クソボケTS男が、ディストピアSF世界の女の子たちを曇らせる話 作:霧夢龍人
「ヒャッハー!!!手をあげて床に伏せろ!俺に撃たれたくなきゃりゃあなぁ!?汚物は消毒だァーーー!!!」
「抵抗はやめてください、通報しても無駄です。諦めてこのバッグに、お金を詰めるように」
銀行内に、少女二人の声が響き渡った。
その声に反応し、受付に並んでいた客たちが一斉に振り返る。窓口の職員は目を見開き、奥で事務作業をしていた銀行員までもが何事かとこちらに視線を向ける。
そして、数秒の沈黙の後──響き渡ったのは、銀行強盗に恐れ慄く人々の悲鳴と絶叫だ。
「きゃああああああっ!!」
「強盗だ! 銀行強盗だ!!」
「う、嘘だろ……!?」
銀行内は、ちょっとしたパニック状態に陥っていた。
床に伏せる客、頭を抱えて震える職員、悲鳴を上げながら互いに身を寄せ合う人々。つい数分前まで平穏だったであろう銀行の窓口は、今や銀行強盗する少女──俺たち二人の登場によって見る影もない。
そして何よりも驚きなのが、一番銀行強盗にノリ気だったのがルナちゃんであるということだ。
銀行員にバッグを放り投げ「早く詰めてください」と、こめかみに銃口を突きつける姿は、どう見ても十五歳の子供とは思えない。顔はマスクとサングラス(旧式格納庫にあった)で隠してはいるものの、傍から見ている俺がオシッコちびりそうになるくらいには迫力が出ていた。
……いや、本当に誰だよこの子。
ついさっきまで、あんなに控えめで大人しかったルナちゃんはどこへ行ってしまったのか。今の彼女からは、普段の遠慮がちな雰囲気が微塵も感じられない。むしろ、俺よりも強盗という役柄を理解しているようにすら見えた。
「お、お待たせしました……!」
暫くすると、窓口の職員がいっぱいになったバッグを差し出してくる。
「ありがとうございます。ご協力に感謝します」
「ど、どうか命だけは……!」
「ええ。こちらも無用な争いは望んでいませんので」
ルナちゃんが丁寧に頭を下げる。
……怖ぇ。言葉遣いが丁寧な分、余計に怖えぇよ。
俺なんて勢い任せに怒鳴っていただけなのに、彼女はまるで接客業のベテランみたいな落ち着きぶりだ。これじゃどっちが主犯なのか分かったもんじゃない。
だが、これで当初の目的の一つは達成した。
俺たちが欲しかったのは、何も銀行の金だけじゃない。むしろ重要なのは、この騒ぎによって生まれる混乱と注目だ。ここまで派手にやれば、警備組織が動くのは時間の問題。ニュースにでもなれば、惑星中の人間が俺たちの存在を知ることになる。
そして、それは星葬会の連中にとっても同じこと。
「っしゃ、トンズラこくぞ!」
「はい、逃げましょう!」
大量の札束を積み込んだ袋をかかえながら、俺たちは路地裏へ逃げ込む。もはや慣れ親しんだ逃走劇の始まりである。
と、とここでコンタクトに仕込まれた端末から、我らが愛しのご主人様の通信が届いた。
『デマの情報を幾つか流したわ。これで警備組織の目は暫く別の場所に向くはずよ。その隙にカルト集団共が指定した場所──停船所へ向かいなさい』
さすがレディオンさん。舌を巻く仕事の早さに、思わず感嘆の声が漏れる。俺たちが出来ないことをしれっとやってのける当たり、銀河五本の指に入る……みたいな話は間違いじゃないらしい。
『せいぜい捕まらないようにしなさい。また船で突っ込むのも億劫だし……こっちも準備ができ次第、合流するわ』
「了解です!こちらもルナちゃんと一緒に向かいます!」
『……ところで、その子は大丈夫なの?』
「その子って?」
『Mrs.ルナジュペリよ。初めての銀行強盗で、何か変なスイッチが入ったんじゃないでしょうね』
通信越しに、レディオンさんの呆れたような声が聞こえてくる。
俺は隣を走るルナちゃんへと視線を向けた。彼女は大きなバッグを抱えながら、俺の隣を懸命についてきている。
先ほどの銀行での堂々とした振る舞いが嘘のように、今はいつもの控えめな様子に戻っていた。
え、こわ。
さっきまでキラッキラしてたお目目が、いつも通りの光のない目になっている。俺ってもしかして、とんでもない子を仲間にしちゃったんじゃなかろうか?
