クソボケTS男が、ディストピアSF世界の女の子たちを曇らせる話 作:霧夢龍人
轟ッッッ!
「うおっ!?」
「きゃっ」
鼓膜を揺さぶる轟音。
直後、背中を叩くような衝撃波が通りを駆け抜け、俺の身体が前につんのめった。反射的に、ルナちゃんの車椅子が吹き飛ばないように抑えていると、手に持っていた綿菓子が宙を舞う。
「って、俺の綿菓子ィ!」
飛んでった綿菓子に視線を向けて振り返ると、数メートルほど後方にあった屋台が跡形もなく吹き飛んでいた。屋根はひしゃげ、看板は砕け散り、周囲には黒煙が立ち込めている。ついさっきまで客で賑わっていた場所だ。
俺含めて何が起きたのか理解できず、通りにいた人々も一瞬だけ動きを止めていた。
そして、次の瞬間──。
「ごッ!?」
直後、右肩に鈍い衝撃が走った。
「っ、ぐ……!」
何かが身体にぶつかってきやがった。
強烈な痛みが押し寄せる右肩を見れば、風に乗って飛んできた鉄片が肩口を貫いていた。
続けざまに、左腕と脇腹にも鋭い痛みが走る。砕けた屋台の破片だろうか。細かな金属片が服を裂き、身体に食い込んでいた。
……なんて、冷静に状況を整理できるわけねぇだろ。
迸る苦痛は、先の戦いで魔外者を倒した時の反動を喰らった時より遥かに痛かった。
痛い。
痛い痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い
……ふぅ、はぁ……っ、クソいてぇ。あのさァ、マジでどうかと思うんだわ。俺って実戦経験とかないパンピーなわけ。そのくせ、こんな頭おかしくなりそうな───っがぁぁぁくそっ!!!痛くて頭回んねぇわっ!!!
つか、何が起きたんだよ。爆発?事故?それとも──あぁダメだ、意識が……。
「エクスさん!」
……飛びそうだったのを、何とか繋ぎ止める。
クソッ、こんなところで気絶してたまるかよ。美少女に囲まれてない中で気絶するなんて、普通にナシだ。それに俺が倒れたら、ルナちゃんはどうなる。少なくとも、今この場に彼女を守れる人間はいない。
俺は震える右手を持ち上げ、肩口に突き刺さった鉄片を掴んだ。
「っ、ぐ……ぅ!」
引き抜こうとした瞬間、また痛みが走る。
そりゃそうだ。刺さっているものを抜こうとしているんだから、痛くないわけがない。
分かってる。分かってるけどさぁ!
「……っ、どけよ!」
歯を食いしばり、無理やり引き抜く。金属片が抜け落ちると同時に、傷口から血が溢れた。続けて左腕、脇腹。身体に食い込んだ破片を一つずつ引き抜いていく。
痛みで視界が明滅する。
あー、吐きそ。多分胃の中もぐちゃぐちゃだコレ。
だが少しずつ、身体の感覚が戻ってくるのが分かった。
肩口の傷が塞がり、裂けた肉が元の形を取り戻していく。左腕も、脇腹も。つい先ほどまで穴が開いていたとは思えないほど、あっという間に再生していった。
「はぁっ……はぁっ……」
……ああ、クソ。
再生するからって、痛みまでなくなるわけじゃないらしい。魔外者との戦いん時はハイになってたからあんまだったが、今のはチビりそうな位痛かった。
むしろチビってないのを褒めて欲しいくらいだ。これマジだぞ。
何度か深呼吸を繰り返し、どうにか顔を上げる。
「エクスさん!血が……!」
「……あー、うん。大丈夫、大丈夫」
「でも、私をかばって……」
「ははっ、いいのいいの。イメチェンにちょうどいい赤色じゃん……うぷっ」
吐きそうなのを堪えながら、右手でルナちゃんにサムズアップをする。流石にバイザーの中が
んだが、今はそんなことを気にしている場合じゃないのも事実。
何とか復活した俺は、ルナちゃんの車椅子の持ち手を握り直し、彼女の身体に異常がないか確認する。
「ルナちゃん、どこも怪我してない?」
「私は大丈夫です。それより、エクスさんが……」
「ならよかった。俺もこの通り、もう平気だから」
そう言って、軽く肩を回してみせる。
痛みはまだ残っている。というか、さっきの感覚を思い出すだけで身体が強張る。だが、動かす分には問題なさそうだ。
……それにしても、何が起きた?まさか、新手のウェルカムサービスって訳じゃないと思いたい。周りの人たち皆逃げ惑ってるし。
俺は爆発した屋台へと視線を向けた。
黒煙が立ち込め、周囲では逃げ遅れた人々が互いに助け合っている。店の残骸があちこちに散乱し、さっきまでの賑やかな通りは見る影もない。
