本編とは違い、オリジナルストーリーです。
続編はBF一期のガンプラ特訓とか、ジンクスの派生形とか登場させたくて書きました。
続編~コンサート1~
ガンプラバトル選手権が終わり、時期は8月後半、新学期を目前に控えた俺は手早く課題を終わらせると、一人黙々とガンプラの改修作業に勤しんでいた。
今年は本当に濃い夏休みだった。
選手権があったり、メイジン杯があったり。学校とか夏休み明けとか大騒ぎだろうなぁ、県大会優勝で祀り上げる様に盛大に祝ってくれたからなぁ。今度は準決勝進出!!とかでかでかと垂れ幕が出されるのが目に見える……そう思うと恥ずかしさも相まって憂鬱になる。
「お、此処に居たのかレイ」
「ん?どうしたの、父さん」
父、アンドウ・セイジが手紙のようなものを掲げ、大きなため息を吐いた俺の部屋に入って来る。一旦作業をやめて体を向けると、父は憮然とした表情に少しばかりの苦笑を浮かべる。
「夏休みなら外に出ろ。ガンプラをやるのは結構だがそれだけでは身が保たんぞ」
「確かに……気分転換がてら外に繰り出してみようかな……」
「そこでだ」
散歩でも行こうかと立ち上がろうとした俺の肩を掴んだ父は、その手に持った手紙を見える様に机の上に置く。何だ、と思いそれを拾い上げると、やや洒落た手紙の表面に英語で何かが書かれていた。
幸い、それほど難しいものではなく簡単に読めたが……。
「ココロネ・ヒツキのライブコンサート……?」
「バイトしてみないか?」
「………はい?」
「ココロネ・ヒツキは知っているか?」
知らない。
全然、知らない歌手だ。とりあえず机に置いてある携帯で名前を検索してみる。
「ガンダムッ娘コンテスト最優秀賞受賞者?……歌って作れるガンプラアイドルぅ?」
出てきたのはVガンダムベースの改修機。人形のようにデフォルメされてはいるが、ビルダーとしての確かな実力が感じられる。しかも、この手紙にあるコンサートの内容もあるぞ……ゲストを招いてのガンプラでのパフォーマンスを行うのか……面白そうだけど……。
「それで、バイトって?」
「有事の際にガンプラバトルをすればいい」
「……どういうこと?」
「数日前、ココロネ・ヒツキの事務所に差出人不明の脅迫文が届いてな。調べた結果、それがガンプラマフィアからのものだと判明したが……奴等はコンサートになんらかの形で介入を目論んでいる。本来ならばライブコンサートは中止にするべきなのだが、ココロネ・ヒツキ自身がそれを拒否した……」
「ガンプラマフィア……実在したのか。それでもって悪質な……父さんは俺に何をしてほしいんだ?」
「うちの部署にはガンプラバトルの腕に長けるものは居るには居るが、ガンプラマフィアを相手取るには少々心許ない……そこでお前に手を貸してもらおうと考えてな、実力は私から見ても十分………それに、同い年だろうから丁度良いだろ。うん」
「ん?最後の方小声で聞き取れなかったんだけど……?」
「気にするな、後で分かる」
いや、別に協力するのはやぶさかじゃないんだけど、何か嫌な予感がする。ガンプラマフィア云々じゃなくてもっと別な事で。
「で、どうだ?ああ、どちらにしろお金は出す。ちょっと良いホテルに泊まれて、ある程度遊べる旅行だと思えば悪くない話じゃないか?」
「……まあ、確かに行ってみてもいいかな。父さんがいるから危ない事にはならないだろうし」
「決まりだな」
まあ、残りの夏休むを無為に過ごすのも勿体ないし、断る理由はないかな。
ココロネ・ヒツキ。
歌って作れるガンプラアイドル。
活動開始は三年前、一年の下積みの末に出したファーストシングル「ああ、愛しきジャブロー」で大ヒットを博し一気に国民的アイドルへの道を駆け上がった少女。奇抜なれど熱い彼女のスタイルは多くの人々の心を掴み取り今も根強い人気を誇っている。
