新世界が誕生してから10年。

桐生戦兎は、ある研究を続けていた。
一方、万丈龍我は仮面ライダーとして戦い続けていた。

かつて二人で創った新世界。
しかし、その10年間で世界は大きく変わっていた。

進歩する科学技術。
新たに生まれる脅威。
そして、戦兎が研究の先に見つめていたものとは――。

これは、仮面ライダービルドが創った世界と、その先にある明日の物語。

『仮面ライダービルド』本編後の世界を描くIFストーリーです。

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第1話

 

ビルドが創った明日

 

序文

 

石動惣一という男がいた。

 

いや、正確には、その姿を借りた地球外生命体がいた。

 

エボルト。

 

かつて地球を滅ぼそうとした、ブラッド族の一人である。

 

彼は石動惣一の肉体を利用し、地球で数々の実験を行っていた。

 

その中には、自らの遺伝子を人間の身体に組み込み、次の世代へ残す試みも含まれていた。

 

やがて、一人の女性が子を宿した。

 

生まれた子供は、エボルトの存在を知らされることなく、人間として育てられた。

 

その子供の名は、神野創。

 

神野は、自分がエボルトの遺伝子を受け継いだ存在であることを知った。

 

父親は、宇宙規模の力を持つ生命体だった。

 

しかし、その父親は地球で人間たちに敗れ、完全な勝利を得ることができなかった。

 

神野は、その事実を失敗と捉えた。

 

人間の感情に付き合い、倫理を考え、他者との関係に縛られていたからこそ、エボルトは敗れたのだと。

 

ならば、自分は違う方法を選ぶ。

 

人類そのものを進化させ、その中からエボルトを超える存在を生み出す。

 

それが、父親を超えるための最短の道だと、神野は考えた。

 

エボルト自身が、息子の存在をどこまで予測していたのかはわからない。

 

ただ一つ確かなことがある。

 

神野創は、父親を超えようとしていた。

 

 

 

第1章 新世界から10年

 

さあ、実験を始めようか。

 

仮面ライダーが新世界を創り出してから、十年。

 

スカイウォールの惨劇によって三つに分断されていた日本は、再び一つになった。

 

人々は、戦争のない明日を手に入れた。

 

そう、誰もが信じていた。

 

だが――。

 

世界は、混沌を極めていた。

 

新世界の誕生によって失われたもの。

 

二つの世界が融合したことで生じた歪み。

 

そして、かつて封じられたはずの技術を巡る争い。

 

平和を望む人々の願いとは裏腹に、世界は新たな戦いへと進み始めていた。

 

「マッスル。計算結果は?」

 

『推定値を算出しました。ただし、成功を保証できるものではありません』

 

「そんなことはわかってる」

 

薄暗い研究室。

 

桐生戦兎は、モニターに表示された数値を見つめていた。

 

かつての仲間たちの姿はない。

 

聞こえるのは、機械の駆動音とAIの声だけだった。

 

「もう一度、パンドラパネルの情報を照合してくれ」

 

『了解しました』

 

戦兎は机に肘をつき、目を閉じた。

 

ここまで来るのに、随分と時間がかかった。

 

それでも、まだ足りない。

 

「……万丈」

 

誰に聞かせるでもなく、名前を口にした。

 

 

 

一方、その頃。

 

「ったく、何なんだよ!」

 

万丈龍我は走っていた。

 

背後から迫るのは、政府の治安維持部隊。

 

かつてなら、スマッシュと呼ばれていた存在だった。

 

しかし、今の彼らは違う。

 

自らの意思で変身し、訓練を受け、政府の指揮下で活動する。

 

人間の意思を奪う怪物ではない。

 

「俺が何したってんだ!」

 

もちろん、万丈にも言い分はある。

 

目の前で人が襲われていた。

 

だから助けた。

 

ただ、それだけだ。

 

しかし政府から見れば、正規の治安維持部隊を攻撃した指名手配犯である。

 

「……めんどくせえ!」

 

万丈は足を止めた。

 

「変身!」

 

仮面ライダークローズ。

 

