【クロスオーバー】ノーゲーム・ノーライフ×ゆるキャン△異世界で楽しいゲーミングキャンプ   作:なんたらC

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四 もう一晩、ここで(2)

「薪、使い放題にしよう!」

「薪は一束一点です」

「じゃ、薪の山を一個」

 

 千明は両腕を広げジェスチャーする。これくらい。できればもう少し——

 

「山にしても一束ずつ数えます」

 

 千明は広げた腕を少しだけ狭めた。

 

「じゃあ、ものすごく太い一束で!」

「束の大きさも決まっています」

「薪への備えが万全すぎる!」

 

 千明は何枚か重ねかけた薪の札を戻した。一枚だけ、机に残す。

 リンは見取り図を指した。

 

「この下のほう、見られますか」

 

 枝の分かれ目に黒い窪みがあった。

 リゼルが図を広げると、窪みの奥まで明るくなる。入口は低いが、中は横に広い。十人が身を寄せて座っても、まだ余りそうだった。

 

「樹洞です。中も会場に含まれます」

「入口は風下。奥まで風が抜けなければここを使える」

「ではテントは不要、と」

「まだ決めてません」

 

 書きかけたリゼルの筆が止まる。

 空が隣で笑った。

 

「いいね。その調子」

「寝る場所があるのと、寒くないのは別なので」

 

 リンは毛布の札を引き寄せ、その隣に二点の薄手の布を並べた。

 断熱マットは十人分で四点。調理道具一式は三点で、鍋や包丁、食器に焚き火台、布巾などの小物も付いてくる。燃料と着火具は別だ。

 使えそうな場所は見つかった。あとは何を持っていくか。

 

「……にぃ。こっち」

 

 白が目録の最後の頁を押さえていた。

 細い指が道具の説明よりずっと小さな文字をなぞる。

 

「『箱庭は館内と同じ管理規則に従う』」

 

 空が読み上げた。

 そのまま顔を上げ、リゼルを見る。

 

「その管理規則、全部読ませてくれ」

 

     *

 

 確認にはココアを二杯飲めるほどの時間がかかった。

 一杯目がなくなる頃には、机の半分が札で埋まった。もう半分には空と白が開いた分厚い規則集が載っている。

 二杯目をステフが配り終えるまでに、白は最後の頁までめくってしまった。

 

「閲覧中の本や記録にも点数はかかる?」

「野営用の物資ではありませんので、別です。ただし、燃やしたり、道具の材料にしたりすることは禁止いたします」

「保存の規則も、そのまま?」

「当然です。箱庭も館内ですから」

 

 白が頷く。

 空と何かを確かめ合うと、白は規則集を手元へ引き寄せた。

 

 リンは断熱マットの札を選ぶ側へ置いた。

 入口を塞ぐ薄い布も、その隣へ。千明が調理道具の札を滑らせる。

 

「鍋と包丁と食器と、焚き火台まで付いて三点。これはお得だろ」

「水もいるで」

「それで十点。半分か」

 

 恵那が残った札を見渡した。

 なでしこは野菜の箱の中身をステフに読んでもらっている。芋に似たものと豆、それに調味料。

 

「これで煮込みにしようよ! みんなで食べるならお肉もあったほうがいいよね!」

 

 野菜の隣へ、肉の札が並んだ。

 千明が指を折る。

 

「十八。薪と火をつけるやつで、ぴったり二十!」

「待って。毛布が入ってない」

 

 リンは七点の札を寄せた。

 厚みも大きさも十分にある。代わりに薄い布を外しても、まだ五点足りなかった。

 

 皆の目が肉へ集まる。

 千明がその札を押さえた。

 

「待て。まだ肉と決まったわけじゃない」

「五点やから、ぴったりやね」

「ぴったりすぎるんだよ! ほかの組み合わせも考えよう!」

 

 千明の指が札の間を走る。水は要る。鍋も要る。マットを抜こうとしたところで、リンに押し戻された。

 

「それは駄目。下から冷える」

「じゃあ薪! 木はそこらじゅうにあるだろ?」

 

 リンは会場図へ顔を寄せた。

 

