『A』 STORY   作:クロカタ

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決勝は少し長いので二つに分けました。


過去編~決勝~

 県代表を決める戦いが始まる。

 『暮機坂高校』チーム『イデガンジン』VS『八極高校』チーム『冥王』。短い期間でできることは全てやったし、対策も全て頭に叩き込んだ。

 

 バトルシステムの前にやって来た俺達は歓声溢れる会場の中で、相手チーム『冥王』の面々と相対する。チーム『冥王』はキリサキ・ミサキと二人の男女によって構成されている。確か、彼女の双子の妹のキリサキ・ミサトと、彼女達と同年代のオキツ・イサオ……だったはずだ。

 試作二号機に乗っているのがオキツ・イサオと仮定すると、あの冥・Oは姉妹二人で乗っていると考えるのが妥当だろう。

 

「やあ、レイ君。決勝で会ったね」

「ああ、ミサキ……良いバトルをしよう」

 

 準決勝の時のようなドS然とした笑みではなく朗らかな笑みを浮かべるミサキに、少し慄きながらも返事を返す。

 後輩二人が『知り合いなの?』と言いたげな視線でこちらを見るが、どうやって彼女の事を説明していいのか分からないからその話は後にする。今は目の前のバトルに集中することが重要だ。

 

「さあ、やるぞ。チーム『イデガンジン』。コスモとノリコ、お前達と俺のガンプラでまずは県を獲るぞ!!」

「「はい!!」」

 

 そうだ、俺が待ちに待った最高の舞台、選手権への切符を手に入れる為の戦い。しかも相手はこれまでで最強で最恐の相手。

 でもやることはこれまでと変わらない、自分の信じる好きなガンプラで最後まで戦い抜くだけだ。

 

「アンドウ・レイ!!ジンクスⅢ!!出るぞ!!」

「タカマ・ノリコ!!ザク!!行きます!!」

「ユズキ・コスモ!!ジム!!発進!!」

 

 プラフスキー粒子によって形作られた世界に、俺達のガンプラが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、あの人とは知り合い?」

 

 バトルシステムに冥・Oを置こうとした私に、妹のミサトが興味深げに私にそんな事を質問してきた。その質問に関して、私は少し考えてから、とりあえずの回答を言葉にする。

 

「前、偶然ファミレスで相席になってね。それで少し仲良くなっただけさ」

「それって、姉さんが一人になりたいって言って先に帰った時の?」

「その時だね」

「おいおい、まさか俺達の事について話してないだろうな?」

 

 妹とは違って同級生であるオキツ・イサオが私に訝しげな視線を送って来る。……失礼だ、と言いたいところだが、結構重要な事教えちゃったから反論はしない。

 

「心配いらないさ。私だけが彼のチームの事を知っていると不公平だと思ってね。でも名前ぐらいしか教えてないからさ」

「……頼り切っている手前偉そうなことは言えないが、あまり不用意な真似はしないでほしいな」

「大丈夫、大丈夫」

 

 まあ、彼に冥・Oの事を教えたのはもっと別の意図があったんだけどね……。難しいようで簡単な冥・Oのシステムの謎―――それをレイ君は解くことができたのかな?……それはバトルで分かるまでのお楽しみだね。

 

「じゃあ、始めようか。ミサト、システムの操作は任せるよ。私じゃ、冥・Oのシステムは扱いきれないからね」

「了解、姉さんもね」

 

 冥・Oは私とミサトでしか動かせない。いいや、私に関しては実力云々を抜きにするならばイサオでも扱える。だが、冥・Oのシステムは…………。

 

「始まるぞ、ミサキ。冥・Oの準備をしろ」

「……本当に空気が読めないよね。イサオは」

 

 対面する形にバトルシステムに立ったレイ君に視線を移しながら、私は冥・Oをバトルシステムの上に置く。プラフスキー粒子により作られたコックピットに包まれるのを確認すると、ガンプラを操縦するための球体に手を置く。

 

