UC0099年1月、強襲揚陸艦”レナウン”艦長のエイレン・ユーリ大佐は艦長室内の整理をしていた。エイレンは2年前に36歳にして大佐になるエリートではあったものの、片付けは苦手という弱点を抱えていた。
「また散らかしちゃってるね」
そう言うのはモビルスーツパイロットの夏野エミ中尉で、個人的な交友から手伝いに来てくれている。
「仕方ないじゃない、書類が多いわ…」
「だからってさぁ、これじゃまた白根司令に怒られますよ」
714部隊司令官の白根ハルナ准将からは、度々”書類を片付けろ”と言われてしまっているのだった。
「ま、まぁまぁそれでも元よりはマシになってきてますし…」
エミにより片付けを手伝わされている霧島アリス少尉はそう返す。
「それもそうかな…」
「というか私はパイロットをまだやっていたかったのに、なんで艦長になっちゃったんだろう…失敗だわ」
「また始まったよ、パイロットやっていたかった…が」
エイレンは元エースパイロットであり、今もたまに予備機を使って訓練に参加するなど、パイロットを諦めていないように思える節があった。
「でもお母さんにいい生活をさせるにはお金が必要…中佐の給料には抗えなかったのよ…はぁ…」
「お母様思いなのはいいことですよ、ユーリ大佐!」
落胆するエイレンをアリスがフォローする。エイレンはふと写真を見つめた。
「…いやパイロットもパイロットで大変だったけど…書類の山よりは…はぁ…」
「いいから進めよ?」
「はは…」
2人の部下に支えられながらエイレンは片付けを進めていく。
「昔…なぁ…(エイレンと会ってからもう15年くらい…か)」
(この子とも出会ってから結構経つわね…)
そんな中、エミとエイレンは過去へと想いを馳せていた…
UC0082年8月、夏野エミは両親と妹と共に東南アジアへ旅行に来ていた。9歳と若いエミには普段とは違うその風土に冒険心をくすぐられた。
「お母さん!あのぬいぐるみ欲しい…!」
エミは母の夏野サユリの服の裾を引っ張る
「ふふ、いいわよ。折角だからヨミの分も買ってあげなさい」
「あぅ…?」
サユリが抱える赤ん坊、夏野ヨミは不思議そうにサユリを見つめていた。
「はーい!」
「はは、エミは元気だな」
父の夏野マサユキがエミを見つめ、そのエミはお土産屋へと駆けていく。そんな楽しい旅行が続くと思われていた…
それは突如として起こった。爆発音とも言える轟音が辺りに響き渡り、数秒後エミの向かっていたお土産屋が吹き飛ばされる。
「うわっ!…なにっ!?これ…」
エミは状況が飲み込めずにいた。それはサユリもそうだったが、マサユキだけは違った。マサユキは軍人であり事態を即座に把握できたのだ。
「皆伏せて!…エミも!」
「う、うん…!」
さらに辺りには爆発音が響き渡る。そして、その先に居たのは…
「ザク!残党…!」
“ザクII”、ジオン公国軍が運用した巨大人型兵器”モビルスーツ”であった。そしてそのジオン公国は一年戦争と呼ばれる戦争にて敗北したものの、それを認められない残党軍が各地に点在しているのだ。
「お母さん!お父さん!」
「エミ!伏せながらこっちに来てくれ!」
マサユキは混乱する家族に指示を出していく。
「大丈夫、大丈夫よ…ヨミ」
ヨミはこの状況に泣き喚くことしかできずにいた。赤ん坊にとって爆音と破壊音が響き渡るのは地獄であり仕方のないことだった。
「助けて!!やだ!!」
「マサユキさん…!」
エミやサユリにとってもこんな状況は地獄であった。楽しい旅行から一変したここから生き残りたい思いでいっぱいだった。
「大丈夫!伏せてればそう当たらない!」
マサユキは家族達を落ち着かせまいとするなか、1人双眼鏡を取り出してザクIIの様子を観察し始めた。ザクIIはしばらくマシンガンを乱射していたが、それが止みエミ達のいる方向…北側へと前進し始めた。
