時に宇宙世紀0098年12月30日、地球連邦軍714部隊は訓練を終え母艦の格納庫にモビルスーツが帰還してきていた。
「ふ〜、疲れたぁ〜」
霧島アリス少尉はゼータプラスC1型から降りてヘルメットを外すと、そのブロンドの髪からは汗が舞った。彼女はその髪の一束を掴んで顔に近づける。
「うぅ…やっぱMS乗ったあとはどうしても…」
「綺麗ね、その髪」
そう言って近づいてきたのは夏野エミ中尉であった。
「い、いえ…それほどでも…」
そういうものの、アリスは髪のケアを大切にしているためその艶などは魅惑的だった。そして訓練後であっても…
「それにいい匂いが…」
「わぁー!?ダメです!エミ中尉!」
顔を近づけ匂いを嗅ぐ。アリスはそれに驚きつい後退りしてしまう。
「大丈夫?」
「じゃないです!」
エミは不思議そうに顔を近づける。その少年っぽさもある顔は可愛らしい。
「汗の匂いもするけど、それでもアリス少尉は素敵な香りがするんだけどなぁ…」
「い、言わなくていいです!…うぅ…」
2人の会話はほかのパイロットや整備班からも見られており、それに気づいたアリスはより恥ずかしがる。
「ま、とりあえずシャワー行こっか」
「は…はい…」
エミとアリスはシャワールームに向かっていた。通路では2人きりであり、アリスはついエミを意識してしまう。
(匂い…エミ中尉のもその…良い匂いだなぁ…)
アリスはどうやらエミの匂いを意識しているらしい。MSパイロットとして生きてきたエミはケアなどにはあまり気を使えていないため、エミの匂いはアリスのものよりも刺激的だ。しかし、アリスは尊敬する可愛らしい上官のためかそれすら良いものと思ってしまっている。
(ヨミもこんな香りしてたよね…)
また、エミの妹の夏野ヨミに一目惚れした時、ヨミも剣道の稽古後で汗をかいていたのを思い出す。その可愛らしい顔とのギャップにもアリスは惚れてしまっていた。長い間剣道や軍人として生きたエミは臭いに対しての感覚が麻痺しているが、アリスもアリスで恋心に感覚が狂わされていた。そして、姉妹だからかエミとヨミの匂いは似ており、アリスがついエミの後頭部に顔を近づける。その白髪からは激しい汗の臭いと微かな甘い香りがして、アリスはついそれに触ってしまう。
「ん?どうしたの?」
「…あ、いえ何も!」
「ふふ、面白い子ね」
アリスは顔を赤くしながら慌てるのをエミは微笑んで見つめていた。
「昔…剣道してた頃、まだちっちゃなヨミに”くちゃい”って言われたのを思い出したよ」
そう言いながらエミはアリスに顔を近づけた。
「でも貴方は違うみたいね…気に入った」
そしてエミは更衣室の前に着くと、半ば強引にアリスをその室内に入れたあと自分も中にはいる。
「私達、付き合ってみない?相性も良いと思うし…きっとヨミも喜ぶね」
「へ…」
アリスはその言葉に間抜けな声を出す。尊敬する上官からまさかのプロポーズを受けたのだ。確かにエミの事をアリスは好きだが、それはあくまで”頼れるお姉さんでヨミの姉”と言ったような感覚であり恋心ではない。
「そ、その!」
「きっと良い関係に…」
そんな中更衣室の扉がまた開く。
「シャワー、シャワー!…ってどうしました?」
入ってきたのはMSパイロットの久保ニイナ少尉であった。そして彼女は不思議そうに2人を見つめる。
「…どこから聞いてた?」
エミは不機嫌そうにニイナを睨見つける。その目は鋭く凍りつきそうなものとアリスは感じた。しかしニイナはそれを気にしていないようだった。
「え?んーと、扉があってよく聞こえませんでしたよ〜」
「ならいいよ…あとで私の部屋に来てくれる?」
「は、はい…」
「ん?…まぁスッキリしましょうか〜」
そうして3人はシャワーを浴びた…
アリスは言われた通りにエミの部屋に向かうことにした。エミからの付き合いの提案にアリスは迷っていた。確かにエミのことは悪く思ってないうえ、大事にしてくれそうという感覚もする。また、付き合ってエミの過去を慰めてあげたいという気持ちもある。でも、アリスはヨミに一目惚れしてしまっていて、いつもヨミの事が頭から離れないでいる。そう悶々としながらエミの部屋の前に着きインターホンを押し、エミが遠隔で扉を開ける。中は灯りが常夜灯のような状態で暗かった。扉が自動で閉まるとともにエミの姿が目に入る。
「え?あ、ふぇ…?」
その姿は制服の前を開け黒いインナーが露出している。
「驚いた?好きにしていいよ?」
「あ、あの…私…」
慌てふためくアリスをエミは優しく甘い声色で話しかける。
「心の準備かな?でも大丈夫、アリス少尉なら…」
「実はヨミが好きなんです…!!…あっ、まっ…」
アリスはつい本心を言ってしまった。エミはアリスとの夜を楽しみにしていたのかもしれない。これはあとでシメられる…そうアリスが感じた。
「え?…うーん、そうねぇ…」
しかし、エミは一瞬驚くも落ち着いて顎に手を当てる。
「ほえ…あの…夏野…中尉…?」
アリスはつい苗字でエミを呼んでしまう。
「いや、よく私を見つめてぽやんとしたり、今日も髪を嗅いだりしたし…私の事好きなんかなって思ってたけど、違うのね…ごめんなさいね」
