クソボケTS男が、ディストピアSF世界の女の子たちを曇らせる話 作:霧夢龍人
──彼女は美しかった。
──彼女には、星の嘆きが聞こえていた。
魔外者に蝕まれたとある惑星が、最期にエーテルを託した女。人の身でありながら、強力な『
彼女が耳を澄ませば、風のざわめきに混じって大地の悲鳴が聞こえた。枯れ果てた森の嘆きが、濁った海の苦しみが、そして、そこに生きる者たちの祈りが。
彼女はそれらを聞き届けた。
誰かに頼まれたわけではない。誰かに命じられたわけでもない。ただ、聞こえてしまったから。聞こえているのに、知らないふりなどできなかったから。
だが、何も出来ない。
その星が滅びるまで、その声が聞こえなくなるまで、祈ることしか出来なかった。
憂い呻く彼女が最後に辿り着いた場所は、惑星シームーン。
銀河中の人々が集い、笑い、遊び、明日を楽しみに生きる娯楽の惑星。星の嘆きとは無縁に思えるこの場所で、彼女は何を思い、何を願っているのだろうか。
──彼女は
広い宇宙を巡っても彼女ほど美しい女はいないだろう。
そう評する者は少なくない。彼女の姿を一目見ようと、遠方の惑星からわざわざ足を運ぶ者さえいる。彼女に会いたいと願う者。彼女の力を求める者。彼女を手に入れようとする者。
けれど、彼女は誰のものにもならなかった。
星の声を聞く彼女は、今もなお、どこか遠くの悲鳴に耳を傾けている。そのせいか、美しかった容姿は過去のものになってしまった。
それでも彼女は、星の声を聞き続けている。
───彼女を探しに来た英雄(偽)は、そんな事情など知る由もなかった。
「……もしかして、ウチってブラックなのか」
俺は瞬きを繰り返しながら、観光客で賑わう大通りの真ん中で立ち尽くしていた。
到着してから、かれこれ一時間。
目的の人物を探すため、宇宙港の案内所で情報を集めたり、周辺の施設を見て回ったりしていたのだが、これといった手がかりは見つかっていない。
というか、そもそも艦長から渡された資料が少なすぎるのだ。
名前と簡単な経歴。それから、彼女がこの惑星に滞在しているという情報。
───“エウル・ディア=ルナジュペリ”またの名を、『
何でも、件の美少女が訪れた星は必ず滅びるなんて噂があるんだとか。
わかってる情報はこんなもんだ。それだけで探し出せというのは、いくらなんでも無茶すぎる。
「……うーん、レディオンさんに相談するか?」
左目に装着した端末──コンタクト型デバイスと言うらしい。瞳孔や瞼の動きで操作できる──を動かそうとして、止めた。せっかく一人で任された仕事だ。
最初から頼りきりになるのも格好がつかない。
それに、レディオンさんだって暇じゃない……はずだ。
もし暇があったら俺がデートに誘っていたから、嘘でも忙しいって言ってもらわないと断られたようで傷つく。
| < レディオンと二匹のペット(3) |
今日
テバサキ そっちはどうだい? 13:34
テバサキ れっいっびー 13:51
マイスィートご主人様 失敗したら分かってるわよね? 13:53
テバサキ キミって無敵だよね 13:57
頑張ってね、凄腕ナンパ師(笑)くん 13:58
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| + ❘ |
……あぁん?なんだァ、テメェ!
俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐なるペンギンを除かねばならぬと決意し、艦長に黙れと打ち込も───とした目蓋を閉じ、バイザー越しに風景な眺める。
こういう時はステイクールが鉄則だ。煽られてるんじゃなくて、褒められてると考えれば……ふぅ、よし。
何の意図もないが、お土産は
決して嫌がらせじゃないよ???
ネオンの色鮮やかな看板と巨大な映像広告。幸いにして、通りには様々な種族の人々が行き交い、少し先には観覧車のような巨大施設まで見える。探せば何種類かありそうだな。
とりあえず、手近な店から覗いてみることにした。
通り沿いには飲食店が軒を連ねており、店先には見慣れない食材を使った料理や、見たこともない形状の串焼きが並んでいる。中には、どうやって食べるのかすら分からないものまであった。
なぁにこれぇ……。
そんなことを考えながら店先を覗いていると、ふと人混みの中に一人の少女を見つけた。
車椅子に腰掛けた少女だ。年齢は十五、六歳くらいだろうか。淡い色の髪の隙間から、二本の小さな角が覗いている。顔立ちは……なんというか、歪んでいた。
頬の片側が不自然に膨らみ、口元も左右で大きく形が違う。目の位置もわずかにずれているように見える。何か病気なのか、それとも生まれつきなのか。詳しいことは分からない。
少女は人通りの多い道の端で、ぽつんと一人でいた。周囲には楽しそうに歩く観光客が大勢いる。そんな中で、彼女だけがその空間に取り残されているように見えた。
……迷子か?