だがしかし、ただのアイドルといえばそうでもない。彼女はアイドルであると同時にガンプラビルダーなのである。その実力はメイジン杯『ガンダムッ娘』部門にて優秀賞を誇るほどのもの。
埼玉県さいたま市。
ココロネ・ヒツキがライブコンサートを行う会場、さいたまスーパーアリーナがある街に到着した俺は取り敢えずホテルに荷物を送り、ホテルの最寄をうろついていた。
父は仕事の打ち合わせですぐに会場の方へ向かってしまった。一応、何かすることはあるのかと聞くと、夜に関係者との『顔合わせ』があると言うので、それまで暇を貰った。しかしながら、不慣れな土地とさして下調べのしなかった場所でどう暇を潰していいか分からない。
……取り敢えず模型店を探すことにした。
旅行に来てもガンプラの事を忘れられない辺り相当なものだがそんなことを気にも留めずに、彼はホテル近くの大通りに開店している模型店を見つける。
地元と同じ位の大きさの店の中を除くと、ガンプラが鎮座する棚の隣に標準サイズのバトルシステムが置かれている。暇を潰すには丁度良いかな、そう思いショルダーバックの中にあるガンプラを一瞥してから店の中に脚を踏み入れた。
「いらっしゃませー」
温和そうな雰囲気漂う店員らしき男性に小さくお辞儀しながら、中を見渡す。
「……色々あるな」
ガンプラを見る為に店の奥へと進む。やはり都会は品揃えが良い、地元では予約しなければ買えないガンプラが普通に置いてあることに少しだけ感動を覚えつつも、ガンプラを物色していると先程見つけたバトルシステムで、誰かがバトルしている光景が視界に映り込む。
『落ちろ!!』
『ひゃあ!?』
「……おお」
俄然興味が沸いたのか、バトルが見える位置にまで移動すると『ガンダムエアマスター』と『ガンイージ』がビームサーベルによる白兵戦を行っているのが見える。
白兵戦といっても、逃げるガンイージを執拗に追いかけるガンダムエアマスターの攻撃をサーベルで防いでいるという不思議な図式……だが、サーベルを両手で持ったガンイージの動きはしっかりしている。
『逃げてばかりで!戦え!!』
『た、戦ってます戦ってます!!』
MAに変形し、逃げるガンイージの前に降り立ったガンダムエアマスターはその手のバスターライフルを近距離から放つ。胸部を打ち抜く軌道を以て放たれたバスターライフル、直撃は免れない。終わりか、とレイも思ったが、……脱力するように下方に下げたサーベルを切り上げる様に盾にしたガンイージ。
『―――い、行きますよぉ!』
容易くバスターライフルのビームを切り裂きそのまま一気に接近、バスターライフルを持つ腕と脚部を一気にサーベルを振りぬき、四肢を破壊。
最後に身動きのできないエアマスターの頭部にサーベルを突き刺すことでバトルは終了となった。
巧い、という感想を最初に抱いた。カナコのように巧みにサーベルを操るのではなく、相手に致命的な損傷を与える為の一撃を狙う―――ビームサーベルは切り裂く為の装備だが、あんな風に攻防一体の武器として使えることが何よりの利点……それを最大限に生かしての戦い方。
「凄いな」
俄然興味が沸いたので、バトルシステムが解除され姿が露わになったファイターの方を見る。エアマスターのファイターの中学生くらいの男の子は悔しそうな表情を浮かべているが、ガンイージのファイター、ベレー帽のような帽子を被った三つ編みの少女。視線の先に居る彼女は、まるで安堵するように胸を撫で下ろしている。
「よ、良かった勝てた……練習した甲斐があった……っ……?」
少し離れている所から見ている俺に気付いたのか、目を瞬かせるガンイージのファイター……いや少女か。相手は数秒ほどこちらから目を逸らさずジッと見た末に、ハッと何かに気付いたのか肩にかけているバッグから雑誌のようなものを取り出し開く。
「あ、ああああっ」
「あ?」
こちらを見て何かを叫ぼうとしているようだが、周りを見ると咄嗟に口を両手で押さえ、こちらに足音が聞こえそうなくらいの勢いで歩み寄ってくる。
