送迎馬車で街のギルドへ帰還した四人の探索者パーティ『キズナ』は、受付に依頼達成の証である討伐モンスターの素材を提出する。
探索者ギルドの受付嬢パスレルは五体満足で戻った四人に笑顔で対応し、グランドタイマイの甲羅片を受理する。
素材の鮮度や状態を確認し、探索者の依頼達成報告に偽りがないか確認して報酬を与えるのもギルドの役割である。
「確認が終わりましたら、またお声を掛けますね」
「よろしくね!今回は結構綺麗に採取できたから、取引価格も良い感じだと思うよ?」
「そろそろ武器の強化をしたかったんだ。こいつもずいぶん頑張ってくれたけど、そろそろ強度が心配でさ!」
「今回の達成で、パーティランクも上がるでしょう。装備更新の良い機会ではないでしょうか」
「そうだな……俺も個人ランクをみんなと合わせておきたかったよ。一人だけCじゃ体裁が悪くて」
ディクトスが自嘲気味にそう言うと、リキがガシッと彼の肩に腕を回して引き寄せる。
「何言ってんだよディク!『キズナ』の活躍はお前のスキルがあってこそだろ!?」
豪快に笑いながら背中をバンバン叩かれ、思わず息が詰まるものの、リキの真っ直ぐな言葉に自然と口元が緩む。
「そうだよ、あたし達がスキルを全力で活用できるのはディクトスのおかげじゃないか」
「仲間への危険を取り除いてくれて、いつも感謝してます。攻撃に加勢していただく以上の貢献ですよ」
イーダの剣、リキのナックル、ストラの杖。
使い込まれたそれらにある細かな傷が、ディクトスの短剣にはない。
戦闘中にその短剣が抜かれるということは、パーティが危機に陥っているということでもあるからだ。
そんな和気あいあいとした四人に反し、パスレルの顔はどこか曇っていた。
「パスレルさん?どうかしました?」
「え?あ、いえ……」
何か言いたいことがあるが、なぜか言えない。そんな雰囲気がある。
不思議に思いつつ、リキが確保したフリースペースの席へ向かうディクトス。
その背を、パスレルは神妙な表情で見送っていた。
「昇格してすぐは、いつも通り逸れモンスターの討伐からでいい?」
イーダが今後の方針を確認する。
これまでの昇格直後も、まずはランク帯のモンスターがどの程度なのか確認するためにそうしてきた。
それ自体に不満はないが、ディクトスは疑問を口にする。
「ランクAの逸れなんて、そうそう依頼はないんじゃないか?」
モンスターはダンジョン内で発生する。
統率モンスターが倒され、攻略されたダンジョンは、ある程度の時間で消える。
しかしまた、何らかの原因で再度ダンジョンが生成される。
この消えてから出現するまでの閉塞期間に入る前、ダンジョン内に残っていたモンスターは外へ逃走して逸れとなる。
だがランクAダンジョンが攻略される頻度は低い。
多くの場合、途中まで探索してダンジョン内の資源を持ち帰るのがやっとだ。
それほどランクAの格付けは伊達ではない。
「そんときゃ、ダンジョンの調査とか採集依頼をやればいい。奥まで行かないなら、丁度いい腕慣らしになるさ」
「ダンジョン内は罠があります。ランクAともなれば、致命的なものも多いはずです」
ストラがリキの楽観的な考えを制する。
ギルドからの評価であるランク制度、その最上位へ到達するとなれば浮かれるのも理解はできる。
だが同じランクAでも、昇格したばかりとベテランでは実質的な腕前は大きく異なる。
単純な戦力のみならず、ダンジョン内のモンスターや罠に関する知識が生存には重要な要素。
それは一朝一夕で身に付くものではない。
そんなやり取りをしているとパスレルが席へやってくる。
いつもなら受付から呼び出されるのだが、向こうから直接来るのは珍しい。
「パスレルさん?素材に不備でもありましたか?」
ストラが訝しげに尋ねると、パスレルは歯切れの悪い様子で答える。
「いえ、そういう訳では……依頼は問題なく達成です……けど」
「……?」
「てことはおれ達、パーティランク昇格だよな!?」
「え……えぇ……ギルドは、パーティ『キズナ』のランクA昇格を承認します」
よっしゃ!と沸き立つリキ。しかし、パスレルは全く祝福するような雰囲気ではない。
「何か問題でも?」
ディクトスの問いにパスレルが口を開く直前。その背後から、見るからに高級そうな装備で身を包んだ男が、話に割って入る。