「さあ、決勝だ。手加減なしで行くよ!冥・O、キリハラ・ミサキ出るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージは『森林』、木々が生い茂る森の中でバトルは行われる。俺達は木々の上を飛ぶ形で敵機の索敵を行っていた。

 先頭を俺が飛び、その後ろから二人が左右を索敵しているという配置で索敵している。

 

「森林は敵が見つかりにくい。……でも裏を返せば、敵も俺達の姿を見つけにくいという事だ」

「先に敵を見つけて、有利な状態で戦うという言う事ですか?」

「そうだ」

 

 ……といっても、相手が隠れて戦ってくるようなタイプと聞かれれば、すぐにNOと言える。準決勝で見たようにミサキは、正面から相手を圧倒するタイプのファイターだ。

 彼女の思考で行くとすれば―――。

 

「……っ!!まあ、そう来るよな……!!」

 

 前方から巨大なビームが飛んでくる。

 余裕を持って散開し、ビームを回避した俺達の前に白いガンプラ、冥・Oが途轍もない速さで近づいてくる。

 

「コスモ!!」

「分かってます!!」

 

 コスモのジムの手足の装甲の一部が開き、ミサイルの弾頭が顔を出す。Iフィールド対策その1、ミサイル攻撃。普通の規格よりも若干小型のミサイルだが、十分な威力があるはず、あの冥・Oに効果があればいいのだが……。

 

「食らえぇぇぇ!!」

 

『……へぇ』

 

 四肢から一斉に放たれるミサイル。それを見て、少し速度を緩めた冥・Oは片腕を前に突き出し、宝玉から大出力のビーム砲を放つ。

 

 ビームはミサイルの数発を撃ち落とすが、まだ大量にミサイルは残っている。

 

『まだまだだね。ミサト』

『了解』

 

 冥・Oの手の宝玉が連続で光り、ミサイルが空中で勝手に爆発する。

 やはり使って来た。ミサイルを全て撃墜し、そのまま勢いを落とさずに接近してくる冥・Oに、俺はサーベルを抜き放ち、一気にスラスターを噴かす。

 

『接近戦かい!!』

「いいや!!」

 

 抜き放ったサーベルを、冥・Oの居る方向目掛けて回転させるように投げる。

 

『何を……っ!ッ!?ミサト!』

「遅い!!」

 

 GNガンランスを構え、回転しながら宙を舞うサーベルにビームを連続で放ち、ビームを拡散させる。投げたサーベルはともかく拡散されたビームでは、冥・Oにダメージは与えられないだろう。

 だが、狙いは別にある。

 

 拡散されたビームは、勢いよく冥・Oとその周囲に襲い掛かる。冥・O自身にはダメージがない事は分かる、しかしその【周り】はどうだ。

 ビームの拡散攻撃により、何もなかった空中で小規模の爆発が複数起こる。狙い通り落ちてくれたか……。

 

『やってくれたね……ッ!』

「そのトリックは先輩が見破っているのよ!!」

 

 俺が先行する時に合わせ、空高く飛び上がったノリコのザクの飛び蹴りが冥・Oに向けて放たれるも、冥・Oは凄まじい運動性でくるりと宙で回転して回避すると、俺達から距離を取る様に後方に下がる。

 その隙を見逃すはずがなく、GNガンランスを構え、ビームマシンガンで威嚇しながら突撃する。

 

『くっ、ふ……』

 

 突撃と同時に繰り出されたランスを、身を捻り避けそのまま片腕で掴み取った冥・O、こちらも反撃はさせるかとばかりに冥・Oのもう片方の腕を掴み押さえつける。

 必然的に、お互いのガンプラの頭部が激突し、拮抗状態に陥る。

 

「考える時間はいくらでもあったッ」

『でもそうそう思いつくものじゃない……ッ』

 

 ああ、確かに思いつかないだろうさ。

 でもオレは、見ている。あの7年前の彼らの戦いを。

 

