不本意なパーティ退団の手続きを済ませ、ソロとなってしまったディクトスは「これからどうしようか」と思案していると。
「気分転換にお茶でもしませんか?」
とパスレルに誘われる。
正直そんな気分ではなかったが、その気遣いがとてもありがたかったため礼を言って了承する。
すると何故か、フリースペースではなくギルドの裏へ招かれる。
困惑しながら連れられるままに、部屋へ入ると扉を閉めるパスレル。
振り向いた彼女の表情は、先程までの穏やかなものではなかった。
「本当にごめんなさい。ディクトスさんとパーティのお仲間が、お互いどれほど大切に想っているのか知っている立場にありながら、何も……出来ませんでした」
「パスレルさんが謝ることではないですよ。悪いのはあの男でしょう?」
ディクトスが困惑していると、パスレルは悲痛な顔で語り始める。
探索者ギルド、その前身となった組織は貴族が中心となって設立したらしい。
現在でもギルドマスターは代々貴族が担っており、貴族出身の探索者が好き放題振る舞うのは他のギルドでも見られる光景なんだとか。
「もちろん、そういった現状を良く思わない方々はいます。ですが、実際に被害を受けた人や目撃した人は表立った反発行動ができません」
「それは何故ですか?いくら権力があるとはいえ、実態を広められ大勢に反発されれば……」
その問いに対しパスレルは、ディクトスへ質問を返す。まるで答えを最初から知っているかのように、確信のこもった声色で。
「ディクトスさんは今まで、貴族のああいった実態を耳にしたことはありますか?」
「え?……いや、ないですね。でもこのギルドにはあいつ以外に貴族は……」
「いますよ、彼以外にも」
初耳だった。あまり仲間以外の探索者を気にしてこなかったというのもあるが、もしルーフのような横暴が珍しくないのなら風評の一つでも耳にするはずだ。
そんな話は一度も聞いたことがない。
「誰も話を広げないのではありません。広げられないんです」
「…何故ですか」
「それは、皆さんが『箝口令』に掛かっているためです」
箝口令。特定の情報を外部へ公表することを禁ずること。
だがさっきの騒動でそんな命令を下された覚えがない。
「『箝口令』というのは、呪いの一種です。それが作用すると、貴族にとって不都合な情報を伝える行為が全て行えなくなります」
「呪い?…そんなものいつの間に」
「探索者としてギルドに登録した時点で、ギルドカードを通して付与されるんです」
「なん……だって?」
全ての探索者へ強制的に呪いを与える。
そんなあくどい行為を、事実上ギルドが率先して行っているなどあんまりな話だ。
「でもそれなら、ギルドの職員が誰かしら……探索者よりも動きにくいのは分かりますけど、それでも全員が傍観するなんて」
「私達にも掛かっています。一般職員含め、貴族ではない人全員がそうです」
どうやら貴族は、自分たちの利権を守るためなら手段を選ばないらしい。
だがそれを聞いたディクトスは疑問が浮かぶ。
「それなら何故、パスレルさんは俺にこの話をできるんですか?十分なほど貴族に不都合な内容ですよね?」
「……それが唯一、私達が抗える隙です。『箝口令』はその呪いが発動している人同士であれば、こうして情報のやり取りが可能なんです。このことに貴族たちは気づいていないのでしょう」
そう言った後、パスレルはどこか懇願するような眼差しでディクトスに話す。
「ルーフさんはあのパーティへ加入したことで、すぐにでもランクAダンジョンへ向かうと思われます。しかし昇格したての探索者を連れて行くのはあまりにも……ディクトスさん、お願いです。後をついて行って、陰ながら三人を護っていただけないでしょうか?」
本来なら探索者は、ギルドを介した依頼しか受注することが許されない。今回の話は、おそらくパスレル個人からの頼みだ。
「できるなら俺もそうしたい……だけど」
本心ではそうしたいが、ギルド内にパスレル以外の味方がいるか分からない中で、非正規の行動を取るのは危険だ。
万が一の時はパスレルの立場まで危うくなってしまうとなれば、二つ返事での了承はできない。
そんなディクトスの躊躇を読み取ったのか、パスレルは簡素な地図とメモを渡してきた。
「ここに同じ立場の仲間がいます。このメモを渡せば協力してくれるはずです」
「パスレルさん……」
うっすらと涙を浮かべたその顔は、貴族の横暴を知りながらどうにもできない立場上の苦悩を容易に想像できる。
ディクトスは仲間達と過ごした日々、自分を必要としてくれた言葉、そして三人の何かを秘めた表情を思い起こし
「……分かりました。その依頼、受けます」
自身も覚悟を決めた。