それとも誰かを待っているのだろうか。
まあ、どちらにしても気になる。せっかくの観光地で困っている人間を放っておくのも寝覚めが悪いし、何より俺は今、暇だった。目的の人物探しは難航中で、お土産選びも終わっていない。
つまり、やることがないのだ。
俺は少女の傍まで歩み寄ると、少し屈んで目線を合わせた。
「そこのお嬢さん、何かお困りっすか?」
少女は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。
それから、俺の顔をじっと見つめる。
「……私、ですか?」
「そうそう。こんな人混みの中で一人だったからさ。迷子とか?」
少女は小さく首を横に振った。
「いえ、迷子ではありません。私はここに住んでる者です」
「そっか。ならよかった」
俺は車椅子の横に立ち、少女の様子を窺う。
「じゃあ、誰か待ってるとか?」
「……いいえ、誰も。私を待つ人も、待ってくれる人も……誰もいません」
……マズったかもしれん。ちょっと闇が深そうだ。お互いに気まずい空気が流れてしまった。だがしかし、俺は自他共に認める凄腕ナンパ師である。話を無視されている訳じゃなければ、何度も挑戦し話しかければチャンスはある。
それに俺はクズでもあるわけだ。利用できるモノは利用しないとなぁ!へへへ!
「じゃあさ、さっきこの星に来たばっかりの俺に、ちょっと観光案内してくれない?」
「……私が、ですか?」
「そうそう。見ての通り、俺はこの星について何も知らない。右も左も分からない田舎者ってわけだ」
「でも、私は……」
「ん?」
「私、あまり外に出ないので。案内できるような場所も、知りません」
なるほど。地元民だからといって、誰もが観光地に詳しいわけじゃない。俺だって自分の住んでいる街の観光名所を全部言えるかと聞かれたら、たぶん無理だ。
それにしても、あまり外に出ない、か。
車椅子に乗っていることも関係しているのだろうか。勝手な想像で事情を決めつけるのはよくないが、少なくとも彼女がこの人混みの中で一人きりなのは事実だった。
「じゃあ、ちょうどいいや」
「……何がですか?」
「俺も詳しくないんだから、お互い様ってことで。二人で適当に見て回ればいいんじゃない?」
「二人で……?」
「あぁ、俺は観光名所を教えてもらえるし、お嬢さんは暇潰しになる。これぞ一石二鳥ってやつだな!」
我ながら素晴らしい提案である。
もちろん、少女が本当に暇をしているかどうかは知らない。けれど、少なくとも今は誰かと待ち合わせているわけでもなさそうだし、少しくらい付き合ってもらっても罰は当たらないだろう。
少女は俺の顔を見つめたまま、しばらく黙っていた。
「……どうして、私なんですか?」
「え?」
「他にも、案内してくれる人はいると思います。わざわざ私に声を掛けなくても」
そりゃあ、そうだ。
この大通りには観光客が大勢いる。道を尋ねるだけなら、もっと愛想のいい人間だっているだろう。わざわざ車椅子に乗った、顔の歪んだ少女に声を掛ける必要なんてない。
けれど、まあ。
「なんとなく、運命的な?」
「……うんめい」
「そうそう、運命だよ運命。ディスティニー的なアレ」
「なる、ほど?」
少女の表情は変わらない。
上手いこと誤魔化しながら俺は少しだけ屈み、彼女と目線を合わせた。
「それに、せっかくの観光地だろ? 一人でいるより、誰かと一緒の方が楽しいかもしれないじゃん」
「……あなたは、誰かと一緒にいたいんですか?」
「そりゃあね。可愛い女の子と一緒なら、なおさら」
我ながら実に正直な回答である。
少女は一瞬だけ目を丸くしたあと、視線を逸らした。
顔の歪みのせいで表情の変化は分かりづらいが、どうやら少し困らせてしまったらしい。
いかんいかん。初対面から飛ばしすぎたか。
「ま、嫌なら無理にとは言わないよ。俺も人探しの途中だし、どっかで別れることになるだろうからさ」
「人探し……」
「そう。仕事でね。だから、ついでにこの辺を案内してくれると助かるって話」
少女は膝の上に置いた手を見つめた。
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「……少しだけなら」
「おっ、いいの?」
「はい。私でよければ」
「よっしゃ、交渉成立だな!」
思わず声が弾んだ。
いやぁ、持つべきものは親切心だな。まさかこんなところで地元民の協力を得られるとは思わなかった。これで目的の人物も見つかれば万々歳である。
俺は少女の車椅子に手を添えようとして、ふと動きを止めた。
「あ、そうだ。勝手に押しちゃっていい?」
「……はい。お願いします」
「へへ、任せろ!」
車椅子の持ち手を握り、ゆっくりと進み始める。
まずはどこに行こうか。観覧車みたいな施設も気になるし、さっき見かけた串焼きの店も捨てがたい。せっかくなら、艦長への土産もこの子に選んでもらうのもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、車椅子の少女が小さく口を開いた。
「……あなたは、変わった人ですね」
「えっ、そう?褒めてもなんにも出ないぞ」
「褒めていません」
少女の声に、ほんのわずかながら呆れが混じった気がした。
どうやら少なくとも、さっきまでの気まずい空気はなくなったようだ。やっぱり会話って大事だな。まずは相手の警戒心を解いて、少しずつ距離を縮めていく。
これぞ凄腕ナンパ師の真骨頂だ。
車椅子を押しながら人通りの多い広場を回っていると、コンタクト型デバイスにメッセージが表示される。
| < レディオンと二匹のペット(3) |
今日
テバサキ 頑張ってね、凄腕ナンパ師(笑)くん 13:58
テバサキ キミさぁ、女の子引っ掛けるのはや過ぎない? 14:20
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| + ❘ |
……まったく、暇なのかあの
俺が仕事をしている時は静かにしていてほしいものである。いや、そもそも俺が仕事をしている間にわざわざ連絡を寄越してくるということは、艦長も相当暇なのではないだろうか。だったら自分で探しに来ればいいのに。
いいもん!俺がチャチャッとエウル何とかちゃんを見つけて、レディオンさんに誉めてもらうんだから!
