副提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を執ります。 作:リター
第二部隊の構成は、旗艦・霞を筆頭に、曙、そして他鎮守府から合流した時雨と夕立の4隻。
「……行くわよ。ボーキサイト輸送任務、開始するわ」
旗艦の霞が、隊列の先頭から指示を出す。
「足引っぱらないでよね。特に他の鎮守府のふたり、遅れたって知らないんだから」
曙がいつもの調子で悪態をつきながらも、しっかりと周囲の哨戒に視線を配る。
「大丈夫だよ、ボクたちも輸送任務の経験は何度もあるからね。任せてよ」
時雨は穏やかな笑みを浮かべ、静かに海面を見つめながら返した。
「そうそう! ぽいっと行っちゃうから、安心して頼ってくれていいっぽい!」
夕立が明るく場を和ませるように声を弾ませ、艦隊に心地よい空気をもたらす。
曙は夕立と時雨の落ち着いた様子を見て、少しだけ肩の力を抜いた。
「無駄口はそこまでよ。気を抜かずに前方警戒を維持しなさい」
霞の鋭い一声で隊列がピシッと引き締まる。
昼の光が海面を照らす中、第二部隊は目的地を目指して航行を始めた。
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「ハァ……なんで龍驤さんばっかり使うボーキサイトまで、私が必死こいて運んでるのかしら?」
輸送船の側方を並走しながら、曙はその甲板に積み上げられた資材へとじっとりと視線を向けた。
「曙さん、そう言いながらもちゃんとやるんだね」
「じつはマジメっぽい~」
どれほど不満を口にしようとも、任務はしっかりとこなしている彼女に、時雨が柔らかく微笑みかけ、夕立が揶揄うと、曙は顔を真っ赤にして睨み返す。
「はぁ!? 任務だから仕方なくやってるだけだから!」
「はいはい、分かってるわよ」
隊列の先頭を行く霞は、後ろを振り返ることすらせず、呆れを含んだ声で二人を制した。
「文句があるなら無事に帰った後で直接言いなさい。あんたの説教に私が付き合わせてやるから」
時雨と夕立は、そんな二隻の気心の知れたやり取りに和みつつも、手慣れた様子でソナーの感度を調整する。その時、輸送船の甲板から、水上機が一機、ゆっくりと空へ舞い上がっていく。
前方の航路を確認するための偵察機だ。
「……右舷前方、上空に航空機。敵影ではないようだね」
時雨の落ち着いた報告と同時に、夕立も空を見上げる。
雲の切れ間から、偵察機らしき影が滑り込んでくるのが見えた。
「あ、うちの水上機っぽい!頑張ってるっぽい!」
「そうだね。今のところ敵影の報告はなし。……でも、油断は禁物だよ」
時雨が通信機から視線を外し、水平線を見つめ直す。
そんな中、曙が航行する位置を微調整しながら、並走する時雨に声をかけた。
「それにしても遅いわね、もう少しスピード上げてくれないかしら?」
「無理もないよ。輸送船は機関の出力も舵の効きも、ボクたち駆逐艦とは全く違うんだ」
時雨は周囲の輸送船団へ視線を巡らせながら、言葉を続ける。
「それに速度を無理に上げると、隊列も乱れやすくなるからね?」
「はいはい、どうもありがとう。要するに、私がじっと我慢しておけばいいってことでしょ」
合理的な説明に、曙は不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、それ以上速度への文句は言わなかった。
曙は密かに自艦の機関出力を微調整し、輸送船団の歩調と自分の航行速度を同調させる。
その様子に、時雨は隣で小さく微笑んだ。
「水上機の索敵網を維持しつつ、このまま護衛を完了させるわよ」
霞の号令とともに、駆逐艦たちは輸送船団を守るようにして、ゆっくりとした歩調で押し進んでいった。
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青く澄み渡る海原を、緩やかな速度で進む一群があった。
第三部隊――輸送船団の命綱であるタンカー群を護衛する、混成護衛艦隊である。
「全艦、単縦陣を維持。輸送船団の基準速力から遅れてはなりません」
艦隊の先頭に立つのは、他鎮守府から派遣された旗艦・軽巡洋艦の神通。
そのすぐ後方を、不知火が追従する。
「……ええ。無事に資材を届けるのが、仕事ですので」
不知火は周囲の海面へと視線を走らせ、ソナーの反応にも細心の注意を払っていた。
「みんなで力を合わせて無事に帰りましょうね。こんなにいいお天気なんだから」
如月が柔らかい笑みを浮かべ、緊張感を和らげるように前髪を払う。
しかし、その瞳はしっかりと船団の側方を見ている。
船団の最後尾近くでは、海防艦の択捉が周囲を警戒していた。
