第1話
時に宇宙世紀0098年、地球連邦軍のある部隊が作戦に移ろうとしていた。
「見つけたね…数は…2。本隊に報告する」
地球連邦軍714部隊のモビルスーツパイロットの夏野エミ中尉は作戦宙域にて、彼女が駆る量産型モビルスーツ、ジム・カスタムMk-IIのセンサーが脅威を捕捉した。それは小惑星を警備する〈ネオ・ジオン〉の量産型モビルスーツ、ガザDを捕捉する。そしてその小惑星には彼らの母艦と思しき輸送艦が停泊していた。僚機のジム・カスタムMk-IIもそれを捕捉したようで装備するバズーカをそれらに向けて待機する。
「こちらウィザード3、海賊の輸送艦、モビルスーツを確認した」
その通信は714部隊の旗艦、強襲揚陸艦”レナウン”に送られる。
「トレボー、了解…司令、どうします?」
「うむ…各艦、モビルスーツ隊を出し給え」
オペレーターからの報告を聞いた714部隊司令の白根ハルナ准将がレナウン艦長のエイレン・ユーリ大佐に指示を出す。
「はっ…プリースト各機は発艦せよ」
エイレンがそう言うと共に、同艦のカタパルトからは2つの三角形の物体が飛び立つ。それは地球連邦軍の量産型モビルスーツ、ゼータプラスC1型であった。また、片方の機首は長く突き出ているようだ。そして、僚艦からはジム・カスタムMk-IIが発艦していく。
プリーストのコードネームで呼ばれるゼータプラス隊の隊長が通信を開く。
「プリースト1より各機へ。訓練通りにやればいい。特にオズワルド中尉と霧島少尉は初の実戦だ…やられるなよ。以上だ」
「はっ!」
霧島アリス少尉はそう言うものの、初めての実戦に緊張していた。そんな彼女の乗るゼータプラスがカタパルトへ向け移動していく。
(うまく…やれるわよね、私)
アリスの駆るゼータプラスがカタパルトに固定される。
「プリースト6、出るわ!」
アリスのその言葉と共にカタパルトの電磁レールによりゼータプラスが加速、そのGにアリスは顔を顰めながらカタパルトから離脱した。機体の熱核ロケットエンジンを使いさらに加速し、同じレナウンから発艦したゼータプラスと編隊を組んだ。その計6機のゼータプラス隊はジム・カスタムMk-IIに先行して作戦宙域へと向かっていった…
ゼータプラス隊が作戦宙域に到達する。
「こちらプリースト2、センサーが目標を捕捉」
「プリースト1了解。ヨシ、物干し竿の斉射で脅かすぞ」
その言葉と共に、隊の半数を占める機首の突き出たゼータプラスが敵艦の居る小惑星へと機首を向けた。そのなかにはアリスの機体も混じっていた。アリスはコックピットで一人呟く。
「う、うつわ…よ…!」
機首から青白く眩い光が放たれた。そう、この長い機首はビーム・スマートガンと呼ばれる長距離戦向けのビーム兵器だったのだ。それは小惑星の表面を抉り、またアリスとは別の機体が放ったビームはガザDの1機を消し飛ばした。
「ひ、人が…死んだ」
初陣であるアリスにとって、人が殺害されるのをモビルスーツのカメラとコックピットのモニターを通してとはいえ、初めて見たのは精神的にクるものがあった。敵はこの艦砲射撃並の攻撃により混乱に陥ったようで、もう1機のガザDが辺りをグルグルと見渡し、また輸送艦からは別のモビルスーツが急発進していた。それらは砲撃が飛んできた方向へと殺到する。
「ウィザード3へ、一気に脇腹を突いて」
「了解、行くね…君は援護を」
エイレンからの指揮を受け、エミはゼータプラス隊へと向かう4機ほどの敵部隊の横からビーム・ライフルの一撃を放つ。それは敵機を貫き爆散させると共に、敵部隊を混乱に陥れた。そしてエミは機体のスラスターを一気に吹かして敵部隊へと吶喊する。そして僚機がバズーカにて敵部隊を牽制する。
「よし、俺達は敵母艦を叩くぞ」
「は、はいっ!」
ゼータプラス隊はエミ達を横目に敵母艦へと接近する。
「敵第二波確認、やるぞ」
