月軌道にて、集結した地球連邦軍艦隊は演習を開始した。”イーグルフォール作戦”を模した艦隊機動や2つに分かれての連携などを実施した。その後、MS隊同士の模擬戦闘を始める準備が行われている。
「作戦内容を説明する。モビルスーツ隊こと第8任務部隊は敵MS隊、第9任務部隊の妨害をかわしつつ、月面に降下後に地点Aの確保へ向かえ。地点の一時間の確保もしくは敵モビルスーツ隊の7割撃破が勝利条件となる…我々714部隊は82戦隊に参加、月面降下時は占領部隊の護衛を担う」
714部隊司令官の白根ハルナ准将の説明を聞きつつ、エイレン・ユーリ大佐はMS隊に指揮を出す。
「こちらの降下部隊への敵の強襲も考えられるわ。プリーストは先行してロメオと共にそれを排除して。」
「プリースト1了解」
ゼータプラス隊、コードネームプリーストはそれを了解しつつ、ウェイブライダー形態のゼータプラスC1型がカタパルトにセットされていく。
「(敵もおそらく可変機…リゼルかな、気をつけよう)…頑張ろう」
アリスはゼータプラスの中でそう呟く。
「各員の健闘を祈る…MS隊発艦」
「霧島アリス、行きます!」
エイレンとアリスのその言葉と共にアリスの機体とその僚機がカタパルトから射出された。ゼータプラスは他艦より発進した現行量産型可変モビルスーツのリゼルと隊列を組む。数分後、夏野エミ中尉の機体がカタパルトへセットされる。そして秘匿回線をエイレンと繋げる。
「アリス少尉のこと、ありがとう」
「ちょっとしたアドバイスよ…あなたも行きなさい」
「オーケー、夏野エミ出るよ」
「久保ニイナ行きます」
エミと僚機の久保ニイナ少尉の機体がカタパルトから射出された…
第8任務部隊は可変機を先頭に編隊を組み地点Aの確保へ向かう。そして主力が月面降下に入ろうとしたその時…
「ロメオJ1より報告、敵強襲部隊見ゆ。脚の速いやつがいる。交戦に入る…以上」
「了解、プリーストは交戦に入る」
ゼータプラス隊が敵強襲部隊の方向へと進路を変える。そしてリゼル隊と共同で敵を牽制するため、アリス機含めたビーム・スマートガン装備機がその砲口を向けた。
「目標光源捕捉、撃つわよ…!」
他の機体に続きアリスがトリガーボタンを押すと、全天周囲モニター内からビームが発射された”演出”がなされた。 模擬戦闘のため、実際のビームではなくそのような演出で処理されているのだ。そして爆炎も上がるがこれも演出だ。
「敵被害は…さすがに1機のみか。来るぞ!」
敵部隊…のなかでも高速戦闘に特化したディフェンサーユニットを装備したリゼルがその姿がくっきりと見えるくらいには近づいた。しかし…
「なに、この機体…」
アリスはその中に見慣れぬ機体を見つけた。ディフェンサー装備のリゼルと比べシルエットの異なる多少小型…そしてなにより速い。
「焦らずに…」
アリスは機体を変形させビーム・スマートガンを慎重に構え、FCSと予測に基づき冷静に発射したが…その敵機は運動性に優れたMS形態に変形することもなく、バインダーのみを動かして回避した。
「なに、こいつ…!?機種照合…ギャプランだなんて…!」
“ギャプラン”は約10年前に開発された可変モビルアーマーであった。開発コンセプトの中には”弾道軌道”での強襲が含まれるなど、速度に特化している。また腕部に搭載される”ムーバブル・シールド・バインダー”は急激な方向転換を可能にしていた。それは開発初期に”強化人間でなければ耐えられない”とも言われたほどのものだ。
「もう…3機!」
アリスは他のギャプランを捕捉し、そしてまた先と同じようにビーム・スマートガンを放つ。するとうち1機…多少小柄のギャプランに撃墜判定を与えた。
「やった…!」
「よくやった!プリースト6…!」
僚機…ゼータプラス隊隊長機であるプリースト1もそれを褒めてくれた。そして通常装備のプリースト1は敵機を蹴散らさんと突出した。
「やっぱ速いな…ギャプラン!」
プリースト1は大腿部ビーム・カノンとビーム・ライフルでギャプランを撃つが避けられる。そんなプリースト1に1機のギャプランが接近、変形した。よく見るとそのギャプランは先にアリスが撃墜した小柄のギャプランと同じであった。その機体はムーバブル・シールド・バインダーではなくシールド・ブースターと呼ばれる増加ブースターの一種を腕部に装着していた。なるほど、霧島少尉でも撃墜できるわけだ…とプリースト1は思った。そしてそのギャプラン…他のギャプランも含めてモノアイを隠すようなバイザーもしていた。
「珍しい…な!」
そんなことを考えてる間にプリースト1は変形し、横から接近しながらビーム・ライフルを撃つギャプランに向け進路転換し逆に接近した。そして、シールド・ブースターを構える左腕に対して蹴りを叩き込み体勢を崩させた。
「あとは任せた!」
その言葉のあと、別のギャプランからの攻撃を回避するために再度変形した。そして、体勢を崩したギャプランはアリス機の攻撃により撃破された。
「強い…!」
アリスは感嘆しつつ、残りのギャプランに攻撃を加えた。それは避けられるものの、相手にとっては隊の半数が撃破されたため動きに余裕はなかった。そして1機がプリースト1による攻撃に被弾する。
「確かに焦っちゃダメ…だね」
アリスはそう感じながら被弾した相手を追い立てるようにビーム・スマートガンを撃つ。そして追い立てられたギャプランはプリースト1により撃墜された。