エミが制服をぴしっと着直しながら頭を下げる。
「い、いえ!好意を無駄にしてしまった私も…!」
「いや私は大丈夫だよ、アリス少尉の思いに応えないとかなぁ…と勘違いしただけだから」
エミは微笑んでアリスを見つめる。
「にしてもヨミが好きだなんて…歳が近いとはいえ意外ねぇ…」
「あ、はい…その…かわいいし…」
エミが部屋の灯りを通常に戻す。そしてその顔は楽しげであった。
「ふーん、どこが好きとか…具体的には?教えて教えて?」
「えっと…柔らかな明るい目つきとか…お姉ちゃん大好きーってかわいいとこ…とか…です…」
「ふむふむ…もっとあるかな?」
エミは頬に手のひらを当てながら聞いてくれる。
「あと…ケンドーの時の格好が…その…」
「かっこよかったとか?」
「いやコーフンしちゃって…臭いも…あ、ご、ごめんなさい許してください!」
ついアリスはふしだらな考えまで吐露してしまい、エミからの制裁を恐れる。
「へぇ~〜、やっぱアリス少尉は臭いフェチ…っと」
「わぁー!違いま…いやそうかも…!?」
エミはニヤニヤしながらそれを確認する。アリスはそれを手をブンブンとして否定しようとしたが、実際はそうであることに今更気づいた。
「ごめんなさい…正直エミさんのMS乗ったあとの臭いもその…」
「ふふ、かわいい子だね」
「うわっ!」
そう言いエミがアリスの頭を抱きしめる。
「…まぁ…貴方ならヨミと付き合ってもいいかな…」
エミはそう優しくアリスに囁いてくれた。実質の”娘を僕にください”が成功したようなものだ。喜びのあまりアリスは泣いてしまう。
「んっ…うぅ…ありがとう…ございます…」
「泣かないの…ふふ、大丈夫、きっとヨミも受け入れてくれるよ」
エミの腕のなかでアリスは喜び泣いた…後日、エミとアリスは2人で夜をお楽しみになったと噂になっていた。
翌日、714部隊は大晦日の日に休暇に入った。エミとアリスは2人して地球へ降り佐野へ向かった。
「ヨミ、また道場に居るから匂いを楽しめるね」
「ちょっ、言わないでくださいよ!」
エミが悪戯気に笑うとアリスはつい照れる。
「はは、かわいい…」
「…エ、エミさんだって少年みたいでかわいいです」
「へぇ~、昨日それを言われたら私は貴方に惚れちゃったかもなぁ…なんてね。着いたよ」
話しているうちに2人は道場の前に着いた。
「久々のヨミ…!」
道場に入ると防具を着けた男女が稽古に励んでいた。そして、その中に白い長髪を纏めた少女が居た。ヨミである。自らの背丈より二回り大きな少年を相手に試合形式の稽古をしていた。
「…不利ね、ヨミ」
「ですね…エミ中尉」
ヨミは果敢に立ち向かうも馬力の差に押されていた。そしてヨミのあげる雄叫びも余裕のなさを感じるものだった。
「まずいなぁ…ヨミじゃああの相手はキツイ」
「…ヨミが勝ちます」
アリスが落ち着いて口を開く。
「ふぅん?それは?」
「勘…です」
「はは…でもヨミを信じてあげないとだね、私も」
ヨミはその後も押されて一本取られてしまう。次一本取られてしまえばヨミの負けとなる。
「頑張って…!」
アリスのその思いが届いたのか、奇跡的とも言える一本をヨミが取った。
「やった!ヨミがやりましたね…!」
「ふふ、貴方のおかげかもね。ありが…」
エミの言葉を遮るようにアリスがその口を塞ぐ。
「まだまだ。追いついたばかりですしその言葉は取っといてください」
「…言うようになったね」
相手の少年も焦ったのか、動きに冷静さを欠いてきた。そして、ヨミが一本取り勝った。
「やった!ヨミが勝った…!」
「ええ…ありがとう、アリス」
稽古が終わりヨミが面を外す。
「Cool…Pretty…最高、ヨミ…」
「ホントかわいいよね…私の妹とは思えないくらいに…」
「はは、エミ中尉だって美人じゃないですか」
「ありがと、アリス」
話してる2人にヨミが気づき顔を上げる。そしてニッと笑う。
「かわいい…」
「そうね…」
2人が下に降りると、ヨミがそれを出迎えエミに抱きつく。
「おねーちゃん!」
「ふふ、ただいま。ヨミ」
「おかえり!」
冬ではあるが稽古後のヨミはかなり汗をかいており、その臭いはエミの隣に立つアリスも感じた。
「いい…」
「ふふーん、おねーちゃん…なにがですー?」
「あ、いや…その…ヨミの笑顔…かな…あはは」
ヨミの疑問にアリスは誤魔化すも、ヨミの臭いに惹かれてアリスはより近づいていた。またエミはキョドるアリスを見て微かに笑っていた。
「アリスさんも美人だなぁ…」
「え?あ、その…ありがとう…」
アリスは照れまくっていたが、ある決心をする
「ヨシ…!」
「何かありました?」
「うん…まぁ、ね」
そのあとヨミはエミと休暇までの間に何があったかを話していた。そして…
「それじゃ、着替えてくるね」
「…待って」
着替えに行こうとしたヨミをアリスは引き留める。
「その、話したいことが…あるの、い、いいかな…?」
「は~い。○○ちゃん少し待っててね〜」
アリスとヨミは道場の裏に回った。
(急過ぎない私!?まだ2回しか会ってない女性から言われてもヨミ困らない!?…でもここまで来ちゃった以上はやるしか…!)