……ま、まぁいいか。
アウトローに入った順では俺の方が先だ。先輩としての立場は危うくないはず。
多分。
路地裏に逃げ込んで数十分。
少しの休憩を挟みながら進んでいくと、数多の船が停船している場所へ辿り着いた。
そこは、惑星の外縁部に位置する比較的大きな停船所だ。
大小様々な宇宙船が並び、貨物の積み下ろしを行う作業員や、船の出航を待つ乗客たちが行き交っている。観光客向けの華やかな宇宙港とは違い、どちらかといえば商用船や個人所有の小型船が利用する場所らしい。
奥には
しかもよくよく見れば、黒いコートを着た連中がまばらに配置されている。随分とまぁ、ご苦労な出迎えだなぁおい。
とてもじゃないが、ここを突っ切っていけるとは思えない。
「こ、困りました。どうやってあそこのテントまで行けばいいんでしょう……?」
凄まじく同意見だ……いや、待てよ。
別に、隠れて進む必要なんてあるのだろうか。
俺たちの目的はルナちゃんを連れて、この惑星から脱出すること。あのテントにいる連中が邪魔なら、そこを突っ切ってしまえばいい。
実に単純明快。分かりやすい話だ。
「……よし」
「エクスさん?」
俺は一度、手に持ったバッグを持ち直した。
そしてお世話になっている愛銃を胸ポケットから取り出し、放つ準備を開始する。
「ルナちゃん。正面から行こう」
「えっ。しょ、正気ですか!?」
「あぁ、正面突破だ。あいつらが俺たちを待ってるっていうなら、わざわざ期待に応えてやろうじゃないか」
「で、でも……あれだけの人数がいますよ?」
「だから何だって話だ。こそこそ逃げ回るのも性に合わない。
アウトローを、俺たちの名前を──アイツらに刻み付けてやるぞ」
勝算?あるわけない。
相手の人数は多いし、こちらは二人。だからこそ、コソ泥みたいなやり方じゃいずれ捕まる。
ここは悪党らしく堂々と、姫様を連れ去ってやろうじゃないか。
妙に気分が乗って高揚する身体。武者震いが止まらない。
誰かに用意された道を、誰かの顔色を窺いながら歩くなんて、そんなのまっぴらごめんなんだよ。
「レット・イット・ビー……」
「なんですかそれ……?」
「あるがままにって意味だ」
起きたことを受け入れ、目の前の状況に身を委ねる。そんな意味合いだったはずだ。
まあ、俺の解釈が合っているかは知らない。艦長に聞いたら、きっと適当なことを言うなと怒られるだろう。
でも、今はそれでいい。
「行こうぜ、ルナちゃん。置いてかれんなよ」
「ほ、ほんとに行くんですか!?──ちょ、置いていかないでくださぁーーーーい!!!」
なぁ、マキナちゃん。
| ──Now Loading...COMPATTIBILITY RATE : 99%
|
お前はきっと不器用なんだと思う。
「いつでも出来てるよォッ!」
| 型番号──《STAR ARMS : SOL-01》《STELLA CANON》
《OWNER:MAKINA》
:
・
・
▶︎・ YES/NO
・ |
確かに、正義の味方ってもんはかっこいい。
そこは否定しない。
でもな。
「ハハッ、頼むぜ相棒……お前が頼りだ」
Now Loading...
