UC0099年10月、地球連邦軍714部隊は休暇に入ろうとしていた。旗艦”レナウン”では多くの将兵がそれを心待ちにしていた。
「これでついに休暇に…やった…!」
霧島アリス少尉もそんな一人であった。
「ふふ。顔にそれが出てるね」
夏野エミ中尉はそう言うものの、自身もリラックスして休暇を心待ちにしていた。そしてここはシミュレータールームであり、さっきまでアリスはエミにしごかれていたのだ。
「早くヨミに会いたい…エミ中尉もですよね?」
「もちろん…たった一人の妹だからね」
アリスはエミの妹の夏野ヨミと交際しているのだ。そのヨミと会うのを2人とも楽しみにしている。
「ヨミもきっと心待ちにしてる…はず!彼女にたった一人のおんなじ両親から生まれたお姉さん…!」
「……ふふ、そうだね…そろそろ入港のようだよ」
レナウンは低軌道連絡ステーション”ペンタ”に入港、エミとアリス含めた多くの将兵が休暇に入った。
地球に降りたエミとアリスは共に佐野へと向かった。そして剣道の道場へと足を運んだ。
「ヨミは…居た!」
「アリスも慣れてきたようだね」
道場の中で稽古に励むヨミを探すのをアリスは慣れてきたようだった。自身より大柄の少年を相手に模擬的な試合をし負けじと声を出す、その低めの位置にある白いポニーテールを靡かせる少女がヨミだった。エミは誇らしげに、アリスは少し心配そうに見つめていた。
「ヨミ…これは面白いことになってるね」
「面白いって…ヨミ、頑張って…!」
そんなエミの期待を他所にヨミは気合いを入れて励む。ヨミは相手の馬力に少し押されながらもそれを受け流すような動きをし、遂には一本取った。
「やる…!ヨミ、凄い!」
「うん。これでこそ私の妹だね」
ヨミはそこから攻勢へと転じ、相手を追い詰めていく。しかし、ヨミも油断が生まれており相手に胴を取られた…はずだった。しかし焦った相手は胴を外し、それがヨミの脇へと直撃した。そしてヨミは身体をぐらっとさせてしまう。
「ヨミ!?…大丈夫…!?」
アリスはヨミの元へ向かおうとする。
「大丈夫、ヨミを信じてあげて」
エミは冷静にアリスに声をかけるとともに、彼女の肩を掴んで動きを止める。
「…は、はい…ヨミ…!」
その頃ヨミは内心、痛みにもがき苦しんでいたがそれでもしっかりと竹刀を構えていた。
(ぐあ、ぁ…いた、いよぉ…でも、泣いちゃダメ…)
ヨミは再び声を上げ相手へと向かっていき、相手と竹刀をぶつけ合う。そして一本取り、ヨミは勝利した。
「よくやった」
「ヨミ…!」
アリスは感極まり涙を浮かべてしまう。その後も稽古は続き、ヨミは頑張ってそれに励んだ。
稽古が終わったヨミはエミとアリスの元へと向かった。
「おかえり!おねーちゃん!アリスちゃん!」
ヨミがエミへと抱きつく。
「ただいま、ヨミ」
「ヨミ!怪我は大丈夫?」
アリスはさっき竹刀の当たった脇を心配しているようだ。
「怪我?…多分痣ができるくらい、気にしないで」
そう言いながらヨミはエミから離れてアリスを抱きしめる。
「なら…良くないけど良かった…かな…?…好き、ヨミ」
アリスは胸をなで下ろすような気持ちになりながら、ヨミの髪の匂いを嗅いでいた。
「あはは、アリスちゃんったら…ほら、こっちも好きでしょ?」
そう言いヨミはアリスの顔を自身の胸に埋めさせる。
「んっ…好き…」
「ホント、変態なんだからなぁ…そこも面白いよ」
しばらくアリスはヨミの道着の臭いを堪能した…
3人は夏野家に着くと、ヨミの趣味のテレビゲームに興じていた。そんな中インターホンが鳴り響く。
「どなたかな?とりあえず出るねー」
そう言ってヨミが玄関へと向かっていった。
「はいはーい、お待たせしました」
ヨミが玄関の引き戸を開けると、地球連邦軍の制服を着た男が数人立っていた。
「軍の方?おねーちゃんに用でしょうか?」
「いや、用があるのはあなたです。夏野ヨミさん」
男は事務的な口調で言い放つ。
「へ?」
「しかし、夏野中尉も居るのなら話すべきことは話しておくべきではあります」
