【クロスオーバー】ノーゲーム・ノーライフ×ゆるキャン△異世界で楽しいゲーミングキャンプ   作:なんたらC

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野クルの他メンツと
オリキャラさんでてきます


三 書庫での再会

 書庫の正面には鍵穴がなかった。

 取っ手もない。背の高い扉いっぱいに金の文字が浮かび、リンたちが近づくと、上から順に淡く光った。

 

「何て書いてあるんですか」

 

 リンが尋ねると、空は扉を見上げたまま読み上げた。

 

「『当館では静粛に。悲鳴は地下二階で承ります』」

「帰っていいですか」

「まだ着いて十秒だぞ、リン」

 

 朝ごはんは食べた。持っていく物もなでしこと二人で確かめた。

 悲鳴を上げる予定だけは聞いていない。

 

「大丈夫だよ、リンちゃん。今日はお話を聞きに来たんだし」

「そうだな。話を聞く場所が地下二階じゃなければな」

 

 なでしこが扉を見た。

 その上のほうまで目で追ってから、空へ振り向く。

 

「……何階に行くんですか?」

「安心しろ。昨日の返事は普通だっただろ」

 

 空が扉へ手を伸ばす。

 その直前、向こうから声がした。

 

「ぎゃあああ! 助けてくれー! ぐわーっ!」

 

 リンの肩が跳ねた。

 今の声——

 

「アキちゃん?」

 

 なでしこが言い終える前に、リンは扉を押していた。

 重そうな扉が勢いよく開く。

 目の前に鉄格子があった。

 その向こうで千明が椅子に縛られている。

 

「大垣!」

 

 格子へ駆け寄った。千明の両手首から肘掛けへ鎖が伸びている。

 

「何された! 大丈夫か!」

「おお、しまりん!」

 

 千明が顔を上げた。

 隣のテーブルにあおいがいた。恵那もいる。なでしこが後ろから三人の名前を呼び、千明はそちらにも顔を向けた。

 

「なでしこも! よかった、二人一緒だったんだな!」

 

 妙に元気な声だった。

 リンが口を開きかけたところで、格子の脇から別の声がした。

 

「書庫ではお静かにお願いします」

 

 銀縁の眼鏡をかけた、小柄な女性だった。深緑の髪が顎のあたりで切り揃えられ、手には帳面と筆を持っている。

 千明がそちらを振り返った。

 

「いや、尋問されてるときってこうだろ?」

「それは拷問とちゃうか?」

 

 あおいがカップを傾けた。

 こと、と受け皿に戻す音がした。

 

「……何?」

 

 リンは千明を見た。

 千明は足を組んだ。

 

「せっかく尋問用の椅子に座ってるんだし、雰囲気をな」

「雰囲気」

「背もたれの角度は惜しいけど」

 

 そこじゃない。安否を聞いた。

 

 リンの膝から力が抜けた。

 格子を掴んだまま、ずるずるとしゃがみ込む。

 目の前で千明の靴先がのんきに揺れていた。

 

「…………何してんだお前」

 

 声まで床に落ちた。

 追いついた空が格子に下がる赤い札を持ち上げる。

 

「『拘束中。試用者募集・拘束椅子の座り心地調査』……だってさ」

「六十分座って、感想を出したら三人分の朝食券!」

 

 千明が胸を張った。

 リンは顔だけ上げる。

 

「……ここ、書庫ですよね?」

 

 リンが尋ねると、眼鏡の女性は頷いた。

 

「書物だけでなく、各地の道具や技術も収集しております。こちらは試用室です」

「じゃあ、地下二階の悲鳴って」

「防音の実験室がございます。音の出る試験はそちらで」

「この椅子もそっちに置いたほうがよくないですか」

「座るだけなら静かです」

 

 それはそうだった。

 隣でなでしこが大きく息を吐く。

 

「びっくりしたぁ……。じゃあ、もう出てこられる?」

「あと五分!」

 

 千明は壁の砂時計を顎で示した。

 

「途中でやめても料金は頂きません」

「報酬も出ないんだろ!」

 