視界の端では、ピロリンッと軽快な音を立てて通知が鬼のように鳴り始めている。
| < レディオンと二匹のペット(3) |
今日
マイスィートご主人様 ちょっと!!!アンタのバイタル値がとんでもなく下降してるんだけど!?14:50
テバサキ Mrs.エクス。頼んだボクが言うのもなんだけど、作戦は中断してほしい。無事に帰ってくるのを待ってるよ 14:50
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| + ❘ |
どうやらかなり心配されているらしい。
このまま作戦を終了して逃げたいところだが……ルナちゃんを置いていくのは、俺の美学に反する。初任務が失敗っていうのも些か問題だろう。
そして何より……。
「ふむ、なかなかどうして──討滅とはド難しいネ」
……変な仮面つけた奴らは、逃がしてくれ無さそうだ。
黒煙の向こう側から現れたのは、複数の人影。
黒いコートに身を包んだ連中で、顔は仮面で隠されており、手にはそれぞれ武器らしきものを携えている。観光客に紛れていたのか、それとも最初からあの場所に潜んでいたのか。
少なくとも、爆発に驚いて逃げ惑う一般人とは明らかに様子が違う。
「……また、ですか」
「また?もしかして知り合いか?だとしたら、随分とヤンチャなお友達だなぁおい……」
「違い、ます。しかし彼らは………っ、エクスさん!私をほっといて逃げてください。出来れば可及速やかに──」
「そうしたいんだがなぁ……もう手遅れだぞ、こりゃ」
もちろん俺らは抵抗するで。拳じゃなく武器で。
でも億が一上手くいかなかった時の為に、グループRAINに一言だけ送信しといた。
| < レディオンと二匹のペット(3) |
今日
マイスィートご主人様 ちょっと!!!アンタのバイタル値がとんでもなく下降してるんだけど!?14:50
テバサキ Mrs.エクス。頼んだボクが言うのもなんだけど、作戦は中断してほしい。無事に帰ってくるのを待ってるよ 14:50
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……さて、と。遺言も送ったことだし、あとは目の前の問題を片付けるだけだな。
俺は改めて、黒煙の向こうに立つ連中へ視線を向けた。
人数は五人。全員が黒いコートに仮面という、いかにも怪しい格好をしている。しかも、そのうち一人は妙に目立つ装飾のついた仮面を着けていた。
白を基調とした仮面に、金色の模様。声もどこか芝居がかっている。さっきの台詞もそうだが、どうにも癖の強い連中らしい。
「さてさて。こちらとしては、穏便に済ませたいところなのだけれど」
金色の仮面が、芝居がかった仕草で両手を広げる。
「その娘をこちらへ渡してくれないかな?」
「……けっ、やーなこった。つか、どちら様だよ」
「おや。名乗りがまだだったネ」
女は豊かな胸元に手を当て、わざとらしく一礼した。
これが平常時なら大興奮してたんだが、あいにくと俺の美少女センサーには一ミリも反応がない。
どんだけ
「我々は
「……へぇ、宗教勧誘ならお断りなんだが」
なんか、思ってたより大きな組織っぽい名前が出てきた。
星葬会──ファンファーレか。いや、名前の良し悪しはともかく、今のところ俺の評価は最悪だ。
何せ初対面で爆発騒ぎを起こして、女の子を殺そうとしている連中だからな。
「それで、その
「もちろん、そちらの御令嬢に用があってね」
金色の仮面が、俺の背後へ視線を向けた。
「『
嫌な予感がする。
……ルイン・ステラ。
その名前には聞き覚えがあった。
というか、俺がこの星に来た目的そのものだ。
艦長から渡された情報にも載っていた、今回の任務対象。『
それがまさか、こんな形で名前を聞くことになるとは思わなかった。つくづく俺っていうのは、運命に嫌われてるもんだな。
「……ルナちゃん?」
俺の嫌な予感は的中した。
彼女は答えない。
ただ、静かに俯いていた。
その反応を見れば、もう確認するまでもない。
どうやら俺は、ようやく目的の人物を見つけたらしい。しかも、よりにもよって殺し屋付きで。戦闘においてなんの役も立たない俺じゃ、ここから逃げ出そうにもどうしようもない。
……仕方ない、か。