「クリアファンネル。第7回ガンプラバトル選手権、アイラ・ユルキアイネンのキュベレイ・パピヨンの武装……それがお前の不可視の攻撃の正体だ」

『……く、くくく……すごいね。本当にバレるとは思ってなかったよ!』

「ノリコ!コスモ!近づくな!!ファンネルは全て破壊した訳じゃない!!」

 

 今俺が無事なのは、冥・Oに超至近距離にまで接近しているからだ。ここから少しでも離れれば、一瞬の内に脆い個所を攻撃され破壊される。

 

「でも私なら!!」

「!?」

 

 俺の制止を聞かずノリコが接近してくる。

 

『それは勇気じゃないよ、ザクのファイター』

 

 押さえつけている宝玉が光ると同時に、ノリコのザクの両脚と両腕の関節部が同時に破裂する。思わず叫びそうになるが、次の瞬間、無傷のザクが煙の中から姿を現した。

 

『!?……へぇ!!』

「私のザクは、装甲も関節もッ!!ザクとは違うのよ!!」

 

 ノリコのザクの拳が押さえつけている冥・Oの顔面を捉え……たかにも思えたが、瞬間、凄まじい勢いで全身からスラスターを噴出させ、抵抗する俺ごと別方向へ飛び出した。

 

「姿は変わってもジ・Oッ、なんていう出力だ……っ!」

 

 まずい、戦況を整えさせられる……ッ!

 第一接触で速攻で倒すのは無理だ……次の作戦に移らなければ……。

 

「コスモ!!試作二号機を探せ!!そいつが追加分のファンネルを持っている!!ノリコは俺と!!」

「分かりました!!」

『やっぱり一番厄介なチームだね!でもだからこそ!』

 

 そのまま抑え、抑えられながらも、ステージ内を数百メートルほど飛ぶ。

 しかし、そこで急停止、慣性力と共に急回転し俺のジンクスを引き剥がすように、森林の方へ弾き飛ばした。

 

「まず……!」

 

 ファンネルが来る事を悟って、不安定な体勢のまま急加速し、その場から離れる。瞬間、ジンクスのつま先部分に微かな金属音が響き、爆発が起こる。

 左腕のシールドで防御した俺は、その爆発を見てある確信をする。

 

「やっぱり爆発するファンネル……厄介な……」

『フフフ……』

 

 引き剥がされる際に手放してしまった俺のランスを地上に放り投げた冥・Oは、その場に浮きながら、こちらを静かに眺めている。

 主武装が落ちてしまった。取りに行かせてくれるほど甘い相手とは思えない……行った瞬間にファンネルが俺に襲い掛かるだろう。

 

「先輩!!」

「来たか……」

 

 やや遅れて到着したザクに若干安堵しながらも、冥・Oからは視線を外さない。

 全く……不可視の武装程恐ろしいものはない。ここはガンランスを諦め、ファンネルに捕捉される前に攻勢に転じた方が得策だな。

 腰にマウントしてあるGNビームライフルを左腕に、サーベルをもう片方に装備する。

 

「行くぞ……!」

 

 冥・Oの周りを高速で旋回しながらライフルを撃つ。当然冥・OはI・フィールドでそれを防ぐが、ノリコのザクがその隙を突き攻撃を仕掛ける。

 

「はァァァァ!!」

『それが完成していれば話は変わっていたかもしれない……でも』

 

 ザクの放った蹴りは、冥・Oの放った拳と衝突し弾かれる。だがノリコも大会で勝ち進んできたファイターの一人、弾かれた勢いを利用し、肩のスラスターで方向転換、姿勢を再び冥・Oに向け片方に掌を向け、至近距離でのホーミングレーザーを放つ。

 

「この距離なら照準は関係ない!」

 

 放たれる無数のレーザー、だがその攻撃は冥・Oに当たる事が無くI・フィールドによって防がれてしまう。予想していたが、冥・Oは極力武装を軽減しているせいか、運動性・機動性・粒子量が並のガンプラの比じゃない。

 

『狙いは良い。狙いはね』

 

