『A』 STORY   作:クロカタ

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アニメ本編もいよいよ佳境に入ってきました。

こちらも休みが明ける前にどんどん更新していきたいです。


名称を『アドヴァンスドパック』から『アドヴァンスドブースター』に変更致しました。




全国編~完成~

 二回戦終了後、相手チームのリーダーであるリュウトと握手を交わし、一言二言会話した後に会場を出たが、その時、最後の一撃で捨て身で繰り出した俺の右腕には凄まじい痛みが襲っていた……。

 すぐに痛みは治まるだろうが、大事にならないよう一応手当だけはしようと思った俺は、後輩達に先にホテルに帰るように伝えてから医務室へと向かった。

 

 ……なかなかどうして、アシムレイトは使いどころが難しい。俺自身痛いのは嫌いなので、ここぞという時にしか使わないようにはしているが……これが慢性的になってしまったら、いよいよ専門家の手を借りるしかないかもしれない。

 ―――まあ、今の所俺に起こっているアシムレイトは突き詰めれば『すごい思い込み』だから、他の人がどうかは分からないが、これといって怪我を負っていないのが救いかもしれない。

 

「……失礼しま……ん?」

「あれ……レイさん、何でここに?」

 

 ……医務室でホシノ・フミナさん。西東京、聖鳳学園チーム『トライファイターズ』のリーダーと遭遇した。何故彼女が……?と思いつつ、右手を診て貰ってはいたが、病室で寝ているセカイ君を見る限り、大よその察しはついた。

 

「アシムレイト、か」

「知っているんですか!?」

「オレもそうだからな」

 

 手当して貰った右手を掲げると、眠っているセカイ君と俺を交互に見てホシノさんが驚く。ここでアシムレイトの事をばらしていいのか、と言われれば答えはYESだろう。別段バレても問題ないし、対策を立てられたとしても、ここぞという時にしか使わないから、立てた対策も意味を成さない。

 

「大丈夫なんですか……?」

「俺はセカイ君ほどのアシムレイトは発動していないようだから多分大丈夫。セカイ君は……?」

「セカイ君なら、もう少しで目が覚ますって」

 

 それは良かった。彼自身もアシムレイトを使いこなしているようだし、余程の事が無ければ大事には至らないだろう。……合宿の彼を見た限りでは、彼が簡単にバトルを諦めるような性格はしていないのは分かる、今日の試合もかなりの無理をしていたようだから、少し心配だ。

 まあ、あまりにも危険な時は彼の仲間が止めてくれるだろう。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「あ、お大事に……」

「彼も」

 

 右腕の調子を確かめ、制服を持って立ち上がる。ホシノさんにも一声かけたので、医務室から出ようと思ったその時、医務室に誰かが入って来る。

 目の前で扉が勢いよく開いたので、驚きつつも入ってきた人物を見る。

 

「すいません。アンドウ・レイ君いま……ってあれ?意外と大丈夫そうだね」

「手を軽く痛めただけだ。明日には治る」

 

 入ってきたのはミサキだった。相も変わらず飄々としている彼女に微かなため息を漏らしながら、彼女を押しやり病室から出ていく。

 

「全く、アシムレイトに頼ってたら何時かガンプラが出来なくなっちゃうよ」

「好きで身につけた訳じゃないからな。でもフィードバックは最小限に留めるようにしてる。だからこそこれだけで済んでる」

 

 廊下を歩きながら俺の右腕に視線を向けて放たれたミサキの言葉に、そう返す。

 実際、アシムレイトの発動はトランザム中だけに限定している。父からも云われたがアシムレイトは『諸刃の剣』。飲み込まれ過ぎるとガンプラへのダメージが本物のダメージとなってしまう。

 父の『バトルができない体にはなりたくないだろう?』と低い声で言われたのがかなり効いたからな……。

 

「病室に居たあの子、聖鳳学園のチームの子もアシムレイト持ちだね?」

「そうだ」

「使いすぎだよ。アシムレイトを武器にし過ぎ。あれじゃあ試合の度に身を削っているようなものだよ。今日の試合だって、ボロボロだったじゃん」

「きつい物言いだな」

 