「よし!こっちに走ろう!」
マサユキの指示のもと、エミ達は西側へと走り始めた。ザクIIが再度マシンガンを乱射し始めるが、それはエミ達とは遠い位置へと着弾していく。
「はぁ…は、ぁ…お父さん!ありがとう…!」
この状況を切り抜けられたと思ったエミは走りながら父に感謝を伝えるが…
「おっと、そこの連中止まりな」
「がっ!」
発砲音が辺りに響き渡るとともに、マサユキの肩を弾丸が貫く。
「え?お父…さん…?」
「マサユキさん!」
そしてエミ達の前にはジオン公国軍の制服を着た男達が立っていた。
「テメーら、俺達と来てもらおうか」
さらにマサユキの膝を打ち抜き、残党軍にとって唯一抵抗できそうと思えたマサユキが行動不能にされる。
「くっ!サユリ!逃げろ!」
「でも…!」
「逃がすかよ!」
サユリを残党兵を拘束しようとするが…
「こ、の!」
サユリは近くの棒を持つと残党兵にそれを叩きつけ、逆に返り討ちにした。サユリは剣道の有段者であったのだ。しかし…
「このアマぁ!」
別の残党兵がサユリに向けてアサルトライフルを連射、それがサユリの脛を撃ち抜いた。
「うっ!あぁぁ!!」
「ざまぁみろ!クソが!」
サユリは初めての銃による痛みに悶えるしかなかった。
「お母さん!…っ!?」
エミは背後から近づいてきた残党兵により、銃床を後頭部に叩きつけられ気絶した。連れ去られたエミ達は残党軍の根拠地にて、壮絶な3日間を過ごす事となった…
地球連邦軍東南アジア方面軍は先日のジオン残党軍による市街地襲撃を受けて、その根拠地掃討作戦を開始しようとしていた。その作戦には宇宙軍からも強襲揚陸艦1隻が参加することとなっていた。
「まさか市街地で無意味な殺戮をするとは…彼らも堕ちたものだ」
強襲揚陸艦”タイコンデロガ”所属のモビルスーツパイロット、白根ハルナ少佐は艦から見下ろした街の惨状を見てそう漏らす。タイコンデロガはミノフスキークラフトと呼ばれる大気圏内での浮遊機構を備えた高性能艦艇であった。
「一年戦争時の彼らはここまで酷くはなかったと思いたいですね」
同じくタイコンデロガ所属のエイレン・ユーリ中尉が答える。
「いや、従わないコロニーを虐殺してた連中だ。だからこういう事も厭わなかったのか…っと、エイレンは戦争初期は…」
ジオン公国は従わない各サイドのコロニーの破壊を行なったことをハルナは思い出す。
「まだ士官学校でしたし、その後も空軍だったので…」
「そうだったな、すまない…そろそろブリーフィングだな、いくぞ」
「はい、ハルナ少佐」
地球連邦軍は偵察によって判明した残党軍根拠地の掃討作戦を開始した。タイコンデロガのカタパルトからは勢いよくモビルスーツが射出される。その中にハルナとエイレンの機体も含まれていたが、その機体は他の汎用艦載機である”RGM-79G ジム・コマンド”や、支援用艦載機の”RX-77D 量産型ガンキャノン”ではなかった。その白い機体は”RGM-79N ジム・カスタム”、地球連邦軍の誇る最新鋭汎用量産型モビルスーツだった。着地すると、その勢いを活かしてジャンプ、先に発進したジム・コマンドを追い抜いていく。
「…やっぱり動きが軽い」
「そりゃそうだ、マグネット・コーティングもあるんだからな」
ジム・カスタムは主力汎用量産型モビルスーツの”RGM-79C ジム改”を基に、最新鋭技術を結集して作られた高性能機だ。関節の動きを滑らかにするマグネット・コーティング以外にも、新型のジェネレーターに狙撃機並のセンサーと充実した性能を誇る。
「ヨシ、あのザクを叩くぞ」
「はい!」
エイレンがジム・カスタムの手に持つジム・ライフルを発射、それはザクIIを容易に貫き爆発させた。
「新型ライフルも十分…!」