 冥・Oの宝玉が連続で光る。その挙動に悪寒を感じとった俺は、すぐさまサーベルを冥・Oに向かって突き出すが、それも淡い光を放った腕部の宝玉に防がれる。

 

「粒子を放出して防いだのか!サーベルを!?」

『プラフスキー粒子の応用さ。それより、いいのかい?君の仲間は』

 

 ミサキの声に咄嗟に視線をノリコの方に向ける。すると、ノリコのザクの右腕と左脚の関節部に、連続して爆発が起こっているのが視界に映る。

 ラバーによって守られている関節部を集中して狙ったのか……ッ。

 

「……う、まだぁ!!」

『駄目だよ……』

 

 連続での爆発に耐えられなかったのか、爆発された関節から先が引きちぎられるように分断されてしまったザクは、爆発によって生じた風圧により、森林の方へ落ちていく。

 

「うぅ……ッ先輩っすいません!!」

「ノリコ!!」

『装甲を過信し過ぎたね』

 

 まさか限りあるファンネルを迷いなく、惜しみなく使ってくるとは。並大抵の攻撃が効かないノリコを真っ先に狙ったか……。これでは同程度の耐久力を持つコスモのジムもやられてしまうぞ。

 強い、強すぎる。ファイターとしての腕も、その観察力も、判断力も。俺が戦ってきたファイターの中で上位に位置するヤバさだ。

 ここまでして俺達の攻撃が一度たりとも当たってはいない事がさらに絶望的だ。

 

『さあ、敵討ちでもするかい』

「いや、これはガンプラバトルだ」

『……そうだね』

 

 まだノリコは終わっていない。俺は彼女の事を良く知っている、素直で負けず嫌い。このままやられて黙っているはずがない。それを理解しているからこそ、俺は冥・Oから視線を逸らさない。

 

『じゃあ一対一だね!!』

 

 突きだしたサーベルを防いでいる腕とは別の腕が動くのを見ると同時に、脚部を動かし冥・Oの腹部に膝蹴りを繰り出す。当然、回避しようとする冥・O、しかしその瞬間に膝蹴りを中止し、左腕のライフルを持ち替えて思い切り殴りつける。

 

『……ふ、く……は、はは!!』

「なッ!?」

 

 大きくのけ反る冥・Oだが、のけ反った状態のままこちらに拳を向け、ビームを放って来た。

 それを危うく躱そうとするが、左腕がシールドとライフルごとビームに巻き込まれ消滅する。

 

「っ!!」

 

 左腕が消失したと認識すると同時に、咄嗟にサーベルを何もない空間に無造作に振るい、右腕の関節を狙ったであろうクリアファンネルを撃墜させ、再度冥・Oに接近戦を挑む。

 

『えぇっ!?』

『君はニュータイプかい!?』

「残った腕を狙うのは当然だろう!!」

 

 正直な話、ホントに来てるとは思わなかった。

 

『並の神経じゃないね……。しかしよく気付いたねぇ!!ファンネルと分かったなら、普通ならそこで考えが止まるのに!!』

「関節部の爆発、それが第二の鍵だった!」

 

 ただのファンネルならおかしな点があった。ファンネルを用いているはずなのに、ビームを確認することができない事。透明なビームを放つことができると言われればそれでお終いかもしれないが、俺はガンプラバトル世界大会、決勝トーナメントの映像が入っている二枚目のディスクを見て、ある可能性が浮上した。

 

「レナート兄弟のジムスナイパーK9の『タイムストップ作戦』ッ。これはガンプラの関節部に小型の爆弾を取り付け、動きを止めるという戦術!!」

 

 メイジン・カワグチはガンプラの関節部にグリスを塗る事で破壊を回避したが、もし、その対策ができない兵器があるとしたらどうだろうか。

 もし、どんなファイターにも目視すらさせないファンネルと、ファンネルのように宙を意のままに停滞・突撃・その軌道を操作することができる兵器があるとすれば……。

 

