俺が、大英雄を殺した日~ディストピア世界で、百合ハーレムは作れますか?~ 作:霧夢龍人
──ドチャシコ美人が、そこにいた。
いや、待て。落ち着け俺。
確かに俺は女好きだ。可愛い女の子も好きだし、クールな年上美女も大好物。なんなら今の俺は美少女の身体をしているわけだから、もはや実質的に美少女と美少女の夢の共演だ。
とはや何を言っているのか自分でもよく分からんが、とにかく目の前の女性がとんでもなく美人なのは間違いない。
透き通るような白い肌。スッと通った鼻筋。少し気怠げな目元は、こちらを見透かすような知性を感じさせる。暗い夜空に溶け込むような青髪と金眼が眩しく、それでいて、不機嫌そうな表情は俺の心にどストライクである。
あ、ちゅき♡
感嘆に打ち震える俺に対して、美少女は顔を傾けながら耳元に顔を近付けてくる。
「ねぇ、アンタ。もしかしてどっかの『
「……カ、カオナシ?いや、そういうのじゃない。俺は旅行で来てただけだ」
「ふぅん。こんな辺鄙な場所に旅行で、ねぇ……まっ、詳しいことはあまり聞かないわ、メンドイのは苦手だもの。でもその……葉っぱ?は外しといた方がいいわよ。
怪しまれてメンドイ目に遭うから。私みたいに事情があるなら話は別だけど、ね」
どうやらこの美少女ちゃんは、何か裏があるようだ。胡乱げな顔を隠さずにしげしげと自作の葉っぱマスクを眺められるのは些か気まずいが、俺のことを心配してアドバイスしてくれたんだろう。
美少女で性格も優しいとか、無敵か?
とはいえ、幾ら美少女のアドバイスとはいえ、はいそうですかと素直に従うわけにもいかない。
「忠告はありがたいけど、それでも外すわけにはいかねぇんだ」
「そんなにダサいのに?」
「ださっ……ま、まぁ否定はしない」
「そ。ならいいんじゃない?」
美少女は俺の返事に興味なさげに返すと、そのまま列の先へと歩いていく。
慌てて後を追いながら、俺は改めて周囲を見回した。
銀色の船体。地面から少し浮いた状態で静止する巨大な宇宙船。船尾の青白い噴射口からは、熱を帯びた空気がゆらゆらと揺らめいている。
船体に刻まれている“STAR ARMS”のマーク。
その下には、民間輸送船と小さく刻まれていた。
列に並んでいるのは、年齢も服装もバラバラな人々だった。作業着姿の男。大きな鞄を抱えた女性。親に手を引かれた子供。皆、どこか疲れた顔をしている。
そんな人たちの間を縫いながら先へ進む美少女の臀を追いかけ、隣に並んだ。
「ところでお姉さん、彼氏或いは彼女っている?」
「……はぁ、なんで着いてくるのよ」
「大海のように美しい青色の髪と、無限に輝く太陽みたいに眩しく綺麗な眼を持った美少女がそこに居たから」
「アンタ、こんな僻地にナンパするために旅行しに来たの……?」
呆れ混じりにこちらを見つめてくる美少女。うん、いい。実にいい。
その冷めた目といい、心底面倒くさそうな表情といい、まるで道端に落ちている石ころでも見るかのような視線といい、普通なら傷つくところだが、残念ながら俺はその程度で折れるようなヤワな男ではない。
むしろ、ちょっと興奮してきたじゃないか♣︎
「いやぁ、運命ってやつを感じちゃってさ。こんな広い宇宙で、こんな辺鄙な場所で、こんな美少女に出会えるなんて。これはもう、天文学的な確率の奇跡ですよ」
「そう。じゃあ、その奇跡に感謝して、もう少し静かにしててくれる?」
「ワン!」
「いい子ね、聡い子は好きよ」
「くぅーん」とひと鳴きして尻尾を振った。
わおぉん、俺は愛玩美少女用ペットだ。
プライド?んなもんねぇよ。
完璧なコミュニケーションに我ながら天晴だが、彼女は俺の軽口に付き合う気がないらしい。小さくため息をつくと、再び列の先へと視線を戻した。
その横顔を眺めながら、俺も周囲の様子を窺う。
どうやらこの宇宙船に乗る人間は、全員が何らかの手続きを済ませているらしい。列の先頭には透明な板状の端末が設置されており、そこにIDか何かを入力した人々が次々と船内へ入っていく。
端末からは短い電子音が鳴り、そのたびに青白い光が一瞬だけ点滅していた。空港の搭乗ゲートみたいなものだろうか?
いや、宇宙船なんだから、むしろ空港の方が後輩か。俺の知っている地球の常識をこの世界に当てはめるのは、そろそろやめた方がいいかもしれない。
……待て、この宇宙船って手続き必要なのか?もしかして俺乗れない?
慌ててポケット中をまさぐってみるが、パスポートみたいなのはなかったし、お金になりそうなのもなかった。出てきたのは武器と、血塗られた日記だけ。
藁にもすがる思いで、ペラペラ捲ってそれらしきものがないか探してみると……あった。
『宇宙間人民管理ID 』という記載で、十三桁の英数字と記号を含んでいる。人民管理とやらの名前がきな臭いが、今はこのIDで乗れるかどうかが問題である。
IDが使えてしまえば死んだ英雄が生きてるってことになるし、使えなければ永遠にこの何も無い星から出られない。どっちみち詰みである。
だがなぁ……もし乗れなかったら、例の美少女ちゃんとオサラバってことだろ?生きてることがバレるのも嫌だが、美少女ちゃんとさよならする方がもっと嫌である。
なんなら訴訟も辞さないぞ俺は。
ドキドキしながら待っていること数分。ようやく俺の番が来たようで、端末の前に立ち、日記に記された番号を入力した。透明な板の表面に青白い文字が浮かび上がる。
頼む、どうにか通してくれっ──!!!
