【クロスオーバー】ノーゲーム・ノーライフ×ゆるキャン△異世界で楽しいゲーミングキャンプ 作:なんたらC
「薪、使い放題にしよう!」
「薪は一束一点です」
「じゃ、薪の山を一個」
千明は両腕を広げジェスチャーする。これくらい。できればもう少し——
「山にしても一束ずつ数えます」
千明は広げた腕を少しだけ狭めた。
「じゃあ、ものすごく太い一束で!」
「束の大きさも決まっています」
「薪への備えが万全すぎる!」
千明は何枚か重ねかけた薪の札を戻した。一枚だけ、机に残す。
リンは見取り図を指した。
「この下のほう、見られますか」
枝の分かれ目に黒い窪みがあった。
リゼルが図を広げると、窪みの奥まで明るくなる。入口は低いが、中は横に広い。十人が身を寄せて座っても、まだ余りそうだった。
「樹洞です。中も会場に含まれます」
「入口は風下。奥まで風が抜けなければここを使える」
「ではテントは不要、と」
「まだ決めてません」
書きかけたリゼルの筆が止まる。
空が隣で笑った。
「いいね。その調子」
「寝る場所があるのと、寒くないのは別なので」
リンは毛布の札を引き寄せ、その隣に二点の薄手の布を並べた。
断熱マットは十人分で四点。調理道具一式は三点で、鍋や包丁、食器に焚き火台、布巾などの小物も付いてくる。燃料と着火具は別だ。
使えそうな場所は見つかった。あとは何を持っていくか。
「……にぃ。こっち」
白が目録の最後の頁を押さえていた。
細い指が道具の説明よりずっと小さな文字をなぞる。
「『箱庭は館内と同じ管理規則に従う』」
空が読み上げた。
そのまま顔を上げ、リゼルを見る。
「その管理規則、全部読ませてくれ」
*
確認にはココアを二杯飲めるほどの時間がかかった。
一杯目がなくなる頃には、机の半分が札で埋まった。もう半分には空と白が開いた分厚い規則集が載っている。
二杯目をステフが配り終えるまでに、白は最後の頁までめくってしまった。
「閲覧中の本や記録にも点数はかかる?」
「野営用の物資ではありませんので、別です。ただし、燃やしたり、道具の材料にしたりすることは禁止いたします」
「保存の規則も、そのまま?」
「当然です。箱庭も館内ですから」
白が頷く。
空と何かを確かめ合うと、白は規則集を手元へ引き寄せた。
リンは断熱マットの札を選ぶ側へ置いた。
入口を塞ぐ薄い布も、その隣へ。千明が調理道具の札を滑らせる。
「鍋と包丁と食器と、焚き火台まで付いて三点。これはお得だろ」
「水もいるで」
「それで十点。半分か」
恵那が残った札を見渡した。
なでしこは野菜の箱の中身をステフに読んでもらっている。芋に似たものと豆、それに調味料。
「これで煮込みにしようよ! みんなで食べるならお肉もあったほうがいいよね!」
野菜の隣へ、肉の札が並んだ。
千明が指を折る。
「十八。薪と火をつけるやつで、ぴったり二十!」
「待って。毛布が入ってない」
リンは七点の札を寄せた。
厚みも大きさも十分にある。代わりに薄い布を外しても、まだ五点足りなかった。
皆の目が肉へ集まる。
千明がその札を押さえた。
「待て。まだ肉と決まったわけじゃない」
「五点やから、ぴったりやね」
「ぴったりすぎるんだよ! ほかの組み合わせも考えよう!」
千明の指が札の間を走る。水は要る。鍋も要る。マットを抜こうとしたところで、リンに押し戻された。
「それは駄目。下から冷える」
「じゃあ薪! 木はそこらじゅうにあるだろ?」
リンは会場図へ顔を寄せた。