「リゼルさん。ここもっと近くで見たいです」

 

 樹洞の入口が大きく映る。太い根に引っかかった枯れ枝が、窪みに何本も溜まっていた。

 

「落ちてる枝も拾ったら一点ですか」

「いいえ。会場内で拾えるものは使って構いません。生きた枝を切ることや、設備を壊すことはお断りしますが」

「木の実とか、キノコも?」

 

 なでしこまで会場図へ顔を寄せた。

 

「食用と確認できるものを、必要な分だけでしたら」

「ほらある! 肉、まだいける!」

「乾いてればな。一束は残すぞ。拾ったのが使えなかったら困る」

 

 薪の札も戻された。千明は唸り、今度は着火具をつまみ上げる。

 

「これなら、何か代わりに――」

「じゃあ、あきが木ぃ擦る?」

「私の担当、急に原始的じゃない?」

「火ぃついたら拍手するわ」

「じゃあ私、肉持って待ってるね」

 

 恵那が肉の札を両手で立てた。千明のほうへ、すっと差し出す。

 

「道具をくれ! 拍手と肉の絵で肉は焼けねえんだよ!」

 

 自分で抜いた札を自分で戻す。『肉を守る仕事』は、なかなか厳しい。

 なでしこが肉の絵を覗き込んだ。

 

「……お野菜だけでも、おいしくできるよ」

「なでしこが肉を諦めた……」

「そんな顔せんといて、あき。お別れちゃうんやから」

 

 恵那は肉の札を戻し、二点の布を手に取って樹洞の奥を指した。

 

「こっち、風は入ってなさそうじゃない?」

 

 リゼルが景色を動かす。入口に比べて奥が広く、床に雪はない。外の枝葉が揺れても、奥の落ち葉までは動かなかった。

 ステフに布の寸法を読んでもらい、リンは入口の幅と高さを確かめた。端を重ねても余る。掛けて寝るには薄いが、風を遮るなら使えそうだ。

 

「これで入口を塞いで、マットを奥に敷けば……」

「毛布、なくてもいけそう?」

 

 恵那に聞かれ、リンは外の枝先へ目を戻した。

 今の気温と風なら、樹洞と布でかなりしのげる。燃料だけは現地で確かめなければならないが、拾えそうな枝も少なくない。

 

「……布にしよう。着いたら、暗くなる前に薪を集める」

「任せろ。肉のためなら働くぞ!」

「暖まるために働けよ」

 

 リンが毛布の札を戻すと、なでしこの顔がぱっと明るくなった。

 

「お肉、いいの?」

「うん。温かいもの、ちゃんと食べたいし」

「任せて! おかわりできるくらい作ろうね!」

「よし、肉は残留決定!」

 

 千明はようやく札から手を離し、鍋の隣へ並べた。

 

 恵那が笑いながら札を揃え、ステフと一緒にダイヤ印を数え始めた。

 マット四点、布二点、調理道具三点、水容器に入った水が一点。野菜三点、肉五点。薪と着火具が一点ずつ。

 

「合わせて二十点。ちょうどですわ」

 

 なでしこが小さく手を合わせた。千明は薪の札を一枚だけ、名残惜しそうに撫でた。

 

「こっちは決まったぞ」

 

 千明の声に、空が顔を上げる。

 

「ああ。最後に条件を合わせよう」

 

 白が貸出票を差し出す横で、ステフは書き加えた条件を読み上げた。

 聞き取りは一日四時間まで。答えたくない質問は断ってよい。危険を感じたらすぐ退出でき、その場合は負けになるが追加の負担はない。

 

「帰るための資料は、写して持って帰ってもいいんですよね」

「ええ。勝ったら皆様で。解読のお手伝いも含めて、こちらに」

 

 ステフの指す行を確かめ、リンは頷いた。

 

「判定は夜明けに一度。問いは『次の夜も同じ場所で過ごしたいか』ですわ」

「ただし、次の夜の道具も天候も今夜と同じ条件とする」

 

 空が加えると、リゼルは頷いた。

 

「問題ありません」

「……参加者も、同じ」

 

 白の声に、館長の筆が止まった。

 