「やり方は違うが、お前、いやお前達は見えない爆発するファンネルを使って、あの不可視の攻撃をしているということ……、それに当てはまるファンネルは一つしかない。ファンネルミサイル……そうだろう、ミサキ」

 

 ファンネルミサイル。 『閃光のハサウェイ』で登場した無線式兵器、ファンネルをビームを撃ち出す兵器としてではなく、それ単体をミサイルとした、既存のファンネルとは一線を画したファンネルである。

 

『……すごい、ここまで見破られるなんて……』

『そうだねミサト………そうさ、私達が使っているのはファンネルミサイル!!そこまで理解しているという事は、私達の冥・Oの秘密も、もう分かってると考えてもいいんだね!』

「……勿論だ」

 

 高出力のビームをロールする機動で危なげに躱し、接近を試みる。

 

「ッ!!確かにお前たちの冥・Oはジ・Oから作られた……でもジ・Oはファンネルを使わない。ある意味その認識に惑わされていた……でも!」

 

 ビームの隙間を抜けた先で、こちらに向けて突き出された粒子の纏った拳を、破壊された左腕の肩で受け止めながらも、冥・Oの尖った肩を下から切り上げるように切り落とした。微かな手応えを感じながらも思い切り息を吸い込み、間髪入れずに突撃をかける。

 

「ファンネルを使うジ・Oは存在する!」

 

 ゲーム以外では立体化も映像化もされていない設定上の機体だが、確かに存在する。

 ファンネルを使うジ・Oの強化型。

 

「お前達の冥・Oは確かにジ・Oを元にして作られたガンプラだ!!でも冥・Oとして形になる前の段階はジ・Oじゃなかった!!そう考えれば辻褄が合う!その白い塗装も!その鋭利な外観も!!ファンネルを扱う事も!!」

『君も相当のガンダム好きだね……今時知っている人なんて殆どいないよ……』

 

 何処か嬉しげな声音のミサキ、だがこちらはそんな事に反応している訳じゃない。こうしている今も、こちらを捕捉しようとしているであろうファンネルと、冥・Oの攻撃を必死に回避し捌く。

 

『タイタニア……それが私達の冥・Oの前のガンプラ。そしてタイタニアは冥・Oに変わった。無敵のロボットの名を関するガンプラにね』

 

 それが冥・O、全く出鱈目なガンプラだ。

 謎を解いた今でも感嘆の声が上がってしまいそうになる。第7回大会以降一度も見る事はなかったクリアファンネルを使いこなし、ましてやそれを使い捨てのファンネルミサイルにするという発想。

 そしてミサキと彼女の妹のファイターとしての圧倒的なセンス。

 俺一人では、今頃負けていたと思う。

 

『でも分かったからと言って勝てる訳じゃないよ!』

 

 確かにそうだ。

 隻腕のまま、ミサイルファンネルが飛び回るこの場ではかなり分が悪い。しかもこの高速戦闘下の中で負傷したノリコのザクが追い付けるはずがない。

 ミサイルファンネルの数は着実に少なくなってきている。……でも、試作二号機の大盾をバインダーに仕込まれているであろう分も考えれば安心はできない。

 

「コスモ、頼んだぞ……ッ。ここは保たせる…だからお前は………」

 

 冥・Oの拳とジンクスのサーベルが激突し、周囲に粒子を散らす。

 片腕の状態で何処までできるかは分からない。だけど、やれるところまでやらせて貰う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩にファンネルを持っているであろう試作二号機、サイサリスの撃墜を任された俺のイデオン・ジムは木々生い茂る森の中を飛んでいた。

 

「見つけた」

 

 サイサリスは思いのほか簡単に見つかった。

 先輩曰く、冥・Oのサポートを担っているであろうそのガンプラは、先輩達と冥・Oが戦闘を行っている場所から、一定の距離を保ち移動しているとのことだった。

 

 サイサリスを発見した俺のイデオン・ジムは、即座にミサイルを放ち、サイサリスの撃墜を試みる。

 

