【クロスオーバー】ノーゲーム・ノーライフ×ゆるキャン△異世界で楽しいゲーミングキャンプ   作:なんたらC

4 / 5
四 もう一晩、ここで(1)

 

「それなら――」

 

 なでしこの手が鍋の札へ伸びた。

 

「なでしこ」

 

 リンが袖を引く。

 手が止まった。なでしこはリンを見て、それから、机に並んだ札をもう一度見た。

 昨日はお菓子を食べる前に決めることがあった。

 

「……先にルールを教えてください」

 

 空が、ほんの少し笑った。

 リゼルは頷き、札の脇へ大きな紙を広げる。描かれていたのは、建物の間取りにも、公園の案内図にも似たものだった。

 

「夜明けまでに、私に『もう一晩ここで過ごしたい』と思わせること。それが皆様の勝利条件です」

 

 筆先が紙を離れても、文字は続いた。

 白い行が宙に一つずつ増え、机の向こうに薄い壁を作っていく。リンの隣でステフが同じところを指しながら読み上げてくれた。

 

「会場は当館の箱庭。皆様と私、合わせて十名で過ごします。開始は箱庭の夕刻、終了は翌朝の日の出です」

「この下についてるマークは?」

 

 千明が薪の絵の下を指した。小さなダイヤ形が一つ付いている。隣の札には三つ、その隣には五つ。品によって数が違った。

 

「印一つにつき一点。その品を借りるための点数です。皆様の持ち点は合計二十点。収まる範囲でお選びください」

 

 リゼルの指が札を順に示す。

 薪は一束で一点。野菜の箱は三点。肉の包みは五点。分厚い冬用毛布は七点だった。

 

「食材の量は十人分を基準にしてあります。枚数の制限はございませんが、同じ品を二つ選べば点数も二つ分です」

「肉より毛布が高い……」

 

 なでしこが二枚を見比べた。

 

「お持ちの野営道具や食料は入口でお預かりします。着ている服と筆記具はそのままで結構です」

 

 リンは足元のバッグへ目を落とした。寝袋も、マットも持ってきた。けれど、使えるとは限らなかったわけだ。

 なでしこが途中で手を止めてくれてよかった。

 

「魔法で道具を出すのは?」

 

 空が尋ねた。

 

「選択制限を迂回する持ち込みや生成は禁止です。私への強制、判断を変える魔法も認めません」

「主観判定か。勝ちを認めず粘れる条件だな」

 

 リゼルは眼鏡を押し上げた。

 

「判定時には私の本心を開示する術式を使用します。文面をご確認ください」

「……ジブリール」

「はいマスター。偽装、干渉の余地も含めて確認いたします」

 

 ジブリールが文字へ顔を近づける。その横で白はもう行の端まで目で追っていた。

 頼もしそうではある。ただ、何を調べているのか、リンにはさっぱり分からない。

 今、聞いておけることを聞いた。

 

「負けたらどうなりますか」

「皆様の世界について、三日間の聞き取りにご協力を。宿泊と食事は当館が負担します。知らないことへの回答は不要です」

「勝ったら五人全員が関係資料を読めること。俺たちの解読補助も認める。聞き取りの時間と、答えたくない質問の扱いも決めよう」

 

 空の指が空中の一行を横へ動かした。リゼルの筆が追いつき、その下へ新しい文字が加わる。

 千明がこちらへ顔を寄せた。

 

「なあ、これわりと得意分野じゃね?」

「天気と場所による」

「あと館長さんが何苦手かやなあ」

 

 あおいが館長を見た。恵那は足元を覗き込んでいる。

 

「モクジは連れてっていいのかな」

 

 リゼルの目がすっとそちらへ動いた。

 リンもつられて見たが、モクジは恵那の靴に顎を載せているだけだった。恵那はその頭を撫で、館長へ顔を戻した。

 

「私、あったかいごはん担当する」

 

 なでしこが今度は札の横へ指を置いた。

 

「まだ引き受けてないぞ」

「うん。でも、やるなら」

 

 鍋の絵から、食材の絵へ。その目はもう何を作れるか考え始めている。

 リンも目録を手元へ寄せた。

 

「まず下見させてください。道具を選ぶのはそれからで」

「もちろん」

 

 リゼルが見取り図の端へ触れた。

 瞬間——。

 

「うおっ! 床が消えたぞ!」

 

 千明の声と同時に、五人は思わず足をすくませる。

 まるで透明なガラス、あるいは巨大なモニターの上に立っているかのようだった。足元には夕暮れの森が広がっている。

 赤みを帯びた枝葉がずっと下で揺れていた。鳥が横切る。そのさらに下にも、まだ葉がある。

 

「……高っ! いや、下まだある!」

 

 千明の声が裏返った。リンも椅子の座面を掴む。

 リゼルがスマホのスワイプの要領で指を滑らせると、景色を映すカメラが動く。

 広場に見えた場所は細くなり、その先が一本の幹へ繋がる。

 

 そこは森の中の広場ではなく

 巨大な樹の、枝の上だった。

 

「ここに泊まるんですか」

「はい。会場の範囲はこの線の内側です」

 

 枝の表面を白い縁取りが走る。

 会場図の隅に文字が並んだ。

 ステフが上から読み上げ、途中で声を止める。

 

「この時期の最高気温は十四度。最低は……氷点下十二度?」

「冬キャンの中でも、だいぶ冬の記録だな」

 

 千明が宙に浮いたままの自分の足を下ろした。

 リンは数字の並ぶほうへ身を寄せる。

 

「夜の平均は? あと、今の気温と風も知りたいです」

 

 リゼルが図の端へ触れると、別の欄が開いた。

 夜間の平均は四度。現在は八度で、風も弱い。ステフに読んでもらいながら、リンは枝葉の揺れ方を確かめた。

 

「念のため伺いますが」

 

 ジブリールがにこやかに口を挟んだ。

 

「皆様が快適に過ごし始めた途端、吹雪になったりはいたしませんよね。館長様のご機嫌ひとつで」

「私を何だと思っているのですか」

「確認を怠るべきではない相手、と」

 

 リゼルは眼鏡を押し上げた。

 

「天候は箱庭内の自然法則に従って変化します。勝敗を左右するための操作はいたしません。緊急時や館内規則に基づく設備の管理対応は別ですが」

「ええ。その区別が文面にもあれば、安心でございます」

 

 リゼルの筆が少し強く紙を擦った。

 ジブリールは満足そうに微笑んでいる。

 

 リンはもう一度、現在の気温を確かめた。

 最低記録は気になる。ただ、今見えている景色には、それほど荒れた様子はなかった。

 

「風を避けられる場所があれば、いけそう。燃やせるものがどれくらいあるかも見たい」

「よし。場所と薪だな」

 

 千明が会場図へ顔を寄せた。

 リンは目録をめくる。冬用テント、寝袋、毛布。鍋と燃料は別の札だった。

 毛布に七点使えば、残りは十三点。十人の一晩をそこへ収めなければならない。

 

「空さん」

「何?」

「これ、ゲームの読み合いは任せていいですか」

 

 空の目が細くなった。

 

「任せろ。そっちは?」

 

 リンは四人を見た。

 千明が腕を組み、あおいが目録を覗き込む。恵那は膝を机へ寄せた。なでしこの指は鍋の札の隣にあった。

 

「朝まで過ごす方法、考えます」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。