副提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を執ります。 作:リター
――――ギラギラと照りつける夏の太陽が、鎮守府を炙っていた。
日陰に入っても蒸し返すような炎天下の中、川内は自室でスイカを齧る。
シャクッ、と瑞々しい音と共に、果汁が口いっぱいに広がる。
「んーッ! やっぱり夏はこれに限るね!」
―――負傷から復帰するまでには、それなりの時間を要した。
だが、一時期は全身を苛んでいた鈍い痛みも今ではすっかり引き、身体のキレは完全に元通り……どころか絶好調だった。
スイカの種を窓の外に向かってププッと飛ばし、腕を大きく伸ばして背筋を逸らす。
拳をぐっと握り締めると、笑みが浮かぶ。
明日からはまた、厳しい訓練への参加が待っている。
――――それ自体は、とても楽しみだ。
だが、日差しから逃れ、涼しい部屋で何も考えずにスイカを齧っていられるのも今日までだと思うと、少し名残惜しさも感じていた。
「はぁー……まあ、たまにはこんな日も悪くないけどさ」
種をもう一つ飛ばし、スイカの皮をゴミ箱に放り込む。
久々の休息を惜しむような呟きは、次の瞬間には海風にかき消された。
川内は立ち上がり、パンッと自分の両頬を叩いて不敵に笑う。
「さ、明日に備えてしっかり準備しとかなきゃね!」
日々の忙しさと、今限りの贅沢な退屈。
その両方を噛み締めながら、川内は夏空を見上げた。
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―――――――白波を激しく蹴立て、川内は訓練海域を疾風のごとく駆け抜けていた。
「はいっ、そこ!」
一瞬の判断で舵を切り、全速のまま標的艦へ迫る。
放たれた模擬弾が、標的の中心部を撃ち抜いた。
身体の鈍りなど微塵もない。
むしろ休養を経て研ぎ澄まされた感覚が、全身の血を沸き立たせていた。
視線を滑らせると、訓練海域の端で、先日着任したばかりの高雄がこちらを眺めているのが見えた。
まじめそうな顔つきで、動きや陣形の取り方を細かく観察しているらしい。
(まあ、私の動きに目を奪われる気持ちも分からなくはないけどね!)
背後に注がれる視線など一蹴するように、川内はさらにフルスロットルで進む。
すると勢いよく飛沫が跳ね、ぼーっとしていた北上に直撃した。
「うわっ……! ちょっと、冷たいじゃないの……」
突如として降り注いだ海水のシャワーに、波に揺れていた北上は目を白黒させながら顔の飛沫を拭う。
「あははっ! ごめんごめん! ぼーっとしてるからだよ!」
前方を疾走する川内は悪びれる様子もなく、弾けた笑い声を海原に響かせる。
「…………周囲への配慮を欠くのは困りものですが」
少し離れた位置から近づいてきた不知火が手拭いを北上に投げ渡しながら呟く。
「さーて! 昼の訓練はこれくらいにして、次は本番の夜戦訓練……行っちゃうよー!」
「まだ十五時です。」
不知火の冷静なツッコミを置き去りにして、川内はさらに速度を上げ、夏の青い海を自在に駆け抜けていった。
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遠洋の海域。
私――――神通が率いる護衛船団は、波間を静かに進んでいました。
同行するのは摩耶さんを始めとする、五隻の仲間たち。
全員が周囲への警戒を限界まで高めています。
――本土まで、残り五十五海里。
目的地はすでに目と鼻の先と言ってよい距離でした。ですが、油断こそが最大の敵。運んでいる資材と船団の命、そして後方で待つ仲間たちの期待を背負っている以上、気を抜くことはできません。
「……各艦、見張りを厳に。本土が近づいているからといって、決して気を緩めてはなりません」
無線を通じて指示を送りながら、私は双眼鏡を覗き込み、水平線の彼方を見つめました。
「神通さん、今のところ周囲に敵影はありません。ですが……この海域、静かすぎます」
浜風が風を切りながら側に寄り添い、緊張を孕んだ声で報告してきます。
「ええ、分かっています。飛鷹さん、上空からの索敵に何か反応は?」
「今のところは大丈夫ですが……嫌な雲が出てきましたね。直撃を避けるよう、警戒機を旋回させています」
「フン、何が出てきても返り討ちにしてやるだけだろ。さっさと仕事を終わらせて、温かい飯でも食いたいもんだぜ」
摩耶さんは強気に笑ってみせますが、主砲の角度を微調整しながら警戒を強めていました。
――本土まで、残り五十五海里。
この何事もない平穏が、嵐の前の静けさでないことを祈りながら。