淡海乃海 獅子の子が描く波紋   作:竹若丸

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今までずっと「小夜」のことを「こや」と読んでいました。
正しくは「さよ」なんですね。


第2話

永禄十年(1567年) 三月下旬 近江伊香郡塩津浜 塩津浜城 朽木小夜

 

 庭の木々にも新しい葉が見えるようになった。冬の間は障子を閉めていることが多かったが、今では昼の暖かい間だけ、少し開けておくことも出来る。風はまだ冷たいものの、日差しを受けた畳は、ほんのりと暖かそうだった。竹若丸はその上に敷いた寝具の中で、目を開けていた。

 

 生まれたばかりの頃は、眠っているか、泣いているか、乳を飲んでいるかのどれかだったように思う。今も一日の大半はそうして過ごしているが、起きている時には辺りを眺めるようになった。近くを人が通ると、顔をそちらへ向けることもある。つい見入っていると、傍で着物を畳んでいた女房が声を掛けてきた。

 

「若君は、先ほどからよく目を動かしておいでですね」

「ええ。あちらを御覧になっていたかと思うと、今度はこちら。何が気になるのでしょう」

「少しずつ、周りのことがお分かりになってきたのでございましょうか」

「どうでしょう。私にもまだ、分からないことばかりです」

 

 女房が笑いながら畳んだ着物を持ち上げると、竹若丸の目がそちらへ動いた。着物の色に惹かれたのか、それとも動くものが気になるだけなのか。女房が布を脇へ置くと、今度は私の顔を見つめているようだった。しばらく待ってみたが、声を出すわけでも、笑いかけてくるわけでもない。

 

「竹若丸。母ですよ」

 

 顔を近付けて呼んでみる。竹若丸は私を見たまま、小さく口を動かした。返事をしてくれたのかと思いかけ、すぐに自分で可笑しくなった。まだ言葉など分かるはずもない。それでも、こうして私の顔を見つめ、声を掛ければ何かしら反応を返してくれる。それが今は何より嬉しかった。

 

「随分とお静かでございますね、若君は」

「昨夜はなかなか眠ってくださらなかったのですよ。お腹が空いたのかと思えばそうでもなくて、抱いてもすぐには泣き止まなくて」

「左様でございましたか」

「ですから、いつも静かというわけではありません。けれど、こうして何かを見ている時は、あまり声を出さないようですね」

 

 泣き方にも少しずつ違いがあることを、最近になって覚えた。乳が欲しい時、眠いのに眠れない時、濡れた襁褓が気持ち悪い時。見当違いのことをして、かえって泣かせてしまったことも一度や二度ではない。それでも以前ほど慌てなくなったのは、竹若丸が育っただけでなく、私もこの子との暮らしに慣れてきたからだろう。

 

「近頃は、お城の中も慌ただしゅうございますね」

「ええ。越前のことも、京のこともありますから」

「殿は今朝も早くから御用でございましょうか」

「そう聞いています。少しは休んでいただきたいのですけれど」

 

 越前では残る大野郡や吉田郡のことがあり、雪解けを待って事を進めるらしい。亡き将軍の弟である足利義秋様を上洛させ、将軍に立てるため、織田や六角、一色も協力するという話がある。殿から伺った時には驚いた。昨年、兄は六角と朽木が争うことになるかもしれぬと話していたからだ。今は同じ方を向くということなのだろうか。

 

 殿は、まだどうなるか分からぬと仰っていた。夫があれこれと気を配らねばならないことは分かるが、私には何も出来ない。せめてお戻りになった時には、竹若丸の顔を見て少しでも気を休めていただければと思う。

 

 女房が新しい襁褓を取りに立つと、竹若丸はその姿を追うように顔を動かした。私は傍らに座り直し、寝具の端を整えてやる。やがて女房が戻って来ても、竹若丸は泣かずに天井の方を見ていた。物音に驚くこともあれば、傍で人が動いても気に留めないこともある。赤子とは本当に不思議なものだ。