 ―――だが確かにそうだ。セカイ君はアシムレイトと相性が良すぎる。それを多用することは一概に悪いとは言い難いが、彼のこれからのガンプラバトルを思うならば――――。

 

「俺には止める資格はないよ。俺もアシムレイトを武器として使っているからな」

「……そうだよね」

「セカイ君はそのへんも分かっていると思うぞ?それを抜いても彼にはチームメイトがいるんだから、もしもの時はちゃんと止めるさ」

「確かにね」

 

 俺自身、アシムレイトに関しては、今もまだ悩んでいる途中なのだ。全国が終わった後もこの力を使い続けるか、二度と使わないようにするか。

 

「まあ、今はこんな事で悩んでいる場合じゃない。三回戦の相手はナガレだ。一層気を引き締めて挑まないといけない」

「そこまでの相手なんだね」

「強敵さ、とびっきりのな」

 

 合宿の時はアシムレイトとトランザムが無ければこちらの負けだった。相手の堅牢さと剛腕、パワフルな攻撃に防戦一方だったが―――。

 

「アドヴァンスドブースター……」

 

 俺が持てる全ての技術をつぎ込んで作り上げたバックパック。後少しの所で完成するソレを完成させ、三回戦で想定し得る性能を引き出す事が出来れば、ナガレと互角に戦う事ができるだろう。

 

「……お腹空いちゃったなー」

「妹と食べてくればいいじゃないか。…………分かった分かった、そんな目で見るな……皆で行こう」

「流石分かってる」

 

 ホテルのバイキングに飽きてきた所だけども、その期待するように無言で見るのは卑怯だ。応援してくれた手前、断れないじゃないか……。

 

「気分転換も必要だよ」

「……ああ」

 

 三回戦までには日が空いているから特に損傷の酷いコスモのガンプラの修理は大丈夫だから―――。折角静岡に来たんだから、触り程度に街並みを見るのもいいかもしれない。

 

「じゃ、ミサトを呼ぶね?あ、ノリコちゃん達に電話しなくても大丈夫だよ。ミサトと一緒にいるから」

「……用意周到だな」

「偶然だよ、偶然」

 

 上機嫌に携帯を取り出すミサキ、こちらはため息を吐きながら通路の壁に背を預け、彼女の通話が終わるのを待つ。……ここのところずっとホテルか会場に籠りっぱなしだったから、精神的に余裕ができる時間をとるのも悪くはない。

 

「夕食は何にしようかな……」

 

 そういえばノリコがユッケとか言っていたな。

 この際だ、焼肉でもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、グラナダ学園のチームが宿泊しているホテル。その一室にてグラナダ学園のチームの監督、スリガはヨーロッパジュニアチャンプ、ルーカス・ネメシスに彼にとって意外な提案をされていた。

 

「……三回戦に出場……?」

「ええ」

「しかし、ルーカス。君が出るのは決勝トーナメントの予定だったのだが……」

「そうせざる得ない相手が4回戦で当たります。その為にいち早く準備をしておきたいのです」

 

 切り札として今まで温存されてきたルーカスが、突然出場を早めたことに困惑するスリガだったが、ルーカスは退く気が無いとばかりに頑なだ。

 

「今のレギュラーメンバーでは役不足と?」

「そうは言っていません。彼らは素晴らしいファイターで、将来性もあり確かな実力を持っている。しかし、これはルーカス・ネメシスという一人のファイターとしての願いです」

「君としての願い……?」

「チーム『イデガンジン』にチーム『大黒刃』。そのどちらもが決勝トーナメントに勝ちあがる資格を持つチームであり、僕がバトルしてみたいと思ったチーム」

「……ヨーロッパジュニアチャンプにそこまで言わせるのか……あの二校は……」

「僕の言葉が判断基準にはなり得ませんが……確実に強いです」

 

 それぞれが特異な機体を操縦して戦う二つのチーム。ルーカスは二つのチームのバトルにファイターとしての本能と言うべきものが滾るのを感じた。ルーカスは、ヨーロッパでの大会で何回か感じたあの昂ぶりがガンプラ学園以外に感じ取れた事が嬉しくてしょうがないのだ。

