第23話
UC0100年12月1日、地球連邦軍714部隊は低軌道連絡ステーションペンタに入港していた。714部隊は補給と人員補充を受けることになっていた。714部隊旗艦”レナウン”の艦橋では2人の女性が話していた。
「これで我々も元通り…か」
そう呟く女性は714部隊司令官の白根ハルナ准将であった。714部隊はUC0099年の11月、ジオン共和国壊滅を掲げた”地球正教会”との戦いで戦力を消耗、また度重なる戦いによる疲弊で除隊する者も居た。にも関わらずしばらく人員の補充が行われなかったのは軍縮による影響だろう。
「…まぁ気になるところはありますがね」
レナウン艦長のエイレン・ユーリ大佐がそう言う。
「どっちのことかな?」
「…どちらもですが、彼の方が私には気掛かりです」
エイレンは情報端末の資料に目を細めている。
「はは、まぁなんとかしてみせるさ…うちの戦乙女達ならね」
ハルナはそう言い笑みを浮かべた…
レナウン格納庫ではパイロットと思われる士官達が話していた。
「…除隊した久保ミツヨシ少佐の代わりのボーマン少佐…を転属させ、そして私がジム隊最先任に…なんて、何を考えてるんですかね上層部は。指揮能力の低下が著しいですよ」
比較的小柄で白髪の女性、夏野エミ大尉はそう隣に立つレナウンのジム隊隊長、ハインツ・ボーマン少佐に話しかける。
「そうか?夏野はよくやる方だと思うよ」
ハインツはそうエミに言う。
「そうですよ!エミ大尉なら技量も十分ですし…!」
長いブロンドの髪を持つ女性、霧島アリス中尉はエミを信頼しているようだった。
「あのさぁアリス?…技量はあっても指揮できる…かどうかは別なんだよ?」
「でもエミ大尉ならやってくれる…そう私は信じてます!」
「…はぁ…ニュータイプちゃんが言うならそれに賭けてみるか」
「えへへ…」
咄嗟の鋭い勘や扱いにくい可変機を乗りこなす才能、それに地球正教会のリーダーであるヨハンナ・ミュラー元少佐との戦闘の際、先読みに近い動きをしていた…それらからアリスはニュータイプと噂されている。
「それじゃ。俺たちはここでおさらばだ」
「はい、また会いましょう」
そう言いハインツを含む転属組がレナウンを降りていった。
少し経ったのち、ペンタのブリーフィングルームにはハルナ、エイレン、そしてエミやアリスを含む714部隊のパイロット達が集まっていた。
「これより、我々714部隊の新任パイロット達を紹介する。入れ」
ブリーフィングルームの扉が開くとパイロットと思しき士官達が入ってきた。しかしそのメンバーの大半は…
(若いな…)
エミの思った通り、大半は20歳前後の新任少尉といった風貌だった。しかし、エミは…いや、この場の全てのパイロットの視線がある一人に集まった。
「…子供?」
アリスは呟く。そう新任パイロットの中には10代後半と思しき中性的な少年が混じっていたのであった。
(…まさか、それはないよね)
エミはその少年にある懸念を感じていた。
「それでは、自己紹介とでも行こうではないか。まずはザハール中尉から…」
ハルナがそう言うと、新任パイロット達が自己紹介を始める。少年はまだか、多くのパイロットがそう思うなか、一人の女性士官へ自己紹介の順番が回ってきた。
「ディアナ・マルセイユ少尉、ズムシティ士官学校卒です。よろしくお願いします」
その紹介に一部のパイロット達は驚く。ズムシティ…それはサイド3の首都バンチであった。そしてサイド3はあの一年戦争を仕掛けたジオン公国の存在した場所だった。つまり旧敵国。旧世紀で言うならドイツ人が英国軍へ、日本人がアメリカ軍へ、それぞれ入隊するような不可解さを持ったのだ。サイド3からの地球連邦軍への入隊者はこれまでもけっして0というわけではなかったが、士官の、そしてパイロットはかなり珍しかった。そう驚いていると、遂に件の少年の自己紹介が始まった。
「リデル・アンデルソン少尉…連邦軍第3訓練基地で訓練を受けました」
エミはその声で彼が何者かを思い出し、つい目を見開く。彼は地球連邦軍から離反し、714部隊などを含む部隊に制圧されたATR部隊で戦わされていた、強化人間だ。強化人間とは、臓器の改造や人工的なニュータイプ素養を付与した人間であり、それらは戦闘に特化した人間と言えた。そしてリデルはエミが鹵獲した機体から助け出したパイロットだった。