「皆様も、もう一晩?」

「仮定の話だ。判定のためのな」

 

 リゼルは空を見てから、それも書き加えた。

 なでしこはステフの説明に合わせて文面を指で追っていた。読めない箇所で指が止まるたび、ステフが読み直す。最後の行まで辿り着いてから、顔を上げた。

 

「私はこれで大丈夫」

 

 千明が頷き、あおいと恵那も返事をした。

 リンは選んだ札のダイヤ印をもう一度数えた。

 

「私も」

「術式にも問題ございません、マスター」

 

 ジブリールの声を受け、空が右手を上げた。

 

「双方、条件に異議なし。十の盟約に誓って」

 

 リゼルも手を上げる。

 リンたちは一度だけ顔を見合わせ、その動きを真似た。隣のなでしこが息を吸うのが聞こえた。

 

「――アッシェンテ」

 

 声が重なる。

 机の上に浮いていた白い文字が端から鮮やかな桃色に染まった。

 次の瞬間、行がほどけた。小さな文字の連なりが机を越え、上げた手の間を抜けていく。リンの手首にも一周し、袖口を照らした。

 光は熱くなかった。

 輪が狭まり、肌に触れる寸前で細かな粒になって消える。最後の一粒を追って手を返すと、もういつもの手だった。

 なでしこがその隣で指を握った。

 

「……始まったんだね」

「ああ」

 

 空は目録を閉じた。

 

「さて。館長さんに、明日の予定を空けたくなってもらおうか」

 

     *

 

 ごう、と低い音が足の下から突き上げた。

 リンは入口の縁を掴む。

 枝に立った途端、服の隙間へ冷たい空気が入り込んできた。頬を撫でる風まで書庫のものとは違う。

 遠く、雲が途切れたところに森が見える。

 枝の両側には手すりのように太い根が盛り上がっていた。その内側は十分に広い。広いのだが、足元の樹皮の割れ目を見ると、今いる場所を思い出してしまう。

 

「高所キャンプ場にも限度があるだろ……」

 

 千明が根の内側へ寄った。

 あおいがその背中を軽く押す。

 

「ほら、あき。場所決めるで」

「押すなよ。今のは本当に押すなよ。振りじゃないぞ!」

「はいはい」

 

 あおいの手が離れた。千明は自分から一歩進み、根の内側へぴったり寄った。

 

 リゼルが入口のそばに貸出品を出してくれた。

 丸めたマットと大きな薄手の布。鍋の中に重ねられた食器、その脇に包丁やまな板。折り畳まれた焚き火台の上には薪が一束載っていた。

 なでしこが野菜の箱を受け取り、あおいが肉の包みを運ぶ。リンは水と着火具を確かめ、ステフと一緒に貸出票へ印を付けてもらった。

 

「本当によかったんですの?」

 

 ステフが空へ声を潜めた。

 

「氷点下になることもありますのよ?」

「ま、なんとかなるんじゃね? アウトドアの事は陰キャの俺にはわからんしな」

 

 リンは今くぐってきた入口を振り返った。樹の幹にはまった四角い光の向こうに、書庫の床が見えている。

 空はその脇まで歩き、白にも場所を示していた。

 あそこまで戻ればいい。リンは樹洞への道筋を目で辿り、途中に荷物を置かないよう覚えておいた。

 

「あ。モクジ」

 

 恵那の声がした。

 黒い塊がリゼルの足元を抜け、枝をすんすん嗅いでいる。

 

「巡回です。箱庭も管理区域ですので」

「そっか。お仕事中か」

 

 恵那がしゃがみ、手の甲を差し出した。

 六つの耳が順に動く。モクジは鼻を押しつけ、撫でられもしないうちから顎を上げた。

 

「えらいね~、モクジ~。こんな高いところまで見回ってるんだね~」

 

 顎の下を撫でられたモクジはさらに鼻先を持ち上げた。六つの耳がぺたんと寝る。

 恵那が手を止めると、前足がその膝に載った。

 

「もうちょっと? 巡回、休憩中?」

 

 リゼルの手が少しだけ浮いた。

 恵那が顔を上げる頃には、その手は帳面を抱え直していた。

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