 

「少し抱いて差し上げましょうか」

「ええ、お願いします。私はその間に、文の続きを書いてしまいます」

 

 女房に竹若丸を預け、近くに置いてあった文へ手を伸ばした。清水山城の大方様へ、竹若丸が健やかに育っていることをお知らせしようと思い、少し前から書きかけていたものだ。首の動かし方がしっかりしてきたこと、以前より人の顔をよく見るようになったこと。書きたいことは幾つもあるのに、いざ筆を取ると、どれから伝えればよいのか迷ってしまう。

 

 ふと、女房の腕の中から短い声が聞こえた。顔を上げると、竹若丸がこちらへ目を向けている。女房が優しく揺すっても、目は私の方を向いたままだった。試しに名を呼ぶと、また小さな声がした。

 

「どうしたの、竹若丸。こちらへ来たいのですか」

「奥方様をお探しなのでございましょうか」

「そうなら嬉しいのですけれど」

 

 女房から受け取って抱き上げると、竹若丸はしばらく私の顔を見ていた。やがて頬を寄せるように顔を動かし、静かになった。偶然かもしれない。抱かれた心地が良かっただけなのかもしれない。それでも、何かを求める時に私の方を見るのだとしたら、少しは母親として頼りにしてもらえているのだろうか。

 

 竹若丸は間もなく目を閉じた。抱いたままそっと座り、寝息が落ち着くのを待つ。書きかけの文は手の届くところにあるが、急いで仕上げることもあるまい。大方様には、この子が少しずつ大きくなっていることを、いくら言葉を尽くしても伝え足りない気がする。

 

 生まれた時には、こんなふうに静かな顔を眺めていられる日が来るなど考える余裕もなかった。今は、明日にはどんな仕草を見せてくれるのか、それが楽しみだった。

 

 

 

 

永禄十年(1567年) 九月中旬 近江高島郡安井川村 清水山城 朽木綾

 

 庭を渡る風が、膝の上に広げた文の端を揺らした。昼にはまだ暑さが残るが、朝夕は随分と涼しくなった。小夜殿から届いた文を、私は先ほどから繰り返し読んでいる。竹若丸の近頃の様子が、細かく書き綴られていた。

 

 春の文には、人の動きを目で追うようになったとあった。今度は、支えてやれば座っていられるようになり、気になるものには自分から手を伸ばすという。随分と大きくなったものだ。小夜殿も嬉しいのだろう。昨日まで出来なかったことを見つける度に、こうして知らせてくださる。

 

「大方様、また奥方様からのお文でございますか」

「ええ。何度読んでも飽きませんね」

「お静かな若君だと、奥方様から伺っております」

「そうなのです。人の顔をじっと見ていることが多いそうで」

 

 言いながら、私は文へ視線を戻した。あまり泣かず、周りの様子を黙って眺めている。そんな話を読む度に、幼い頃の大膳大夫が思い浮かぶ。あの子も手の掛からぬ子だった。大人が傍にいても、一人で何かを見つめていることが多かった。竹若丸が似ていると知った時も、嬉しいとは思えなかった。あの子にどう接すればよいのか分からなかった頃のことが、先に浮かんでしまったのだ。

 

「ですが、眠い時には随分と泣くようですよ。小夜殿も夜には手を焼かされるとか」

「まあ。それでは奥方様も大変でございますね」

「ええ。それに、抱いてほしい時には小夜殿の方へ手を伸ばすそうです」

「若君もお母上が一番なのでございましょう」

「そうだと良いですね」

 

 思わず頷いてから、もう一度その一節を読んだ。小さな手が袖に触れたこと、抱き上げると頬を寄せたこと。大膳大夫は、幼い頃から抱かれることをあまり好まなかった。無理に抱き上げても、喜んでくれた覚えが少ない。竹若丸は静かなところが似ていても、母を求めることは出来るらしい。そのことに気付くと、強張っていた指先が少し緩んだ。