 

 圧倒的暴力を振りかざすマスターガンダム。

 洗練された剣技を見せるアストレイ。

 トリッキーな動きで相手を仕留めるヴァンセイバー。

 

 凄まじいパワーと電撃を発するザク。

 サイコフレームの光を纏うジム。

 機転と技量で相手を圧倒するジンクス。

 

「三回戦、彼らの試合は必見でしょう。きっとすごいバトルが起こります。そしてその勝利チームが四回戦で僕達の次の相手になる……」

 

 喜色がかったルーカスの声を聞き、スリガは彼の提案を受ける事を決心した。

 彼とて長年グラナダ学園の監督の場について何十人ものファイター達を育成してきた……。スリガ自身も元ファイターだったからこそ、分かる。

 今のルーカスは、自身が本気で戦う事ができる相手を見つけられたのだ。

 ガンプラ学園や、現在スリガが警戒している聖鳳学園以外で―――。

 

「分かった。君に全てを任せる」

「ありがとうございます」

「負けても文句は言わん。君の好きなようにやるがいい」

「僕は全力でガンプラバトルをするだけですよ。いつも通りに楽しむだけです」

 

 そう言い、嬉しそうな笑みを浮かべたルーカスはその場で席を立ち、ホテルの窓際から見える景色を見つめこれからのバトルに思いを馳せる。

 

「楽しみだなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかまさかの焼肉なんてビックリだよ」

「先輩、食べてから言うのもなんですが、何で焼肉なんですか?」

「え?お前達が食べたいと思ったんだけど……違ったか?」

 

 夕食は会場近くの焼肉店で済ませた。ここは静岡県のグルメ的な何かを食べるべきかな、とは思ったが、昼間、後輩達がユッケについて話していたのを思い出し、焼肉にしないかと提案した。

 ……しかし、食べた後から聞いてみれば当の本人達は焼肉を特に所望してはいなかったようだ。まあ、美味しく食べてたみたいだし結果オーライだろうけど、肩透かし感がすごい。

 

 小さく溜め息を吐きながら夏の夜風に当たり、街頭に照らされたホテルまでの道を歩いていると満足気なミサキがにこにこ笑いながらこちらへ声を掛けてきた。

 

「もう食べちゃったんだしもういいじゃないか。そんなことより、これからどうするの?」

「勿論ガンプラの修理だ。後はバックパックを完成させる」

 

 無事二回戦を突破できたことだし、これで不安もなくバックパックを完成させることができる。中途半端な出来で大会に出さずにしっかり仕上げ、三回戦でお披露目する。

 

「アドヴァンスドブースターだっけ?」

「そうだ、コンセプトは絶えずバトルを行う事が出来る安定性。俺が戦うファイターは武装を破壊するタイプが多いからな、武装を増やすと同時にそれが弱点にならないように機動力、推進力を上げるようにしている」

「安定……レイ君らしいね」

 

 リーダーとして求められるのは、絶えずチーム全体を見る事が出来る視野の広さと、どんな状況でも戦える技能。少なくとも俺はそう思っている。

 うんうん、と納得したように頷いているミサキに苦笑しつつ、一歩後ろを歩く形でついてくるノリコとコスモに振り向く。今日のバトルで二人にはどう感じたのか、気になった。

 

「……正直あんな簡単にイデオンの装甲が壊されるとは思いませんでした……」

「相手も強かった……ノリコは大きい損傷はなかったようだから、コスモのガンプラの修理を手伝ってあげてくれ」

「はいっ!」

 

 二回戦のバトルで一番損傷を受けたのはコスモのガンプラだ。脚部の損失、肩部の損傷、イデオンガンの破損。チームで一番頑丈なイデオンをそこまで損傷させるリュウト達のガンプラは本当に強かった。

 やっぱりガンプラバトルはどんなガンプラが出てくるのかも醍醐味だな。

 

