副提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を執ります。 作:リター
「大和さん一隻分です」
夕張が笑顔でそう言った。
「……一発撃って、数分海に出ただけでこれか?」
櫻子はデスクに置かれた膨大な資材消費報告を前に、深く頭を抱えていた。
世界最大の砲撃力と引き換えに吐き出されたのは、笑えないレベルの燃料と弾薬の消費。
たった一度の砲撃で、ただでさえ大和建造によって減っていた資材が目に見えて削り取られている。
「……確かに強い。だが、毎回大和を出していたら鎮守府が干上がる」
愚痴をこぼす櫻子の横で、当の大和は恐縮した様子で小さくなっている。
「……も、申し訳ありません、司令官……。」
「大和さんが謝ることじゃないわよ! 46cm砲を全力で振り回せばそうなるのは当然のスペックなんだから!」
夕張がそうフォローを入れるが、提示されたコストは非情。
この鎮守府には早くも「大和の運用コストをいかにして稼ぎ出すか」という、新たな悩みの種が重くのしかかっていた。
「どう思う? 副提督」
櫻子は頭を抱えていた手を下ろし、肘を突いたまま、こちらに視線を向けてきた。
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翌日、ブリーフィングルーム。
集められたのは6隻の駆逐艦たち。
前に立つ櫻子は机の上に3枚の作戦計画書を並べた。
「知っての通り、我が鎮守府には巨大な戦力が加わった。だが、その維持には莫大な資材が必要になる。そこで、これから3部隊に分かれて遠征任務に出向いてもらう」
櫻子は、各部隊の編成と任務を順に言い渡していく。
第一部隊が弾薬・鋼材を確保する資源輸送任務。
第二部隊はボーキサイトを確保するための輸送任務。
そして第三部隊が燃料確保を目的としたタンカー護衛任務だった。
「はぁ、主力が大食いじゃ苦労するわ」
曙が肩をすくめて息を吐く。
「朝潮、命に代えても必要資材を持ち帰ってみせます!」
「命には代えなくていい、無事に帰ってこい」
意気込む朝潮に櫻子が苦笑する傍ら、不知火が待ったをかけた。
「質問があります。この人数で遠征を成り立たせるつもりですか?」
不知火の指摘に、場が一瞬で静まり返る。
「どの遠征も基本的には最低4隻の編成が必要なはずです。ここにいるのは6隻。加えて、タンカー護衛任務の規定には軽巡洋艦の配備が必須となっています。」
浮き足立っていた場の雰囲気が引き締まる中、首を縦に振る。
何も、この任務を自分たちの鎮守府内だけで完結させるつもりはなかった。
不足している枠は、他の鎮守府と合同で部隊を編成し、共同で任務にあたる手筈を整えたのだ。
その協力依頼に手を挙げてくれたのは、かつて救援した、神通が所属する鎮守府だった。
「へぇ……」
霞が思わず声を漏らす。
不知火はゆっくりと納得したように立ち上がると、一礼して姿勢を正した。
「……条件が揃っているのなら、異論はありません。不知火、全力を尽くして任務を果たします」
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「旗艦朝潮! 任務を受領いたしました!」
遠征用の装備を背負い、朝潮がキリリと表情を引き締める。
「満潮、浜風さん、雪風さん!大切な資源を持ち帰るため、一致団結して当たりましょう!」
「………よろしく」
満潮が少しそっぽを向きながらも、他鎮守府の二人に挨拶を交わす。
「浜風です。よろしくお願いいたします。しっかりとお手伝いさせていただきますね」
礼儀正しく一礼する浜風のとなりで、雪風が元気に手を挙げた。
「雪風、いつでも出撃できます! しれぇ……じゃなかった、朝潮さん! 絶対にたくさんの資材を無事に持って帰りましょうね!」
「はい!第一部隊、出撃します!」
朝潮の力強い号令とともに、輸送船団を護衛する遠征の第1陣が海域を進んでいった。
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波を切りながら進む第一部隊。
四隻は一定の間隔を保ち、船団の左右を固めるように航行していた。
「浜風さん、少しよろしいでしょうか」
「はい、なんでしょうか?」
浜風は視線を前方に保ったまま、耳を傾ける。
「私は、本格的な船団護衛任務を務めるのはこれが初めてです。旗艦としてどのように周囲へ目配りをするべきか……経験を積まれた浜風さんの知恵をお借りできますか?」