 リンは額を格子へ寄せた。冷たくて、ちょっと気持ちがよかった。

 

「驚かせてしまい、申し訳ございません。館長兼書庫守のリゼルです」

 

 女性が頭を下げた。

 

「あ、いえ。……むしろこっちがすいません……」

 

 リンは椅子の千明を見た。

 千明の靴先が止まった。

 

「いや、まさか今来るとは思わなくて」

「来てへんかったらまだ叫んでたん?」

 

 あおいが立ち上がった。

 

「捕まってるんはあきだけやで。うちらは付き添い」

 

 格子の扉に手をかける。

 きぃ、と細い音がして、何の抵抗もなく開いた。

 カップを持ったまま、こちらへ出てくる。

 

「出られるのかよ」

「お茶のおかわりも外やからねえ」

 

 鉄格子の用途が、どんどん分からなくなる。

 

 リンは扉を避けて腰を上げた。

 すぐ脇にポットを載せた台がある。あおいはそこへカップを置き、なでしこを覗き込んだ。

 

「ごめんなあ。びっくりしたやろ」

 

 返事の代わりに、なでしこが抱きついた。

 

「おわ」

「よかったぁ……!」

 

 あおいが一歩踏ん張る。なでしこの肩へ置きかけた手が、その背中へゆっくり回った。

 

「うん。なでしこちゃんらも無事でよかった」

 

 リンは開いた扉へ手を添え、ようやく息をついた。

 あおいの肩に顔を埋めたなでしこも、椅子であと五分を待つ千明も、ちゃんと目の前にいる。

 (そこはもう出てこいよ。)

 恵那に至っては床に座って、膝の黒い塊を撫でていた。

 

「リンも来る?」

 

 こちらに気づいた恵那が片腕を広げる。

 

「行かん」

「そっか。じゃ、この子だけ」

 

 膝の黒い塊を両手で抱き上げる。

 耳が六つあった。

 

「何それ」

「書庫の番犬。名前はモクジ」

「名前だけ仕事してるな」

 

 モクジは恵那の腕の中で、ふあ、と欠伸をした。

 

 三対の耳がそれぞれ勝手な方へ向いた。そのうち一つがリンの声を拾ったらしく、こちらを向く。

 鼻先も近づいてきたので、リンは少し腰を引いた。

 

「大丈夫。手、嗅ぎたいだけだと思う」

 

 恵那に言われ、指を曲げて差し出してみる。湿った鼻が一度触れた。

 

「わんっ!」

 

 リンは手を引っ込めた。

 三対の耳が揃ってこちらを向いている。

 

(異世界でもこれか……)

 

 モクジは恵那の腕へ顎を戻し、床へ下ろされるより先に、彼女の膝へ収まろうと身体をひねった。

 

「はいはい、こっちね」

 

 恵那が抱え直すと、腹を上にしてしまった。

 

「……昨日来たんだよな?」

「うん」

 

 恵那は腹を撫でている。六つの耳のうち、もう四つは寝ていた。

 

「犬、好きなのか」

 

 空が尋ねた。

 

「うちにもいるので。……ちくわ、どうしてるかな」

 

 最後だけ声が小さくなった。

 恵那の指が腹から顎へ移る。モクジは気持ちよさそうに鼻を上げた。

 空のすぐ隣まで来ていた白が、その頭を見つめていた。恵那は気づくと、膝を少しずらした。

 

「ここ、触ってみる?」

 

 白が空を見上げる。兄の頷きを確かめてからそっとしゃがみ、黒い毛へ手を置いた。

 一番近い耳が指に触れて動いた。

 白の手が止まる。

 耳も止まる。

 恵那は笑い、撫でやすいようにモクジの頭を支えた。

 

     *

 

 残りの数分、千明は椅子から身を乗り出して、二人がどこにいたのか聞きたがった。

 

「城?」

「うん。昨日は泊めてもらって」

「しまりんたち、城泊まったの?」

「大垣は椅子に泊まったのか」

「泊まってない! これは朝から!」

 

「お部屋は別にお貸ししています」

 