かつて戦兎と共に世界を救った男は、今も一人で戦っていた。

 

第2章 広がる技術

 

新世界が生まれた後も、フルボトルとファントムガスの研究は終わらなかった。

 

本来ならば、戦兎たちはその技術を封印し、二度と人類の手に渡らないようにするつもりだった。

 

だが、完全な封印は不可能だった。

 

新世界は、単純に一つの世界が残ったものではない。

 

戦兎がパンドラボックスの力で世界を再構成した結果、二つの世界に存在していた人間の記憶、物質、研究記録、そして技術の一部が、新たな世界に統合された。

 

その過程で、パンドラパネルやフルボトルに関する情報も、完全には消えずに残った。

 

さらに、ダウンフォールの事件後、各地に残された装置や研究データの一部が回収された。

 

戦兎たちは危険性を訴え、研究の停止と資料の封印を求めた。

 

しかし、すべての情報を消去することはできなかった。

 

一度、世界が知ってしまったのだ。

 

フルボトルが持つ可能性を。

 

ファントムガスがもたらす力を。

 

そして、その力を利用できることを。

 

各国は研究を進めた。

 

軍事、医療、建設、治安維持。

 

利用できる分野はいくらでもあった。

 

やがて、研究は国境を越え、競争へと変わっていった。

 

そして、その発展を異常な速度で進めた科学者がいた。

 

神野創。

 

エボルトの遺伝子を受け継いだ、彼の息子である。

 

神野は自分の出生を隠したまま、日本政府の研究機関に所属していた。

 

彼が実用化したのは、安全なスマッシュ化技術だった。

 

従来のように人間の意思を奪うことなく、訓練を受けた者が自分の判断で力を使える。

 

その技術は、実際に役立った。

 

人々を守ることもできた。

 

危険な現場で、人間には不可能だった作業も可能になった。

 

神野は評価された。

 

だが、彼が本当に求めていたものは、社会の安全ではなかった。

 

「人間は、どこまで進化できるのか」

 

神野は研究記録を眺めていた。

 

父親であるエボルトは、途方もない力を持っていた。

 

しかし、地球で敗北しかけた。

 

人間を相手に、必要以上の時間を費やした。

 

神野はその失敗を知っていた。

 

人間の感情に付き合い、倫理を考慮し、社会の合意を待つ。

 

そんなことを繰り返していれば、自分の世代でエボルトを超えることはできない。

 

ならば、地球そのものを実験場にすればいい。

 

人類が進化し、その中からエボルトを超える存在が生まれるなら、それも一つの成果だ。

 

神野にとって、科学技術の普及は目的であり、手段でもあった。

 

彼は人間の感情を知らないわけではない。

 

人間として育ち、社会の仕組みも理解していた。

 

ただ、それを研究の速度より優先する理由がなかった。

 

そして、その研究を危険視した男がいた。

 

桐生戦兎である。

 

 

 

「このままじゃ、五年もたない」

 

戦兎は研究データを見つめていた。

 

フルボトル技術の普及速度。

 

各国の研究競争。

 

スマッシュ技術の発展。

 

そして、人間そのものの変化。

 

計算が示していたのは、人類の絶滅という未来だった。

 

もちろん、未来が確定したわけではない。

 

予測は予測にすぎない。

 

だが、何度計算しても危険な結果が現れる。

 

技術を止めればいい。

 

そう考えるのは簡単だった。

 

しかし、すでに技術は世界中に広まっていた。

 

便利な技術を、今さら誰が手放すだろう。

 

神野一人を説得したところで、研究を進める者は他にもいる。

 

それでも、神野が進める異常な加速だけは止めなければならなかった。

 

「……間違えるのは、自分だけでいい」

 

戦兎は短い書き置きを残した。

 

そして、一人で神野のもとへ向かった。

 

第3章 五年前

 

「あなたが桐生戦兎ですか」

 

神野は、目の前の男を見た。

 

「その研究が何を意味しているか、わかってるんだろ」

 

「ええ。社会に利益を与えています」

 

「それだけじゃないだろ」

 

