森の中にたたずむ辺境の村。
そこには生活を送る人々の影や活気はなく、荒らされた柵や畑、燃える家、そしてあちらこちらに転がる死屍累々という光景が広がっていた。
そんな地獄の中で。
事切れた少女を抱え天に向かい慟哭を上げる青年が一人。
周囲の惨状に反し、彼には怪我ひとつなく、衣服さえも少女の返り血を除いて綺麗な状態だった。
既に日が高く昇る青空へ、叫び続ける青年の声に応えるものは何もない。
それがどのような過程によるものであっても。
ただ広大な自然の一部でしかないのだから。
ダンジョンの最深部へ到達し、巨大な亀を思わせる統率モンスター『グランドタイマイ』へ挑む男女四人パーティの探索者たち。
戦士イーダと武闘家リキがそれぞれの武器を構え、魔法使いストラが詠唱を始める中で。
四人目の青年は両手を前にかざしその場で仁王立ちする。
「作戦通りいくよ!それじゃディクトス、いつものよろしく!」
イーダが目にもとまらぬ速さで相手の周囲を回り牽制する。
彼女へ対応しようと尻尾を振るうグランドタイマイ。
それをリキが両腕で受け止め、そのまま抑え込む。
「【増強】──エクスプロージョン!」
ストラの魔法が炸裂。グランドタイマイの甲羅に大規模な爆発が発生する。
周囲にいたイーダとリキも巻き込む威力には、頑強な甲羅も耐えられず亀裂が入った。
すると、まるで何事もなかったかのように無傷のリキが、甲羅の上に登りナックルを装備した腕を構える。
そして──
「おりゃあああぁぁぁ!!!」
渾身の力を込めて殴りつけると、甲羅が粉砕され弱点である中身が露出する。
「とどめえぇ!」
同じく無傷のイーダが加速の重みを乗せ、弱点へ深々と剣を突き立てる。
グランドタイマイは断末魔を上げ地に伏せ、ピクリとも動かなくなった。
「やった!ランクBダンジョン攻略!」
「そろそろパーティーランクも昇格するんじゃないか?」
「私達『キズナ』もランクA到達……感慨深いですね」
達成感から歓声を上げる三人。
そんな様子を後方から眺めている青年ディクトス。
彼がかざしていた手を下ろすと、その視界に映っていた三人を包むオーラが消える。
「さて、そろそろダンジョンも消える頃だ。ディク!今回もお疲れっ!」
「ああ。みんな無事で良かった」
「毎度の事だけどディクトスのおかげだよ!」
「ディクトスのおかげで、私達もスキルを最大限発揮できます。本当に感謝です」
一度も使うことなく終わった短剣を腰に携え、防御力があるようには見えない軽装姿のディクトス。
彼は今回も仲間達に被害が出なかったことに安堵し、微笑む表情を返すのだった。