 

 正月、小夜殿が竹若丸を連れて清水山城へ来た折には、まだそこまでの違いは分からなかった。御義父様が曾孫を離そうとなさらず、小夜殿が笑っていたのを覚えている。目元が大膳大夫に似ていると口にした時、小夜殿は嬉しそうに頷いた。私はその顔を見て、胸に浮かんだことを飲み込んだ。似ていないところもあると分かった今は、ようやく少し気が楽になった。

 

 文を畳もうとしたところで、廊下に足音が近付いた。女房が一度席を外し、程なく戻って来る。いつになく改まった様子で頭を下げた。

 

「大方様。塩津浜から六角家のことで報せが届いております」

「六角の……。左京大夫様のことですか」

「はい。旧六角家臣の方々は、その多くが正式に朽木に仕えることとなりました。左京大夫様は御命を助けられ、朽木領外へお放ちになるとのことでございます」

「……御命を?」

「はい。大膳大夫様の御沙汰と伺っております」

 

 私は思わず顔を上げた。夏に六角家の当主、左京大夫輝頼が敗れ、捕らえられたとの報せは既に届いている。上洛に協力するはずだった六角が、逆に朽木と敵対したのだ。六角家が滅びたことにも、今更驚きはしなかった。けれど、左京大夫の命まで助けるとは思っていなかった。

 

「……処刑なさるものとばかり思っていました」

「大方様?」

「上洛を妨げたばかりか、背後から兵を向けようとしたのでしょう。あの子がそれを許すとは、思いませんでした」

 

 女房は何と答えてよいか分からぬ様子で、目を伏せた。私もそれ以上は尋ねなかった。あの子がどれほど腹を立てたか、実際に聞いたわけではない。けれど、敵と見定めた相手に容赦しないことは知っている。戦の知らせを聞く度、あれほどの働きをする息子を誇らしく思うべきなのだと自分に言い聞かせた。けれど、どうしてもそうは思えなかった。幼い頃から、あの子を前にすると、どこか知らぬ者と向き合っているような気がしていた。何を考えているのか分からず、時には怖かった。今も戦場での働きを聞くと、あの頃と同じ戸惑いが戻ってくる。

 

 命を助けたのは、旧六角家臣のことを考えてのことかもしれない。長く仕えた主を見限ったとしても、殺されるのを望むとは限らない。大膳大夫なら、そうしたことも考えているのだろう。だが、それならばなおさら、私が思うよりずっと先を見ていることになる。

 

「大膳大夫様も、随分と御心の広いことでございます」

「……そうですね」

 

 すぐに返事が出来なかった。寛大だったのだろうか。それとも、殺さずとも困ることはないと見切ったのだろうか。どちらであっても、六角の旧臣達には有難い御沙汰に違いない。母である私があの子の考えを測りかねているというのに、家臣達はその判断に従っている。頼もしい当主なのだろう。それは分かっている。それでも、私には時折、あの子が随分と遠いところにいるように感じられた。

 

 幼い頃から、私はあの子にどう接してよいのか分からなかった。夫が亡くなってからはますます大人びて、気が付けば我が子に声を掛けるにも言葉を選ぶようになっていた。今では多くの家臣が頼りにする当主となった。それでも私には、あの子が何を考えているのか分からない時がある。母親だというのに、昔から何も変わっていないのかもしれない。

 

 膝の上の文が、また風に揺れた。目を落とすと、小夜殿の丁寧な文字が目に入る。竹若丸は、呼びかけにいつも応えるわけではないらしい。それでも、抱いてほしい時には手を伸ばすという。

 

「大方様、障子を閉めましょうか」

「いいえ。このままで良いですよ」

「お寒くはございませんか」

「大丈夫です。もう少し、文を読んでいたいので」

 

