名探偵プリキュア これが私のアンサーです   作:ゾッピー

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名探偵プリキュア第1話をベースに執筆してます。オリジナルの設定も盛り込まれることがあるかもしれませんが、それでも大丈夫な方はどうぞ。


第1話 時を超えた少女

 2027年1月24日。今日の天気は快晴、雪解けの道を母と歩く少女の心はいつにも増して晴れやかな気分だった。それは良い天気によるものもあるが、一番の理由は今日が自分の14歳の誕生日だからというのもあるだろう。少女の名前は明智あんな、マコトミライタウンに住む中学2年生だ。

 

「あの子のリボンが風で飛ばされたってよく分かったね。」

「リボンが片方だけだったからピンと来たんだ。」

 

 家に着いた後、母と誕生日ケーキを買って帰る道中で助けた女の子の話をした。困っている人を見過ごせないのは自分の性分ではあるものの、助けた結果笑顔が見られればやはり気持ちの良いものだ。さて、今日の13時からの誕生日パーティーを良いものにするためにも張り切っていかなければ。

 

「今日は特別な日にするんだ。コート置いてくる!」

 

 母にそう言うとあんなは急ぎ足で自分の部屋に向かった。自分の部屋に入るなり、早速自分のコートを畳んでいると、あんなは机の上に見慣れないものが置かれていることに気づく。

 

「あれ?」

 

 不思議に思い手に取ってみると、それは白のメインカラーでとてもきれいな懐中時計のようなペンダントだった。元々はスマホが誕生日プレゼントの予定だったが、それとは別に母からのサプライズプレゼントだろうか。

 

 うーん、もし違うならわざわざ私の机の上に置かないだろうし……。置いてあるってことは私にくれるってことでいいんだよね。そうだよね……うん、きっとそう‼

 

 そう自分の中で結論付けたあんなはこのサプライズに嬉しくなり、大きな声で母にお礼を言った。

 

「おかーさーん‼ ありがとー‼」

「え?何が?」

「誕生日のプレゼントだよー‼」

「何言ってんだか、プレゼントはスマホを買ってあげるって話でしょ。」

 

 母の言葉を軽く聞き流すと、あんなは試しに紐がついていたので首から下げてみることにした。その後、全身鏡の前に立ち、色々とポーズをとって自分の姿を観察してみる。すると、ちゃんと似合っている上に、心なしか普段よりも大人びて見え自分が成長したように感じた。これは中々良い。

 

「流石14歳。大人の雰囲気だね。」

 

 ポチィ……。

 

「ん?」

 

 突然、聞き慣れない音が自分の部屋から聞こえてきた。一体何の音だろうか。少なくとも、部屋の外にいる母のものではない。生まれて初めて聞いた謎の音、この音は一体何なのか。疑問に思ったところで、後方のクローゼットが勢いよく開かれる。

 

パカ‼

 

「ポッチー‼」

「ええっ⁉」

 

 後方で音がしたと思い全身で振り返れば、クローゼットの中からピンクの熊のぬいぐるみのような物が勢いよく飛び出てきたではないか。飛び出てきたそれは自分の胸元にぶつかると、そのままべたりとくっついてしまう。

 

「え⁉ なに⁉ 何の生き物⁉」

「ポチタンだポチ。」

「し、しゃべ⁉」

「静かにするポチ。」

「むぐっ⁉」

 

 謎の生き物が人語を話したことに驚くあんな。少女が思わず叫び出しそうになったところで、ポチタンと名乗った生き物は、口を塞ぐために今度はあんなの胸から顔に張り付いてしまう。しかし、張り付く力が強かったのか苦しくなった明智は抵抗し、強引に両手でポチタンを顔から引き剥がした。

 

「ぷはっ。」

 

 ここまでのやりとりで僅か十数秒。予想外の連続に、明智の脳の処理が追い付かない。一旦落ち着いて状況を整理させてほしいというのに、ポチタンは明智の手から離れ浮遊するとさらに話を続ける。

 

