ポケットモンスター外伝<The Unknown Being> 作:通りすがりのUB
2027年8月13日。大量の車が走る騒音や、人が賑わい、聞こえてくる話し声や笑い声。普段と何ら変わりない日常だった。
いつも通り、スマホを見ながらワイヤレスイヤホンを両耳につけ、適当に外をふらついていた。
そんな時に後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。振り返ればそこに居たのは仲のいい同級生の友人だ。
特にこれといった飾り気のないラフな格好をしているあたり、一人で外を彷徨いてただけだろう。
「よっ、何してんだよ」
「何って、暇だから外ふらっとしてただけ。あぁ、でもゲーセンに寄ろっかなって思ってた。お前も彼女と一緒じゃないんだろ?どうせなら行こうぜ」
「行く行く!いつものとこか?」
「あそこ以外、良いゲーセンないだろ?」
くだらない事をだべりながら、談笑し、行きつけのゲームセンターに寄る。中に入って早速したのは、最近ハマり始めた格闘ゲームだ。案外コマンドや戦法なども難しく、やりごたえのあるアーケードゲームだ。
隣同士でプレイしていると、友人は思い出したようにあっ、と呟き。こちらに話を回してきた。
「お前さ、あのニュース見たか?あのニュース!」
「あのニュース?悪いけど俺、そういうの見ないんだよ」
レバーとボタンを動かし続けながら、友人の質問を雑に返す。友人はそれを聞いて、スマホを取りだして少し弄った後に、画面を見せつけてきた。
「これだよこれ!空に空いた謎の穴!今、この話題でもちっきりなんだぞ?」
「へぇ、でもそれってデマじゃないのか?」
スマホの画面に映っていたのは、空に不自然に空いている光の穴の写真。まるで3Dの世界に2Dを無理やり落とし込んだようなその写真に不信感と疑惑の目を向けた。
「それが、数百人に見られて、同じ場所で写真が取られてるんだよ!一説じゃ、宇宙人が侵略の準備を始めるためのワームホールなんじゃないかって!」
「宇宙人ねぇ。あれだろ?グレイとかフラッドウッズ・モンスターとかだっけか?」
一時期、話題になっていた宇宙人を思い出す。あれもこれも、今となっては見る影が微塵もないが、有名どころだったからか覚えてはいた。
光の穴なんて事を忘れて、懐かしいなと思い出にふけりながら、NPCに勝ち、小さくガッツポーズをした。
「いかにも興味無さそうだなお前……」
「だって、光の穴に見えたってだけで、もしかしたらただの集団幻覚だとか、光の屈折やら云々でそう見えてるだけかもしれないだろ?どーせ、専門家が科学的に解明するに決まってるだろ」
「お前わかってねぇなぁ、ロマンってやつだよ。ロ・マ・ン!だから、彼女できねぇんだよ」
「なっ!それとこれは関係ないだろ!?」
友達の発言に意を表したものの、軽く受けながされ、少し不機嫌になる。
だが、どうせ友達は結構いるんだしいいやと開き直り、筐体に100円玉を入れようとした時、外からの音で手を止めた。
「なんかさ、外騒がしくね?」
「だな。なんかあったのか」
友達もそう感じ取ったらしく、椅子から立ち上がり、外の様子を2人で見に行った。そこにはゲームセンターの入口で群がり、空に向かってスマホを構える人集りがあった。
2人は人混みを掻き分けながら、空がよく見える場所に行き、見上げた。
雲ひとつ無い晴天の青い空。そこに不自然にある淡い白光の大きな穴。3次元のようでも、見る角度によっては平坦にも、そもそも無いようにも見える非現実的な何かだった。
「マジかよ……」
「ほら!だから言っただろ!?光の穴はマジであるって!」
友達は大はしゃぎしながら、空にある光の穴に向かってスマホのカメラを構え、撮影を始めた。そして自分は呆気にとられながらも、穴に向かって目を凝らした。
見れば見るほど謎が深まり、頭が痛くなるような未知の穴。だが、それには自分自身が引き込まれて行きそうな感覚すらも与えた。