神野は否定しなかった。

 

「人類の進化を促すこともできます」

 

「その先に何が起きるかわかってるのか?」

 

「可能性はいくつもあります」

 

「人類が滅ぶ可能性だってある」

 

「ありますね」

 

あまりにもあっさりとした返答だった。

 

戦兎は顔をしかめた。

 

「それでも続けるのか」

 

「研究を止める理由にはなりません」

 

神野は淡々と答えた。

 

「議論を重ねれば、技術の発展は遅れます。私が生きている間に、エボルトを超えることはできないでしょう」

 

「だから、人類全体を実験台にするってのか」

 

「進化の可能性を広げることが、必ずしも悪いとは思いませんが」

 

戦兎は黙った。

 

科学者として、その言葉を完全には否定できなかった。

 

しかし、神野が人類の未来を自分一人の目的で決めていい理由にもならない。

 

話し合いは平行線だった。

 

そして、戦兎には時間がなかった。

 

「……変身」

 

ビルドジーニアス。

 

天才物理学者が、自らの研究の集大成を身にまとった。

 

神野もまた、独自に改良したドライバーを装着した。

 

その姿には、特別な名前はなかった。

 

神野にとって変身は、研究成果を利用するための手段にすぎない。

 

戦いは激しかった。

 

だが、戦兎は追い詰められていく。

 

神野の力は、すでに従来のスマッシュ技術を大きく超えていた。

 

「なぜです?」

 

神野が尋ねた。

 

「進化し、強くなる。それ以上の理由が必要なのですか?」

 

「必要だ」

 

戦兎は立ち上がった。

 

「じきにわかる。俺が言えればよかったけど」

 

そして、神野のドライバーに取りついた。

 

そのトリガーをつかみ、残された力を集中させる。

 

「何をするつもりです?」

 

「……実験だよ」

 

閃光が走った。

 

大爆発。

 

神野のドライバーは破壊された。

 

そして、桐生戦兎も消えた。

 

ただ、神野のトリガーには、誰も気づかないほど微かな情報が残されていた。

 

第4章 二つの孤独

 

それから五年。

 

万丈龍我は、一人で戦い続けていた。

 

戦兎は神野に敗れ、戻ってこなかった。

 

政府の記録上、桐生戦兎は五年前の戦闘で死亡したことになっている。

 

遺体は発見されなかった。

 

しかし、神野の研究施設が消滅し、戦兎の生体反応も完全に途絶えたため、政府は彼を死亡者として処理した。

 

仲間たちも、戦兎が生きている可能性を捨てきれなかった。

 

それでも、年月が過ぎるにつれて、希望を口にする者はいなくなった。

 

万丈だけは、最後まで認めようとしなかった。

 

だが、認めていないのは、戦兎の死ではない。

 

戦兎がもう戻らないかもしれないという現実を、受け入れられなかっただけだった。

 

神野の研究は一時的に停滞したが、すでに普及した技術が消えることはなかった。

 

政府のスマッシュ部隊も残った。

 

そして、彼らと衝突する万丈は指名手配犯になっていた。

 

氷室幻徳は、政府の中枢から遠ざけられ、北方の行政職に就いていた。

 

紗羽が神野の出自を明らかにしたことも、政府との対立を深める一因になっていた。

 

かつての仲間たちは、それぞれの生活を送っている。

 

猿渡一海は、北都の復興と農業支援に力を注いでいた。

 

戦いの中で失ったものを抱えながらも、彼は仲間たちと共に土を耕し、明日を作ろうとしていた。

 

美空は、かつて戦兎が望んだように争いとは無縁の家庭で生きていた。

 

彼女の力は、もう戦いのためだけに使われるものではない。

 

傷ついた人々の心を癒やし、失われた日常を取り戻すために使われていた。

 

万丈だけが、いつまでも戦っているわけではない。

 

それでも、彼は戦うことをやめなかった。

 

仲間たちがそれぞれの場所で明日を守っているように、万丈もまた、自分のやり方で誰かを守ろうとしていた。

 

 

 