「一緒に来てほしいポチ。」

「へ?」

「このペンダントで。」

「このペンダント? 」

 

 ペンダントと聞いて思わず、あんなは自分の首に下げたペンダントを右手で紐を持って揺らして見てみた。すると。

 

パカッ‼ピカッ‼

 

「ま、まぶし⁉」

 

 突然、ペンダントが開いて光を放つ。すると、中の分針が逆に回り始め、それに連動するように時針も分針と同じ方向に回り回転はどんどん加速していく。

 

「まだ説明が終わって無いポチ⁉」

 

 これにはポチタンも予想外だったようで、ペンダントが起動したことに動揺を隠せずにいた。しかし、もう遅い。一度回り出した回転は誰にも止めることは出来ない。そして、あんなとポチタンはその場から光と共に姿を消してしまうのだった。と、そこで。

 

「あんな、何騒いで……あれ?いない?」

 

 部屋が騒がしいと思って不審に思った母が娘の部屋へ入ってくる。しかし、そこには誰もおらず、ついさっきまで騒がしかったのが嘘のようにその場に静寂だけが残った。

 

「あんな?」

 

 不審に思った母が娘の姿を家中探して回るも、娘の姿が見つかることはない。その日から、明智あんなは行方不明となった。

 

 

 

 

1999年4月2日、天気は快晴。

 

「キュアット探偵事務所……ついにこの日が来た。絶対、テストに受かる‼」

 

 とある事務所の前で、ビシッと左手を=腰にあて右手で帽子のツバをつかんでポーズを決めた一人の少女がいた。少女の名前は小林みくる。まことみらい学園に通う中学2年生で、名探偵になることを夢見て今日この場にやってきたのだ。この事務所の探偵テストに受かることが出来れば自分の夢に一歩近づく。だが、向いていないと言われた自分が本当に合格できるだろうか。そう思うと、緊張して不安で手も震えてくる。それでも、ここへ来たからには勇気を出さなければ。

 

 私は絶対、憧れの名探偵になるんだ‼

 

「すみませふぃい⁉」

 

 心の中で自分を鼓舞し、震える手でドアをノックしようとしたところで謎の音と共に後ろで異変が起こった。見ると空が金色に光っていた。晴れて青く見える筈の空が、不自然に輝いていたのだ。この異常事態は流石に無視できず、小林は一度事務所の前を離れ輝く空を観察しに広間へ出る。

 

「んん?」

 

 目を凝らして観察するも、光のせいで光の奥に何があるのかが中々見えない。

 

 一体何が?

 

 そう思ったところで、光がパンという音と共に消え、代わりに一人の少女が姿を現した。

 

「うわあああああああ⁉」

 

 なんと、空から涙目になった自分と同じくらいの女の子が発狂しながらぬいぐるみのような物を抱えて落ちてきたではないか。落下する少女の叫びに釣られ、小林も思わず驚きと戸惑いで叫んでしまう。

 

「うわあああああああ⁉」

「あああああああああ⁉」

「ぽーーち。」

 

 明智が地面に激突する前に、ポチタンが急激に膨張して膨らむと落下する明智のクッションの代わりとなった。

 

 ボフッ

 

「い、生きてる……。」

 

 自分が生きていることを確認し、明智は大きく溜息をつくと素早くポチタンから地面に降りた。辺りを見渡すと知らない景色ばかり。自分は一体何処に飛ばされてしまったのだろうか。明智は、この事象の原因であろうペンダントを手に持つとあらゆる角度から観察し、やがて大きな声で不満を漏らす。

 

「えー、これのせい?何がどうなってるのかわかんないよー‼」

「ポチー。」

 

 クッションから元に戻ったポチタンは困惑する明智を他所に嬉しそうにしている。すると。

 

「妖精だ‼」

 

 近くでポチタンを目撃した小林はそう叫んだ。

 

「へ?」

「ポチ?」

 

 声のする方向を見てみると、そこには鹿撃ち帽を被り撫子色がメインカラーのインバネスコートに身を包んだ自分と同じくらいの少女がポチタンを指差していた。

 

