演習が終わり地球連邦軍714部隊旗艦”レナウン”のシャワールームは、将兵達により賑わいを見せていた。女性用シャワールームも数少ない将兵が利用しており、その中には夏野エミ中尉も居た。
「ん、ん〜…良かった…」
エミはシャワーを浴びながら隣でシャワーを浴びる同僚の成長を喜んでいた。その頃その同僚は…
(臭い…でもヨミだってケンドウのあとはこんな臭いしてるし…というかエミ中尉も臭う時は臭うのその…あーダメ、こんな考え…)
エミの同僚こと霧島アリス少尉は、成長を喜ぶエミを横にしてその臭いについての不埒な思考に苦悶していた。
(またヨミと会って臭い…いやダメダメ、失礼でしょこんなの…というかエミ中尉、シャワー入るときもちっちゃな身体が可愛かった…ヨミもちっちゃいし姉妹して可愛い…)
「私は先出てるから…髪、大事にしてあげてね」
エミがシャワーの仕切り越しに話しかける。仕切りといってもアリスにとっては太ももから胸が隠れるくらいのものであり、エミとは面と向かって話している。また、エミはアリスの比較的長い髪の心配をしているようだ。
「は、はい…(あとやっぱエミさんイケメン…あとちっちゃい身体だけどお尻はあるわよね…)」
「ふふ、それじゃ」
エミがシャワールームを出て更衣所に入ると、そこはアリス1人となった。
しばらくしてアリスが更衣所に出るとそこにはエイレン大佐が居た。下着姿で体重計に乗っておりその数値に眉を少し顰めている。
「…乗らなくなってから増えるばかりね」
上官、それも大佐で自分の乗艦の艦長のそんな姿を見てしまったアリスは身体を背ける。しかし…
「っと、こんな姿を見せちゃってごめんなさいね」
「はひ…い、いえ…」
エイレンには気づかれていたようでアリスはつい声が裏返る。
「あの、そのごめんなさい…」
「謝ることじゃないわ…身体を拭きましょう?風邪を引くわよ?」
「で、ですね…それでは」
アリスが身体を拭き始め、エイレンが制服に着替え始める。またその制服には略綬が多いのも目にとまった。
「あの、ユーリ大佐」
「どうしたのかしら?」
「良ければですが昔の事…聞いてもいいですか?色々気になります…!」
そのアリスの言葉に対して、エイレンは袖を通すために顔を背けながら少し間を置いてから口を開いた。
「…分かったわ、あとで艦長室に来なさい」
「ありがとうございます!」
アリスはその言葉に歓喜したが、つい喜びのあまりタオルを下へと落としてしまう。また、その姿を忘れ物に気づいたエミにも見られてしまった… 少し時間が経ち艦長室にて、エイレンとアリスは紅茶を飲んでいた。
「それじゃあ、私の昔の事について話すわ…どこからがいいかしら?」
「最初っからお願いします!なんで軍に居たのかとか!一時期日本に居たらしいのも気になります!」
「…そう、わかったわ」
エイレンがカップを降ろして口を開く。
「私は元々シベリアのノヴォシビルスク郊外の貧しい母子家庭に生まれたわ。それでもお母さん…母との毎日は幸せだった」
微笑んだあとエイレンは目を瞑る。
「でも13歳のある日、急に…父が現れたの。そして私にこう言った。”お前は私の娘だ。一緒に来い”ってね…母は元々その男の使用人だったわ。でも私を孕んだことがきっかけで不要とされ捨てられた」
「ひ、酷い…というかなんで大佐を…」
アリスは思わず口を抑える。
「日本にいるある富豪との関係が欲しかったようね。そしてその息子と私を結婚させるために”私”に用があったわけ。母は置いてく…と言ったわ」
「そんなの…」
「当然私は嫌だったけど、逆らえずに日本に行ったわ。そしてその金持ちの息子…私の3つ上の男と婚約させられたわ。でも、そいつがイカれた奴で、会う度に暴力を振るわれたわ」
エイレンの目つきがつい鋭くなり、アリスもその意味を理解した。
「サイテーです!なんで…!」
「人の三大欲求…としか言いようがないわね。それが奴のは特大だった。父もそれを黙認していたわ…当時の私に警察を頼ろうという気持ちはなかったわ。知らない土地で怖かったもの…そんなのが続いてたけど、希望が見えたわ。ある日中学2年の時に出会った少女に一目惚れしたの」