「ちょ、ちょっとすいませんっ」
「え?は?ちょ、なに?」
手を掴まれ店の片隅の方へ連れて行かれる。
何か粗相でもしてしまったのだろうか。やや鬼気迫った表情を見る限り只事ではないのは分かるけども。
「あ、あのイデガンジンのアンドウ・レイさんですよね……?」
「知ってるのか?」
「本物!?何でこんな……いや、それより」
名前はともかく顔を知られているとは思わなかった。
それほどテレビ受けされるような顔じゃない事は自覚しているが、どういう用件なのだろうか。
そう疑問に思い、こちらを見上げる少女を見下ろしていると、突然に少女は勢いよく頭を下げてきた。
「あのッ、私にガンプラバトルを教えてください!!」
「……………………は?」
見知らぬ土地にやってきた俺に対してまるで予想できなかった少女のお願いに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「訳あってバトルが強くなりたい、と」
見知らぬ少女からガンプラに教えを請われたその後、ゆっくりと事情を話したいと言った少女の言葉に従い店内にあるガンプラ工作ルームに入った俺は、目の前で気まずそうにしている少女にそう言い放った。
「……はい」
どうやらのっぴきならない事情でガンプラバトルを強くなりたい、とのことなのだが。いかんせんガンプラバトルを教えてくれる人がいなく、独力で訓練していたらしい。
でもバトルを繰り返すうちに限界を感じ、悩んでいたところに俺が現れた。
「……構わないんだけど。此処には一週間くらいしか滞在しないからなぁ……父さんに言われた仕事も手伝わなくちゃいけないし……」
「あ、空いた時間でもいいんです……今週中にできる限り強くならないと……」
「理由は、言えないんだろう?」
「……言えません。でも……すごく大事なことなんです」
大事な事、か。
……こうも必死に頼まれると俺も断りづらい……いや、断る理由はないか。空いた時間くらい俺が自由に使ってもいいだろうし。
「ま、慣れない土地での出会いだ。そういう縁は大事にしなくちゃな、受けるよ。短い時間だけどよろしく」
「ほ、本当ですか!!」
人の出会いは一期一会、この出会いにも何かしらの意味があるはず。
喜色の表情を浮かべ、作業机に乗り出してくる少女に苦笑しながらも、ずっと気になっていたことを聞くことにした。
「えーと、名前は?」
「え……?あ、ああ!すいません私ったらっ」
今頃になって名前を名乗ってないことに気づき、顔を真っ赤にし座り込んでしまった。……気分の上がり下がりが激しい子だな、一定の位置から動かないミサキとは大違いだ、アイツにもこのぐらいの可愛げがあればいいんだけど……。
本人に知られたら地味に怒られそうなことを考えていると、ようやく落ち着いた彼女がこちらに視線を向け照れくさそうに口を開いた。
「私、マゴコロ・サツキといいますっ。今日からよろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。……しかしマゴコロか……アイドルのココロネ・ヒツキの名前に似てるな……」
語呂というかなんというか、いや単にココロネ・ヒツキに関係する事を任されているからそう思ってしまうのかもしれないな。
「え、あ、あはは、に、似てますよね!!良く言われるんですよ!!あ、あはは―――!」
「ん、そうか……」
「………こ、ココロネ・ヒツキの事を知っているんですか?」
「……いや、最近知ったが……顔もよく知らない。でもビルダーとしての腕は凄いと思う」
「か、顔も……え、えぇ……」
そう言うと何故か複雑そうに安堵の表情を浮かべた彼女は手元にあるコーラを一気飲みし、気持ちを切り替えるかのように握り拳を作りこちらを見た。
……ココロネ・ヒツキのファンなのだろうか、気をつかって褒めちぎるべきか……?