|
| ── |
引き金を引いた瞬間、銃身を覆う青白い光が一際強く輝いた。
次には。
──轟音。
放たれた光弾が、停船所の空を切り裂いた。
続けざまに二発、三発。途切れることなく吐き出された光の奔流が、星葬会の連中を取り囲むように地面を穿ち、周囲の設備を揺らす。
爆ぜる光と舞い上がる煙。騒然としていた停船所は、今や誰もが足を止めるほどの大騒ぎになっていた。
もちろん、俺たちに向かっていた視線も例外じゃない。
「な、なんだ!?」
「銃撃だ! どこから──」
「おい、あれを見ろ!」
そりゃ見るだろうさ。
何せ、今この場で一番目立っているのは俺たちなんだから。
銃口から立ち昇る煙を払い、俺は胸を張った。
「さあ来てやったぜ
言い放った直後、テントの周囲にいた黒いコートの連中が一斉にこちらを向いた。
その表情は遠目からでも分かるほど険しい。まさか、追われているはずの獲物が自分から姿を現し、あまつさえ宣戦布告までしてくるとは思っていなかったのだろう。
後ろから迫るルナちゃんを庇いながら、俺はあらぬ方向に銃弾を放ち続けた。
……やっぱ当たんねぇか。ちょっとは練習するべきだったな、クソッ。
とはいえ、これでもいい牽制にはなる。
時々身体を貫いて来る敵の銃弾も、今の俺を止める手段にはなり得ない。むしろ痛すぎるおかげで、気絶する暇がないからだ。
銃を撃つ。
撃ち返される。
穴だらけになる。
再生する。
やる気が上がってまた撃つ。
これの繰り返しだ。
永久機関が完成しちまったなァ〜〜〜!?
「な、なんなんですかこの人!やることなすことむちゃくちゃすぎますよ!?」
悲鳴をあげて俺の背に隠れるルナちゃん。
もはや、自分でも何をやっているのか分からなくなってきた。
そもそも銃の扱いなんて、マキナちゃんの身体に入ってからまともに覚えた試しがない。STAR ARMSの適合率が九十九パーセントだとか言われても、残り一パーセントの問題なのか、俺の腕前の問題なのかすら分からない。
ただ一つ確かなのは、俺が撃った弾は大抵あらぬ方向へ飛んでいくということだ。
それでも、星葬会の連中は好き勝手に動けないらしい。
こちらの出鱈目な攻撃に警戒しているのか、それとも俺の異常な再生能力に怯んでいるのか。いずれにせよ、連中の足並みは揃っていなかった。
……よしよし。いい感じだ。
この調子でテントまで突っ走れば、何とかなるかもしれない。
そう思った矢先だった。
「──そこまでだヨ、ド悪党ども」
不意に、女の声が響いた。
テントの前に立っていた金の仮面を付けた一人が、ゆっくりとこちらへ歩み出てくる。周囲の連中とは明らかに違う。騒ぎ立てることもなく、こちらの様子をじっと観察していた。
胸の大きさと喋り方で思い出した。この前の胡散臭いデカパイ姉ちゃんである。
ソイツは他の黒コートの連中の射撃を止めさせ、悠々と俺たちの前に立ちはだかった。
「んだよ、俺たちとそっくりな仮面つけやがって。仲間になりたいならノーサンキューだ。出直してこい」
「ははっ、これは随分と嫌われてしまったようだネ。しかしまぁ、逃げずに真正面から来たことは、ド素直に称賛しようじゃないか」
「称賛なんざいらねぇよ。欲しいのは通行許可証と、ついでに俺たちの船までの道案内だ。
見ろよ、金ならたんまりあるぞ。
もしこれでも足りねぇってんなら──悪党に負けず劣らず、随分と強欲なこったなぁ、おい」
大量の紙幣が入った袋を、奴の前に投げ捨てる。
ドサッと大きな音を立てて中から紙幣が何枚か滑り出した。
銀行強盗で手に入れた、正真正銘の盗品である。これを見て喜ぶか、怒るか。それとも呆れるか。どんな反応が返ってくるにせよ、まともな歓迎にはならないだろう。
金の仮面の女は、足元に転がった紙幣を一瞥した。
「……なるほど、どうしても君は『
その女は幾つもの星を滅ぼしたド危険人物。惑星シームーンに訪れた理由は分からないけど、生かしておく必要はない」
「そうかい」
そう言って奴は、足元の紙幣を踏み付けた。何度も、何度も、ぐしゃぐしゃになるまで。
……あーあ。