アリスはつい自分の夏野ヨミへの感情と重なるのを感じた。
「その子が見れるなら生きていける…そうして警察に行った。あいつらは纏めて逮捕されたわ」
「良かった…」
「あのあと母の元には帰らず、その少女…草加ミクと一緒に居たいといったわ…相手の負担も考えずに気楽な子供だったわ、私は」
「草加ミク…あ…」
エイレンがつい苦笑したあと紅茶を啜った。またアリスもミクの名は知っていたようだ。
「そして草加家に受け入れられた私はミクとの毎日を楽しんでたわ…そして草加家は軍人の家系だったから、ミクもいずれ軍に入る…それを守るため、私は軍に入ったの…ミクが全ての原動力と言えたわ…そして一年戦争が開戦したわ。その時はまだ18歳で士官学校卒業と同時に空軍のパイロットとして前線に出たわ。当時はパイロットが不足していたからね」
「いきなりですね…」
アリスは一年戦争は悲惨でコロニー落としにより地上軍も大きな被害を出していたのを思い出す。
「7月からはMSパイロット転換訓練を受けたわ。当時はザニーっていうザク擬きを使って訓練していたの」
「聞いたことのない機種です…」
「その後は地上軍のパイロットをしたあと、星一号作戦のために宇宙に上がって…という過程で私はなんだかんだ20機は撃墜したというわけよ」
エイレンは少し誇らしげに言う。また彼女は認められていないだけで30機近く撃墜したとも言われている。地球連邦軍のエースパイロットでは認められていない撃墜数があるとされるのはよくあると聞く。
「一年戦争後はしばらく残党狩りをしていたけど、グリプス戦役の中期には所属部隊がティターンズに編入されたの。ギャプランが支給されるなど、その待遇は良かった。それに軍人になったミクとも同じ部隊になったの…当時は浮かれてたわね」
エイレンがギャプランに乗っていてそれを相手にしたらと考え、アリスはぞっとしてしまう。今日の模擬戦相手でさえ苦戦したというのにだ。
「でも、ダカール演説とコロニーレーザーによる虐殺で部隊ごと離反することにしたの。でも所属していたティターンズ艦隊の本隊からは追撃されたわ。そして…」
エイレンが苦虫を噛み潰したような表情となる。そしてその戦闘の顛末についてはアリスも聞いたことがあった。
「それで草加少佐が亡くなられたと…」
「悔しかったわ、守れなかった…ミク中尉は敵のバーザムと相打ちで戦死したの…その後追撃を振り切りサイド2のエゥーゴ勢力圏にたどり着いたわ」
エイレンにとってはミクが戦死したのは内心認められないのか、2階級特進前の階級でつい呼んでいた。
「そのあとは正規軍に戻されしばらくはパイロットを続けた。でも4年前に中佐昇進とともに降りたわ…そして2年前にレナウン艦長となった…以上よ」
話を終えたエイレンが紅茶を啜る。
「辛いことが…私の知らないことも色々あったんですね。それでも軍隊に居続けるのは…」
「これしか生き方を知らないから…かしらね。もしかしたらもっと良い生き方もあったかもしれないとはたまに思うわ。でもこうしてエミや貴方のような優秀なパイロットは放ってはおけないわね」
「…ありがとうございます。ユーリ大佐のその気持ち、大切にします」
「私こそありがとう…それじゃ、辛い話ばかりだったし紅茶を楽しみましょう」
「…はい!」
そんななか、来客を告げるインターホンのブザーが鳴り響く。
「来たかしら…」
エイレンが扉を開けるとそこにはエミが立っていた。
「あら、エミじゃない?どうしたの?」
「アリス少尉が見つからなくて。居るならここに居そうだなって…居たね」
エミが艦長室に入りアリスに近づく。そしてそのエミの香りに…
(いい匂い…爽やか…)
アリスはつい興奮していた。
「紅茶…ね。私も混ぜてくれるかな?」
「良いわよ。それじゃ、3人で楽しみましょうかしら」
そして3人でのゆっくりとした時間が過ぎた…
続く