「でも、イデオンガンを修理している時間はなさそうです。あれは大会ギリギリで完成したものですから……」

「何もイデオンガンだけがお前の武器じゃない。……というより次のバトルは広範囲攻撃はあまり意味がないかもしれない」

「と言いますと?」

「恐らく相手は一体一の勝負に持ち込んで来るだろう」

 

 少なくともナガレは……我梅学園のバトルでも若干の個人プレーが目立っていた。というよりもう一体のセンガの操るアストレイもそんな感じがした。加えて、その二機を纏めているヴァンセイバー、カナコが二人のバトルにより生じた隙を掻い潜って、的確に相手を狙い撃っている。

 

「コスモ、ノリコ。正直に言わせて貰うと、お前達ではヴァンセイバーの相手は難しいかもしれない」

「マガノイクタチ、ですか?」

「それもあるが……」

 

 ―――ダイナミックな戦い方をするナガレとセンガに隠れてはいるが、カナコも相当厄介だ。粒子消費が多いノリコとコスモでは、マガノイクタチを装備しているヴァンセイバーの粒子吸収とは圧倒的に相性が悪い。

 

「カナコは恐らく俺と同じタイプのファイター、いやむしろ俺以上に『周り』を見ているファイターかもしれない」

「それは……厄介ですね」

「あのチームメイトですもんね……そりゃあ周りに気をつかうようになるのも分かる気がします」

 

 それはカナコ本人としては否定して欲しいことかもしれない事かな。

 だが、周りを広く見れる、というのは厄介だ。地形を利用した戦い方を最大限に生かしてくることもあるし、仲間との連携を仕掛けてくる。

 

「戦術は後で決めようとは思うが、もしかしたら俺がカナコの相手をする事になりそうだ」

「ねえねえレイ君」

「―――ん?」

「前に誰かいる」

 

 ミサトが前を指さし誰かがいることを伝えてきた。それに促され前を向くと、前方から一組の男女が歩いてくるのが見えた。

 ――――あの人は……ッ!

 

「メイジン……!」

「む、また意外なところで会ったな」

「あら……貴方はチーム『イデガンジン』の……」

 

 見知らぬ女性だが、メイジンと同じくサングラスをしている所を見ると、関係者と考えるのが自然だろう。

 

「何故ここに……?」

「不届き者を見つけてな、少し灸を据えに来た……とでも言っておこうか」

「……?」

「……?」

 

 ミサキが露骨に首を傾げているが俺自身も意味が分からない。……良くない人が居たという事だろうか?

 

「ふむ……二回戦おめでとうと言わせて貰おう。そうだ、君達の名前を聞かせてくれないか?」

「タ、タカマ・ノリコです!」

「ユズキ・コスモです」

 

 後輩二人が感動するように慄いている、勿論俺も感無量と言った気持ちだ。メイジンと遭遇すること自体もう奇跡としか言い様がないものなのに、加えて試合の好評もしてもらえるとは……光栄極まりない。

 自分も少しばかり高揚していると、メイジンの隣にいる女性が一歩前に出て自己紹介をする。

 

「初めまして、私はレディ・カワグチ」

「カワグチ……あ……」

 

 目の前の女性、レディ・カワグチの名を聞いたミサトは彼女の顔をジッと見つめると、何かを思い出したように声を出した。

 ―――?何だろうか、一瞬だけど、レディ・カワグチから凄まじい気迫が感じられた気が……?

 

「姉さん、この人もしかして……」

「あっ!もしかして6年前の関東選抜大会に出てた―――」

「知らないわ」

「え?でも、見覚えが―――」

「知らない、と言っているでしょう?」

「………はい」

 

 ミサキが気圧されるのを初めて見た。何時も飄々とニコニコしている彼女が慄くのなんて俺でも数えるほどしか見た事が無い。

 それにしても、何でレディ・カワグチは頑なにミサキとミサトの言葉を否定したのだろうか。6年前の関東選抜大会の事は生憎よく知らないのだが、もしかしたら彼女はその出場者なのかな?