 探偵っぽい服装をした女の子だ、かわいい。

 

 そう思っていると、その少女は目を輝かせながらズンズンと歩いてこちらの方へ近づいてくる。

 

「妖精と一緒という事は、キュアット探偵事務所の名探偵ですね‼」

「へ?」

「私、小林みくるです。今日は探偵テストを受けに来ました‼」

「えっと、私は明智あんな。あと、私は別にキュアット探偵事務所の名探偵じゃないよ。」

「へ?違うんですか?」

「そんなことより、妖精って何⁉ 私さっきまで部屋にいたのにどうしてここに⁉」

 

 あんなは小林の両肩を持つと助けを求めるかのように焦った様子で素早く前後に揺らす。

 

「ちょちょちょちょ⁉ 落ち着いて下さい‼ 話は聞きます、聞きますから、ね⁉ ね⁉」

 

 その後、小林が明智を宥め、落ち着いたところで2人は事務所前の階段に腰掛ける。明智は、戸惑いながらもここに至るまでの経緯を小林に話した。自分でも正気を疑いたくなる内容ではあるが、彼女はポチタンを見てすぐに妖精だと断定した人だ。希望はあるかもしれない。すると。

 

「いやいや、部屋から落ちてきたなんてありえませんよ‼」

 

 ダメだった。信じられない内容に、小林は思わずツッコミを入れてしまう。言いたいことは凄く分かる。ただ、そんなことを言われてもこれ以上説明のしようが無いのだからどうしようもない。小林に反論されつつも、とりあえず明智は淡々と話を続けた。

 

「ホントだって。私、嘘つかないよ。」

「ポチポチ。」

「もう、ポチポチじゃ分からないよ。」

 

 不審なことに、さっきからここへ来る前まで喋っていたはずのポチタンが喋らない。妖精のことはまだよく分からないが、何かの気まぐれで喋らなくなってしまうこともあるのだろうか。明智が疑問に思っていたところで、小林はポチタンを観察して何かに気づく。

 

「この子、おしゃぶりをしているし赤ちゃんですね。だから喋れないのかと。」

「え? でも最初に出会った時にはしっかり喋ってたよ。自分のことポチタンって名乗ってたし。」

「だとすれば、何らかの理由で赤ちゃんとなり喋れなくなった、と考えるのが自然でしょう。」

 

 赤ちゃん……なるほど、それなら喋れないのも納得。とはいえ、これでは何も分からないままだ。それは良くない。自分がなぜここに連れてこられたかの理由さえまだ分かっていないというのに。

 

「うーん……聞きたいことがいっぱいあるのに、それじゃ困ったなぁ。」

「すいません、力になれそうもなくて。」

 

 明智の困った顔を見て、小林は申し訳なさそうにしていた。しかし、小林は何も悪くない。明智は笑みを浮かべると、安心させるように小林の頭を撫でながら優しい口調で語り掛ける。

 

「いいの、気にしないで。誰かと話せて少し気も楽になったし。そういえば、探偵テストを受けに来たって言ってたけど、みくるちゃんは探偵になりたいの?」

「はい。でも、ただの探偵ではありません。私は、名探偵になりたいんです。」

「名探偵?」

「そうです。名探偵は、色々な事件を調べて解決し、人々を助けるみんなの憧れであり希望なんです。私は、そんな名探偵になるために探偵テストを受けに来たんです。」

「へー、すごい。じゃあ、その探偵テストに合格すれば名探偵になれるんだ。」

「もちろん、合格したからと言ってすぐなれる訳ではありません。でも、合格して探偵になる資格があるのを認められれば、私の夢に一歩近づきます。」

「一歩かぁ。なら、名探偵になるには経験や実績を沢山積まなきゃいけないってことだね。大変そう。でも、どうしてなりたいと思ったの? 」

「わたしも小さい頃、困っていたところを名探偵に助けてられたことがありまして。その時ですね。その時に、今度は私が名探偵になって、みんなを助けたいって思ったのがきっかけなんです。まあ、周りからは名探偵はお前には向いてないから止めとけって言われたりしてますけど。」