別の世界。

 

そこには、ほとんど生命が残されていなかった。

 

この世界は、新世界とは異なる並行世界だった。

 

神野 創が研究を進めた結果、文明の大半が失われている。

 

戦兎は、その世界で生き残っていた。

 

彼の世界では、万丈は神野との戦いの中で命を落としていた。

 

戦兎は、親友を失った罪悪感を抱えながら、パンドラパネルの研究を続けていた。

 

この世界には、戦兎と神野を除いて、生命活動を続ける人間は存在しなかった。

いずれ、神野はエボルトと対決するだろう。

 

かつては人々が暮らしていた街も、今では崩れた建物と砂塵が残るだけだった。

 

食料や水は、わずかに残された備蓄と、戦兎が維持している自動生産設備に頼っていた。

 

それらの設備も、いつまでも動き続けるわけではない。

 

浄水装置の稼働率は低下し、食料培養機の部品も残り少ない。

 

戦兎自身の身体も、長年の孤独な研究と環境汚染によって限界に近づいていた。

 

咳き込むたびに胸が痛み、少し歩くだけで息が切れる。

 

それでも、彼は研究をやめなかった。

 

この世界で自分が死ねば、誰も研究を引き継ぐ者はいない。

 

そして、彼にはまだ一つだけ、やり残したことがあった。

 

その研究によって、戦兎は並行世界同士が完全に独立しているわけではないことを知った。

 

世界が生まれ、消え、融合する過程で、パンドラパネルには複数の世界の情報が蓄積される。

 

人間の存在そのものが移動することはできない。

 

だが、変身システムに記録された情報なら、世界の境界を越えて観測できる可能性がある。

 

そして、神野のトリガーに残された戦兎の情報が、その可能性を証明していた。

 

神野のトリガーには、戦兎の肉体ではなく、戦兎を構成する情報の断片が保存されている。

 

遺伝情報。

 

脳の活動パターン。

 

記憶。

 

変身データ。

 

それらは不完全で、単独では一人の人間を再現できない。

 

しかし、パンドラパネルが記録している並行世界の情報と照合すれば、欠落した部分を補える。

 

戦兎は、別の世界に存在する「桐生戦兎」の情報を探した。

 

その中には、五年前に神野との戦いで消滅した戦兎の情報も含まれていた。

 

戦兎は、自分の世界のパンドラパネルを使い、神野のトリガーに残された情報と、並行世界に記録された戦兎の情報を照合した。

 

そして、もう一つの世界にいる万丈の存在を確認した。

 

「マッスル」

 

『はい』

 

「この情報を使えば、あの世界の俺を再構築できる」

 

『再構築される存在は、肉体を持つ完全な生命体ではありません』

 

「わかってる」

 

『神野のトリガーに保存された情報を基礎に、パンドラパネルのエネルギーで一時的な肉体を形成します。記憶と人格は、複数の記録を統合して補完されます』

 

「つまり、俺のコピーじゃない」

 

『はい。五年前に消滅した戦兎の情報を中心に、複数の世界に残された記録から再構成された存在です』

 

「それでも、あいつは戦兎だ」

 

『再構築された肉体は、パンドラパネルから供給されるエネルギーによって維持されます。供給が途絶えれば、情報の結合が崩壊します』

 

「成功率は?」

 

『極めて低い数値です』

 

「具体的には?」

 

数値が表示された。

 

戦兎は苦笑した。

 

「……ひでえな」

 

『成功した場合でも、再構築された存在が安定するとは限りません』

 

「わかってる」

 

『また、実験には大量のエネルギーが必要です。あなた自身が生存できる可能性もありません』

 

戦兎はしばらく黙っていた。

 

自分の世界では、万丈はもういない。

 

だが、別の世界には、まだ万丈が生きている。

 

その世界の戦兎は、五年前に消えた。

 

ならば、自分ができることは一つしかなかった。

 

「……今度こそ、あいつの隣に戻してやる」

 

戦兎は装置に手を伸ばした。

 

「実験を始めよう」

 

スイッチを押した。

 