「そ、それじゃあ早速ガンプラバトルについて教えてください!」
「そ、そうか、じゃあさっきの模型屋に一旦戻ろう」
「はいっ!」
何だか感情豊かな子だなぁ。
元気な所とかノリコとかなり似通っている、と思いつつも意気揚々と席から立った少女の後をついていく。
向かう先は勿論、バトルシステム。店員に許可を貰い、空いているバトルシステムの前にまで移動した俺とマゴコロは互いのガンプラとベースを置き、システムを起動させる。
「よろしくお願いしますっ!」
「こちらこそ」
プラフスキー粒子がステージを構成し、自身の周りにも操縦空間を形成させる。ステージの構成が完了すると共に自身のガンプラを発進させる。
「アンドウ・レイ。G-セルフ・プラス出る!」
練習用の予備機、G-セルフ・プラス。
ジンクスⅣの代わりとなるガンプラであり、G-セルフにさらなる改良を施したガンプラ。アドヴァンスドパックの亜種、スペルヴィアパックをGーセルフに取りつけた、粒子効率に特化したバランス型のガンプラ。
装備はアドヴァンスドパックに比べると幾分か少なくなるが、非常に燃費が良く、G-セルフのフォトンエネルギーの操作を補助する役割を果たしている。
ステージは高原、特に障害物の無い場所の一画に降り立たせ、周りを見渡す。
『アンドウさーん!』
「……来たか」
こちらが出た方向とは逆の方からマゴコロのガンイージが出て来る。
ビームライフルとシールドを装備しているガンイージはゆっくりと前に降り立ち、G-セルフ・プラスを見て驚いたような声を上げる。
『ジンクスではないんですねー』
「あー、流石にバレるからな……でもこれも俺の愛機だ。それなりに戦える。さ、始めよう。まずは簡単にバトルしてみよう」
『はい!』
ゆっくりと浮き上がりガンイージから距離を取る。
ガンイージは緊張したようにシールドとライフルを構えるも、こちらが取りだすのはサーベルのみ。本気でバトルすることが目的じゃない、あくまでマゴコロの実力を測る為のバトル。
「掛かってこい!」
『いきます!』
遠慮はいらないと分かっているのか、後方に下がりながらもガンイージがビームライフルを連射してくる。だが、狙いが巧く定まっていないのか当たらない。
『―――避けられた!?』
「狙いが定まっていないだけだ!!」
ブースターを噴かせ、ガンイージへの接近を試みる。
こちらが接近してくるにもかかわらず、未だにビームを撃つのをやめないガンイージ……対処法が分からないのか?動きを追っている所を見る限り、ただ単に照準があっていないだけだ。
「両手で持って落ち着いて狙いを定めろ!!沢山撃っても当たらなくちゃ意味がない!」
『は、はぁい!!』
片手から両手でビームライフルを持つように構え、狙いを定める。こういうのはまずは手応えを感じさせることが大事だ、狙いをつけやすいように直線的な軌道を描きガンイージへと迫る。
『撃ちますッ』
トリガーが引かれ、ビームが正確にG-セルフへと放たれる。
これで感触が掴めた筈、直撃コースにあるビームをサーベルで切り払い、スピードを落とさずにガンイージへ斬りかかる。
『切りはっ……あぶっ』
こちらの攻撃に対し、即座にライフルを捨てたガンイージはシールドでサーベルを防ぐと同時にサーベルを引き抜き、距離を詰めたこちらに突きを放ってくる。やっぱりサーベルの扱いは他とは段違いに巧い、俺が教える余地が無い程に鋭く、急所をついてくる。
「っ!」
突き出されたサーベルが胸部を貫くその前に、こちらの攻撃を防いでいるシールドを蹴って無理やりに距離を取らせる。シールドを蹴り飛ばされたガンイージはグラつきながらも、両手でサーベルを掲げ、こちらを一丁両断するような構えで飛び出してくる。
「サーベルじゃあ心許ないかッ!ならば!!」
スペルヴィアブースターの翼に搭載されている二つの武装『ジャベリン』を取り出すと同時に連結させ、薙刀状にさせる。
「フォトンで満たす!!」
ジャベリンが青色の粒子で満たされ淡い光を放つ。そしてそのまま接近してきたガンイージが振り下ろしたサーベルに合わせるようにジャベリンを振るう。
『ジャベリン!?』
「ジャベリンだ!!」
火花を散らしぶつかり合うサーベルとジャベリン。パワーで劣ると判断したのかすぐさまサーベルを引いたガンイージは驚くほどの転換の速さで別方向からサーベルを繰り出す。
―――打ち合わないスタイルか……面白いが……!
