UC0099年4月15日、地球連邦軍714部隊は訓練を終え母港である低軌道連絡ステーション”ペンタ”への帰路についていた。夏野エミ中尉は乗機から降りてヘルメットを外すと汗が舞う。
「お疲れ様です、エミ中尉」
「アリスこそお疲れ様」
同僚の霧島アリス少尉が近づくと、彼女の長いブロンドの髪がふわりと舞っていた。
「相変わらず綺麗だね」
エミは微笑みアリスの髪の一束を触る。
「え…えへへ…ありがとうございます…エミ中尉…」
アリスは照れてしまうが、少ししてからエミから距離を置く。
「って、臭いですよ!」
「あはは…シャワー行こっか」
そう、訓練直後でありいくら2人が美女とはいえ汗の臭いはどうしようもなかったのだ。そうして2人はシャワールームに行き、シャワーを浴び始めた。
「(エミ中尉ったら、女誑しなんだから)…あぁ…気持ちい〜」
アリスは訓練後のシャワーを堪能していたが…突如、シャワールームを含めた艦内に警報が鳴り響いた。アリスはそれに困惑するしかなかった。
「え!?何…!?」
「こんな時に…って、アリス!ぼーっとしてないで行くよ!」
シャワーを中断した全裸のエミがアリスのシャワーの仕切りを退け、アリスを更衣室へと連れ出す。
「ちょ、わぁ!!」
「わあじゃない!身体をささっと拭いてMSに乗るよ!」
エミがざっと身体を拭きながらアリスに指示を出す。
「はい…!っ…」
臭いの元が落としきれてないエミは臭く、それは自分もそうだと感じたアリスは羞恥心を覚えるが、それどころではない事態のため我慢せざるおえない。そんな中、艦橋のオペレーターより緊急艦内放送が響き渡った。
『敵襲!モビルスーツ複数が艦隊に接近しています!』
エミは目を細めて考えたあと、アリスを見つめる。
「ジオンか?…まぁいい、行こう、アリス」
「は、はい…!」
既に僚艦のベルファスト、シェフィールドからは迎撃機が上がったようで戦闘は始まっていたが、敵MSが想定以上の数のため押されていた。そして、エミのジム・カスタムMk-IIとアリスのゼータプラスC1型が発艦する。エミはビーム・ライフルで接近する敵機を撃墜した。
「敵は…ネモ?エグムか…」
エグム、それはエゥーゴの一部が地球連邦軍に取り込まれるのに反発し、離反し過激化した反地球連邦組織であった。エゥーゴに所属していたエミにとっては、元仲間である彼らを撃つのには少々の躊躇いはあったが、仕事は仕事として割り切って淡々と撃墜していった。
「訓練時代に乗ってた機体を撃つなんて…やだなぁ…」
アリスはアリスで士官学校での訓練でネモに搭乗したことがあるため、それを撃つのに躊躇いがあった。そしてそんなアリスが追い詰めた敵機を僚機たるネヴィル・カニンガム少佐が打ち取っていく。
「霧島少尉!油断してると死ぬぞ!」
ネヴィルにとってはそんなアリスが油断しているように見えたようだった。アリスはそれに返事をするが…
「は、はい…!なに…速い?高速で艦隊に迫る目標3つ!」
高速で接近する敵機をアリス機のセンサーが捕捉した。
「モビルアーマーか…?」
「違います、モビルスーツサイズです!」
そして、それらは艦隊直掩を担っていたジム・カスタムMk-II…エミ機とその僚機の方へと向かっていった。
「なに?艦隊じゃなくてこっちに来る…?」
「ですね!速い…!」
エミの僚機の久保ニイナ少尉がビーム・ライフルで迎撃するも、その高速機動により回避された。
「…このタイプか」
エミにとっては見覚えのある機体であった。それはロング・シールド・ブースターを装着したネモであった。ロング・シールド・ブースターとは、エゥーゴが開発したMS用支援装備であり、シールド、ブースター、メガ粒子砲の機能を組み合わせたものだった。しかしエミは冷静に狙いをつけるが…
「速いからって…なっ…!?」
「エミさん…エミさん?どうしました…?」
エミは動揺しているのか、トリガーボタンを引く手が震えて狙いが外れた。そしてその先には白いネモが居た。
「間違いない…あの機体は…!」
そしてそのネモはロング・シールド・ブースターを腕部にも装着…計4基つけており、急激にエミ機に接近した。
「やはり…エミかぁ…!」
白いネモのパイロットがオープン回線にてエミに語りかける。エミはその声を聞き叫び返す。
「…パミルぅ!」
パミル・イレイ…彼女はエゥーゴ時代のエミの僚機を務めていた女性であった。
「え…パミル・イレイ…行方不明ってはずじゃ…!」
