UC0099年10月、地球連邦軍714部隊の旗艦”レナウン”は隊内での模擬戦の準備に取り掛かっていた。
「緊張するなぁ…」
霧島アリス少尉はゼータプラスC1型のコックピット内でぼそりと呟く。
「大丈夫、私達ならやれるよ」
今回の模擬戦にて僚機となる夏野エミ中尉がそんなアリスに優しく言う。
「でも相手はカニンガム少佐とニイナさんですよ?私を抱えてたらエミ中尉でも…」
「ふふ、そんな卑下しないでもっと自信を持っていいんだよ?」
カニンガム…ネヴィル・カニンガム少佐はレナウンのゼータプラス隊の隊長、ニイナ…久保ニイナ中尉はエミの僚機を普段務めている。2人とも技量が高く撃墜数も多いエースパイロットであった。
「アリスも撃墜数ではニイナと2つ違い、やれるよ。ネヴィル少佐は私がやるからニイナのことはよろしくね?」
「…事前に立てた作戦通り機動力で翻弄すればいいんですかね?」
「その通り、貴方は精密射撃より高機動戦闘を意識してればいいよ。そうすれば脚が止まらないからニイナもそう簡単には貴方を落とせないからね」
エミはニイナのバディとして、またアリスとはシミュレーターを通じた訓練成果を見て、その技量を判断して作戦を立てていた。
「それじゃ、そろそろだから…頑張ろう、アリス」
「はい…頑張ります!エミ中尉!」
2人の機体がカタパルトへとセットされる。
「夏野エミ、出るよ」
「霧島アリス、行きます!」
エミのジム・カスタムMk-IIとアリスのゼータプラスC1型がカタパルトから射出された。続いて同じ機体が2機ずつカタパルトへとセットされる。
「久保ニイナ、行きます」
「ネヴィル・カニンガム出るぞ」
模擬戦相手の両名も射出され、両チームは互いの模擬戦開始地点へと向かっていった…
模擬戦の開始時間になると、アリスはエミと共に行動を取り始める。機体はMS形態であり、ビーム・スマートガンを構えて索敵を行なっている。
「まだ見えません、エミ中尉」
「了解」
模擬戦に参加した機体のセンサーの性能では、アリスの機体がビーム・スマートガンのディスクレドームもあり一番優れていた。そのためこうやって索敵した後、奇襲を行おうというわけだった。
「…見えました!ウェイブライダー、カニンガム少佐です!おそらく陽動かと!どうしましょう?」
アリス機のセンサーがネヴィルのゼータプラスを捕捉した。それは真っ直ぐアリス達へと向かっていた。
「デブリに隠れて無視しましょう。ニイナを見つけて叩くことを優先し」
2機ともスペースデブリの陰に入りネヴィル機のセンサーに捕捉されまいと行動するが…
「もう1機捕捉!ニイナさんです!カニンガム少佐に遅れて真っ直ぐ突っ込んできてます!」
「…ヨシ、奇襲でニイナを落としましょう。失敗したら共にニイナ機へと吶喊、それについてくるだろうネヴィル少佐を私が相手にするよ。オーケー?」
「OKです!…当たって!」
アリス機がビーム・スマートガンを構え、ニイナのジムへと発砲する。しかしそれはニイナ機からは外れて虚空へと飛んでいく。真っ直ぐ突っ込んでくると言っても、乱数加速を繰り返しておりFCSと勘を当てにしたとてもこの遠距離ではそう当たらない。
「外れた…!行きます!」
「ええ、そうしましょ」
エミとアリスの2機は足並みを揃えてニイナ機の方向へと突撃を開始する。流石にそれを無視するわけにはいかないネヴィルのゼータプラスが、そんな2機へと大腿部ビーム・カノンを撃ちながら接近する。
「来たか…じゃあ私はこれで、あとは任せたよ」
「はい!エミさん!」
エミ機が進路を変え、ネヴィル機へと接近を始める。そしてアリス機は機体をWR形態へ変形、一気にニイナ機へと接近した。
「アリスへは行かせない…!」
エミはビーム・ライフルでネヴィル機の動きを牽制する。ネヴィルはその射撃を軽やかに回避しながらエミ機の横を通り過ぎる。
「流石ゼータプラスにネヴィル少佐、滑らかだね」
横を通り過ぎるネヴィル機へとバルカンを撃つもそれも躱される。
(慣れない霧島少尉を引き離したか…しかしニイナ君なら持ちこたえてくれるはず)
ネヴィルはそう考えながらゼータプラスをMS形態に変形させ、エミ機へと肉薄する。
「ヨシ、作戦通り…私とやり合いましょうか、ネヴィル少佐…!」
エミ機は肉薄するネヴィル機に対してビーム・ライフルを発射、それをまるで踊るかのような軽やかな動きで避けたネヴィル機は大腿部ビーム・カノンでエミ機を撃つ…その頃アリスとニイナは睨み合いを続けていた。アリス機がWRでニイナ機の周りを飛び回っているが、それに対してニイナは何もしないという選択肢を取っていた。
(高機動戦闘で翻弄…と言っても、ニイナさんが何もしなくて不気味…でも!)