エイレンはその勢いのまま突出していく。そして目の前には”MS-09G ドワッジ”と呼ばれる熱帯仕様のMSが現れる。これは熱核ホバーという機構を搭載しており、その滑るような高速移動は非常に厄介と言えた。しかし…
「速い…けど!」
エイレンは一気に近づきビーム・サーベルを抜く。ドワッジもヒート・サーベルを抜く。そして…
「はあぁぁ!!」
エイレンが素早く一閃、ドワッジより遥かに素早くしなやかな動きでドワッジを両断した。ドワッジはサーベルを振るう暇もなく爆散した。
「突出し過ぎるな、エイレン」
「すみません!」
「わかればいい…来るぞ!」
ビームの弾幕がエイレンに襲い来る。それをシールドで防ぐが表面には大きな跡がついた。
「ビーム兵器!ゲルググ!」
ビームの来た方向をエイレンがセンサーでズームすると、そこにはビーム・マシンガンを構えた”MS-14JG ゲルググ・イェーガー”を視認した。
「やはり…!」
エイレンはジム・ライフルを向けるも即座にゲルググ・イェーガーは回避機動を取り始める。そしてまたビームの弾幕がエイレン機へと襲い来る。
「また!?…2機以上!?」
「厄介だな!」
2機目のゲルググ・イェーガーがビーム・マシンガンを連射しながらエイレンとハルナに接近する。エイレン機はそれを回避し、ハルナ機が逆にジム・ライフルでゲルググ・イェーガーを牽制する。ゲルググ・イェーガーは持てる大推力でそれを回避する。
「もらったな!それくらい読める…!」
ハルナはジャンプしたゲルググ・イェーガーへジム・ライフルを連射、大推力ゆえに動きを読まれたゲルググ・イェーガーにほぼ全弾着撃した。ゲルググ・イェーガーは墜落し爆散した。
「あとは私が!」
エイレン機はゲルググ・イェーガーからのビーム弾幕をするりと細やかな動きで回避、ビーム・サーベルを抜き振るった。ゲルググ・イェーガーは左腕を失うもビーム・マシンガンを連射、それはエイレン機のシールド上半分を破壊する。
「これ、くらい…!」
エイレンはシールドの下半分を構えながらゲルググ・イェーガーに突進、シールドを振るってビーム・マシンガンをはじき飛ばした。ゲルググ・イェーガーはビーム・サーベルを抜き振りかぶるが…
「遅い!」
マグネット・コーティングを施されたジム・カスタムの方が動きが速く、ゲルググ・イェーガーの腕をビーム・サーベルで切り裂く。
「もらった!」
エイレンはビーム・サーベルでゲルググ・イェーガーの胸部へビーム・サーベルを突き立てた。そして、ゲルググ・イェーガーは爆散した…
この地域のジオン残党軍基地は地球連邦軍により制圧された。しかし、その基地の中にある惨状を見て連邦軍将兵は戦慄した。3日前の襲撃により行方不明になっていた一家が監禁されていたのだ。夫婦は死亡、その子供達も衰弱していた…夫はその上半身を何かにより爆砕されており、また妻と長女はその身体を穢されていた。赤ん坊である次女も暴行を受けていた…
「酷い…酷い、こんなの」
「まさかストレス発散に使ってたとはな、気色悪い奴らめ」
エイレンはこの惨状を見て狼狽してしまう。そんななか、生き残った少女…夏野エミと目が合う。その目は暗く澱んでいるものだった。
「…っ!」
「っと、エイレン?」
エイレンはそんなエミの元へと走る。
「よく耐えたよ、偉い、頑張った!」
エイレンは過去の自分とエミが重なったようであった。エイレンはエミを抱きその頭を撫でる。
「…お母さん…お父さん」
「っ…辛かったね、ごめんなさい、遅くなって…!」
エイレンにとっては両親の死という感覚は分からなく、特に父親については憎んですらいた。だが、この少女を慰めてあげたかった。
「…助けて…くれて…ありがとう」
エミがぼそっと小さな声で呟く。
「…どういたしまして」
エイレンがエミをぎゅっと抱きしめながらその頭を強く撫でた…
続く