「こいつ相手に接近戦は悪手だぞ!!」
『?!』
ジャベリンの先端から粒子状の鞭が形成され、腕を回転させると同時にガンイージの腕に巻き付く。ジャベリンはただの接近戦の武装じゃない、中距離レンジでの攻撃もこなすことができる近接武装なのだ。
「崩す!」
『うひゃ~!?』
ジャベリンの先端に形成させた粒子の鞭を引っ張り、無理やり体勢を崩す。
小さい悲鳴と共にズデーンと転ぶガンイージに苦笑いしつつも、ジャベリンをブースターに戻す。取り敢えずのバトルは終わり、まだ数分にも満たないバトルだが、色々課題も見えてきた。
「大丈夫か?」
『はいぃ……でも流石選手権ベスト4……強い……』
「接近戦なら君も相当だよ。問題は射撃だ、でもそれも慣れていないが故のものだ。コツを掴めば大丈夫」
ある程度腕を磨けばかなり強くなるんじゃないか?
射撃もあれだけのアドバイスで命中させてきたし、近接戦も申し分ない。
『ほ、本当!私バトルできてる?!』
ちゃんとバトルできている事が嬉しいのか、ガッツポーズを取るガンイージ。
……喜んでいる姿がノリコとコスモに重なるな。そしてガンプラで初めてバトルした時の頃を思い出す。
「一度、初心に帰るのも悪くないな」
新しいジンクスの改修案に繋がるかもしれないな。
初心に帰るにかけてジンクスⅠを踏襲したタイプのものを作ってみよう。type”X”って所かな?いや、アームビットに特化した6本腕のtype”A”か……それとも装甲に特化させたtype”T”か……。
ノリコのバトルを補助する”G”は完成しているから、次に作ろうと思っている”I”を完成させたら取り掛かってみるか。
『あぁぁ――――!』
「っ!?ど、どうした!?」
考えに耽っていると突然大声を上げたマゴコロのガンイージが、あわあわと手を口元に当てていた。なんだなんだどうした……?
取り敢えず、バトルシステムを解除させ彼女の元へ近づくと、マゴコロは自身の携帯を見て顔を真っ青にしさせている。
「一体どうしたんだ?」
「わ、私、そろそろ行かなくちゃ!!」
「はい?」
「今日はありがとうございました!!また後日お願いします!!」
「あ、ああ」
ガンイージを抱える様に持った彼女はこちらに深くお辞儀すると、早々に模型店から出て行ってしまった。かなり急いでいるようだったから止めなかったけど……。
「あれ、連絡先とか知らないから後日って言われても……」
実質的に連絡が取れない訳だけど………ま、明日またここに来れば大丈夫か。
……そろそろ日も暮れて来たし、ホテルに戻ろうかな。父も帰ってきているかもしれないし。G-セルフをホルダーに戻し、模型店を出てホテルのある方向へ歩きだそうとするも、ポケットに入っている携帯に着信が入る。
「………父さんからか―――もしもし?……今ホテル戻る所だけど……へ?紹介したい人がいる?……駅近くのビル、―――プロダクション?―――分かった、直ぐに行く」
何やらあちらの人に俺の事を紹介したいとの事で、駅近くのビルに来るように連絡してきたので、ホテルとは逆方向にある駅の方へと脚を向け歩き始める。
事務所に1通の手紙が送られてきた。
差出人不明の手紙の内容はコンサートの中止を要求する脅迫文。手紙の最後の空白に押された印から、警察はガンプラマフィアによる犯行だと推測を立てた。ガンプラマフィア、ガンプラを悪しき事に使う裏の組織。その派閥は多岐に渡り、汚い手から非合法な手段を講じ様々な被害を与えている犯罪組織。
コンサートは中止したくない。
でももし中止にしなかったら、コンサートを滅茶苦茶にするとも書いてある。でも……来てくれた人たちの信頼を無下にはしたくない。【ココロネ・ヒツキ】のコンサートにはガンプラによるデモンストレーションは必須、でもそのデモンストレーション中にガンプラマフィアのガンプラが襲ってこないとは限らない。
でも私、マゴコロ・サツキはコンサートを中止にはしなかった。