「でも、私は良い夢だと思うな。みくるちゃんならなれると思うし、名探偵。」

 

 明智の言葉に、小林は意外な顔をしてしまう。まさか、自分ならなれると言われるとは思っていなかったのだ。今まで名探偵になりたいと誰かに夢を語る機会はあった。しかし、反応はどれも否定的な意見ばかりで、良くてそっか頑張ってね程度のものだ。冗談でも、自分ならなれると言ってくれる人は一人もいなかった。自分には高い推理力がある訳でも、他者より思考力が特別優れている訳でも無い。特に秀でた特技も無く、何の変哲もない一般人と変わらないと言ってもいい。困った人を助けたいなら他の職種もあると勧められたくらいだ。自分のことをたいして知りもしない明智が何故そんなことを言ったのか、小林は気になって仕方が無かった。

 

「どうしてですか? 私はあんなさんを助けたいと思っても何の力にもなれなかったんですよ。」

「だってみくるちゃん、困ってた私を助けようとしてくれたじゃない。」

 

 明智の答えは至ってシンプルだった。あまりに単純すぎて、小林は拍子抜けしてしまう。

 

「え?それだけですか?そんなの誰だって出来ます。私の憧れている名探偵にも遠く及びませんよ。」

「それでも一歩だよ。今はダメでも、その一歩を重ねていけばいつかきっと自分の力になる。みくるちゃんが諦めなければ、きっと助けられる人だって増えていくはずだよ。だからそんな暗い顔しないで。私は応援するよ。」

 

 こんな自分でも名探偵を目指してもいい、諦めなければきっと夢は叶う。小林は、そう明智から言われている気がした。初めてだった、嬉しくて涙が出そうになった。まだ出会ったばかりだというのに明智の言葉で、小林の探偵テストに対して抱いていた不安や緊張は無くなったように思えた。

 

「あんなさん……。ふふ、おかしいですね。最初は私が宥めていたはずなのに、気づけば今度は私があなたに励まされる立場になってます。でも、ありがとうございます。少し元気が出ました。」

「へへへ、お互い様だよ。」

 

 顔を見合わせ笑い合う2人。明智も最初に抱えていた不安など忘れてしまいそうだ。そんな時、ポチタンが動き始める。

 

「ポチ。ポーチ‼」

「え⁉」

 

  突然、ポチタンがポチポチ言い出したかと思えば、頭部の左右から光で紐のような触手を生やしあんなの右肩から左の腰に巻きつけ、それを物質化させてしまったではないか。しかし、それだけでは終わらない。

 

「ポチィ‼」

 

 小林が一体何が始まるのかと思ったところで、ポチタンは明智を紐で引っかけたまま凄い勢いで急発進した。

 

「うわああああああ⁉」

 

 ポチタンの明智を引っ張る力は見かけ以上に恐ろしいほど強く、明智はポチタンに引かれる形でその場から走り出す。今は靴を履いていないため、少しでも怪我をしないよう足元に細心の注意を払いながら、明智はポチタンに引っ張られ前へ前へと進んで行く。

 

「あんなさん⁉」

 

 急な出来事に戸惑いつつも、小林も駆け出した明智を見失わないよう全力で後を追った。中々に速い、全力で走って追いかけなければすぐに見失ってしまいそうだ。それでも、ポチタンと明智は街中をどんどん進んで行く。早く追いつかなければ。そう思うも、追いかけ始めてから数分のところで小林の体力は限界に近づいていた。

 

「はあ、これ以上は、無理……。」

 

 小林の体力がつきかけて止まりそうになったところで、ポチタンはとある場所の前であんなと共に停止する。止まった後、明智も自分と同様大きく息切れして両手を両膝につけて休んでいるのを見ると、明智も限界が近かったのが読み取れた。

 

「はあ……はあ……ここって?」

「結婚……式場?」

 

 2人がポチタンに導かれて辿り着いた場所は結婚式場だった。何故この場所に自分達を連れてきたのか、自分達に何をさせたいのか。ポチタンの目的が全然分からない。2人が悩んでいたところで、ポチタンは式場の中を指差した。