「あの…ヨミ」
「なんですか〜」
アリスはもじもじとしているがヨミは呑気そうな声で返す。
「えっと…」
「んー?」
(ダメダメ、やっぱ無理…あとこの匂い好き…)
アリスは悶々としながらもヨミの臭いを意識していた。そして…
「あの!!私と付き合ってください…!」
「…んぇ…?」
アリスは勇気を振り絞り伝え、ヨミは呑気な表情のまま固まる。
「明るくてふわんとしたところとか、エミ中尉に甘えてるところとか、ケンドーでかっこいいとことか…」
「…」
アリスは赤面して目を瞑りながらヨミに対しての愛情を語る。
「…ダメ…かな…??」
「…」
アリスが目を開くとヨミは少し難しそうな表情をしていた。そして口を開く。
「…お姉ちゃんがさっき、信頼してる同僚…って言ってくれてたし…良いですよ。アリスさん」
「…ありがとう!」
ヨミは優しい声色で答えアリスがヨミに抱きつく。
「わぷっ…これからよろしくお願いしますね。アリスさん」
ヨミは甘く、それでいて凛とした声でアリスを抱きしめ返す。
「うん…あと落ち着くー…」
「へ?なにが…」
「匂い」
抱き着いたアリスはさっきまでの緊張から解かれ、ヨミの臭いを満喫していた。
「え?えぇー!?」
「その…そこも好きかなぁ…って」
アリスがつい本音を言うと、ヨミが抱きしめた手を離し、ポコポコとアリスをやさしく殴る。
「変態ですー!」
「ヘンタイ…受け入れるしかないわね…」
「うわぁー!!?」
こうしてアリスとヨミの付き合いが始まった…
家に帰った夏野姉妹に対してアリスはそれに付いていく。今回は着替えも用意しており泊まることにしていた。
「アリスさん、今回は泊まるんだね…えへへ。恋人さんと初のお泊り…」
「恋人…あはは…というか気軽に呼んで大丈夫かな」
「はーい、アリスちゃん」
家についた3人は仏壇に線香をあげる。
(ヨミのお父さんお母さん…ヨミと一緒に幸せになってみせます…!)
そのあとヨミとアリスは2人でゲームをしたり、エミが作ってくれたご飯を満喫した…そして…
「そろそろ年明け…」
「だね…アリスちゃん、おねーちゃん」
「大晦日に休みが取れて良かったよ。今回は…」
年明けを迎えた。最初に口を開いたのはエミだった。
「あけましておめでとう、ヨミ、アリス少尉」
「うん!よろしく!おねーちゃん!…アリスちゃん!」
「よろしく、ヨミ…よろしくお願いします、エミ中尉」
3人の新年、UC0099年が始まった…
朝を迎えた3人はヨミが用意していたおせち料理を食べた。その後…
「初めて着ました…重いし苦しい…」
「あはは、アリスちゃんもっと明るく行こう!」
「元々お母さんのだから身長は大差ないはずだけどね…やっぱ初めてだからかな?」
3人は着物を着ていた。アリスは白い着物を身に纏っているが、初めてゆえに窮屈なところがあるらしい…特に大きな胸がだ。
「ま、そのうち慣れるよ…行こう、ヨミ、アリス少尉」
「はーい!」
「はい…うぅ…」
3人はまずは初詣に行った。そして各々願い事をした。
(今年も部隊が生き残れますように)
(大会でいい成績が残せるようにお願いします)
(ヨミと幸せになる…!)
願い事を終えた3人はエミ、ヨミ、アリスの順で手を繋いで神社をあとにした…
続く