そこにはしょうもない意地もあったし、何よりファンの人達の信頼を裏切りたくないという思いもあったからだ。
でも、正直怖い。
操作は得意だけど、バトルなんてしたことない。
今まで作った事しかなかったから……。
「ヒツキ!」
「はっ、はい、マネージャー」
「大丈夫?」
「……大丈夫です」
大丈夫なはずがない。マフィアに狙われているのだ、どういう理由かもわからないのに。でも私が不安な所を見せてはいけない。だって他ならぬマネージャーも社員の人だって、怖い筈だから。
だから私も頑張らなくちゃ、今週中にガンプラバトルをできるようになって、自分の身を守れるようにならなくちゃ……そうしなければ待っているのは、応援してくれる人たちの前で情けない姿を晒す私の姿。
「なのに、何で連絡先を交換しなかった私ぃッ」
迂闊すぎるだろ。
時間が迫っていたせいで焦っていたからという理由もあるが、なのに自分のバトルを見てくれた人、その上あの選手権ベスト4でガンプラ学園と互角に戦ったチームのリーダーだぞ。逃した魚は余りにも巨大すぎた。
「連絡先がどうしたの?」
「え、あー、ちょっとさっき会った友達に訊きそびれちゃって……」
「だから遅刻寸前だったのねぇ……まあでも、今日は撮影も何もないし、普段のままで大丈夫よ」
「す、すいません」
事前に決められた時間に着くのがギリギリになってしまったので、帽子も髪も外に出る時のまま。今日、本当に大事な仕事とかなくて良かった……。
「謝らないで、こうして間に合ったんだから良しって事で。今度のコンサートのゲストと協力してくれる警備の人達に顔合わせをしましょうか」
「え?ゲストの人は全員……」
脅迫文のせいで断られてしまったはずなんだけど。まさか脅迫文が来ているにも関わらず、コンサートに出てくれる人が居るのだろうか。中々肝が据わっているというかなんというか。
マネージャーに案内され、会議が行われる広間の一室の扉の前に止まる。扉に手をかけたマネージャーが茶目っ気のある表情で―――。
「ヒツキも一度会ったことのある人だよ」
そう言い放ち、扉を開け放った。
やや眩しげな光に目を瞬かせながらも目を凝らすと、室内には4人の男女が居た。一人は壮年の男性と若い男、多分この二人が警備してくれるという警察の責任者の人なんだろう。どことなく貫禄がある。
そしてもう二人は……。
「お久しぶりです。ヒツキさん」
「ミライさん!?」
モデルとして活躍し、ガンプラバトル選手権でイメージガールを務めたカミキ・ミライさんじゃないか!?この人がゲストの仕事を受けてくれたの……いや、少し前に一緒に仕事をして、この人に並々ならない胆力を持っている事は知っているけど、えぇ……予想外過ぎて口が呆けたままだ……。
マネージャーさんも「久しぶりー」とフレンドリーに手を振ってくれるけど、どう反応したらいいか分からない。
「で、でも脅迫文とかは……」
「私なら大丈夫。こう見えても私昔拳法をやっていたのっ」
そう言い、茶目っぽく拳を突き出したミライさん。
拳から風切り音のようなものが鳴った気がしたが、尊敬するモデルさんであるミライさんが武闘派だなんて、嘘だと思いたい。
「ね、知ってる人だったでしょ?」
「お願いですからそういうことは事前に行ってください……本当にビックリしました……」
ある意味、どんなゲストよりも凄い人を連れて来てしまったマネージャーをジト目で睨みつつ、無言を貫いている男性二人の方に軽くお辞儀をする。
「コンサートをやらせて貰うココロネ・ヒツキです」
「私はアンドウ・セイジ、ガンプラ犯罪科の主任を任されている者です。後ろに居るのは、カクレザキ。当日の警備の方は私どもにお任せください」
「アンドウ……」
「……む?」
「い、いえなんでもないです」
1日に同じ名字の人に会うのって何気に珍しい。
でもこの人、何処かで見た事があるなぁ、でもガンプラ犯罪科っていうから警察の人だから……うーん。