 

「ポチ‼」

「中に入れってこと? でもいいのかなぁ、勝手に入っても。」

「入りましょう。」

 

 客でもないのに中に入るのは、見つかれば怒られるんじゃないかと明智が躊躇ったところで、小林が即答する。小林の真面目な表情を見ると、何か考えがあるように感じられた。

 

「いいの? 」

「妖精とは不思議な生き物。ポチタンがあんなさんをここまで導いたということは、きっとここに何かあるはずです。私は、ポチタンを信じます。」

「でも、見つかったら怒られて追い出されるかもしれないよ。」

「そうなったら、謝って出ていけばいいんです。その時は私も一緒ですから、怒られる辛さも半分こに出来ます。」

 

 小林は私が一緒についているから大丈夫と言っているようだった。小林は右手で隣にいる明智の左手を握り手を繋ぐと、優しく明智に微笑みかける。そんな小林を明智は信じたくなった。根拠も無いのに、不思議と明智は小林と一緒なら本当にどうにかなるような気がしたのだ。

 

「みくるちゃん……わかった、その時はよろしくね。」

「ええ。では行きましょう。あ、そうだあんなさん。妖精の存在は秘密にしないと大変なことになりますから、くれぐれも気を付けて下さい。」

 

 妖精の存在は秘密……確かに、ひ弱な未確認生物が人間に見つかった結果酷い目に遭っているのは過去にSF映画などで散々見てきている。人に見つかった結果、こんな可愛い生き物が実験材料になって弄り回されるなんて考えたくもない。小林の警告に明智は深く頷くとポチタンの頭を優しく撫でながら話しかける。

 

「うん。じゃあポチタン、中では静かにね……って寝てる⁉ 」

「…………。」

 

 気づくと、ポチタンはいつの間にか眠ってしまっていた。自分より何倍も重量のある人間をあの場所からここまで引っ張ってきたのだ。体力を使い果たして疲れてしまうのも仕方ないのかもしれない。そう納得し、2人が中に入ると広間の中央で焦った様子で何かを探す従業員の姿が目に入る。そして近くの階段からはウェディングドレスを着た綺麗な女性が下りてきて、その従業員とやり取りを始めていた。

 

「ない‼ どこにいったの‼ 」

「幸野さん。ありがとうございます。もう、諦めます。」

「でも……。」

「式に、間に合いませんから。」

 

 2人の会話から、何やら物が紛失するトラブルがあったのだと明智と小林は推測する。とはいえ、無関係な自分たちが関わる必要は無い。それよりも、今はポチタンが明智をここまで連れてきた目的を見つけることの方が優先だ。小林がそう思ったところで、意外なことに、隣にいた明智が一歩また一歩と前に出て2人の元へと歩いて行く。

 

「あの、困っていることがあれば、お手伝いします。」

「え⁉」

 

 明智の言葉に、小林は驚いた。困っている人を見過ごせないのは、明智の性分である。小林は一瞬、止めようと思い明智の顔を覗き込んだが、明智の顔は真剣そのもの。あの人たちを助けたいという思いがその表情からも伝わってくる。そのため、自分達の目的に関係なかったとしても小林は彼女を止めることは出来なかった。困っている人を助けたいという思いは、自分にだってあるのだから。

 

「何この娘? まりさん、お知り合いですか?」

「いいえ、初対面です。」

「お手伝いします!」

 

 従業員と花嫁が戸惑う中、明智はもう一度力強く、手助けすることを強調する。まりは探し物を手伝うと名乗り出た明智をじっと見つめた。彼女については何も知らず、付き添いの子含めても赤の他人で、まだ中学生くらいの子供に見えた。実際それはそれほど間違いではないのかもしれない。そんな他人に頼ろうとするなんて、周りが見ればどうかしていると思うのが普通だろう。自分だってそうだ。しかし、彼女の決意に満ちた力強い瞳を見ていると、不思議なことに探し物を見つけてくれるような気がしてならなかった。根拠は無い、あるのはただの直感。それでも、まりは今回だけはその直感を信じたくなった。今日は、自分にとって大事な日なのだから。