「残りは…来る!」
最後のギャプランはアリス機を道連れにせんと急接近する。ビーム・カノンで迎撃するもムーバブル・シールド・バインダーに防がれる。
「冷静…に…!」
逆にギャプランが射撃するが、それを左へ回避する。そして右に来たギャプランをビーム・スマートガンで攻撃。これはギャプランを掠め左腕を破壊した判定を与えた。しかしギャプランは接近して、ムーバブル・シールド・バインダーをぶつけてきた。
「きゃっ!…くぅ…!」
『もらったぁ!!』
接触回線で相手のギャプランのパイロットの声が聞こえた。そしてギャプランはビーム・サーベルを抜く。アリスはこの状況を抜け出す手段を考えるが…
「こちらがな」
プリースト1が接近、ギャプランにタックルを加えて無理矢理アリス機から引き剥がす。そして、密着したままビーム・カノンを放ち右脚を破壊した。ギャプランが上昇し離れたが、それに追随して頭部バルカンを撃つ。
「私だって」
アリス機からビーム・カノンが放たれると、それが背部に突き出た推進器を破損させる。そして再度プリースト1が密着し、サーベルを突き立てようとする。
『ギャプラスを舐めるなぁ!』
接触回線で相手の雄叫びが聞こえる。そしてギャプラン…もといギャプラスと呼ばれた機体のビーム・サーベルを凪ぐも、それはプリースト1のビーム・サーベルに防がれる。そして…
「チェックメイトだ」
プリースト1のビーム・ライフルのロング・ビーム・サーベルがギャプラスに突き立てられ、撃墜判定を与えた。その頃、第8任務部隊の主力は月面降下を終え、他の第9任務部隊の強襲隊は作戦失敗として後退していった…
82戦隊も降下を終え、地点Aを巡り第8任務部隊と第9任務部隊の主力同士が衝突する。そんな中、エミとニイナはスターク・ジェガン1機、ジェガンD型2機と交戦していた。
「スターク・ジェガン、脚の速い…!」
エミはスターク・ジェガンにビーム・ライフルを撃つもそれを避けられる。ニイナもバズーカの弾が切れたようでビーム・ライフルに持ち替えている。ジェガンD型に対して性能で劣るジム・カスタムMk-IIではこの3機の相手は多少骨が折れるようだ。
「エミさん!後ろ!」
「わかってるよ、ありがと!」
エミの後ろからジェガンD型がビーム・ライフルを撃つも、予想していたのかそれをかわしつつビーム・ライフルで反撃する。しかし、それはシールドで防がれてしまう。
「なら…ニイナ少尉、撃ちまくって」
「はーい!」
ニイナが持ち替えたビーム・ライフルをジェガンD型に乱射すると、それを避けるために上昇した。
「…ひとつ!」
上昇したところ、エミ機のビーム・ライフルが直撃。ジェガンD型のうち1機が撃墜された。フォーメーションが崩れ、もう1機も接近したニイナ機によりビーム・サーベルで両断された。最後のスターク・ジェガンに向けてエミがビーム・ライフルを撃つも、それは腕部の増加装甲によって防がれた。そして、スターク・ジェガンがエミ機に向けて接近する。
「来る…!」
スターク・ジェガンは肩部のミサイルを撃つと、その中の散弾がエミ機に振りかかる。またハイパー・バズーカをニイナ機に撃ち、それがシールドを破壊した。
「わっ!」
「下がって、ニイナ少尉」
ニイナ機は後退して、エミ機がスターク・ジェガンに向け突進しビーム・サーベルを抜く。そして両機がビーム・サーベルで鍔迫り合いをする。ジェネレーター出力もほぼ互角のため、互いに一歩も引かずに相対する。そんな中スターク・ジェガンがバルカン・ポッドを撃つ。
「当たるか」
エミがそれを予見していたのかシールドをスターク・ジェガンの胴体にぶつけ弾き飛ばし、バルカンも回避した。スターク・ジェガンはバックパックのテールスタビレーターを用いて機体を立て直すが、エミの動きも早くビーム・サーベルの一閃が左腕の増加装甲を切り裂いた。
「浅い...!」
スターク・ジェガンがエミ機に向けて斜め下からビーム・サーベルで突こうとする。しかしエミはそれをギリギリで避け…
「…ヨシ」
エミ機がガラ空きの胴体へビーム・サーベルを突き立て、スターク・ジェガンを撃墜した。
「やりましたね!エミさん!」
「ニイナ少尉も援護ありがとう」
エミ機がビーム・サーベルをラックに戻し、別の敵機を追い求めていった…
その後、第9任務部隊の戦力が一定数を下回り、第8任務部隊が勝利したこととなった。MS隊が各艦に帰還していき、エミ達もレナウンへと着艦する。レナウン格納庫はパイロットや整備班でごった返していた。
「エミ中尉、やりました!」
「アリス少尉ね…少佐から聞いたよ、おめでとう」
帰還してヘルメットを外したエミのところにアリスがやってきた。
「あのバカみたいな猛特訓とユーリ大佐のアドバイス!アレが活きました!」
余計な前置詞をエミは水に流して微笑む。
「良かった、私も役に立てて」
「はい!!…エミ中尉も5機…しかもジェガンタイプを3機も落として凄いです!」
アリスが感激した表情でエミにより迫る。
「ま、期待した通りの戦果は出せたんかな…シャワー浴びよっか」
「へ…は、はい…」
MSパイロットは密閉されたパイロットスーツを着るためやはり臭いが籠もってしまうのだ。可憐なエミや流麗なアリスであってもそれは避けられないものであった…
続く