った」

 

 いいやつだ。

 

 おばちゃんが渡してくれた弁当には、ちゃんと俺の名前があった。

 三個のから揚げも残っている。

 

 蓋を開けた。

 

 その向こうで、作業員たちが立ったまま弁当を受け取っていた。

 避難所のテーブルは、怪我人を寝かせるのに使われている。

 

 置くところがあれば、配りやすそうだった。

 

 俺はゴウガの掌を見た。

 

 広い。

 

「ゴウガ。少し、手を貸してくれないか」

『もう貸しておる』

「弁当を置きたい」

『構わん』

 

 ゴウガが腰を下ろし、右の掌を低く差し出した。

 おばちゃんがきれいなシートを敷く。

 

 弁当が十個並んだ。

 まだ余っているので、箸も置いた。

 

「食べてない人、こっちどうぞ!」

 

 一人来た。

 二人来た。

 

 俺は左手で、一つずつ弁当を渡した。

 

「お疲れさまです。箸、そっちです」

「ありがとな、ライズ」

「どういたしまして。次の方!」

 

 報道のドローンが寄ってきた。

 

 頼む。

 大砲を上げたところから、続けて流してくれ。

 

 少し人が途切れた。

 自分の弁当を開け、左手で持った箸をから揚げへ伸ばす。

 

 一個、口へ入った。

 うまい。待ったぶんまで、うまかった。

 

「二つもらっていいですか。あっちで待ってる人の分」

「はい。どうぞ」

 

 蓋を閉じた。

 

 ゴウガが、俺を見下ろす。

 

『マスター。食事が進んでおらん』

「列がなくなったら食うよ」

 

 ゴウガは列を見た。

 自分の右手を見た。

 

『ならば、早く配り終えればよい』

 

 傷ついた左腕が、ゆっくり下がる。

 肘を地面につけて支え、大きな掌がもう一枚、右の隣へ並んだ。

 

 おばちゃんが喜んだ。

 

「助かるよ! こっちも使えるって!」

 

 台車がもう一台来た。

 俺は箸を置いた。

 

列が、二本になった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

敵に足場を貸し、巨大ロボに手を借りたハル。
ようやくありついた昼ご飯には、もう少し時間がかかりそうです。

ハルとゴウガ、そしてヴェイルの出会い、いかがでしたでしょうか。
好きな場面や、気になったところなど、一言でも感想をいただけるとうれしいです。

次回も、よろしくお願いします!
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