 リゼルが真面目に補足する。千明は「そういうこと」と頷き、なでしこが紹介する空たちへ順に挨拶した。

 国王だと聞いたときだけ、組んでいた足を下ろした。

 

「えっ、王様? これはどうも、ご丁寧に……」

 

 頭を下げようとして、手首の鎖が鳴る。

 

「すみません、こんな格好で」

「いやいや。縛られてるJKとご対面なんて中々ないシチュエーショ」

「………………にぃ」

「ぬぁあああっ! 妹よぉぉ! 兄をそんな蔑む目で見ないでくれぇええっ!!」

 

 国王は両手で顔をおさえながらゴロゴロ転がっていく。

 千明が苦笑しながらそれを目で追うと、その先にジブリールの姿があった。

 

「あっ! 上の階の展示室でみた天使!」

「……反応軽すぎじゃないか?」

「おおー。横から見るとこうなってんのか」

 

 千明は首を傾けた。もっとよく見ようと身を乗り出し、手首の鎖に引き戻される。

 あおいも隣から白い翼を眺めた。

 

「きれいやなあ。服きるとき大変そうやけど」

「背中あいてるのかな」

 

 恵那まで顔を上げた。撫でる手が止まったので、モクジがその手へ鼻を押しつける。

 

「あ、ごめんごめん」

 

 もう番犬の相手に戻っている。

 リンは額を押さえた。私が昨日ひっくり返した椅子は何だったんだ。

 

 話しているうちに、砂時計の最後の粒が落ちる。

 

「よっしゃ、完走!」

 

 千明が両腕を上げかける。リゼルが肘掛けの留め具を外してから、ようやく手が高く上がった。

 なでしこがそちらへ飛びつく。

 

「アキちゃん!」

「おおっ、待て待て待て、腰ぃ! 六十分座ってた私の腰ぃぃぃっっ!!!」

 

 椅子が後ろへ傾きかけ、千明は足を突っ張った。なでしこのバッグが肘掛けに当たる前に、リンが後ろから支える。

 

「先に降ろせ、荷物」

「あ、ごめん」

 

 なでしこは肩紐を外した。でも、千明の袖は片手で掴んだままだった。

 千明もそれには何も言わず、空いた手で自分の腰をさすった。

 

「……どこまで心配して差し上げればいいのか、分かりませんわね」

 

 ステフがリンを見た。リンは深く頷いた。

 

     *

 

 五人が椅子を寄せると、テーブルは急に狭くなった。

 足元にはバッグが並び、恵那の椅子の下にはモクジが潜り込んだ。リンはその背中を踏まないよう、片足を引いた。

 

 三人がこの書庫へ来たのは昨日の昼らしい。

 知らない場所で道を尋ね、日本へ帰りたいと説明しているうちに、ここを紹介された。異世界の話を聞かせてくれるなら、帰る方法を探す手伝いをする。それがリゼルとの最初の取り決めだったという。

 

「なでしこちゃんらのことも聞いたんやけど、ここには来てへんって」

「門の人にも探してもらってたんだ。会えてよかったよ」

 

 千明がもらった朝食券をテーブルへ置いた。三枚を揃えようとして、途中で手が止まる。

 

「……先生は?」

 

 リンは首を横に振った。

 

「そっちにもいなかったのか」

「私たちだけだった」

 

 恵那が答えた。

 五人とも、最後に先生を見たのは湖のそばだった。

 向こうに残っているのか。それとも、自分たちのように、知らない場所へ来ているのか。

 リンは足元のバッグを見た。荷物まで一緒に来た理由もまだ分からない。

 

「……もし、こっちに来てたら」

 

 なでしこが空へ向き直った。

 

「先生のことも探してもらえますか」

「ああ。問い合わせは続けよう。三人が見つかったことも城へ知らせておく」

 

 空がステフを見る。彼女は頷き、リゼルへ連絡を頼める場所を尋ねた。

 千明は券を重ね直した。

 

「向こうにいてくれるなら、そのほうがいいんだけどな」

 

 なでしこが頷く。その膝へ、テーブルの下から黒い鼻が伸びてきた。

 モクジだった。なでしこの手に鼻先を押しつけ、顎の下を撫でられると、目を細めた。

 ひとしきり撫でてもらってから、隣のリンを見上げる。

 

