前回のネオ・ジオン残党掃討作戦を終えた714部隊は休暇に入った。低軌道連絡ステーションペンタに入港したレナウンから、夏野エミ中尉は地球へ向かう便へと向かった。そんな彼女はある人物と偶然出会う。
「こ、こんにちは」
「霧島少尉ね、こんにちは」
同部隊の仲間である霧島アリス少尉だった。彼女はブロンドの髪に大人らしい美貌、ハイネックのセーターにミニスカート、ガーターベルト付きのストッキング、そして身体も身長が168㎝とエミより10㎝も高く、胸は二回りほど大きく、エミはつい内心嫉妬してしまう。
「あの…どうしました?」
「ん、なんでもないよ」
どうやらその嫉妬が顔に出てたようだ。謝りつつ近くの壁に背中を付ける。
「霧島少尉は実家のイギリスに帰るのかな?」
「あ、いえ…今は日本に住んでて…あ、夏野中尉も…」
アリスは首を振ったあと、エミの出身地を思い浮かべた。
「そうね、私も日本…佐野ってとこだね」
「へぇ…夏野中尉の実家…」
「…気になる?」
エミがジッとアリスを見つめる。
「あ、いえ…そうでは…いや、気になります」
「着いてくる?」
「…甘えさせていただきます…」
「ん、りょーかい…っと、その前にエイレンを見送る約束してたんだった」
エミが床を蹴り無重力空間を進んでいく。アリスもそれに着いていった。
バイコヌール宇宙基地行きのシャトルの受付にて…
「あら?霧島少尉もお見送りかしら?」
エイレン・ユーリ大佐はエミだけでなくアリスが来たのが不思議なようだ。
「あ、夏野中尉に着いてきたんで…」
「ふふ、これから一緒に日本で…ね」
アリスはその言葉につい顔を赤くする。
「ちょ、違い…いえ、合ってます!」
「はは、なーに勘違いしてるの?」
エミが笑いアリスをからかい、それを見たエイレンもつい微笑む。
「霧島少尉…アリスちゃんは良い先輩を持てたわね…それじゃ、また会いましょう」
「は、はい…!それでは!」
「またね、エイレン」
シャトルに向かうエイレンを2人は見送った…
種子島行きシャトルに乗ったエミとアリスはその後、羽田に航空機で向かい、そこで落ち合った。
「居たね、霧島少尉」
「あ、夏野中尉!よく見つけましたね!」
「そりゃ貴方のような背の高くて綺麗な女性は…ね」
エミは日系人と比べて背の高いアリスをそう言うが、アリスはついそれの後ろに付いた言葉を意識してしまう。
「あ、あはは…」
「それじゃ、行きましょ?」
2人は電車を乗り継ぎ佐野に向かっていった。2人は隣に座り合う。バスは狭いためその距離は随分と近い。
(夏野中尉…ちっちゃくて少年っぽくも見えるけどかっこいい人だなぁ…少し怖いけど)
アリスは隣り合うエミを見て見惚れるが、同時に畏怖の心も抱いていた。エミはエースパイロットで何十人も殺してきたのに平然としてるのは、覚悟というべきものが物凄く極まっているように感じた。そして、自らは1人殺しただけで…と痛感した。
「ここが、佐野…」
2人の乗る電車は佐野に着き、アリスが電車から降りて呟いた。
「まぁよくある地方都市の一つだよ…って」
アリスは袴を履いてどんぶりを被った犬のマスコットに見惚れているようだ。年頃の少女らしいとエミはつい笑った。駅からはバスに乗り継ぎ、目的地へと向かった。
「まずは”ドージョー”…でしたっけ?行くのは」
「うん、道場だよ…行こっか」
バス停から降りた2人は何やら叫び声が聞こえる方へと向かった。途中でエミはりんごジュースを買っていた。そして、近づいていくと汗の臭いがしてきてアリスはついレナウンの格納庫を思い出す。階段を上がりエミが扉を開ける。