『……ッ!!見つかったか!!』

「そんな大胆に動かれちゃあ簡単に見つけられるさ!!」

 

 ミサイルを盾で防いだのを目視した後、すぐさま腕部の手の付け根付近からサーベルを出し、サイサリスへと斬りかかる。しかし相手のサイサリスも容易くはやられてはくれない。こちらと同じように展開させたサーベルで受けられる。

 

「ファンネルは出させない!!」

『……!!気付きやがったか……ッ。ならなおさら落とされる訳にはいかないな!』

 

 先輩は、サイサリスの持っている盾に不可視のファンネル、クリアファンネルが大量に積まれていると言っていた。何故、そのような予備のファンネルが必要なのかと疑問に思ったが、そのファンネルがミサイルなら納得がいく。

 ファンネルミサイル……絶大な威力を誇るが消費が激しい、そのためにファンネルミサイルを補充するための『ストック』、その役割を担うサイサリスが出てくるわけだ。

 

『……っ、く……うおおおおお!!ジムが何でこんな……ッ!』

「ただのジムじゃッない!!」

 

 サーベルを押し込み、サイサリスの頭部を融解させる。

 早く、早く決着を着けて、先輩とノリコの援護に向かうわなければならない……ッ!サーベルを展開している方とは逆の腕を前方に突き出し、内蔵したビームを撃ち出す。

 

 それを無理な体勢で動かした大盾で防がれ、その瞬間を狙われ両肩のスラスターの噴出によって大きく距離を取られる。

 

『ッ……ふぅ……成程、大会を勝ち上がって来たからには、相当強い……サポートしかやっていない俺では勝てないか……だが、俺を倒してもミサキとミサトの冥・Oには敵わないぜ』

「……それは貴方が決める事じゃない」

 

 サーベルの出力を上げたサイサリスに警戒しつつも、相手、オキツ・イサオの言葉に耳を傾ける。

 

『稀にいるんだよ、ああいう奴等は……。才能とでも言うのかね?クリアファンネルなんて只のおまけみたいなもんさ、本当のキリサキ・ミサキはただただ強く、キリサキ・ミサトは人に見えない何かが見える。それでガンプラを作る技術もあるんだから理不尽なもんさ』

 

 ……諦めた様に呟いている目の前のファイターは高校二年生の先輩だが、今の自分にはただ疑問だけしか抱けなかった。気持ちはすごく分かる、才能の違いを嘆くのは分かる。それは誰だって思う人の感情のようなものだから……。

 でも、それを今嘆くのは違うのではないか?今、自分に言うのは違うのではないか?今はそのキリサキ姉妹も戦っているし、先輩達も戦っている。それなのに理不尽だから負けを認めろと諭されても、はい、そうですかと納得するはずがない。

 

「強い、敵わない、そういう言葉はただの逃げだ。貴方がどんな魂胆でそういう話をしたかは分からない。時間稼ぎの為の嘘だとしてもっ!!今の言葉は……ッ、今この時に全力を尽くして戦っている先輩達に対しての侮辱だ!!」

『なら俺はどうしてこんな様になっている!?こんな棺桶のようなガンプラを操作して!!そうせざるを得なかった俺は何にどう訴えればいい!?』

「好きにバトルすればいいだろう!!それがガンプラバトルじゃないのか!!」

『大会で勝つ為にはそうするしかないだろ!?役に立てないまま突っ立てるよりも!!勝つ為にできる最低限のサポートを見せなければ、チームの一人である俺の立つ瀬がねえだろうが!!』

 

 怒声と共に大盾をはるか後方に投げ捨て、両手で握りしめた長大な長さと化したサーベルを構えて突撃してくるサイサリス。俺は迎撃するために脚部に内蔵された残りのミサイルを全て放つ。

 

「そんなつまらないプライド……!」

『つまらないプライドだからこそッ……守らなければ意味ないじゃないか!!』

「守らなければ保てないプライドなんて……!」

 