「わんっ!」

 

「……まだ何もしてないだろ」

 

 膝の上に置いたままの手を、リンは見せた。

 モクジはその手を一度嗅ぐと、恵那の椅子の下へ戻っていった。

 

     *

 

「この方々の知識は実に興味深く」

 

 リゼルが一冊の本を開いた。昨日の聞き取りをまとめたものだという。筆を入れたばかりの頁には、小さな図まで添えられていた。

 

「特に、日本の学校には冬季になると、炬燵なる暖房器具で移動する授業があるとか」

 

 リンはあおいを見た。

 あおいは静かにお茶を飲んだ。

 

「訂正しろ」

「話の途中やったんよ」

「訂正を先にしろ」

「……記録済みなのですが」

「今なら赤字で直せますわ!」

 

 戻ってきたステフが慌てて筆を探す。

 リンが図を覗くと、四角い机の下に何人もの脚が描かれていた。布団の端を持ち上げ、全員で歩く仕組みらしい。

 

「変なところだけ具体的だな」

「寒いとき便利そうやろ?」

「板書できないだろ、それ」

「先生も一緒に入ったらええやん」

「誰が黒板運ぶんだよ」

 

 あおいが少し考えた。そこは考えなくていい。

 

 ようやくカップを置き、リゼルへ向き直る。

 

「すみません。炬燵はほんまにあるんですけど、授業のほうは冗談です」

 

 リゼルの筆が図の横で止まった。

 その肩越しにジブリールが覗き込む。

 

「おや。情報の真偽を見抜くことには、絶対の自信がおありでは?」

「あなたの来館許可は出していませんが、ジブリール」

「私は付き添いですので」

 

 笑顔のように見えたが、どちらも目が笑っていなかった。

 本の間に挟まっていた栞が一枚、ぴんと立つ。

 リンは自分のカップを本から少し遠ざけた。

 

「ナデシコ様、チアキ様、アオイ様、エナ様。それから、シマリン様」

 

 ジブリールが五人を見渡した。

 

「私だけ変なところで繋がってます」

「先ほどそのようにお呼びでしたので」

 

 リンが千明を見る。

 千明は朝食券を裏返した。

 

「本人に聞いてください」

「では、何と?」

「リンで」

「承知いたしました、シマリン様」

「今聞いた意味」

 

 なでしこが隣で吹き出した。リンがそちらを向くと、口元を押さえながら首を振る。全然隠せていなかった。

 空が手を叩いた。

 

「仲よし紹介はその辺で。本題、いいか?」

 

 リゼルは訂正した頁のインクが乾いたのを確かめ、本を閉じた。

 

「異世界への往来に言及した資料は確かにございます」

 

 室内の奥で一列の本棚が青く光った。

 通路に置かれた台の影が足元まで伸びる。リンは椅子の上で身体を起こした。

 あの中に帰り方が書いてあるかもしれない。

 なでしこが袖を掴んだ。リンも頷きかけたところで、リゼルが言葉を継いだ。

 

「ただし、目録の閲覧と本文の閲覧は別です。当館では希少な知識に、それに見合う知識を頂きます」

「知らない話ならさっきから結構してるぞ?」

 

 千明が言った。あおいが訂正の済んだ本をそっと自分から遠ざける。

 リゼルは頷いた。

 

「ですからその続きのご提案を」

 

 リゼルが机の空いているところへ札を並べ始めた。

 とん、とん、と一定の間隔で、見覚えのある絵が増えていく。

 鍋。フライパン。包丁。

 肉の塊に、折り畳まれた布、それから束ねた薪。

 リンは身を乗り出した。

 これって――。

 

「キャンプだ!」

 

 隣で、なでしこの声が弾んだ。

 千明が最後の一枚を覗き込み、あおいもカップを置いて椅子を寄せる。

 

「こちらの札は貸出品の引換券です」

 

 リゼルは札の列を整え、五人を見渡した。

 

「皆様の語る『キャンプ』を一度体験してみたいのです」

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