「着いたよ」
そこの1階では袴を履いて防具を着けた男女が竹刀を振るっていた。ここは剣道場であった。
「…こんなに汗だくになって」
「ふふ、私も元々やってたんだ」
エミが懐かしそうに微笑み下を眺める。
「夏野中尉が…こんなことを…凄いです」
そして、稽古が終わったのか男女が防具を外していく。そして…
「やっほー、ヨミ」
エミが一人の少女に声をかける。その少女は上へと振り向く。
「あ…!」
見上げる少女はエミと同じ白髪だが長く後ろで纏めていて、そして柔らかくも凛とした瞳…アリスは一目惚れした。
「ん?おねーちゃんだ!」
おねーちゃん…つまりこの一目惚れした少女は夏野中尉の妹なんだとアリスは察した。顔の良い姉妹だなと感じた。
「はい、差し入れ」
「わっ…と、ありがと!」
エミがりんごジュースを下へと落とすと少女がジャンプしてキャッチする。その揺れる袴を見たアリスはついかわいいと声を漏らす。
「かわいい…」
「ふふ、きっとヨミも喜ぶよ」
そう話してる間に少女が階段を上がってきて…
「おねーちゃん!」
少女がエミに抱き着いた。
「わっ…と…ただいま、ヨミ」
「おかえり!おねーちゃん!」
「…嘘でしょ」
アリスが小声で呟く。エミの妹ような美少女が汗臭いことについ驚きとギャップを覚えて…
「…っと、こんな感情いけない!」
良からぬ感情を打ち消す度に声を出す。そして、それにより少女はアリスの存在を知覚する。
「ん?…っと、すみません。貴方は…」
「紹介するよ、この子は霧島アリス少尉、私の大切な仲間の一人よ」
「は、はい!霧島アリスです!」
良からぬ感情を振り切りたいアリスはつい少女に敬礼してしまう。そして少女がエミから離れる。
「あたしはおねーちゃん…エミお姉さんの妹の夏野ヨミです。よろしくお願いします」
少女…夏野ヨミはアリスに向かってお辞儀をする。そして顔を上げると柔らかな子供のような瞳にアリスは見惚れる。
「かわいい…」
「え?ありがとう!アリスさん!」
ヨミがさらに喜び笑うとアリスは更に見惚れる。
(ヤバ…かわいい…綺麗…)
「ちょ、鼻血が出てるよ?」
アリスはつい鼻血が出てしまったようだ。エミはそれを見て困惑するが…
「いけない!…止まって…!」
ヨミがアリスに近づき鼻をきゅっと抑える。
「はわっ!?」
(柔らかっ!ダメダメダメ可愛過ぎる…!!)
アリスは困惑して目を回す。そして…
「うぅ~…」
アリスがつい倒れてしまう。最後に知覚したのはヨミが裸足であり、それも可愛らしいことだった…
「うう、ごめんなさい…」
あのあと、アリスはエミに優しく起こされた。そのあとヨミも着替えたようで高校の制服を着ているようだ。アリスは意外と歳が近いのに驚いていた。そして今は次の目的地、夏野家へと向かっている。
「初めての実戦もしてたし、疲れもあったでしょ。気にしないでね」
エミが優しく声をかけてあげると、ヨミはそれに驚く。
「おねーちゃんも戦ったの!?大丈夫だった?」
「大丈夫って証拠にここに居るよ」
エミは少し微笑ましげにそう言う。
「だね!おねーちゃんかっこいい…!」
ヨミはそんな姉にぎゅっと抱きつく。そんなヨミが可愛らしくアリスはじっと見てしまう。そして…
「着いたよ、霧島少尉」
そこには伝統的な日本家屋があった。そして玄関に入ると木の香りが漂う。
「ただいま」
「ただいま〜」
夏野姉妹がそう言い中に入り、アリスもそれに続く。
「お邪魔します…」
「いらっしゃい!アリスさん!」
ヨミが優しく微笑んでくれ、アリスもつい笑う。
「うん、ヨミちゃん…!」
そう笑ってると、エミが沈痛な表情でライターを取り出していた。