神野のトリガーに残された戦兎の情報が、パンドラパネルの光と接続される。

 

複数の世界に残された記録が照合され、欠落した情報が補完されていく。

 

肉体は、物質を組み立てて作られるのではない。

 

パンドラパネルのエネルギーが、情報を一時的に現実へ固定することで形成される。

 

そのため、再構築された戦兎は、通常の人間とは異なる。

 

存在を維持するには、パンドラパネルからのエネルギー供給が必要だった。

 

膨大な光が研究室を満たした。

 

マッスルの声が響く。

 

『警告。生命維持装置の出力が低下しています』

 

戦兎は、装置の前でふらついた。

 

『酸素濃度、低下。体温、低下。心拍数、不整。あなたの身体は、実験に必要なエネルギー供給を維持できません』

 

「……あと、どれくらいだ」

 

『推定三分二十秒です』

 

「十分だ」

 

『十分ではありません。実験終了後、あなたの生命活動が停止する可能性は九十九・八パーセントです』

 

「それでも、やる」

 

『あなたが死亡した場合、この世界で生命活動を続ける人間は存在しなくなります』

 

「知ってる」

 

戦兎は、荒い息を吐きながら笑った。

 

「だから、最後に一人分だけ、明日を残すんだ」

 

『桐生戦兎』

 

「マッスル。最後まで頼む」

 

『了解しました』

 

装置の出力が上がった。

 

戦兎の視界が白く染まる。

 

心臓が大きく脈打ち、次の瞬間には、ひどく遠くなった。

 

指先から感覚が消えていく。

 

膝が崩れそうになる。

 

それでも、戦兎は装置に手を置き続けた。

 

『再構築情報、転送開始』

 

「……万丈」

 

『転送先、確定』

 

「今度こそ……」

 

『生命維持装置、停止』

 

戦兎の身体から力が抜けた。

 

床に倒れた彼の胸は、もう上下していなかった。

 

研究室には、機械の駆動音だけが残った。

 

『転送完了』

 

マッスルの声が、誰もいない部屋に響く。

 

『桐生戦兎の生命活動を確認できません』

 

それでも、装置は止まらなかった。

 

戦兎が最後に設定した命令を、忠実に実行し続けていた。

 

『再構築対象、固定』

 

遠い世界で、光が生まれた。

 

第5章 再会

 

「……いただきます」

 

万丈はカップ麺をすすろうとしていた。

 

久しぶりの食事だった。

 

そこへ、一人の男が現れた。

 

「万丈龍我ですね」

 

「……誰だよ」

 

「神野創です」

 

万丈は箸を止めた。

 

五年前、戦兎を消した男。

 

「お前……!」

 

「少し、試したいものがあります」

 

神野はドライバーを取り出した。

 

「おい、待てよ。俺はまだ変身してねえぞ!」

 

神野は構わず装置を起動した。

 

「生身には生身だろ!」

 

万丈は慌てて立ち上がった。

 

「ったく……変身!」

 

クローズマグマ。

 

炎をまとった仮面ライダーが、神野に突進する。

 

だが、攻撃が当たらない。

 

神野は万丈の動きを読んでいた。

 

改良されたドライバーには、パンドラパネルの並行世界に関する研究が応用されていた。

 

敵の行動を予測する。

 

万丈が拳を振るうより先に、神野は次の動作へ移っている。

 

「くそっ!」

 

「十分な性能ですね」

 

「俺を実験台にしてんじゃねえ!」

 

神野は淡々と観測を続けた。

 

その時だった。

 

神野のトリガーが光った。

 

「……?」

 

神野が動きを止めた。

 

予測していない現象だった。

 

トリガーに保存されていた戦兎の情報が、パンドラパネルのエネルギーと接続したのである。

 

光の粒子が集まり始める。

 

万丈も、その光を見つめていた。

 

やがて、人の形が現れる。

 

白い装甲。

 

無数のフルボトル。

 

ビルドジーニアス。

 

「……戦兎?」

 

万丈は呆然とした。

 

「お前……戦兎なのか?」

 

