夜の公園・・落とし物危機一髪
日が暮れて、夜の公園は静かで、遠くから都市の光がチラチラと輝く中、僅かな公園の街灯があるだけで、実に公園は昼間とは違う怪しく怖い様子になっていた。
そんな中で、一人のスーツ姿のサラリーマン風な男が現れて、茶色のカバンを持ってベンチにゆっくりと腰かけた。
すると隣から野球帽子と革ジャン姿の中年男が現れ、ゆっくりと男の隣に座った。
「今日も寒いね、タバコはあるかね?」
「もちろんだ、6ミリのタバコが3ピース分だ、ライターは?」
くしゃくしゃな古いタバコの箱をサラリーマンが取り出して中から3本の紙タバコを手渡すと、マッチ箱を差し出した。
「マッチならある。残念ながら一本しかない」
「では、火をいただこう」
中年男がタバコを取り出したので、ゆっくりと火を着けた。
「そうか、これをどうぞ」
すっと、男がサラリーマンから茶色封筒をそっと受け取ってその場を離れる。
そして数分後にまた、作業服姿の男性とトレーナー姿の青年がお互いに公園を歩きつつ、お互いにお互いの持っていたカバンとカバンを交換する姿もあり。
この町の中で、この公園はちょっとした受け渡し場所として機能するのが、この公園だ。
時に違法なモノ、そして時に意外なものが受け渡し場所となる。
次の日、公園のトイレ清掃中にある黒いアタッシュケースが見つかる。
見つけた人物は公園のトイレ掃除を行っている掃除職員で年齢は50歳ほどの中年男、近所の人からはヤブさんと呼ばれた人物だ、ヤブさん怪しいアタッシュケースの始末に困り、早朝の公園前にある交番に向かったのである。
「おーい、巡査よ、落とし物んだ、鍵は閉まってるけど、なんか変な黒いアタッシュケースだ、面倒な落としモノはお前の管轄だろう?」
公園前の交番はこの辺りで一番近い警察官のいる場所で、公園創設前から存在して駐在所なり、派出所なり、名前を変えて今は公園前から地域の治安の一端を担っている。
白いコンクリートの建物で、玄関はガラスドアがあり、内部は一つの銀色のよくある事務机と椅子が2つ、書類入れの戸棚がある程度だ。
奥には一応夜勤の警官が寝るスペース用の四畳半の部屋とガス台のある流し程度のこじんまりとした建物だ。
「なんだよ、厄介な代物か?偽造パスポートか?変な宇宙人のガジェットツールか?それとも片言で帰り道のわからなくなった外国の王女様か?ヤブのおっさんにしても、この町内会の連中が拾ってくるモノはろくなもんがない」
「ここはそんな事件しか起こらんよ」
やれやれといった感じに水虫の薬を足に塗っている着崩した制服姿で、三十代ほどの年齢の男の巡査にして、本庁からこの地域の治安維持担当者の巡査が奥から顔を出した。
「ローマの休日みたく、外国の要人が逃げた時みたいなことはないよ、それよりこのアタッシュケースを拾いにあったから遺失物に届けにきたんだよ」
古いダイヤルが3つあり、そこそこ使い込んだ感じの黒いアタッシュケースといった感じで、特に耳を澄ませても特に何も音がしなかった。
「おいおい、このカバンは大きいな、ヤスさん、まさか冷戦時代みたいにこんなデカイアタッシュケースだからって、中東国の小型9ミリマシンガンが入っているオチはやめてくれよ」
巡査はそのまま、遺失物の書類を戸棚の書類と筆記用具をヤブさんに手渡して、交番でも唯一の事務机の前に座らせてから、クーラーの冷気を温度を2度下げてから、ヤブさんに麦茶を差し出した。
「それにしても、中はあまり重くないな」
そんな風に巡査が不思議な感じにアタッシュケースをさわって調べていた時、いきなりドアを何者かが開けると共に、黒いスーツとサングラスというどこかのエージェントっぽい西洋人風な男が現れて、アタッシュケースを指差した。
「スミマセン、ソレハはコチラノ忘れ物デス、返してくだサーい」
それと同時に、今度はまた違う赤いスーツの赤いグラサンの東洋人風な男も現れて、その忘れ物は私のモノと主張したのだ。
「えっと、どうする?巡査」
「まあ、待て一体あんた達は何者だ?」
黒いスーツの男はポケットから身分証を開いて見せた。
私は西洋国の外交官の随伴員で、そのアタッシュケースは大使が酒に酔ってここのトイレで忘れたモノなので、回収にくるように言われたのだ。っと主張。
赤い服の人物の方も「ワタシは外交官のズイハイン、コレハ大使どのの、重要な書類が入ってマース」
自分自身を隣国の東洋国の捜査員で、そのアタッシュケースは我が国の大使の書類等が入っているので、すぐに渡すようにと、同時に外交官特権に関する書類などをヤブや巡査に手渡して見せる。