せっかく銀行員さんが頑張って詰めてくれたっていうのに、随分と酷い扱いだ。紙幣の価値なんて惑星によって違うだろうが、少なくとも俺たちにとっては大事な軍資金だったんだぞ。
まぁ、盗んだ金だからいいけどさ。
「お前には、この少女が星を滅ぼすような危険な奴に見えてるのか?」
「もちろんそうさ。だから早く、私たちに引渡──」
奴の手がルナちゃんに伸びる。
その瞬間に、俺は
周りの黒コート達も銃を取り出したが、俺が死ぬよりも先にコイツの方が早く死ぬだろう。なんなら、俺は生き残る可能性すらある。
「ふふっ……正気なのかな、君は」
「馬鹿言え、正気だったらここまで来てねぇよ。俺は、このお姫さまをスカウトしに来たんだ。それをみすみすお前たちに渡すなんてことするか 」
それに、と区切って、俺は背後にいるルナちゃんをちらっと見た。
彼女は俺の服の裾を掴んでいる。怯えているのか、それとも俺が何を言い出すのか気になっているのか。
サングラス越しでは表情までは分からないが、少なくとも逃げ出そうとはしていなかった。強盗していた時は様子がおかしかったが、今のルナちゃんが正しい姿なんだろう。
健気で真面目で時々はっちゃける変なやつ。
うぅ〜ん最高だ。これ以上ないくらい仲間にしたい女である。
「金かお姫さま、どちらかを差し出せばお前たちは許してくれるんだろ?なに、金ならそこにある。しかも危険なお姫さまは、悪党が連れ帰って勝手に自爆してくれるっていうお墨付き。
──いいか?お前に残された選択肢は二つだけだ。
金を受け取って危険なお姫さまをシームーンから追い出すか。
拒否して、星を滅ぼしかねない姫様を引き止め、シームーンの住民から信用を失うか。
まぁ?聡明で清廉潔白な組織なら、一択だと思うけどな」
我ながら、随分と強気な交渉だ。
そもそも俺たちが持っている金は銀行から盗んだものだ。正当な取引に使えるかどうかすら怪しいし、シームーンの住民から信用を失うだなんて脅しも、俺たちには大して効かない。
何せ、俺たちは悪党だ。
信用なんてものは、最初から持ち合わせていない。
けどコイツらは違う。
星葬会はこの惑星で何らかの活動をしている。住民に顔が利くのか、あるいは信頼を得ているのかは知らないが、少なくとも表立って活動できるだけの立場はあるはずだ。
ならば、その立場を揺さぶってやればいい。
惑星を滅ぼす噂のある女を引き止めれば、住民は間違いなく反対する。それこそ、支持を主とする宗教組織ならそれは致命的だ。逆にこのまま星の外まで姫さまを追い出して、尚且つお金まで手に入る選択肢は一石二鳥。
この大金をどっから集めてきたか把握していれば、余計に受け取る必要性が出てくる。強盗からお金を取り返したっていう名声まで手に入るわけだからな。
停船所にいる大量の一般人がそれを証明してくれるだろうし。
つまり──俺たちが弱くてちっぽけだからこそ、この作戦は成立するわけだ。
とはいえ、分の悪い賭けには変わりない。
ここで姫さまを殺すからそんな大金必要ない、そう言われればお終いだ。
だが、果たして──。
「……ふふ、良いだろう。我々はその要求を飲むとするヨ」
──奴は俺たちの要求を受け取った。
踏みつけてぐしゃぐしゃになった紙幣を拾い上げ、ペラペラと俺の前に翳して見せる。
意外とあっさりした閉幕。
もう少し抵抗するかと思ったが、驚いたことに奴は部下に俺たちの案内を命じ始めた。同時に、黒いコートの連中がモーセの十戒の如く切り開かれ、停船所までの道のりが見える。
……信じるしかないか。
未だに戦闘態勢を崩せない俺とルナちゃんはソイツの後を追い、金色の仮面の横を通り過ぎていく。
その去り際。
「君、名前は──?」
耳元で囁かれた声に、俺は足を止めた。
周囲の喧騒に紛れてしまいそうなほど小さな声だった。わざわざ聞き返すほどでもないが、今さら名前を尋ねてくるとは思わなかった。しかし相手は敵だ。
名前を言う必要はない。
そう思って再び歩こうとした時、奴は俺の耳朶を甘噛みするようにこう言った。
「私は、
また会う時は、仲良くしてネ?」
「……二度とゴメンだ」
聞こえないように小さく吐き捨て、俺は歩き出した。
まったく、最後の最後まで──気味の悪い女だ。