鎮守府の違う艦娘たち、それぞれに背負うものは違う。
しかし、課せられた任務は一つ――重要資材である燃料を無事に送り届けること。
第三部隊の航海が始まっていた。
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重油の匂いが、潮風に混じって甲板を撫でていく。
巨大なタンクを積んだ船体が、波を押し分けるたびに軋んだ音を立てる。
しかし――この存在こそが、全艦隊の血肉となる生命線だった。
神通は双眼鏡のピントを絞りながら、前方の水平線を睨みつける。
「潜水警戒、単横陣へ微調整。択捉は後方警戒を密にしてください」
「はいっ!択捉! 対潜ソナー、感度良好です!」
択捉の緊張の混じった声が、通信機を通じて返ってくる。
その声を聞きながら、不知火はぽつりと呟いた。
「力みすぎは視界を狭めますよ。索敵は冷静にこなすものです」
「ふふ、不知火ちゃんは相変わらず厳しいんだから。でも、その方が頼もしくて安心できるわ」
―――直後、択捉が微かな金属音を捉えた。
「10時方向、距離二千!水中に微小なスクリュー音! 潜水艦の可能性があります!」
「全艦、対潜戦闘用意! 船団を保護しつつ、敵を面で押さえ込みます。」
「―――――この燃料は、私たちの明日そのものです」
神通の落ち着いた声が、全艦の気持ちを締め直した。
「敵潜、本隊に向けて雷撃姿勢に入ります!」
択捉の切迫した報告とほぼ同時に、海面に白く尾を引く複数の軌跡が現れる。
ターゲットは護衛陣形の中央、速力の上がらないタンカー。
「如月は右舷から敵潜の進路を塞いでください。択捉は爆雷投射。……不知火は、頭を抑えます」
「了解よ。タンカーにはかすり傷一つ負わせないわ」
如月の穏やかな笑みが消え、不知火は軽快な足取りで波を切り裂き、敵潜が潜む海域へと急行する。
「不知火、爆雷準備完了。……沈みなさい」
数秒後、海底から重低音が響き渡り、巨大な水柱が海面を突き破る。
それに呼応するように、如月と択捉も挟み込むように爆雷を投下し、追撃の手を緩めない。
「……敵潜反応、消失しました。……やりました、撃沈です!」
択捉が胸を撫で下ろし、弾んだ声を上げる。
「見事な連携でしたね。……ですが、まだ油断はできません」
神通は双眼鏡を下ろさず、周囲の海原へと視線を巡らせた。
「速やかにこの海域を離脱します。全艦、船団の護衛陣形を再編成。目的地へ向けて前進を継続してください」
護衛艦隊は再びタンカー群を取り囲み、確かな足取りで青い水面を滑って行った。
◆◆◆◆◆
日中の緊張が嘘のように、月明かりが海面を照らし、低いエンジン音だけが夜闇に響く。
「夜間警戒陣形へ移行。暗闇に乗じた接近に注意を怠らないでください」
「……昼間のようにはいきませんね。」
「そうね。でも、この暗闇は私たちを守ってくれる味方でもあるわ」
如月は不知火の隣で夜風に髪をなびかせた。
後方では、択捉が双眼鏡を覗き込み、夜の海を懸命に見つめているようだ。
小さな背中に満ちる責任感に、如月は目を細める。
その時、神通から一機の水上偵察機が夜空へと放たれた。
夜間偵察機——通称「夜偵」は、空へと急上昇していく。
「夜偵、発艦完了。本隊の先行海域および側方の警戒に入ります」
夜偵が旋回しながら放った照明弾が、一瞬だけ海面を白く照らし出す。
「……異常なし。択捉、夜偵の打電を捉えたら直ちに位置情報を共有してください」
「はいっ! 通信機、感度良好です!」
択捉が頼もしく頷き、通信機に意識を集中させた。
「神通さん、夜に水上機を飛ばせるの……? 視界もきかないでしょうに」
如月が少し驚いたように首を傾げ、神通へと尋ねた。
神通は双眼鏡から目を離すと、夜空を仰ぎ見ながら答える。
「昼間のように遠くまで見通せるわけではありません。ですが、上空から海面を広く見渡せるだけでも意味はあります。波の乱れや不自然な動きから、何かが潜んでいる兆候を掴めることがありますから」
「……そうなのね。頼もしいわ」
夜空の果てに思いを馳せながら、如月は小さく頷いた。
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執務室の窓越しに海を見下ろすと、遠征任務を完遂した6隻の駆逐艦が帰投するのが見えた。
長距離に及ぶ護衛と輸送の任務を大きなトラブルもなく達成してくれたことは、今の鎮守府にとって何よりの朗報だった。今回の遠征によって確保された資材は、これから数週間をかけて順次鎮守府へと運び込まれることになる。
彼女たちの努力が、鎮守府の未来をしっかりと支えているのだった。