「───あ?なぁ、おい。あれなんだ?」
瞳孔が穴の中を捉えた。穴の中にいる黒い影。全体的に丸っこい、何かを。
自分はすぐに友達に声をかけ、スマホのカメラの倍率を最大にさせて、その影を見た。友達も2倍にしたあたりから、黒い影を明確に捉え、不安と興奮が混じった感情で黒い影を凝視した。
周りの人達も黒い影に気づきざわつき始める。その時、穴の中に停滞していた黒い影が動き始めた。
フワリ、フワリと。まるで風に流される風船のように。波に流されるクラゲのように。フラフラとした不規則で不気味な動きをとり始めた。
その存在はフワリフワリと動きながらも、どんどん降下していき、人集りに近づいてきた。
「………おい、流石にやばくねぇか、あれ… 」
「お、おう。とにかく、一旦離れようぜ」
2人はその異常性と謎の恐怖感でその場から離れた。彼ら以外にもチラホラとその場から早足で逃げるように遠ざかる人達もいたが、それでも多くの人がその場に残り、その存在を撮影し続けた。
遠くの歩道橋から、自分はスマホのカメラで人集りと、それに近づく謎の存在を見続けていた。
「なぁ、あれ宇宙人ってよりかは…、まんまクラゲだな」
「だな。なんか、思ってたよりも怖くないな」
大きさは1m程度。全体的に青白い半透明で、帽子のようにも見える笠の部分に六芒星の模様が規則的にあり、太い触手を数本垂らしている。遠目から見れば帽子を被った少女にも見えるクラゲのような気味の悪いものだった。
そのクラゲはフワフワと宙を回ったり、舞いながら人集りの先頭にいる1人の女性に近づき、手を伸ばすように触手を1本伸ばした。
女性はその行動を動物特有のじゃれあいと思い、触手に触れた。触れられた当のクラゲはまるで、はしゃいでいるかのような動きを見せ、触手を女性の腕に絡ませた。
「へぇ、見た目がちょっと怖いだけで別に危険でもなんでもないな」
「なぁ、俺たちも行ってみようぜ!」
クラゲが危険ではないと確認し、歩道橋を降りようとした時、カメラが不自然な動きを捉えた。
クラゲが触手を女性の腕に強く絡ませ、密着しようとするかのように近づいた。
その距離は徐々に縮まり、互いの身体が触れ合おうとした時、クラゲは触手を離した。
その行動に自分がホッとしたのもつかの間。全ての引き金が引かれるように、事が起き、始まってしまった。
クラゲが機械音とも似つかない非生物的な鳴き声を上げながら、その触手を大きく開き、笠の空洞を女性に向けた。
そして、笠の中に飲み込むように女性に覆い被さった。
身体が凍りついたように動かない。頭が空白となり、思考が回らない。自分の心音と荒い息、そしてクラゲに飲み込まれ、そのまま宙に舞う女性の悲鳴のみが聞こえる。
クラゲに飲み込まれた女性は全身を触手で雁字搦めにされ、時期に抵抗もしなくなり、無抵抗のまま空にある謎の穴の中へと消えていった。
暫し訪れる静寂。
恐怖や焦燥など感じていない。否、感じることすら出来なかった。一瞬で起こったあまりにも信じられない、恐怖という言葉すらも生温く感じる程の出来事。
2人も、それ以外の人もこの出来事を受け入れることができなかった。
そして、全員の理解が追いつき始めたその時、空の穴は既に姿を消していた。
これが全ての始まりだと言うことを、露も知らずに、全ての運命は動き始めた。
<未確認生命体記録書>
大穴から現れ、1人の女性を攫った未確認生命体、個体名PARASITEの発生源とされる謎の大穴は”ULTRA HALL”と呼称する。
・CODE NAME
”PARASITE”
クラゲのような特徴を有した未確認生命体。人間への強い興味と、寄生本能を有していると思われる。
触手にはクラゲと同じく、毒針を有していると思われ、神経毒を分泌している可能性が非常に高い。
ULTRA HALLが現れた際、その近隣区画を隔離エリアとし、軍を配備する。
よって、この事例が再び発生した際は憲法第9条第1項、第2項を特例的に無効とし、武力の行使による撃退を行う。