アリスはニイナの何もしないという判断を怪訝に思い、何もできずに居たが、遂に大腿部ビーム・カノンでの牽制射を加え始める。
(エミ中尉がカニンガム少佐を倒して来るまでなんだから…!)
撃たれたニイナ機はそれを避けると、反撃もせずにシールドを構えたままアリス機を視認し続ける。
「まだ何もしないの!?」
アリスの中には一種の焦りの感情が生まれていた。今度はビーム・スマートガンを撃つもこれも先と同じような対応を取られた。
「何を…?」
何もわかってないアリスに対し、エミはネヴィルと戦う傍らそれに気づいた。
「…アリス!軌道を変えて!読まれそうだよ!」
「え?」
「もらったよ!アリスちゃん!」
アリス機が大腿部ビーム・カノンを撃ってまた避けて同じ対応…と思いきや、ビーム・ライフルで反撃を始める。ニイナは正確にアリス機の軌道を読み、それは右翼のプロペラントタンクを貫いた。
「きゃっ!?」
プロペラントタンクの誘爆が起こったという判定が下り、右翼も破損したということにされた。
「やられた…!アリス、立て直して!」
「でも…あぁっ!?」
さらに左脚を撃ち抜かれたアリス機は軌道を崩してしまう。ゼータプラスを含めたゼータガンダム系列のモビルスーツは、脚部にそれぞれ2基のジェネレーターを備える設計だ。そのため片肺状態になったアリス機は出力低下し戦列を離れていく。
(アリスは…とりあえず2対1ってわけね)
「これで私達が数的有利です!エミさん!」
ニイナ機がエミ機へと接近を始めビーム・ライフルを撃つ。エミとバディを組むニイナはエミの弱点も熟知しておりその射撃は正確であり、ネヴィル機と互角の戦いをしていたエミ機を窮地へと陥れる。
「ま、ず、い…ね」
ネヴィル機の攻撃でエミ機のシールドの下半分が吹き飛んだ判定が下る。
(それでも…私はやってやるね)
冷静にエミはニイナ機へと狙いをつけ、ビーム・ライフルを撃つ。それはシールドで防がれたもののニイナ機の動きを鈍らせた。その隙にエミはネヴィル機に接近、バルカンを乱射しながら左手にビーム・サーベルを握らせる。
「はあぁぁ!!」
エミ機の横薙ぎに対してネヴィル機はロング・ビーム・サーベルで受け止める。そして至近距離で大腿部ビーム・カノンをエミ機に対して撃つ。
「当たる…か!」
エミはそれを機体をくねらせて避け、上昇した。そしてエミがいた空間にはニイナ機のビーム・ライフルによる攻撃が通り過ぎる。
「…ヨシ、これなら」
エミがネヴィル機に接近しながらバルカンを撃ち、そのビーム・ライフルを破壊する。そして手ぶらのネヴィル機にビーム・サーベルで斬りかかる。
「させませんよ!」
そんなエミをニイナ機がビーム・ライフルで狙いを付ける。しかし…
「え?」
ニイナ機はビームの奔流に飲まれ、下半身を破壊された判定が下った。
「いつから2対1と錯覚してたのかな?ニイナは」
「間に合いました!エミ中尉!」
デブリに不時着していたアリス機からのビーム・スマートガンだった。片肺分の出力しかなくマトモに動けないアリスはニイナ機の隙を待っていたのであった。
「不味い!カニンガム少佐!」
「ニイナ君め油断して…!」
ネヴィル機はエミ機の攻撃を躱そうとするも左腕を切り裂かれる。
「ぐぅ!やってくれる!」
ネヴィル機は反撃として大腿部ビーム・カノンを撃ち、それがエミ機の右肩を掠める。
「これくらい…!」
右肩の姿勢制御スラスターが破損するも、構わずにエミは攻撃を続ける。そしてビーム・サーベルの横薙ぎでネヴィル機を撃破した。その後、マトモに動けなくされたニイナ機も撃破し、模擬戦はエミとアリスの勝利に終わった。帰艦してコックピットから降りたエミに対してアリスが近寄る。
「やりましたね!エミ中尉!」
「アリスこそ…あの状況からありがとね」
エミがアリスに優しく微笑む。
「えへへ…でも次からは動きを読まれないよう気をつけます!」
「ふふ、それも大事だね…じゃ、シャワー浴びよっか」
「はーい!」
そうして2人はシャワーで汗を流しに行った…
続く