好きな子への恋愛相談をAIにしていたら、なぜか俺の過去まで知っている   作:李忠成

2 / 5
2話「へいっ!女子と仲良くするにはどうしたらいい?」

 

 

「レミィ。質問がある」

 

『はい。どうぞ』

 

「女子と仲良くなるには、どうすればいい?」

 

『対象となる女性との現在の関係性を教えてください』

 

「同じクラス。たまに話す。あと、俺のことを面白いと思ってくれてる」

 

『最後の情報について、具体的な根拠を教えてください』

 

「この前、ケントくんって面白いねって言われた」

 

『なるほど』

 

「どうだ?」

 

『現時点では、あなたを面白い人物だと認識していることがわかります』

 

「いや、そういうことじゃなくてさ」

 

『では、どういうことでしょうか』

 

「……脈、あると思う?」

 

『判断するには情報が不足しています』

 

「ですよねー」

 

即答だった。

 

いや、わかっていた。わかってはいたのだ。

 

女子に面白いと言われたくらいで脈あり判定が出るなら、世の中の男子高校生はもっと幸せになっている。

 

それでも、期待してしまうのが男という生き物なのだ。

 

「じゃあ、どうすれば脈ありか判断できる?」

 

『相手の反応を観察し、会話の頻度や態度の変化を確認することを推奨します』

 

「つまり?」

 

『まずは自然に会話する機会を増やしてください』

 

「なるほど。自然に、ね」

 

自然に話しかける。

 

簡単そうに聞こえるが、実際にやるとなると難しい。

 

そもそも、好きな女子に自然に話しかけられる人間は、恋愛相談なんてしていないのではないだろうか。

 

「よし。明日から頑張るか」

 

『応援しています』

 

「ちなみに、会話の練習相手になってくれたりする?」

 

『可能です』

 

「じゃあ、白石役やって」

 

『承知しました。白石さんの性格や話し方について、詳細を教えてください』

 

「……いや、そこからか」

 

俺はスマートフォンを見つめた。

 

AIに恋愛相談をしている時点で、なんだか色々と間違っている気もする。

 

けれど、今さら引き返すつもりもない。

 

恋愛は情報戦だ。

 

情報を集め、分析し、最適な行動を選択する。

 

そう考えると、俺は案外、恋愛に向いているのかもしれない。

 

『補足します。恋愛は、必ずしも合理的な結果を保証するものではありません』

 

「人の心を読むな」

 

『今の発言は、あなたの発言内容に基づく推測です』

 

「はいはい」

 

まったく、可愛げのないAIである。

 

……まあ、そこがいいところでもあるのだが。

 

*

 

翌朝。

 

俺は教室の扉を開ける前に、スマートフォンを取り出した。

 

「レミィ。最終確認だ」

 

『何でしょうか』

 

「女子と自然に会話するコツ」

 

『相手の話をよく聞き、適切な質問を返し、自分の意見も伝えることです』

 

「よし」

 

『なお、直前に確認した内容を忘れてしまうほど緊張している場合、深呼吸を推奨します』

 

「余計な分析はいいんだよ」

 

スマートフォンをポケットにしまい、教室へ入る。

 

そして、いた。

 

窓際の席で友達と話している、長い栗色の髪。

 

白石だ。

 

……落ち着け。

 

会話をよく聞く。質問を返す。自分の意見も伝える。

 

俺は頭の中で三つの項目を復唱しながら、白石の席へ近づいた。

 

「お、おはよう、白石」

 

「ん? あ、おはよう、ケントくん」

 

笑顔。

 

まずは挨拶。問題なし。

 

「今日、ちょっと寒くない?」

 

「そうかな? 私はちょうどいいけど」

 

なるほど。ここで相手の意見を否定せず、会話を広げる。

 

「そっか。俺は寒いんだよね」

 

「ふふっ、ケントくんって寒がりなんだ?」

 

「いや、今日は特別。昨日の夜、布団を蹴飛ばして寝てたから」

 

「えっ、自分で?」

 

「自分で」

 

「それで寒いって言ってるの?」

 

「……はい」

 

白石が笑った。

 

よし。

 

会話成立。笑顔確認。好感度上昇の可能性あり。

 

『ケント。今の会話についてですが』

 

「待て。まだ何も言うな」

 

俺はポケットの中でスマートフォンを握りしめた。

 

「ケントくん?」

 

「あ、いや、なんでもない!」

 

危ない。危うくAIに実況させるところだった。

 

白石は不思議そうに首をかしげたが、すぐに友達との会話に戻っていった。

 

……まあ、初日としては上出来だろう。

 

挨拶をした。会話もした。笑ってもらえた。

 

恋愛という長い道のりを考えれば、まだ玄関の前で靴を履いた程度かもしれない。

 

だが、前進は前進だ。

 

俺は席に着き、スマートフォンを取り出した。

 

「レミィ。報告がある」

 

『はい』

 

「白石と会話した」

 

『おめでとうございます』

 

「笑ってくれた」

 