「新編成表を発表しよう。まずはレナウンから」
「わかりました。それでは」
エイレンがブリーフィングルームのモニターに表示したものを見て、再びエミは驚き、アリスも驚いた。それはエミの僚機…相棒となるパイロットがリデル・アンデルソン少尉となっていたからだ。また、アリスの僚機はディアナ・マルセイユ少尉であり、これも意外と言えた。その後、他艦の編成表発表を終えるとブリーフィングルームから解散となった。
ペンタの食堂には多くのパイロットが集まっており、その中にはエミとアリスの姿があった。彼女たちは向かい合って食事を取っていた。
「…あの時の強化人間だったんですね…言われてみると、確かに見覚えがあります。あの中性的な顔とか」
アリスはそう言いながら食事を取る。
「なんで…軍はそんな子を再び戦わせようとしてる?そして何故、よりにもよって私達の所に配属としたのかなぁ…」
エミは頭を抱えていた。助け出した少年が再び戦場に立つのは気分がいいものではなかった。そんな2人の所に女性士官がやってきた。
「こんな所に居ましたか!隣座ってもいいですか?」
それはディアナ・マルセイユ少尉だった。そう言いながらもディアナは…
「…マルセイユ少尉は既に隣に座っている…ね」
ディアナは隣に座ってもいいかと聞きながらワクワクとしながらアリスの隣に座ったのだ。アリスはそれに困惑し目をパチパチとしている。
「あはは…あ、気軽にディアナと呼んでいただいても良いですよ!」
「そう…」
「あはは…私もアリスで大丈夫…かな」
アリスは隣で目を輝かせるディアナにそう言う
「っと、ディアナちゃんは何のようかな…?」
「よくぞ聞いてくれました!実は私!アリス中尉のファンなんです!」
「へ…?」
ディアナのその発言にアリスは驚く。
「だから714部隊に配属されたのはすっごく嬉しいです!よろしくお願いします!アリス中尉!」
そう言いディアナはアリスの腕に抱きつく。
「なんで私の…?」
「それは去年、あたしの故郷サイド3を救ってくれたからです!サイコミュで無双したガンダムタイプを撃退した…凄いです!」
そう熱く語るディアナ。しかしアリスとエミはあることを思い出してしまう。
「…そっか、ディアナちゃんはあそこで救われた側の人間なんだ…そういう人が目の前に来てくれて、少し報われた気がするかな」
「…そうだね…(マルセイユ少尉みたいな子が居るのをあの子にも伝えてあげないとだね)」
エミはそう考えながら食事を続けた。
「ありがとう、ディアナちゃん」
「?…こちらこそあのときはありがとうございました!」
レナウンの格納庫ではリデル・アンデルソン少尉が自分の乗機となる機体…”RGM-178N1 ジム・カスタムMk-II”を見つめていた。
「…お姉ちゃんと同じ機体…だ」
「こんな所に居たのね。アンデルソン少尉」
そこに夏野エミ大尉がやってくる。
「お姉ちゃん…」
「…お姉ちゃん…だって?」
エミはその発言に耳を疑うと共に拒否感を感じた。
「うん、あの時助けてくれて…僕の人生を始めさせてくれた…お母さん…とはちょっと違うと思ってて、でもなんか大事な人な気がして…だからお姉ちゃん」
説明下手ながらもリデルはエミにそう言う。
「…そう。それはそうと、聞きたいことが一つあるよ。アンデルソン少尉は何故軍に入隊したの?まさか上層部に無理矢理…」
強化人間は戦闘のために調整された存在だ。そのため軍にとっては都合の良いパイロットでもあった。
「違う、僕は自分の意思で軍に入った…僕の家族はネオ・ジオンのコロニー落としで殺された。それを防ぐために…ATRにはその思いを利用されて、こんな身体になっちゃったけど」
そう言うとリデルは自らの首元を見せる。そこには注射痕が複数あった。
「アンデルソン少尉が…誰かにまた利用されてるってわけじゃないのはわかったよ」
「良かった、お姉ちゃん」
リデルはエミに笑いかける。
「…ここは軍、私は上官、これからは夏野大尉と呼んでくれるかな?」
「わかった…おね…夏野大尉」
リデルは不満げにそう返した。
続く