 

「気になっていたのだが、レイ君。そこの少女たちは?」

「ミサキの事ですか?」

「ああ、ファイターなのは分かるが……選手でないと見える」

 

 メイジンは感覚でファイターの有無が分かるのか……すごい、いつか俺も分かる様になりたい。

 とりあえず、ショックから立ち直ったミサキの肩を軽く叩き自己紹介するように促す。

 

「私はレイ君と茨城県、県大会の決勝でバトルしたキリハラ・ミサキと言います」

「双子の妹のキリハラ・ミサトです。ここに居るのは、アンドウさんの応援に来たからです」

「ほう……県大会準優勝者か、どうりで……」

「負けちゃいましたけどねー」

 

 キリハラ姉妹の素質を見抜いたのか、笑みを浮かべるメイジン。その背後にいるレディ・カワグチはジッと観察するようにキリハラ姉妹を見ている。

 

「君達の戦い、実際に見てみたいものだ」

「それほど綺麗な試合ではありませんよ」

「泥試合みたいなもんだったからねぇ」

 

 もう最後に至ってはゴリ押しみたいなものだったから、お世辞にも鮮やかとは言い難いバトルだった。

 

「バトルに綺麗も何もないわ。アンドウ・レイ君」

「そうだ、どれだけバトルを楽しみ、力の限りバトルをしたという事が重要だ」

「確かに……今のは失言でした」

 

 メイジンとレディ・カワグチの言葉に同意しつつ、自分の失言に反省する。憧れであるメイジンに見られるかもしれないという思いからでの発言だったが……駄目だな俺は。久しぶりに会ったから少し興奮しているのかもしれない。

 

「―――時間も遅い、君達もホテルに戻った方がいいだろう」

「え?分かりました」

「君達のバトル、楽しみにしているよ」

 

 そう言い、メイジンとレディカワグチは俺達が往く道とは違う方向に歩いて行ってしまった。彼らの姿が見えなくなると、緊張が解けた様にノリコとミサキが胸を撫で下ろし息を吐いた。

 

「はぁ―――!すっごい緊張しました!」

「私もだよぉー。もうレディ・カワグチさん一瞬だけどすごい剣幕だったし」

「私もあれにはびっくりした。何で隠すんだろうね……」

「分からないよ……」

 

 俺は合宿時に何回か話しているから耐性(?)のようなものが出来たからかそれほど緊張はしなかったが、初めて会話するノリコとコスモはそうはいかなかったようだ。

 でも……これもいい経験、と思いつつ皆を急かして街頭で照らされる道の中を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……やるか」

 

 キリハラ姉妹をホテルへ送り、自分達のホテルに帰った俺達は、それぞれのガンプラの修理に移った……といっても俺は、破損した腕と小さな傷を直すだけで事足りるのだが……。

 

「やられたのは外……いや、これじゃあ中のクリアパーツごと入れ替えた方がいいかもしれないな……」

「もういっそ腕は丸ごと入れ替えた方が手っ取り早いと思う」

「そうするか……」

 

 イデオンの修理は少し時間がかかりそうだ。三回戦にまでは間に合うだろうから問題はない。

 ―――というより、俺も早くバックパックを完成させなければ。後は一度バラした部品を組み立てるだけの簡単な作業だから、余程のことが無ければ一時間くらいで終わる。

 

 『アドヴァンスドブースター』

 GNガンランス×2

 GNクナイ×2

 GNバスターソード×1

 GNシールド×2

 計6つの武装と2つのシールドを詰め込んでいる。

 

 GNガンランス、二つでの運用を考えて、ドッズランサーのように片手で持てるような握りと、大きさを縮小したもの。バックパックにおける位置はF91のヴェスバーのように背部から前に出せるような機構にしたが、強度を得るためにクリアランスの機構をオミットして、ショットランサー、ビームガンだけの単純なものとさせてもらった。

 

 GNクナイは『スペルビアジンクス』という、ジンクスの亜種の主武装から作ったもの。刃のある方とは逆の所からサーベルを出す機構が備わっている近接戦闘向きの武装であり、斬って刺して使うのもよし、クナイよろしく投げて使ってもよしの中々に使い勝手の良い装備。

 

 GNバスターソードは前まで持っていたものと変わらないが、背中から引き抜けるようにバックパックの中心に峰から嵌め込む形でつけさせてもらった。何気に愛着のある武器だからな、コレ。