「えーと…おねーちゃーん!軍の人が来たよー!」
ヨミの声を聞いて少ししてエミがやってくる。そして、そこにはアリスもついてきていた。
「(軍曹、伍長、少尉…少佐?…しかも宇宙軍の?なんのようかな?)はい、夏野…エミですが、なにかようがあります?」
「はい、夏野ヨミさんに用がありますが、これはあなたにも関係あること…でしてね」
「…そうですか」
エミは少し低い声で答える。アリスは少し不思議そうにそれを見つめる。そして少佐の階級章を付けた男がしゃべり始める。
「では…夏野ヨミさん、貴方の父上、夏野マサユキ…旧姓だと”沖田”マサユキは本星艦隊司令官、沖田カザミネ大将の甥にあたります。つまり貴方は沖田大将の又姪というわけです」
「え…?私のお父さんの…」
「…ヨミのお父さんが…沖田大将の親戚!?」
アリスがつい声を上げてしまう。
「だから、なんなんですか…?」
「いや、それを沖田大将から貴方に伝えて欲しい…とのことでしてね…ま、ついでに我々はこの辺りの観光さ」
肩の力を抜く少佐の男であった。
「…私を連れて行く…なんてこと言われたら泣いてたかもしれません」
「はは、沖田大将はそんなことはしない…というわけで、我々は観光を楽しませてもらうよ。夏野中尉…オススメの店はなんかあるか?」
エミは少しぼーっとしているように見えた。
「…っと、はい。上海屋という中華料理屋がオススメです。少佐」
「ありがとう…それでは、我々は失礼させてもらうよ」
そう言って軍人達は立ち去っていった。
「いや…まさか沖田大将の親戚だったなんてね…ヨミが…」
「沖田大将?さんは知らないけど、たしかにお父さんの昔話はおねーちゃんもしてくれなかったよね…って、おねーちゃん?」
「エミ中尉どうしました?」
またしてもエミはぼーっとしているように見えた。
(こうやって話す機会が来るなんて…嫌な運命ってやつだね)
「エミ中尉も沖田大将の親戚なのに驚いちゃってるんです?」
アリスの純粋な質問にエミは答える。
「私は違うよ、アリス」
「…そうだね、お姉ちゃん」
ヨミもそのことは知ってるようだった。
「え?でも…」
「実は私とヨミはお父さんが違うんだ」
「…えぇ!?なんで…?再婚…へ…?」
アリスは急なエミの家族事情の告白に驚く。
「違う、私のお母さんは…高校生の頃、男に襲われたんだ…それで孕んだのが私なの」
「そんな…じゃあ、エミ中尉のお父さんは…」
「クズ男だよ。お母さんに怖い思いをさせたクズ男」
エミはそう言い放ったが、その声は震えていた。
「そんなお母さんが結婚したのがヨミのお父さんだよ」
「うん、私もお姉ちゃんから初めて聞いた時はびっくりしたよ」
「はぁ…私はクズ男の血が半分入った忌まわしい女なんだ。これからはそう思ってくれて構わないよ」
エミは震える声でそうアリスへと言い放った。ヨミはそんな姉を悲しげな目で見つめる。ヨミにとっては姉がこうやって凹む姿を見るのはこれが初めてではなかった。
「でも…エミ中尉はそんなクズとは違います!」
アリスはエミに対して優しく、しかし、強く言う。
「たとえ血統が違ってもヨミと仲良く暮らしてるし、それに、私を助けて、しごいて、頑張ってる大切な私の先輩です!」
そしてアリスはエミを優しく抱きしめる。
「だから…そんな風に卑下しないで!ヨミだってそんなお姉ちゃんは嫌なはずです!」
そう言われたヨミは静かに頷いた。
「気をしっかりしてください!ヨミの…私のお義姉さん!」
「…うん、そうね…ありがと、アリス…」
エミはそう言うと共に俯いていた顔を上げる。
「また貴方に助けられちゃって…情けないお義姉さんね。んっ」
そう言うと共にエミはアリスの頬にキスをする。
「あ…!?」
「なっ…!?」
アリスとヨミはそんなエミに驚く。
「ふふ、貴方が同い年くらいだったら私は惚れちゃってたかもね」
「は、はは…」
アリスはそう笑いながらもヨミからのジトッとした視線に晒されていた。エミは立ち直っていった…
その晩、姉に嫉妬したヨミによりアリスは自分が誰の恋人かを理解させられた…
続く