その言葉と共にゼータプラス隊隊長機の機体が三角形から人型になる。ゼータプラスは可変モビルスーツと呼ばれるカテゴリーに属する機体であり、高速移動に特化した形態と運動性に優れた人型の形態を使い分けられるのだ。そして、接近戦に優位な人型に変形したというわけだ。
「く、くる…!」
アリスも遅れて機体を変形させるとともに、ビーム・スマートガンを撃つ。しかし、変形直後の体勢が不安定な状態での射撃のためそれは外れてしまう。
「くっ…こ、の…!」
ゼータプラスの大腿部に接続された速射性に優れたビーム・カノンで追撃するも、射撃は当たらない。そんな中、他のゼータプラスはビームで敵機を貫いていった。
「FCSが捕捉してるのに…!?」
アリスは新米ながらも扱い難いゼータプラスを任されていたため、自分はやれるパイロットと思い込んでいた。しかし、そうは甘くない実戦の洗礼を受けていた。実戦の空気に飲まれた彼女はFCS(火器管制システム)の通りに射撃するだけの木偶の坊と化していた。
「きゃっ!」
敵機のビーム・ライフルが火を吹くと、アリスはそれを避けるものの恐怖に鳥肌が立った。アリスはつい機体を後方に下がらせてしまう。それは隊列を乱しただけでなく孤立する危険があった。
「くっ…こ、の…!」
アリスがデタラメにビーム・スマートガンを撃つと、それが敵機に命中。敵機の上半身を吹き飛ばした。センサーに連動したビーム・スマートガンの偏向機能により、棒立ち同然の彼女でも命中させられたのだ。
「あ…私…やった…の…」
初めての人殺しに困惑するアリスだが、そんな彼女に新たな危機が迫る。
「霧島!上だ!」
「え?…うわっ!」
新たな敵モビルスーツが、ザクIIがアリスへとザク・マシンガンを放つ。それは堅牢なガンダリウム合金製のゼータプラスにとっては豆鉄砲ではあったものの、その中のアリスにとってはそうとはいかず、恐怖に対してのあらゆる生理的現象に襲われる。
「いやいやいやいや…」
ザクIIがさらに接近してアリスへと攻撃をかけるが、彼女は恐怖に泣くことしかできなかった。しかし、そんなザクIIのコックピットがビームに貫かれる。
「ぼーっとしてないで!避けなさいよ!」
敵第一波を全滅させたエミのジム・カスタムMk-IIによるビーム・ライフルの一撃だった。続いてゼータプラス隊からも援護のビームが飛び、ザクIIの機体が完全に消し飛ばされた。
「あ、ありがと…う…ございます」
「大丈夫そうでよかった…っと、敵は降伏するみたいね、これで安心ね」
敵は戦力の多くを失ったようで降伏を選んだみたいだ。
ゼータプラス隊とエミ及びその僚機はレナウンへと帰還する。敵の武装解除は僚艦からの機体へと任したようだ。アリスは機体から降りるとパイロットスーツ内の不快感も忘れて頭を抱える。
「こんな…」
アリスはモビルスーツパイロットに憧れて軍に入隊した。しかし、このUC0098年はもう戦争などやっていない平時であり、実戦になるなんて考えていなかったのだ。事実、714部隊全体にとっても久しい実戦であった。そして、その恐怖と人殺しの感覚はまだ19歳の霧島アリスを蝕んでいた。
「ふ、ぅ…」
エミは機体から降りるとともにヘルメットを外すと、その白い短髪からは汗が無重力空間に漂う。その顔は幼さが残りつつもキリっとしたものであり、整備班もついついその顔をみてしまう。そしてその表情は落ち着いていた。
「ど、どうして、そんなに落ち着いてられるんですか…?」
アリスにとってはそんなエミは不思議であった。敵とはいえ2人…いや、聞いた話では何十人も殺してきながらも平然としているエミに恐怖を持っていた。
「あ、霧島少尉…慣れ?もあるよ。でも…私がジオンが嫌いなのも…」
エミはそう言いながら腰に手を当てる。
「これが戦いって覚悟すること…かな?ごめんね、よくわかんないことで」
エミはそう言いながら苦笑する。アリスはそんなエミを見てゆっくりと目を閉じた。
「…覚悟、私にはなかったな…とりあえず、了解しました!」
「ふふ、その意気かな」
続く