 ミサイルを身に受けながらも突き進んで来たサイサリスが振るった高出力のサーベルを、腕部のサーベルで受け止める。サーベル同士が激突し、強烈な光が周囲を明るく照らす。

 相当無理な操縦をしているのか、先程は勝っていた力が今は拮抗している。そのかわり、目の前のサイサリスの腕部からは故障したようにスパークしている。

 

「そんな使い方……身を滅ぼすぞ!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

「……ッ!」

 

 この人がやっている事はただの八つ当たりだ。でもその八つ当たりの矛先は自分自身、選手権でのバトルに自信を見出せない不満からくるもの。

 荒んだ心に武器は危険、とはうまい言葉だとこんな時だからこそ思う。

 

「でも、負けてやるわけにはいかない……ッ」

 

 終わらせる。

 両腕に内蔵された16本のサーベルを同時に発動させる。隣り合ったサーベルは相互作用によって粒子同士が干渉し、その出力を倍増させてゆく。

 V2ガンダムのビームサーベルの使い方を見て自分で作り上げ、それに先輩の手も加わって作る事が出来たオリジナルのビームサーベル、これで断ち切る。

 

『サーベルが伸びッ……!?』

「イデオンソォォォ―――――ド!!」

 

 自身の5倍を優に超える長さのビームサーベルを手首から伸ばしたイデオン・ジムは、そのまま木々をなぎ倒しながら、動きを止めたサイサリスへと横薙ぎに振るう。

 

 サーベルの枠を超えた発光した粒子の塊は、サイサリスが防御した高出力サーベルにぶつかり粒子を撒き散らす。

 

『こんな、バカみたいなサーベルが……ッ!!』

「バカを突き詰めてこそ……ッガンプラファイターだろォォォ!!」

 

 腕を力の限り突き出し、イデオン・ジムのパワーを最大にまで上げる。同時にサーベルが凄まじい勢いで粒子を放出しその色を白色に変え、サイサリスのサーベルを徐々に消滅させ、巨大な刃を本体のサイサリスへと迫る。

 

『……ッ……最低限の仕事はできたかね……』

 

 俺の予想のソレを上回って巨大な光線と化したサーベルはサイサリスの胸部から下を消滅させ、その後方の森の木々までをも両断した。

 

 腕を振り切ったイデオン・ジムの視界には上半身のみとなったサイサリス。その光景に何処か虚しさを感じながらも、元のピンク色に戻ったサーベルの出力を切る。

 

「あの人……いやそれより……白くなった……まるで……」

 

 イデオンソードみたいに。まるでどんな巨大な物でも両断した、あの光の剣のように。思い出されるのは先輩の言葉、これがプラフスキー粒子の『未開の可能性』。

 

「そうだ、ファンネルが!!」

 

 サイサリスが捨てた大盾の事を思いだし、すぐさま捨てられた盾の方に近づく。急いでファンネルを破壊してすぐに先輩の援護に向かわねば。

 巨大な盾を裏返しにしその中身を見る。先輩の話からすると、ここにクリアファンネルが格納されているはずなんだが……。中を探ろうと手を差し入れた瞬間、盾の内側の一部が破裂し、複数の留め金のような物が弾け飛ぶように上に飛んで行った。

 

「な!?」

 

 爆弾!?咄嗟に距離を取るが何も起こらない。

 

「……まさか!」

 

 盾の持ち手を掴むとまるで積み木のようにボロボロと盾の部品が地面に落ちていく。

 ……やられた。俺はそこで、彼がこれを見越して盾を捨てた事に気付いた。考えてみれば当然だった。あの広範囲攻撃に耐えうる盾が、敵に悪用されないとは限らないのだ。

 そのための安全策は当然の如く用意しているはず。そう考えると、さっきの人の煽るような言動は何処かおかしかった。あれではまるでこちらの意識を盾から逸らすように……。

 

「ファンネルは!!……ない!?」

 

 ここにはないという事は既に飛ばされている事になる。

 相手のファンネルの及ぶ範囲を見誤っていた……。全てのファンネルが先輩達の方に既に行っているとしたら相当不味い。

 