「へ…夏野中尉…?」
「ん?あぁ、ライターのことね。大丈夫、急に放火なんてしないよ」
そしてエミは茶色い箱型の家具に置かれた蝋燭に火を灯す。
「夏野中尉…それは…?」
エミの前にヨミが答えた。
「仏壇…ご先祖さまを供養するための家具…だよ」
「そう…なのね。だから夏野中尉が…」
エミが線香に火をうつし、そして火を小さくして香炉に立て、手を合わせた。
「…あ、今のお姉ちゃんみたいに祈ってあげてね…またあたしが見本代わりになるから」
そしてヨミも祈って、アリスも続けて祈ろうとしたが…
「実はお母さんとお父さんは…殺されたんだ」
エミがそう悲しそうに呟いた。
「え…!?…一年戦争で…ですか?」
「…ううん、違うの」
ヨミが首を振り否定する。
「ジオン残党のテロリストに拉致されて…小学生だった私と、赤ちゃんだったヨミの前でね」
「それに私やお姉ちゃんの髪が白かったりするのもそのせいなんだ…色々怖いことされたから」
「な…なん、て…」
アリスの表情がつい凍りつく。
「…知って欲しかったんだ。私が軍隊に入隊した理由のひとつを」
「だから、ふ…えと、同じ過ちを繰り返させないためにですか?」
アリスの問いかけにエミが苦笑する。
「言い直さなくてもいいのに…ま、そういうわけもあるんだ。だから祈ってあげてほしい」
アリスが仏壇の前に座り改めて祈る。
(夏野中尉とヨミちゃんのご両親さん…安らかに…)
祈ったあと、ヨミが夕飯を作ってくれている間にアリスとエミは二人きりになった。
(うう、あんな重い話聞いたあとだとちょっと気まずい…というか、軍に入った理由が私なんかと…)
「…まだあるんだ、実は」
エミから口を開いた。
「え…何が…ですか?」
「軍に入った理由だね…お母さんが死んだあと、一旦親戚の家に預かってもらったんだ…剣道してたのもその時期だね」
エミの剣道着姿をアリスは想像してしまう。しかし…
「そこの従兄弟のお兄さんに憧れて…ううん、好きだったんだ」
エミが少し照れくさそうにする。そしてお茶を啜る。
「でも、ティターンズに殺されたんだ。理由は今でもわからない」
アリスが驚き目を見開くがエミは話を続ける。ティターンズは地球連邦軍の特殊部隊であったが、その行為は悪虐非道と言えるものであった。そのため反対派閥によって討伐されたのだ。
「だから復讐のためにエゥーゴに入ったんだ、まだ14の頃かな?」
エミがその反対派閥に14歳で参加してしまったことにアリスは沈痛な表情となる。だからこの人は戦いに慣れているんだ。そう感じた。
「私は…MSの才能はあったみたい、頑張ったんだ…でも」
エミは袖を捲くると、その二の腕には大きな引きつれが見えた。
「傷…?」
「いや、違うわ」
その言葉のあとアリスは考えて察してしまった。”それ”は疑似有機部品を使っているためそれは普通の見た目に近いため、またエミは長袖のインナーをよく着ていたため、今までアリスは気づかなかったのだ。
「まぁそんなこともあるから、貴方は気をつけてね、アリス少尉」
「…はい」
その後、夏野姉妹とアリスは夕飯を食べ、またヨミの好きなテレビゲームに付き合った。そしてアリスが帰る時間となった。
「それじゃ、私は帰ります」
「泊まっていってもいーのに…?」
ヨミのその言葉についアリスは惹かれるが…
「着替えもないからね。ごめんね、ヨミ」
「次来るときは着替えも…って言っといたほうがいいかな?」
エミがそう考える。
「はは…では、私はこれで…さよなら、ヨミ、エミ中尉」
「またね〜」
「またレナウンで会いましょ」
続く