 

 GNシールド、本来は中にハンドグレネードがあるはずなのだが、それを付けずに盾だけの性能を求めた。GNフィールドの発生装置を担っている装備なので、ジンクスⅣと合体する際は両肩に位置する部分を覆う形となる。

 

 バックパックを作るにあたって、本体の方の装備も若干だが変えさせて貰った。

 

『ジンクスⅣオリジン』

 

GNビームサーベル×2

GNビームライフル×1

ロングバレル×1

GNクリアランス×1

GNバルカン

 

 本体の方でもある程度戦闘できるようにある装備は残しておいたので、前とあまり変わらない。

 変わったのでは手持ちのランス。

 初めからクリアランスの状態にさせておいた。……大会では『クリアランス』という奥の手は露見してしまったので、もう隠す必要がないことから、最初からクリアランスでのバトルとなる。

 実弾武装であるショットランサーがなくなってはいるが、その為のバックパックのGNガンランスだ。

 

 他は変わらず、バルカンとサーベル×2、GNビームライフル、ロングバレルのみ。

 

「これだけあれば、もう困る事はない、か?」

 

 無線兵器に対してビームコンフューズが有効すぎてサーベルを投げてしまう所も俺の駄目な所だとは思うが……。というより、俺のバトルは相手からの攻撃で破壊されることもあるが、回避のために自分から武器を捨てたり、叩き落とされたりすることが多い。

 ミサキの時とか、アドウ、リョウヤ、リュウトの時とか。

 

「いや……やっぱり不安だけど、これ以上は乗せられないな」

 

 バックパック側にGNドライブを取り付け、ブースターと増加粒子タンクを付けて機動力とかを諸々底上げはしているものの、やはりこれ以上の武装を積むと、折角上がった機動力が変わらなくなるという問題が発生してしまうのだ。……まあ、それでも積むときはバトルしながら武器を捨てていく感じでバトルすることになるが……。

 

 

 

 

 

 

「―――よし」

 

 組立終了。

 これで今のジンクスⅣのGNドライブのパーツを取り外して、バックパックにあらかじめ作っておいた大きめの窪みにカチリと取り付け、GNドライブが嵌められていた場所にバックパックとジンクスⅣと合体させれば―――。

 

「完成、か…………」

 

 これでようやく俺のオリジナルの『ジンクス』になった。エクシア・ダークマターとは少しかけ離れてしまったが、この形も悪くはない。

 ランスを縮小化したおかげでそれほどアンバランスと言う訳ではなく、うまく立てている事に若干感動しつつもその様相を周りから観察し、何処かおかしい所がないか見る。

 

「……大会中に完成って、おかしいよなぁ、多分」

 

 でも、カッコいいからいいか。バックパックにも色々なギミックを盛り込んだし、もうこれ以上の改修は思いつかない。なにせ自分の持てる粒子応用の知識とビルダーとしての技術、経験を全て盛り込んだ機体だ。

 肝心の名前はどうするかだが、これが意外と難しい。

 やはり『進歩』という意味のある『アドヴァンスド』か、『誇り』という意味の『スペルビア』からとるべきだろうか。どちらもジンクスの亜種機体だけど。

 

「アドヴァンスドジンクスⅣオリジン……じゃ長いか。スペルビアも……GNクナイしか要素がないから無理やりすぎるか……」

 

 普通にジンクスⅣオリジンでいいや、オリジナルのジンクスを突き進むという意味でも当てはまるだろうし。 

 ……完成したからには、真っ先に後輩達に伝えなければいけないな。

 

「ようやく完成したぞー」

「本当ですか!?」

「これで三回戦、全力で戦えますね!」

 

 バッとこちらを向いたノリコが早足でこちらへ駆け寄って、完成したジンクスを見る。コスモも後ろから覗き込んでいる。

 

「意外とスマートですね……」

「大きいのはバスターソードだけだ。後は比較的小さい装備だ」

「あれ……?」

「どうした?」

 

 コスモが何か気付いたようで、首を傾げながらジンクスⅣの腰の部分を指さす。

 