 女房が静かに下がった。竹若丸が大膳大夫に似ているのなら、いつか小夜殿も戸惑うことがあるかもしれない。けれど、今のところ竹若丸は、嬉しいことも嫌なことも、幼いなりに母に伝えているらしい。それが分かるだけで、私は幾分気が楽になった。

 

 文を丁寧に畳み、いつもの箱に納めた。大膳大夫が戻ったら、左京大夫のことを一度聞いてみようか。そう思ったものの、どのように尋ねればよいのかは、まだ決められなかった。

 

 

 

 

永禄十年(1567年) 九月下旬 近江高島郡安井川村 清水山城 朽木基綱

 

 塩津浜城での評定を終え、九月も下旬になってから清水山城へ来た。小夜と竹若丸も一緒だ。御爺と綾ママに息子の成長した姿を見せるのが目的だが、俺自身、久しぶりに家族でゆっくり過ごしたかった。ここしばらく戦と政ばかりだったからな。もっとも、仕事はまだ山ほど残っている。場所を変えたところで消えてくれるものでもない。

 

 部屋には御爺と綾ママ、それに小夜と俺が揃っている。竹若丸は小夜の傍らに敷いた寝具の上で、身体を支えてもらいながら座っていた。俺の持っている扇が気になるらしく、さっきから手元をじっと見ている。扇を右へ動かすと目も右へ、左へ動かすと左へ向いた。

 

「ほう、よく見ておるのう。大膳大夫、もう少し近付けてやれ」

「御爺、近付けるのは良いが、取らせるわけにはいかんぞ。扇の骨で怪我をしては困る」

「分かっておるわ。何をそんなに心配しておる」

「竹若丸が何でも手を伸ばすようになったものですから。私も目が離せません」

 

 小夜がそう言うと、御爺は面白そうに笑った。竹若丸はそちらを一度見たが、すぐに扇へ視線を戻した。おいおい、曾祖父より扇か。御爺が少し不満そうな顔をする。綾ママはその様子を見て微笑んでいた。

 

「竹若丸殿も随分と大きくなりましたね」

「ええ、俺も会う度に驚かされます。小夜から文で聞くのと、実際に見るのとでは違いますね」

「ふふ、文ではお伝えしきれませんもの」

 

 竹若丸が前へ身を乗り出しかけたので、俺は慌ててその身体に手を添えた。小夜が腰を支えていたが、扇を取ろうとして随分と前のめりになっていた。指先が扇の端に触れたが、掴めずに滑った。もう一度手を伸ばしている。諦めが悪いのか、それとも単に面白いのか。まだ九か月ほどの赤子に尋ねても答えは返ってこない。俺は扇を畳んで脇に置き、小夜から受け取った柔らかな布を差し出した。

 

「こちらにしておけ。扇はまだ早い」

 

 竹若丸は布を握ったものの、しばらく扇の置かれた方を見ていた。何か言いたげにも見えるが、もちろん気のせいだろう。やがて布を引っ張ったり、持ち替えたりし始めた。

 

「静かな子じゃな。大膳大夫、お主の幼い頃を思い出すわ」

「俺もそんなに静かだったか?」

「そりゃあ、そうじゃ。あまり手の掛からぬ子であったぞ」

 

 御爺の声は楽しそうだったが、綾ママはすぐには何も言わなかった。小夜が竹若丸の背を支え直すのを見てから、ゆっくり口を開く。

 

「でも、竹若丸殿は小夜殿をよく頼りにしているようですね」

「ええ。抱いてほしい時は、こちらへ手を伸ばしてくれます」

「それは良いことです」

 

 綾ママはそう言って竹若丸に目を向けた。ほんの少し間があったように感じたが、何か気に掛かることでもあるのだろうか。御爺がまた扇を手に取ろうとしたので、俺はそちらへ向き直った。

 

「御爺、またか」

「今度は見せるだけじゃ。そんな目をするな」

 