「……先輩!!ノリコ!!」

 

 戦闘中なのか、先輩にもノリコにも繋がらない……。いてもたってもいられず、周囲の空を見回し、先輩達が戦っている場所を探す。近くでいくつもの爆発音と、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえる。その方向に目を向けると、この場所からさほど遠くない距離で、二つの影が凄まじい速さで戦闘しているのが目に入る。

 そして―――。

 

「あれは……」

 

 二つの影の内の一つが急停止したかと思った瞬間、凄まじい爆発が二つの影があった場所で起こった。

 考える前に直ぐに機体を動かしていた。あの二つの機体が何かは判別がつかないが、一つだけ分かるのは、この戦いに終わりは近い事、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……来た』

 

 戦闘の最中、冥・Oを突如制止させたミサキが静かにそう呟いた。バトルが始まってから数十分、なんとか凌いではいるものの、こちらは既に満身創痍だ。

 消失した左腕は肩からなくなり、脇腹の装甲はビームによって焼き焦げ、武装はGNビームサーベルしかない。対してミサキの冥・Oは所々に損傷は見られるが、まだまだ戦える状態にある。

 それに先程の言葉。

 

「追加のファンネルが来たという事か」

『そうだよ、私の仲間が近くまで持ってきてくれたんでね』

 

 コスモは間に合わなかった……いや、この場合相手の方が上手だったという事か。どうしようか、このまま奥の手である『トランザム』に賭けてみるのもいいが、エネルギーを考えると確実性が無さ過ぎる。

 

『ミサト、メイオウを発動させるよ。最大出力でね』

『了解』

「させるか!!」

 

 制止している冥・Oの全身の宝玉が黄金色に輝くのを見ると同時に、阻止するべく前に飛び出す。しかし俺の進む先を塞ぐように、一つのファンネルミサイルが爆発するのを皮切りに、爆発により生じた黒煙により姿を現したファンネルミサイルが次々と自爆していく。

 俺を狙うのではなく冥・Oへの行く手を強引に塞いでいるのか。

 

『だからこそのファンネルミサイルさ。キミ相手に棒立ちは余りにも無防備すぎるからね』

 

 爆発による余波に晒され装甲がどんどん剥がれていく。頭部はファンネルの破片が突き刺さり、右腕のサーベルが吹き飛ぶ。このままではあの広範囲攻撃が放たれ、俺のジンクスは完全に破壊されてしまうだろう。迷っている暇はない。

 

「トランザ――――」

『遅いよ!!』

 

 冥・Oが両の手を胸部の宝玉に重ね合わせた。

 瞬間、暴力的なエネルギーが爆発するように周囲へ放たれた。

 

「メイオウ……そういうことか……っ!!」

 

 目前にまで迫って来る破壊の力に俺は成す術もなく飛ぶことしかできない。

 このまま終われるかッ、まだ全国に行っていない。後輩たちの期待にも応えていない。

 

「トランザム!!」

 

 粒子量を三倍にするトランザムのスピードで後方に退する。だが相手は高濃度の粒子の全方位攻撃。簡単には逃げきれず、その距離はどんどん近づいていく。

 ジンクスの片足がトランザムの負荷に耐えきれず破裂した。瞬間、一瞬だがジンクスのバランスが崩れ、ガクンとスピードが緩む。

 

「ここまでか……!!」

 

 

『先輩!!』

 

 

 光に飲み込まれる寸前、俺を呼ぶ仲間達の声が聞こえた。

 

 




冥・Oの正体はタイタニアでした。
ファンネル搭載機って事は、やっぱりパプテマス様ってすごかったんですね。


PSP版の魔装機神Ⅱが960円で売ってたので欲に負けて買ってしまった……。
サイバスターってやっぱりカッコいいですね。小さい頃に見たアニメ版の『魔装機神サイバスター』の印象がありましたけど……あのアニメはOPが印象的でしたね。……うん。

次話もすぐさま更新致します。





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