笑顔を携えたまま歩み寄ってくる金色仮面。奴は俺のバイザーをシゲシゲと眺めつつ、大仰な仕草で提案してきた。
「彼女を渡してくれれば、君の命までは取らないと約束しよう。どうだい
ド悪い話ではないだろう?」
俺はその提案に──。
「まじ?それは助かるわ」
──二つ返事で了承した。
「……おや、ド素直ですね。宜しい、どうぞこちら側へ」
俺がそう返すと、金色の仮面は肩をすくめる。
「いやぁ、助かった。正直、こっちも命は惜しいんだよね。まだまだ若いし、将来の夢とかもあるし?」
「ふふっ、賢明な判断だ。無益な争いは避けるに限るからね」
金色の仮面は満足げに頷いた……うん。実に話の分かるやつだ。
初対面の相手に爆発物をぶち込んでくるような連中とは思えないほど、理性的で助かる。
やっぱり話し合いって大事だよな。
暴力なんて野蛮な手段に頼る必要はないんだ。
俺は車椅子の持ち手から手を離し、両手を軽く上げた。
「それじゃ、ルナちゃん。俺はこの辺で失礼するよ」
「…………え?」
背後から、呆気に取られたような声が聞こえた。
うんうん。分かる分かる。まさかここで俺が裏切るとは思わなかったんだろう。だが、すまん。
俺だって死にたくはないんだ。無駄な抵抗を辞め、ゆっくりと黒コートの奴らへ向けて歩いていく。
金色仮面は上機嫌に、ペラペラと口を開いた。
「ふふ、悩む必要はない、キミはド正しいのだからネ。彼女は存在しているだけで、星々に災厄を招く。ならば、その芽を摘むことこそ我々の使命なのさ」
「……災厄?」
「そうとも。彼女が訪れた星は、いずれ滅びる。幾つもの星がそうだった。君も知っているだろう?星の声を聞く姫君。死にゆく星々の嘆きを背負い、滅びの道標となる娘。
──故に、ルイン・ステラ。
我々が彼女を生かしておく理由など、どこにもないのだヨ」
……なるほど。
どうやら、こいつらはルナちゃんが星を滅ぼす原因だと考えているらしい。確かに、そんな話を聞けば恐ろしくなる人間もいるだろう。実際に彼女が訪れた星が滅びているのなら、なおさらだ。
なるほどなるほど、理屈はわかった。理解も出来る。
だが納得は出来ねぇな。
「………申し訳ありません。私のせいで、あなたまで危険な目に遭わせてしまいました」
「あーまぁな」
「ですが、あの綿飴──すっごく美味しかったです。短い間、ほんとにありがとうございました」
俺は肩越しにルナちゃんを見る。
顔が歪んでで分かりにくいが、多分悲しそうな表情を浮かべてるんだろう。だが、そんなの俺からすれば知ったこっちゃない。
……俺からすれば、な。
出会えたのはたまたまだが、俺はルナちゃんを探しにこの星まで来たんだ。だから、ここで逃げたら任務失敗。艦長やレディオンさんに何を言われるか分かったもんじゃない。
そもそも、目の前の連中に彼女を引き渡す気がない。
なんでどこぞの馬の骨とも分からんような連中に、俺たちの探し人を渡す必要があるのか、お兄さん理解に苦しみます。
「
俺は右手を掲げた。
瞬間、掌を中心に光が弾ける。幾重もの光輪が重なり合い、空間そのものを組み替えるようにして一挺の銃が形作られていく。
やがて光が収束し、その全貌が露わとなった──
亡き甘ちゃん英雄の置き土産であるソレは、銃身を駆け巡る光のラインが脈動し、星の鼓動を思わせる輝きを放つ。手に馴染む重量を確かめるように握り直すと、内部機構が低く唸り、高らかに機械音声を響かせた。
「出来てるよ!」
応答を受け、銃身を走る光が一際強く脈動した。内部機構の駆動音が低く響き、銃口の奥で青白い光が明滅する。
照準の先にいるのは、白と金の仮面を被った女。その奥に並ぶ連中も、こちらを見据えたまま動かない。引き金に指をかけると、緊張感が場を支配するのが分かる。
「さて、と。お姫さまをお迎えに来た王子様たちには悪いけど──」
背後のルナちゃんを見据えながら銃口をわずかに持ち上げ、金色の仮面を真っ直ぐに捉える。
「その子、俺が貰ってくわ」
言い終えると同時に、銃口から青白い閃光が迸る。
空気が爆ぜ、星の光を凝縮したかのような奔流が、黒煙を切り裂きながら敵陣へと突き進んだ。
そして、
爆音。
「お返しだ、ぶぅあーか!」
悪党らしくしっかりと煽ったあと、車椅子の上で呆然とした表情を浮かべたままのルナちゃんを連れ、俺たちは逃げ出した。
めちゃくちゃスッキリした。