そしてゆくゆくは。
────────────────
「ふふ、ペットの癖に中々やるじゃない。任務を終えた報酬として、ご褒美をあげないと、ね……?」
レディオンさんの履いている黒スパッツがずらされ、白く穢れのない御御足が露出する。黒いマニキュアが塗られたつま先をクイクイと動かし、膝まづいた俺の頭を優しく撫でる。
「流石は私のペットね」
そして今度は、細長い指先を俺の頬に当て、麗しくプルプルで可愛らしい唇を………。
〜Fin。
───────────────
……なんなんだこれは。
あまりにも最高すぎるだろ。
勝手に流れる涙をバイザー越しに拭いながら、レディオンさんと出会えた奇跡に感謝しかない。
こんなのどう見たってハッピーエンドだ。
───ピコン。
現実に引き戻すような通知音が鳴った……ん?
俺は名残惜しさを感じながら、視界の端に表示されたメッセージへ目を向ける。
| <レディオンと二匹のペット(3) |
マイスィートご主人様 何ニヤついてるの?14:32
気持ち悪いんだけど。14:32
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| + ❘ |
…………。
どうやら俺の表情は、端末越しでも分かるほど酷かったらしい。
酷い、俺はただ未来の幸せな生活を想像していただけだ。人間なら誰しも夢を見る権利がある。たとえその夢が、現実から目を背けた結果生まれた妄想だったとしても。
これ名言だな、今後使お。
俺は素早く返信を打ち込んだ。
| <レディオンと二匹のペット(3) |
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送信。
これでよし。
……いや、よくないかもしれない。
数秒後、返信が届いた。
| <レディオンと二匹のペット(3) |
マイスィートご主人様 仕事して。14:33
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……はい。えー、ごもっともでございます。
俺は端末を閉じ、ご機嫌を取るために近くの屋台へ寄った。
「すみません。えーっと、これ三つください」
レディオンさんと女の子の分、そして俺を含めた三つ分を店員に注文すると、青い綿菓子のような物体が棒に巻き取られていく。ふわふわと浮かんでいたそれは、棒に触れるたびに小さく震え、最終的には手のひらほどの大きさにまとまった。
……本当に食べ物なんだよな?
そんなことを考えながら俺は、少女へ貰った綿菓子を手渡した。
「……あら、いいんですか?」
「もちろん。これも仕事の一環だからな!……あ、そういえば名前教えてくれないか?
俺はエクス!さっきも言った通り、とある人物を探してる」
「私は……そうですね。ルナ、とでも呼んでください」
「ルナちゃんね。俺に負けず劣らずいい名前じゃないか」
俺が気障ったらしくそういうと、僅かに彼女の口元が緩んだ。
……おお。笑った。
なんだよ、一人で居たから気になって声掛けたけど、やっぱ可愛いじゃん。俺の美少女センサーもまだまだ捨てたもんじゃないな。
それに、こうして誰かと他愛もない話をしながら食べ歩くというのは、案外悪くないものだと思う。
「ところで、エクスさんは誰を探しているんですか?」
「うーん、仲間探しみたいなもんなんだけど……」
説明しようにも、俺自身が詳しい事情を知らされていない。名前と簡単なプロフィールだけ渡されて、あとは現地で探せという無茶振りだ。あのペンギン、帰ったら絶対に文句を言ってやる。
そんな俺の内心など知る由もなく、ルナちゃんは手元の綿菓子をもう一口かじった。
「それで、その探し人とやらの名前は──」
「あぁ、確か──」
その瞬間。
背後で、凄まじい爆音が轟いた。