 まったく、御爺の方がよほど子供みたいだな。俺も笑ってしまった。こんな時間を持てるのは有難い。塩津浜城では朝から晩まで誰かしらが用件を持って来る。旧六角家臣の受け入れ、新たに得た南近江の仕置、北陸の守り。勝ったから終わり、というものではない。

 

 六角左京大夫輝頼。あいつのことを思い出すと、今でも腹が立つ。義秋様の上洛が潰れたこと自体は、さほど問題ではない。協力するはずだった六角が、こちらの背後を突こうとしたことが問題なのだ。七千の兵を率いながら、戦況が悪くなると国人衆に次々と見限られ、最後には捕まった。名門の当主というだけで、家臣がいつまでも従うと思っていたのだろう。

 

 もっとも、俺が左京大夫を処刑したところで、何か良いことがあるわけでもない。旧六角家臣は昨日までの主を失い、家を守るために朽木へ頭を下げている。左京大夫を見限ったからといって、その死まで望んでいるわけではない。だから命は助け、朽木領外へ追放した。情けというより、これから南近江を治める上で必要な判断だった。

 

「どうした、大膳大夫。急に黙り込んで」

「いや、少し考え事をしていただけだ」

「まだ六角のことが気になるのか」

「気にならんと言えば嘘になるな。これからが大変だ」

「それはそうじゃろう。土地を得れば、その分人も増える。厄介事も増えるわ」

「ああ。朽木のやり方を知ってもらうにも時間が要る」

 

 御爺は頷くと、それ以上は尋ねなかった。綾ママは俺を見ていたが、視線が合うと竹若丸の方へ目を戻した。俺の顔に何か付いているわけでもあるまい。疲れた顔をしていたのかもしれない。

 

 越前に攻め込んできた一向宗の一揆勢を、木の芽峠では一人も逃がすなと命じた。その俺が左京大夫の命は助けたのだから、傍から見れば勝手なものだろう。だが相手も事情も違う。俺の判断が正しかったかどうかは、これから分かる。旧六角家臣が朽木を主と認め、領民が安心して暮らせるようにして初めて、あの処置にも意味が生まれる。

 

 竹若丸が手にした布を落とした。小夜が拾って渡そうとすると、今度は綾ママの方へ身体を向けたように見えた。綾ママがそっと手を差し出すと、小さな指がその指先に触れる。

 

「まあ、どうしました、竹若丸殿」

「綾、竹若丸もお主に抱いてもらいたいのではないか?」

「どうでしょう。まだ、そこまでは分かりませんわ」

 

 綾ママは無理に抱き上げようとはせず、そのまま指を握らせている。竹若丸はしばらく手元を見つめ、やがて指を離した。小夜が抱き上げると、今度はその胸元へ顔を寄せる。やはり母親が一番か。

 

 この子もいずれ朽木を継ぐことになる。その時、家臣が主君に何を求めるのかを知らずにいれば、左京大夫と同じ失敗をするかもしれない。もっとも、今からそんなことを考えても仕方がない。竹若丸はまだ、つい先ほどまで布を握って遊んでいた赤子なのだ。俺は少し先のことを考え過ぎているのかもしれない。

 

「大膳大夫、何を笑っておる」

「いや、竹若丸は幸せ者だと思ってな」

「何じゃ、急に」

「御爺にも母上にも小夜にも、こうして見てもらえる。俺も出来るだけ一緒にいてやりたい」

「それならば、もっと清水山へ顔を出せば良い」

「御爺、簡単に言ってくれるな」

 

 御爺が声を上げて笑い、小夜も笑った。綾ママは竹若丸の方へ目を向けたまま、静かに口元を緩めている。俺はまた扇を手に取ったが、広げることはしなかった。竹若丸は小夜の腕の中で、もう目を閉じかけている。

 

 家のことは明日また考えれば良い。今はこの子が眠るまで、皆と一緒にいたかった。

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