「リゼルさん。ここもっと近くで見たいです」
樹洞の入口が大きく映る。太い根に引っかかった枯れ枝が、窪みに何本も溜まっていた。
「落ちてる枝も拾ったら一点ですか」
「いいえ。会場内で拾えるものは使って構いません。生きた枝を切ることや、設備を壊すことはお断りしますが」
「木の実とか、キノコも?」
なでしこまで会場図へ顔を寄せた。
「食用と確認できるものを、必要な分だけでしたら」
「ほらある! 肉、まだいける!」
「乾いてればな。一束は残すぞ。拾ったのが使えなかったら困る」
薪の札も戻された。千明は唸り、今度は着火具をつまみ上げる。
「これなら、何か代わりに――」
「じゃあ、あきが木ぃ擦る?」
「私の担当、急に原始的じゃない?」
「火ぃついたら拍手するわ」
「じゃあ私、肉持って待ってるね」
恵那が肉の札を両手で立てた。千明のほうへ、すっと差し出す。
「道具をくれ! 拍手と肉の絵で肉は焼けねえんだよ!」
自分で抜いた札を自分で戻す。『肉を守る仕事』は、なかなか厳しい。
なでしこが肉の絵を覗き込んだ。
「……お野菜だけでも、おいしくできるよ」
「なでしこが肉を諦めた……」
「そんな顔せんといて、あき。お別れちゃうんやから」
恵那は肉の札を戻し、二点の布を手に取って樹洞の奥を指した。
「こっち、風は入ってなさそうじゃない?」
リゼルが景色を動かす。入口に比べて奥が広く、床に雪はない。外の枝葉が揺れても、奥の落ち葉までは動かなかった。
ステフに布の寸法を読んでもらい、リンは入口の幅と高さを確かめた。端を重ねても余る。掛けて寝るには薄いが、風を遮るなら使えそうだ。
「これで入口を塞いで、マットを奥に敷けば……」
「毛布、なくてもいけそう?」
恵那に聞かれ、リンは外の枝先へ目を戻した。
今の気温と風なら、樹洞と布でかなりしのげる。燃料だけは現地で確かめなければならないが、拾えそうな枝も少なくない。
「……布にしよう。着いたら、暗くなる前に薪を集める」
「任せろ。肉のためなら働くぞ!」
「暖まるために働けよ」
リンが毛布の札を戻すと、なでしこの顔がぱっと明るくなった。
「お肉、いいの?」
「うん。温かいもの、ちゃんと食べたいし」
「任せて! おかわりできるくらい作ろうね!」
「よし、肉は残留決定!」
千明はようやく札から手を離し、鍋の隣へ並べた。
恵那が笑いながら札を揃え、ステフと一緒にダイヤ印を数え始めた。
マット四点、布二点、調理道具三点、水容器に入った水が一点。野菜三点、肉五点。薪と着火具が一点ずつ。
「合わせて二十点。ちょうどですわ」
なでしこが小さく手を合わせた。千明は薪の札を一枚だけ、名残惜しそうに撫でた。
「こっちは決まったぞ」
千明の声に、空が顔を上げる。
「ああ。最後に条件を合わせよう」
白が貸出票を差し出す横で、ステフは書き加えた条件を読み上げた。
聞き取りは一日四時間まで。答えたくない質問は断ってよい。危険を感じたらすぐ退出でき、その場合は負けになるが追加の負担はない。
「帰るための資料は、写して持って帰ってもいいんですよね」
「ええ。勝ったら皆様で。解読のお手伝いも含めて、こちらに」
ステフの指す行を確かめ、リンは頷いた。
「判定は夜明けに一度。問いは『次の夜も同じ場所で過ごしたいか』ですわ」
「ただし、次の夜の道具も天候も今夜と同じ条件とする」
空が加えると、リゼルは頷いた。
「問題ありません」
「……参加者も、同じ」
白の声に、館長の筆が止まった。
「皆様も、もう一晩?」