「ここって、普通のジンクスⅣと何か違う気が……?」

「流石の観察眼だ。ここに面白い機能を付けて置いた」

「面白い、ですか?」

「機能といってもそれほど強力ではないが―――いざという時に役に立つかと思ってな。でも使う時は相当限られる、使ったとしても呆気なく潰されるかもしれないし、逆転への布石にもなるかもしれない」

 

 あくまでこれは保険だ。設定的にもいざという時にしか使わないような機能だし、なによりこの機能単体では相手にダメージを負わすことができない。

 ―――だが、バックパックとの連携を考えれば、もしかしたりする。まあ、そこまで改修を施している訳ではないから今は無理だろうけど。

 

「まあ、奥の手、と考えればいいさ。さっ、コスモのガンプラを直すのを手伝うよ。その後はノリコのガンプラだ」

 

 皆で修理を終わらせれば早く終わる。その時間を使って三回戦の為のミーティングも行いたいし、アドヴァンスドパックの試運転も行いたい。

 きっと三回戦は俺達にとって辛い戦いになるだろうが、それでも楽しみだ。合宿のバトルの続きが行えると思うと、昂ぶりが止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナコ、今度は何作ってんだ?」

「三回戦の為の改修だよ。ナガレはやんなくていいの?」

「俺はずっとこいつで戦ってきたからな。メンテだけで十分だ」

「……はぁ……」

 

 実際、こいつに対策とか無駄骨みたいなものだからあまり心配はしないけど……。問題は私のガンプラの方だ。ホテルに備え付けられたテーブルの上に乗せられているヴァンセイバー。

 装備上の問題はないが、恐らく我梅学園のバトルで、マガノイクタチに警戒をレイさんに抱かせてしまっただろう。それは念頭に置いてはいたが、そうなるとマガノイクタチ持ちの私を潰してくるために、レイさんが私に戦いを挑む可能性が高くなってしまった。

 

 ナガレはレイさんのチームメイトのどちらかが抑えられるし、肝心のセンガは……。

 

「―――イデオンソードか、面白い」

「……はぁ……」

 

 フローリングの上で正座しながら試合のビデオを見て、何やら気合いのようなものを高めているし。もうコレは色々覚悟を決めるべきかもしれない。

 

「とりあえず、私にできる事はやっておこう。とりあえず妙な小細工は通用しないという結果が出たから……こちらも小細工無しでやろう」

 

 一体一の戦いに無理やり持ち込めば、私がレイさんを抑えている間に、ナガレとセンガが決めてくれるはず。凄まじい機体には乗っているものの、正直、イデオンとガンバスターのファイターは大会でのバトルでは経験不足。

 それならば経験で勝るナガレとセンガが有利だろう。不測の事態があった場合は……その時だ。

 

「……というよりさぁ……」

「何だよ?」

「最強の矛を決める戦い、になりそうだ……」

 

 椅子を部屋の中央に向け、寛いでいるバカ二人を見る。

 普通なら何もおかしい事はないだろう。何時もの部活風景ならもっとカオスだ。だがしかし、ここはホテルの一室だ。おかしいところだらけだよ。

 

「ここ私の部屋!!」

「……それがどうした、うっせぇな。いいだろ減るもんじゃねぇし」

「私の精神が削れていくよ!?もうミーティングは終わったからさっさと自分の部屋に戻れよぉ!」

「わーったよ、行くぞセンガ」

「……仕方がないか」

 

 何そのしょうがねーなコイツみたいな感じは。私、全然悪くないよね?

 このやり取りもう何回目だろう。

 

「あぁ……バトル勝ったらレイさんとチーム交換できないかなぁ……」

 

 彼ならなんとなくだが、あのバカ共と相性が良い気がする、と思えるのが不思議だけど……。

 

 




スペルビアジンクスって00世界のニンジャですよね。
GNクナイとか足のクローとか完全に狙っている気があります。

でも顔とかエヴァ三号機みみたいでカッコいいです。

次話は、他チームのバトルと『イデガンジン』と『大黒刃のバトル』にしたいと思っております。





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