ニイナの言う通り、パミルはグリプス戦役後の第一次ネオ・ジオン抗争で行方不明になったとエミは聞いていた。
「なんで…エグムに…!」
「エミこそ!まだ連邦なんかに居たなんて…ね!」
エミはいつもの冷静さを失い、攻撃にムラができていた。そして、そんなエミをパミルのネモは高速機動を活かした一撃離脱戦法で翻弄する。
「エミさん!…くっ…!」
ニイナも2機のネモの相手で精一杯であった。
「そんな腐った体制で!いいの?エミ!」
「っ…戦闘中におしゃべりなんて…ぐっ…」
「貴方も元はエゥーゴ!体制を壊そうとしたんでしょ!」
パミルの物理的な、精神的な攻撃にエミは苦戦していた。そんななか、少しずつ冷静さを取り戻していき一瞬有効打を放ったと思えた。しかし
「それくらい…っ…!」
パミルのネモは腕部のロング・シールド・ブースターを偏向させて急激な機動でそれを回避した。
「当たらないよっ!…ねぇ、エミ!一緒に来ない!?来ないなら死んでくれる…!?」
「ヨミが、居る…!だから!」
ヨミ…妹の夏野ヨミが居るエミにとって、それを守るために軍に居るのだ。体制打倒のために軍を裏切るつもりはさらさらなかった。そして、遂に冷静さを取り戻したが…
「じゃあ…これで死ねぇ!!」
パミルは攻勢を強め、4基のメガ粒子砲でエミ機を撃つ。エミはそれを躱していくも、パミルの高速機動の前に有効打を打てずにいた。
「これで…死ね!エミぃ!」
4基のメガ粒子砲を束ねて発射、これはエミ機のシールドを破壊した。
「なんて、威力…!だけど!」
エミはビーム・サーベルを抜き、パミルのネモへ接近する。
「格闘戦なんかに付き合うと…なに!?」
突如、パミルのネモの背中に付けたロング・シールド・ブースターが爆散した。
「エミ中尉!」
それはアリス機のビーム・スマートガンの一撃であった。そして
「めぇぇぇん!!」
「くっ!エミぃぃ!!」
エミ機が面の要領でパミルのネモの頭部から胸部にかけて溶断した。そして、エミの同僚だったパミルは、エミの手により命を散らした…
帰艦したエミはため息を漏らした…
「なんで…パミル」
なんでパミルはエグムに居たのか…それはもう想像するしかない、おそらく第一次ネオ・ジオン抗争の時点で連邦軍に編入されつつあったエゥーゴに嫌気がさして、行方不明という体でエグムに行ったのだろう…しかし、そんなことはエミにとってどうでもよかった。
「パミ、ル…」
敵になったとはいえ、顔の知ってる仲間を自らの手で討ったのだ。そのことにエミはコックピット内で泣き始めた。
「うっ…っ…パミル…少、尉…っ…」
「…エミ中尉?」
アリスはいつまで経ってもコックピットから降りてこないエミを心配していた。そんなアリスにニイナが声をかける。
「あー、パミルって人、エミさんにとってお姉さんみたいな存在だったんだってさ」
「え…」
ニイナは悲しそうに話を続ける。
「確か3つくらい歳が離れてたんだけど…宇宙に慣れないエミさんを色々支えてくれてたみたいなんだ、だから…そっとしておいてあげよう…」
「でし…たか…」
さらにニイナが衝撃的な事を言う。
「…誕生日、だったんだけどなぁ、エミさん」
「え、えぇ…!?」
「だからね、エミさん…凄く辛いと思う」
しばらくして、エミはコックピットから出てくるもどんよりした表情でシャワーも浴びずに部屋に戻った。
アリスはエミが心配でその部屋を訪ねようとしていた。
「エミ中尉…」
アリスがエミの部屋のインターホンを押すと、その扉は遠隔で開けられた。そして、部屋のベッドにはパイロットスーツのままのエミが横たわっていた。そこからは酷く洗ってない犬のような臭いがした。
「あの、今回…」
「私が…パミル少尉と仲良いの聞いたんだ…」
「はい…」
アリスがエミに近づく。
「イレイ少尉の件…残念でした、でも…私…エミ中尉にはヨミにとってかっこいいお姉ちゃんであって欲しいんです!」
アリスはヨミと交際している。そしてそのヨミはかっこいいエミに憧れを抱いているのも知っていた。
「…ヨミのため、そうね…」
「あの!これ!」
アリスが差し出したのは小さなイチゴケーキであった。
「ニイナさんが準備してくれてました…誕生日…だから…立ち直ってください!」
「…わかったよ、ありがとう…アリス」
エミがアリスに抱きついた。そして、抱きついたまましばらく時が経った…
「あとでニイナにもお礼を言わないとね」
「はい!私もエミ中尉が立ち直ったし、一緒にお礼に行きますね!」
「ふふ、ありがとね」
続く