「仮定の話だ。判定のためのな」
リゼルは空を見てから、それも書き加えた。
なでしこはステフの説明に合わせて文面を指で追っていた。読めない箇所で指が止まるたび、ステフが読み直す。最後の行まで辿り着いてから、顔を上げた。
「私はこれで大丈夫」
千明が頷き、あおいと恵那も返事をした。
リンは選んだ札のダイヤ印をもう一度数えた。
「私も」
「術式にも問題ございません、マスター」
ジブリールの声を受け、空が右手を上げた。
「双方、条件に異議なし。十の盟約に誓って」
リゼルも手を上げる。
リンたちは一度だけ顔を見合わせ、その動きを真似た。隣のなでしこが息を吸うのが聞こえた。
「――アッシェンテ」
声が重なる。
机の上に浮いていた白い文字が端から鮮やかな桃色に染まった。
次の瞬間、行がほどけた。小さな文字の連なりが机を越え、上げた手の間を抜けていく。リンの手首にも一周し、袖口を照らした。
光は熱くなかった。
輪が狭まり、肌に触れる寸前で細かな粒になって消える。最後の一粒を追って手を返すと、もういつもの手だった。
なでしこがその隣で指を握った。
「……始まったんだね」
「ああ」
空は目録を閉じた。
「さて。館長さんに、明日の予定を空けたくなってもらおうか」
*
ごう、と低い音が足の下から突き上げた。
リンは入口の縁を掴む。
枝に立った途端、服の隙間へ冷たい空気が入り込んできた。頬を撫でる風まで書庫のものとは違う。
遠く、雲が途切れたところに森が見える。
枝の両側には手すりのように太い根が盛り上がっていた。その内側は十分に広い。広いのだが、足元の樹皮の割れ目を見ると、今いる場所を思い出してしまう。
「高所キャンプ場にも限度があるだろ……」
千明が根の内側へ寄った。
あおいがその背中を軽く押す。
「ほら、あき。場所決めるで」
「押すなよ。今のは本当に押すなよ。振りじゃないぞ!」
「はいはい」
あおいの手が離れた。千明は自分から一歩進み、根の内側へぴったり寄った。
リゼルが入口のそばに貸出品を出してくれた。
丸めたマットと大きな薄手の布。鍋の中に重ねられた食器、その脇に包丁やまな板。折り畳まれた焚き火台の上には薪が一束載っていた。
なでしこが野菜の箱を受け取り、あおいが肉の包みを運ぶ。リンは水と着火具を確かめ、ステフと一緒に貸出票へ印を付けてもらった。
「本当によかったんですの?」
ステフが空へ声を潜めた。
「氷点下になることもありますのよ?」
「ま、なんとかなるんじゃね? アウトドアの事は陰キャの俺にはわからんしな」
リンは今くぐってきた入口を振り返った。樹の幹にはまった四角い光の向こうに、書庫の床が見えている。
空はその脇まで歩き、白にも場所を示していた。
あそこまで戻ればいい。リンは樹洞への道筋を目で辿り、途中に荷物を置かないよう覚えておいた。
「あ。モクジ」
恵那の声がした。
黒い塊がリゼルの足元を抜け、枝をすんすん嗅いでいる。
「巡回です。箱庭も管理区域ですので」
「そっか。お仕事中か」
恵那がしゃがみ、手の甲を差し出した。
六つの耳が順に動く。モクジは鼻を押しつけ、撫でられもしないうちから顎を上げた。
「えらいね~、モクジ~。こんな高いところまで見回ってるんだね~」
顎の下を撫でられたモクジはさらに鼻先を持ち上げた。六つの耳がぺたんと寝る。
恵那が手を止めると、前足がその膝に載った。
「もうちょっと? 巡回、休憩中?」
リゼルの手が少しだけ浮いた。
恵那が顔を上げる頃には、その手は帳面を抱え直していた。