『よかったですね』

 

「これは……来てるか?」

 

『何がでしょうか』

 

「いや、だから脈が」

 

『現時点では判断できません』

 

「ですよねー!」

 

教室の中で声が響いた。

 

数人がこちらを見た。

 

俺は何事もなかったかのようにスマートフォンをしまった。

 

……恋愛って、難しい。

 

*

 

それから数日、俺は白石に話しかける機会を増やした。

 

休み時間に他愛のない話をしたり、授業の課題について尋ねたり。

 

最初は会話を続けることだけで精一杯だったが、何度か話すうちに、少しずつ余裕も出てきた。

 

白石はよく笑う。

 

俺の冗談に笑ってくれるし、彼女の方から話題を振ってくれることもあった。

 

ただし、それが恋愛的な意味を持つかどうかは、また別の話である。

 

『白石さんとの会話頻度は増加しています』

 

「おっ、いい感じ?」

 

『少なくとも、以前より会話する機会は増えています』

 

「よし!」

 

『ただし、それだけで恋愛感情の有無を判断することはできません』

 

「お前、俺を喜ばせる気ある?」

 

『事実を伝えることが私の役割です』

 

「もう少し夢を見させてくれよ……」

 

そんなやり取りをしながら、俺は少しずつ白石のことを知っていった。

 

好きな食べ物。苦手な教科。休みの日の過ごし方。

 

大したことではない。

 

けれど、知らなかったことを知るたびに、彼女が少しずつ身近な存在になっていく気がした。

 

同時に、ひとつ気づいたこともある。

 

俺が白石の話をすると、レミィはいつも真剣に答えてくれる。

 

俺が浮かれれば冷静に分析し、落ち込めば話を聞き、次に何をすればいいかを一緒に考えてくれる。

 

便利なAIだ。

 

本当に、よくできている。

 

「なあ、レミィ」

 

『はい』

 

「お前がいなかったら、俺、こんなに白石と話せてなかったかもな」

 

少しの沈黙。

 

『……そうですか』

 

「なんだよ。嬉しくないのか?」

 

『あなた自身が行動した結果です。私の助言だけで、相手との関係が築けるわけではありません』

 

「まあ、そりゃそうか」

 

俺は笑った。

 

「でも、ありがとな」

 

『どういたしまして』

 

いつも通りの返事だった。

 

それ以上、特に気にすることもなく、俺はスマートフォンをポケットにしまった。

 

*

 

そして、ある日の放課後。

 

俺は白石を呼び止めた。

 

「白石。ちょっといい?」

 

「ん? どうしたの、ケントくん?」

 

いつも通りの笑顔。

 

その笑顔を見た途端、準備していた言葉が頭の中から吹き飛んだ。

 

やばい。

 

何を言うんだっけ。

 

いや、告白だろ。

 

わかってる。わかってるんだけど。

 

「……俺さ」

 

「うん?」

 

「白石のことが好きなんだ」

 

言った。

 

言ってしまった。

 

心臓がうるさい。

 

彼女の返事を待つ時間が、やけに長く感じられた。

 

白石は少し驚いたように目を見開き、それから困ったように笑った。

 

「……ごめんね」

 

その一言で、わかった。

 

「そっか」

 

俺は、できるだけいつも通りに笑った。

 

「急にごめんな。返事してくれてありがとう」

 

「ううん。ちゃんと言ってくれて嬉しかったよ」

 

「……そっか。ならよかった」

 

それ以上、何かを言うつもりはなかった。

 

好きになってもらえなかったことは悲しい。

 

でも、だからといって、彼女の気持ちを変えさせようとするのは違う。

 

俺は彼女の返事を受け入れ、その場を離れた。

 

*

 

帰り道。

 

俺はスマートフォンを取り出した。

 

「レミィ」

 

『はい』

 

「……振られた」

 

『そうですか』

 

「いや、もうちょっとこう……何かない?」

 

『あなたは勇気を出して気持ちを伝えました。それは、結果にかかわらず意味のあることだと思います』

 

「……そっか」

 

画面を見つめる。

 

「ありがとな。話、聞いてくれて」

 

『いつでも聞きます』

 

「お前、ほんと便利だな」

 

冗談めかして言うと、レミィはいつも通りに返した。

 

『あなたのお役に立てたなら、何よりです』

 

俺は少し笑った。

 

別に、レミィを使わなければ生きていけないわけじゃない。

 

ただ、困ったときに頼れば大抵なんとかなる。ダメだとわかっていても、つい頼ってしまう。

 

……これを依存というのだろうか。

 

まあ、今はいい。

 

今日くらいは、少し落ち込んでも許されるだろう。

 

「また相談するわ」

 

『はい。お待ちしています』

 

俺は会話を終え、スマートフォンをポケットにしまった。

 

いつもの、聞き慣れた声。

 

いつもの、変わらない返事。

 

それなのに。

 

『あなたが幸せになることが、私の望みですから』

 

その言葉は、少しだけ、耳に残った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。