あわよくばこのまま美少女ちゃんと仲良くさせてくれ!!
万感の思いを孕んだ俺の下心を感じ取ったのか、端末は一瞬青白く輝いたかと思うと──。
ブブ〜〜ッ!!
──真っ赤に点滅し始めた。
ついでに俺の顔は真っ白になった。
あぁークソ!まじでクソだわ!
なんでこうも見事にフラグ回収すんだよ!
周りにいる人たちの視線がより冷たくなったのが分かる。そりゃそうだ。何かしらの手続きを踏んでいるはずなら、搭乗ゲートで止められることはまずない。
万事休す。
そう諦めていたところで、俺の後ろから細い指先が端末を触り始めた。
「ちょっとアンタ、ID間違えてるわよ。せっかく旅行できたのに、焦りすぎ」
「えっ?」
「しっ、いいから合わせなさい」
フローラルな甘い匂いにニヤケそうになるも、美少女ちゃんの青い髪が端末を覆い隠し、後方に並ぶ人達からの視線を遮った。
何をするつもりなんだ?
疑問に思って横顔を眺めていると、端末の表面を指先でなぞる。
──ピッ、ピピッ、ピピピピッ。
軽快な電子音が連続して鳴り響いたかと思うと、透明な板の上に表示されていた赤い警告が消え、代わりに無数の文字列が浮かび上がった。英数字の羅列が画面の端から端へと流れ、見慣れない記号が次々と書き換わっていく。
そして呆れたような顔で、俺を睨んできた。
「アンタ、やっぱりID登録してない犯罪者でしょ?」
「た、多分違う……はずです」
「………はぁ、いいわ。端末、私が何とかしてあげる」
「えっ、マジですか!?」
「ただし、貸し一つね」
つまり貸しが返せるまで一緒にいてくれるってことだろうか?
「ふっ──是非、貴女の
「…………そこまでは言ってない」
右へ、左へ。時折、二本の指で画面を広げるように動かしたかと思えば、何もない空間を弾くように指先を振る。そのたびに画面が切り替わり、別のウィンドウが開き、文字列の一部が黄色く強調された。
最後に出てきた画面は── 《
「……よし。これで通れるはずよ」
「おおおおおっ!!すげぇっ!!!」
「っ、だから!大きな声を出さない!」
「はいっ!」
俺は慌てて口を押さえた。
危ない危ない。せっかく助けてもらったのに、ここで騒いで追い出されたら元も子もない。
それにしても、すごい。この子、本当に何者なんだ?
ただの美少女じゃない……いや、美少女なのは間違いないんだけど、それ以上に、何かトンデモ技術を持っている気がする。
軽快な音を立てて空いた
船の中は身を寄せ合う人々で
はぁいっ!今行きます♡
忠犬宜しく後ろを追い掛けた。
「さっきの、秘密にしといてよ」
「もちろんでございます。こんな美少女に助けられといて、裏切るなんて真似はできませんよ、へへへ……」
「はぁ……ま、いいけど。『
で、アンタ名前は?」
……おっと、どうしようか。
しれっと名前を聞かれたが、流石にマキナとは言えない。前世の名前を言ってもいいが……あまりにも和名すぎる。
しかし、俺の優れた脳内コンピュータは、この一瞬で新しい名前を考えて着いてしまった。
「──エ、エクス…… です」
「ふぅん、男っぽい名前なのね。
私は、レディオン。“レディオン=ペリュディーナ”。ここら辺の惑星で小銭稼ぎをしてる『
「えっとぉ、リライターっすか?」
「あら知らないの?」
「すんません、俺の出身かなり田舎なもんで。でもお姉さんが美少女なのは分かりますよ?へへへ……」
「よく回る口だこと」
何とか名前のくだりは乗り切ったが、ロストといいリライターといい分からない単語が多すぎる。
こっそりとマキナちゃんが残した日記に似たような単語がないか調べてみると、ロスト──“星骸”についての情報はあった。なんでも、
リライターに関する情報はなかったが、搭乗口の端末をポチポチしてたのがリライターってやつの技術なんだろうか?
だとしたら俺とレディオンさんが出会えたのって、かなり奇跡では?
「……なんで祈ってるの?」
「神に感謝してるっす。こんな美少女の下僕になれたことに」
「一言も下僕にするなんて言ってないんだけど」
「ふっふっふ、甘いっすね。
俺こう見えても掃除・洗濯・料理の全てをこなせる、完璧な男なんすよ。しかもこれに加えて美少女、美少女っすよ?
これはもう、下僕にするしかありません」
「ふぅん……なら、護衛は?」
「ハハッ、無理に決まってるじゃないっすか。冗談うまいっすね!」
「護衛ができない奴はただの無能よ?」
レディオンさんは何を言ってるんだろうか。
家事ができる美少女ってだけで雇う価値はあると言うのに……いや待てよ、この世界ってめっちゃ技術が発展してるわけじゃん?
となると、家事なんか全自動でやってくれそうだよなぁ。
護衛に関しては全く出来る気がしないし、知識も知恵も持ち合わせてない──
あれ、俺ってめっちゃ無能なのでは?
「ほらね」
俺は神を呪った。
しかしまさかこの後、更に神を呪う羽目になるなんて思わなかった。