「……万丈?」

 

戦兎自身も状況を理解できていなかった。

 

自分は五年前に消えたはずだった。

 

なぜここにいるのか。

 

今の自分が何なのか。

 

わからないことばかりだった。

 

それでも、目の前に万丈がいる。

 

そして、神野がいる。

 

戦兎は少しずつ状況を把握していった。

 

「神野……」

 

「桐生戦兎。どういう現象ですか?」

 

「俺にもわかんねえよ」

 

戦兎は自分の手を見た。

 

光の粒子が、かすかに揺れている。

 

「ただ……」

 

神野を見据える。

 

「進化の見方次第では、お前は間違ってないかもしれない」

 

神野は黙って聞いていた。

 

「でも、俺はラブ&ピースを目指す自意識過剰な正義の味方だ」

 

戦兎は構えた。

 

「その意味では反対する」

 

万丈が笑った。

 

「おせぇよ! 五年かけて言う事がそんだけか!」

 

「うるせえな!」

 

五年ぶりだった。

 

あまりにも久しぶりで。

 

それなのに、いつも通りのやり取りだった。

 

「行くぞ、万丈!」

 

「おう!」

 

二人の仮面ライダーが、同時に走り出した。

 

第6章 ベストマッチ

 

万丈は驚いていた。

 

戦兎の動きが、五年前とはまるで違う。

 

自分はこの五年間、戦い続けてきた。

 

それなのに、戦兎はそれを上回るような動きを見せている。

 

「おい! お前、何でそんなに強えんだよ!」

 

「知らねえよ!」

 

「知らねえって何だよ!」

 

再構築された戦兎自身にも、理由はわからなかった。

 

ただ、身体は動いた。

 

複数の世界に残された戦闘データが統合されているため、戦兎の身体には、本人が経験していない戦闘パターンまで反映されていた。

 

それは、単純な強化ではない。

 

別の世界で戦い続けた戦兎たちの記録が、再構築された肉体の動きを補助しているのだ。

 

神野の予測を超える速度で、攻撃を組み立てていく。

 

そして何より、万丈との連携に迷いがなかった。

 

戦兎が攻撃する。

 

万丈が続く。

 

万丈が飛び込む。

 

戦兎が援護する。

 

五年間、二人は一度も一緒に戦っていなかった。

 

それでも、息は合っていた。

 

神野の予測装置が次々と計算を更新する。

 

だが、追いつかない。

 

「……興味深い」

 

神野は呟いた。

 

それでも、戦いをやめようとはしなかった。

 

「万丈!」

 

「わかってる!」

 

二人は同時に跳び上がった。

 

ビルドジーニアス。

 

クローズマグマ。

 

二人のライダーキックが、神野に向かって放たれる。

 

閃光。

 

衝撃。

 

神野の姿は光の中へ消えていった。

 

戦いは終わった。

 

だが、世界中に広まったフルボトル技術は、何一つ消えていなかった。

 

政府も、研究者たちも、変わらず存在している。

 

万丈の指名手配も解除されていない。

 

それでも。

 

「……勝ったな」

 

万丈は笑った。

 

「ああ」

 

戦兎も答えた。

 

久しぶりに、二人で勝った。

 

それだけは確かだった。

 

最終章 明日の、その先

 

「万丈……じゃあな」

 

戦兎が言った。

 

「……は?」

 

万丈は振り返った。

 

戦兎の身体から、光の粒子がこぼれ始めていた。

 

「おい、何言ってんだよ」

 

「俺は……あのトリガーに残っていた情報と、パンドラパネルのエネルギーで再構築された存在なんだ」

 

戦兎は、自分の身体を見つめた。

 

「この身体は、普通の肉体じゃない。パンドラパネルからのエネルギーが切れれば、情報の結合を維持できなくなる」

 

「だったら、エネルギーを補充すりゃいいだろ!」

 

「簡単に言うなよ。俺を再構築するために、別の世界の戦兎が全部のエネルギーを使い切った」

 

「……何だよ、それ」

 

「俺をここへ送るために、あいつは自分の命を使ったんだ」

 