「君達がランクAへ昇格するパーティだね?僕はルーフ。ルーフ=コーザックスだ」
それだけで相手が何者か明白だ。名字があるということは、彼はどこかの貴族出身で間違いない。
ダンジョンから得られる物資が社会基盤の主流であるため、その供給源である探索者の社会的地位は相応に高い。
それ故か本来命の危険とは無縁であろう貴族にも、探索者になる者は珍しくない。
歴史に名を遺す探索者たちも貴族出身が多く、そもそも貴族は強力なスキルを発現することが多いため、高ランクになるほど自然と貴族の割合は増える。
「貴族の方が、あたしたちに何か用ですか?」
言葉とは裏腹に、その目に隠す気もなく警戒心を浮かべるイーダ。
貴族には立場を利用し横柄な振る舞いをする者も少なくない。
理不尽な因縁を付けられるかもと、嫌な予感があっても不思議ではないだろう。
「君がパーティの代表かな?」
「一応ね」
全員が同じ立場である『キズナ』に、厳密な意味でのリーダーはいない。イーダはあくまで便宜上の立場だ。
「なら話が早い。僕は今日から君のパーティに加入させてもらう」
「……は?」
「あ?」
「え?」
三者三様の反応を見せるイーダ達。ディクトスもルーフの言っている意味が分からず、言葉を失っていた。
だが続く言葉に、おもわず声を荒らげる。
「そして引き換えに、お前は僕のパーティから抜けてもらう」
「な……おい、急に来て何のつもりだ!?」
ニヤニヤと不快な笑みを浮かべるルーフでは話にならないと判断し、説明を求めるようにパスレルへ視線を送るディクトス。
だがパスレルは、どこか辛そうに顔をしかめるだけで何も言わない。
「事前に君達の様子を探らせてもらった。その結果、お前はただ後ろに突っ立っているだけだと報告が上がったのさ。そんなお荷物は僕のパーティに相応しくない」
「お荷物だと!?ディクはおれ達の護り手だ!あいつがいないと、今まで何度パーティが崩壊したか分かんねえぞ!!!」
「彼が
「ディクトスのスキルは防御系。それで私達を護っているんです」
怒声を上げるリキ、努めて冷静に語るストラだが、それでもルーフは納得しない。
「防御なら僕のスキル【聖騎士】が内包する防御魔法で事足りる。全員を守り、なおかつ攻撃も一級の僕が居れば、防御しかできない人材は無用さ。高ランク帯では、荷物持ちのような足手まといは生き残れないしね」
「【聖騎士】……なるほど、貴族らしい高等スキルだな」
「防御魔法だぁ?そんなんでディクの代わりなんか務まるかよ!?あいつのスキルは──」
「くどいぞ」
そう言うと同時に、いつの間にかルーフは槍の切っ先をリキの目の前に向けていた。
探索者ギルド内で武器を抜き放つ行為は基本的に禁じられており、本来なら即座に衛兵が取り押さえる。
だが、状況が見えているはずの衛兵達は視線こそ向けているが動く様子がない。
「……っ」
「流石に血が流れたら、衛兵も黙っていない。これ以上騒いで僕を犯罪者にするなよ?」
全ての探索者ギルドを統括するギルドマスターは貴族であり、その繋がりからギルド職員も貴族相手には大きく出られないと聞いた事がある。
パスレルの穏やかな雰囲気や、普段のギルドの様子から噂程度にしか考えてなかったが、どうやら想像以上に根深いようだった。
誰も反論しなくなり気を良くしたのか、ルーフは槍を収めてリキの肩に馴れ馴れしく手を置く。
「帰ってきたばかりで疲れているだろ?30分後、次に行くダンジョンについて話そう」
そう伝えその場を去るルーフ。遠巻きに事態を眺めていた連中は同情を込めた視線を送っていたが、やがて解散する。
パスレルも何か言おうとするが、かける言葉が見つからないのか、諦めて仕事に戻って行った。
急なディクトスの強制追放にショックを隠せない三人に、ディクトスはただ短く礼を言うしかなかった。
「すまない……今までありがとう」
それだけ伝え立ち去ろうとすると、リキがその腕を掴み引き留める。そして耳元へ口を寄せ
「待ってろ。必ず戻してやる」
と、戦闘中でもなかなか聞かない声色で呟いた。
イーダとストラも言葉こそ出さないが、その目は何かの決心を込めていた。
初めてパーティを組んだあの日から、今も四人の間には変わらない絆がある。
部外者の好きにさせるつもりなど無いのだった。