真面目そのものといった表情で教えを請う朝潮に、浜風はふっと表情を緩めた。
「そういうことでしたか。朝潮さんはとても責任感が強いですね。……基本は、船団の歩調に合わせることです。私たちの速度で走るのではなく、彼らの目と盾になることが第一とされています」
浜風は海面に視線を落とし、実感を込めて言葉を続けた。
「特に注意すべきは潜水艦の存在です。陣形を意識し、常にソナーの反応を確認する必要があります。万が一の時はフォローしますから、落ち着いて指揮を執ってください」
「浜風さん……! 感謝します!」
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――――――朝潮たちの少し隣。
「ねえねえ、満潮さん!満潮さんの好きな装備とかありますか?」
雪風が目を輝かせながら、隣を走る満潮へぐいぐいと距離を詰めて話しかける。
「……ちょっと、任務中なんだから前方の警戒に集中しなさい」
満潮は顔を背け、あからさまに邪険な態度をとるものの、雪風はまったく意に介した様子がない。
「はい! 警戒もバッチリしてます! でもでも、せっかく一緒に遠征へ行くんですから、もっと満潮さんのこと知りたいなって!」
満面の笑みで食い下がってくる雪風に、満潮は「なんなのよこの子……」と小さく溜息をついた。
「……別に、好きな装備なんてないわよ。手持ちの魚雷と主砲を普通に整備して使ってるだけ……ハァ、調子が狂うわね……」
冷たくあしらわれても一切懲りずに何度も話しかけてくる雪風の無邪気さに、文句を言いながらも結局は応じ始めていた。
巡航を続けていた第一部隊だったが、突如として船団の進行がゆるやかに停止した。
「……船団が停止しました」
旗艦の朝潮が慌てて周囲の警戒態勢を強める。
満潮も素早く主砲の照準を海面へと向け、緊張感を露わにした。
二人が咄嗟に戦闘配備に就こうとしたその時、隣を並走していた浜風と雪風は歩調を緩め、穏やかな声をかけた。
「朝潮さん、満潮さん、落ち着いてください。敵影も異常もありませんよ」
浜風が視線を前方へ向けたまま、手振りで二人を制する。
理由が分からず困惑する朝潮に対し、雪風がニコニコと笑顔を向ける。
「ほら、空を見てください! 今はちょうど日没……休憩の時間なんです!」
「休憩……の時間……?」
呆然とする朝潮の横で、浜風が頷いて補足を加えた。
「はい。夜間航行に入る前に、こうして一度船を止め、機関を休めているだけです。」
「驚かせないでよ……! 急に止まるから、てっきり魚雷でも打ち込まれたのかと思ったじゃない……」
緊張の糸が切れた満潮が、ガックリと肩を落として溜息をついた。
「すみません、あらかじめお伝えしておくべきでしたね、少し休めばまた航行を再開しますよ」
申し訳なさそうに微笑む浜風の横で、雪風が元気に手を叩く。
「さあ、私たちも船団が動き出すまでの間、警戒を続けながら一休みしましょう!」
事情を把握した朝潮は胸を撫で下ろし、浜風たちの言葉に安堵の笑みを浮かべた。
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夕食を終え、再び動き始めた船団。
夜が深まるにつれ、船団の甲板から明かりが一つ、また一つと消えていく。
「……灯火管制に入りました」
浜風の言葉に、朝潮は周囲を見渡した。
先ほどまで見えていた船影さえ、今では月明かりの中にぼんやりと浮かぶばかりだ。
通信機からも、先ほどまで聞こえていた船団との交信が途絶えている。
「通信も、ですか?」
「はい。夜間は余計な電波を出さないよう、必要最低限の通信に切り替えます」
「……なるほど」
朝潮は小さく頷き、暗闇の向こうへ目を凝らした。
これまで以上に、周囲の海へ神経を集中させなければならない。
「夜間の目視確認なんて……昼間よりずっと神経を使うわね」
「はい、そして視界が極度に狭まる夜間は、接触事故のリスクが跳ね上がります。速力を一定に保ち、間隔を絶対に崩さないことが何よりの防御になります」
「満潮!ルールを徹底し、何があってもこの船団を無事に目的地まで送り届けましょう!」
「はいっ! 雪風、見張りに全力集中します!」
「なんであなたが答えてるのよ。……さ、気を引き締めて行くわよ」
第一部隊は互いに間隔を確かめ合いながら、夜の海を抜けていった。