「ガンプラマフィアは恐ろしく狡猾です。バトルへの強制干渉すらも躊躇なく行います、加えて手練れのガンプラファイターを何人も雇っている」
「躊躇なく……」
「だがそこが奴らの弱点ともいえる。バトルシステムへの干渉は遠隔では行う事は不可能、基本的にはシステムに接続しなければ干渉はできない―――かのヤジマ・ニールセン博士からの証言なので間違いはありません」
「ガンプラでのデモンストレーションを利用してガンプラマフィアの人達をおびき出そうと……?」
「私達も最大限のバックアップはする所存です」
―――これはいよいよ私も頑張らなくちゃいけない事になるかもしれない。
コンサート中へ乱入されたら警察が拘束するまでの時間、バトルが巧くない私は体の良い的だ。そうならない為には私がガンプラマフィアの攻撃に耐えきれる程度に強くならなくちゃならない。
「……よしっ」
「私もそのデモンストレーションに参加します!!」
「へっ!?ミライさん!?」
私が密かに意思を固めていると、後ろで話を聞いていたミライさんが、私の横に並び立つように歩み寄り驚愕の台詞を言った。
案の定、アンドウさんとカクレザキさんも困惑したような表情を浮かべている。
「私もガンプラファイターだから……友達が困っているのは見過ごせないわ」
おもむろにショルダーバックから、近年流行しているガンプラ、べアッガイの改修型のガンプラを取り出した彼女は柔らかい微笑を私に向けてくれる。
―――凄く良い人だ。
ちょっと涙腺が緩みそうになり、視線を逸らすと呆れた様なため息を吐いたアンドウさん。
「分かりました、カミキ・ミライさんの方にもヒツキさんと同様に補助します」
そこで一旦区切ったアンドウさんは、時計に目を移した後にこの場に居る全員を見渡した。
「それと……皆さんには言っていませんでしたが、今日は後一人、助っ人を呼んでいます」
「助っ人?それは貴方達のような警察の方でしょうか……?」
「いえ、私の倅です」
その言葉にその場にいる全員が気が抜けた様に目を丸くした。
アンドウさんの息子?何故、息子を連れてきたのだろうか……ガンプラマフィアと戦う為?いや、ガンプラマフィアがベテラン揃いのファイターが居るという事はさっき彼自身が言っていたじゃないか。
「あれの実力は私から見ても十分、私が警備の総括を任されている以上、もしもの時に戦える人員が必要です。特に……カミキ・ミライさんは何度か会った事がある筈です。いや、ここはインタビューで、でしょうか」
「あっ、もしかしてアンドウさんの息子さんって……」
何かを思い出したのか、得心がいったような表情になったミライさん。彼女にその助っ人が誰なのかと聞こうとすると、それを遮るかのように会議室の扉がノックされる。
「あ、すいません」
マネージャーが扉を開けノックした人物を見る。すると驚いたような声を上げ訪れた人物を中に招き入れる。入ってきたのは同年代の少年―――って、その様相はまるでついさっきまでバトルを教えてくれた少年と瓜二つ、というより……。
「あ……」
「父さん、場所が抽象的すぎて迷っちゃったじゃないか……って」
最初にアンドウさんを、次にミライさんを、最後に私を見て表情を硬直させた彼、アンドウ・レイさんその人は、私と同じように互いを指さし、わなわなと声にならない声を上げる。
「おお来たか、レイ。この人がお前が護衛するアイドル、ココロネ・ヒツキさんだ。で、これが私の息子、レイだ」
そしてトドメの一撃を放つかのように彼の父、アンドウ・セイジさんがそう言い放った。
「………は?」
未だに状況が理解できない彼と私はしばらく硬直から覚めることはなかった。
何人かはゲストとしてアニメ本編のキャラが登場します。
BF一期でガンプラマフィアが出たんだからガンプラ犯罪科が居てもおかしくはない、きっとそう(白目)
そして―――安心してください
ちゃんと
続きを書くので、完結から連載へ変えました。