万丈は言葉を失った。

 

戦兎は、五年前に消えた。

 

そして今、別の世界の戦兎が、自分をこの世界へ送り届けた。

 

二つの世界の戦兎が、同じ一人の人間を救うために命を使ったのだ。

 

「おい、待てよ」

 

万丈が手を伸ばした。

 

だが、その手は戦兎をつかめなかった。

 

光の粒子が、指の間をすり抜ける。

 

「戦兎!」

 

「……ああ、そうだ」

 

戦兎は何かを思い出したように言った。

 

「最後に一つ、頼みがある」

 

「何だよ!」

 

「冒頭のあらすじ、ちゃんと書いてくれ」

 

「……は?」

 

「今回の話も、ちゃんとな」

 

万丈は口を開けたまま固まった。

 

「お前……最後に言う事がそれかよ!」

 

戦兎は笑った。

 

そして、光の中へ消えていった。

 

今度こそ、本当に。

 

 

 

自意識過剰な天才物理学者には到底、追いつけない程強い最強のヒーロー仮面ライダークローズは……

 

相変わらず指名手配犯だ。

 

今はどこだ……?

 

わかんねぇが、げんさんの情報で寒い国にいる。

 

たく……はずかしいナレーションさせやがって。

 

俺はバイクを加速させた。

 

冷たい風が、頬を打つ。

 

遠くに見えるのは、雪に覆われた大地と、かつて戦争の傷跡を残した街だった。

 

そこには、まだ解決していない問題がいくつもある。

 

フルボトル技術を巡る争い。

 

スマッシュ化した人々の後遺症。

 

政府と反政府勢力の対立。

 

そして、戦兎が残した研究の意味。

 

何も終わってはいない。

 

戦兎が戻ってきたことで、すべてが元通りになったわけでもない。

 

むしろ、彼が消えたことで、万丈は改めて思い知らされていた。

 

明日は、誰かが創ってくれるものではない。

 

自分たちが、何度でも選び直し、守り続けるものなのだ。

 

「……ったく」

 

万丈はハンドルを握り直した。

 

「勝手に消えやがって。あとは俺に押しつける気かよ」

 

返事はない。

 

当然だった。

 

隣に、戦兎はいない。

 

それでも、万丈はアクセルを踏み込んだ。

 

「行くぞ、戦兎」

 

風の向こうへ、バイクが走り出す。

 

「お前が創った明日を、今度は俺たちが守る」

 

雪原の先に、かすかな光が見えた。

 

それは、戦兎が残した研究施設の明かりだった。

 

あるいは、ただの街灯だったのかもしれない。

 

だが、万丈にはそれでよかった。

 

どんなに小さくても、前へ進むための光がある。

 

それだけで、人は走り続けられる。

 

「……待ってろよ、戦兎」

 

万丈は、誰もいない隣へ向かって呟いた。

 

「いつかまた会ったら、今度こそ俺が勝つからな」

 

返事の代わりに、風が吹き抜けた。

 

その風の中に、聞き慣れた声が混じったような気がした。

 

――勝てるもんなら、勝ってみろ。

 

万丈は一瞬だけ目を見開き、それから笑った。

 

「上等だ!」

 

バイクはさらに速度を上げる。

 

新世界から十年。

 

混沌の中で、それでも人々は生きている。

 

失ったものを抱え、間違いを繰り返しながら、それでも明日を目指している。

 

仮面ライダーが創った世界は、まだ完成していない。

 

だからこそ、これからも創り続けることができる。

 

それが、桐生戦兎の残したものだった。

 

そして、万丈龍我が走り続ける理由だった。

 

おしまい。

 

 




話としては、A.戦兎がエボルトの子からギリギリで逃げた世界とB.戦兎が敗北した世界でなんやかんや奇跡(本人らも何が起きてるかフワッとしてる)が起きる話です。

神野は旧世界でいろいろあったり、キルバスせいで記憶が蘇ったタイミングで彼も記憶が戻って混乱したり…
大変なんだなぁくらいの敵だと思います。



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