双方がやや片言な日本語なために困る巡査とヤブさんだったが、それを巡査が思わず制した。
「待て待て、あんた達の言うことが正しいとしても、双方の大使の私物としても誤って間違えて渡したら問題になるぞ、自称随伴員さん達」
先ほどまで困った様子の巡査が笑顔で東洋国と西洋国の独特な言語を話す姿にポーカーフェイスの自称随伴員は少し驚いた様子だった。
「えっ、どういうこと?この外国人さんの言葉喋れるのか、巡査?」
「まあ、あれだ、ヤブさんよ、趣味で語学講座通っただけさ、たまたまだよ」
困ったヤブさんを落ち着かせる言葉で話した巡査の顔は汗だくだった、クーラーの冷気はあるけど、この現れた2人は明らかに懐に何かしらのモノを隠していること、そして体つきや目付きがどうみても工作員という風な感じしかしなかった。
この東洋国と西洋国は双方のイデオロギーや経済やら、軍事面でも対立しているそうで、両国が唯一仲良しな所は日本のサブカルチャーが好きという部分だ、地理的部分から両国の中間にあるために、両国が争うと必ず巻き込まれるのである。
ヤブさんも困った様子で机の筆記用具の鉛筆をゆっくりと、袖に潜ませながら息を飲んだ。
「カバンの中身をチェックする、お互いに鍵の番号を伝えてくれ、渡すにしても最低限カバン開ける程度ならばいいだろう?」
「マアイイデショウ、ワタシノホウモJAPANで争いはノゾンデナイ」
「ハ~イ、ワガクニモ同じく」
ウンウンと応じる二人の同意と共に、それぞれがアタッシュケースのパスワードを巡査に伝えると、おもむろに巡査はゆっくりとアタッシュケースのキーロックをゆっくりと回していく、数分、数十分が室内の人間には非常に重く感じる。
「おい、この国際エージェントども、お前らの言ってる番号がそもそも違っているぞ」
「オヤ、ソンナはずでは?」
「確かに、大使カラソノヨウナ番号と聞いていたハズ!?」
2人のエージェントの伝えた789、515でも開かない、困った巡査の尻目に、ヤブさんがカバンのキーロックを弄り出した。
「三人とも、頭が固いよ、こういうのは最後は適当にやったら、簡単に」
ヤブさんがキーロックを簡単な000に合わせた途端にすんなりとアタッシュケースが開く。
「核兵器開発研究施設があってな、戦時に高性能爆弾作った時に、担当者の将校も博士も重要な研究情報の書類が入った金庫のキーロック番号弄らずに初期の0000ってままにしていた話があったから試したら案外いけるな」
その時、同時に二人のエージェントの通信装置も同じく鳴り響くと同時にメッセージを確認したエージェント達は文書を読んだ後に、アタッシュケースの中身を確認しないままにその場を後にしたのである。
「君達、ドウヤラ迷惑をカケタヨウダ、そのカバンはもう重要デハナカッタヨウダ」
「我が国も同様だ、この件は内密に頼む、JAPANにも不利益トナル案件だ」
軽くアタマを下げると共に、エージェント達はそそくさと、建物を後にしていく。
「やれやれ、大使の勘違いかよ、つまらんな」
「緊張しましたよ、全く」袖から出した鉛筆をゆっくりと筆記用具の側に戻して、安堵したヤブと巡査。
アタッシュケースの中身については、そこまで重要じゃなかったのだ。
何故か、事の顛末は夜の公園にたまに来るおでんの屋台の店先で自治会長の口から聞かされた、どうして自治会長が知っているかについては二人とも知りたくもなかったので、深くは聞かなかった。
両国の大使は仕事上で水虫に困っていたので、日本製の水虫薬の調達を行うと考えたそうな、大使が水虫という事がバレると国際的な笑い話となり、結果として国益を損なうと考えて、私的ルートで水面下で密輸しようとしたら、両国に敵対するエージェント達が大使の動きに過剰反応した結果として、密輸品を何か特別なモノと勘違いして、奪い取ったそうな。そしてこの公園で密輸品と大使が水虫というどうでもいい情報を受け渡しに、この公園を選んだそうな。
結果として水虫という事はすでに大使の妻経由で誰も彼も知っている事実であり、情報流しても外国のタブロイド系の新聞程度が掲載する程度の事、敵対国の工作員を対立していた両国が水面下で共闘した事で、むしろ外交的な対立解消のきっかけになったという事らしい。
あのアタッシュケースの中身の見覚えのある薬剤は巡査も使っている日本製の水虫薬という事だ。
その問いに巡査もヤブさんも渋い顔で“心底どうでもいい”という顔で返した。
ある日、日常のある一幕で起こる手に汗握るアクションです。基本的に一つの場面で展開していく感じに書いてます。