 

「分かりました。手伝ってもらいましょう、幸野さん。」

「いいんですか? 」

「はい。でも、この件は私達だけの話にしておいて下さい。私の我儘ですが、どうかよろしくお願いします。」

 

 まりの願いに、幸野は険しい顔をして目を瞑り、頭を悩ませているようだった。その数秒後、何かに納得したのか幸野はまりの願いを聞き入れ了承する。

 

「まりさんがそう言うのなら、分かりました。では2人とも、事情を説明するのでこちらへどうぞ。」

「行こう、みくるちゃん。」

「わ、わかりました。」

 

 幸野に案内されたのは、新婦の控室だった。幸野の話によると、想田まりが13時からの式で使用するティアラがこの部屋で無くなったとのこと。紛失したティアラは銀色で青い宝石が嵌っている品である。一応、この件が発覚してから式場でなんとか形も大きさも似たものを用意したものの、顧客の私物とあっては何としても見つけ出さなければならなかった。時間も迫っていたため、本来であれば式場スタッフ総出で捜索するのも止む無しというところではあったのだが、想田は周りに迷惑を掛けたくないと言って捜索を一度断ってしまい、それでも諦めきれなかった幸野がさっきまで探し回っていたという訳だ。写真に写った実物を見せながら、想田は明智達に事情を打ち明ける。

 

「お母さんも、結婚式でこのティアラをつけたんです。私もつけて、式を挙げたかったんですが、この部屋から消えてて……。」

「突然消えるなんて……。」

 

 突然消える……そんなことが果たしてあり得るのだろうか。いや、自分の知るティアラであればそんなことはあり得ない。であれば、誰かが何処かへ持って行ったと考えるのが自然だ。誰か疑わしい人がいないかと明智が聞こうとしたところで、小林が先に口を開く。

 

「ちなみに、まりさんが最後にティアラを見てからこの部屋を出入りしたのは誰ですか? その人達にも話を聞いてみたいのですが? 」

「まさか疑うんですか? そんなありえませんよ。私のあのティアラは確かに見た目は凄く綺麗で思い入れのある品ですが、値段は売って儲けられるほど高価ではないんです。」

 

 想田の否定する言葉に、小林は思わず気まずそうな顔をしてしまう。しかし、小林は何も間違ったことは言っていない。だからこそ、明智はさらに一押しするように想田に進言する。

 

「それでも、一応聞いてみましょう。うっかり壊してしまったのを何処かに隠したということもあるかもしれません。」

 

 この件を解決するためにも、今ここで止まる訳にはいかない。明智の言葉を聞いた幸野も頷いて同意する。

 

「この娘達の言う通りです。たとえ盗んでいなかったとしても、何か知っている可能性はあります。私が最初これを提案した時あなたは断りましたが、やはり聞いておくべきです。」

「幸野さん……。」

「今日はあなたの大事な日です。満足のいく式にするためにも、私も出来ることは惜しみなく協力します。」

 

 そう言い残して、幸野は一度控室から出て行ってしまった。想田は溜息をつくと、不安そうに天井を見つめている。しばらくそっとしておこう。想田から一度目を離すと、明智は小林に謝罪する。

 

「ごめんね、みくるちゃん。本当はポチタンのことを調べなきゃなのに勝手に巻き込んじゃって。」

「気にしないで下さい、困っている人を見て助けたいって思うのは私だって同じですし。ポチタンについては、この後調べればいいんです。私達で必ず、ティアラを見つけてまりさんを助けましょう。」

「ありがとう、みくるちゃん。」

 

 一瞬怒られるんじゃないかと思っていたが、小林は気にしていないようだった。それどころか、自分も一緒に問題を解決すると言ってくれている。小林の困っている人を助けたいという思いは、きっと本物だ。あの時、探偵を目指すことに自信を持てないようなことを小林は言っていたが、明智には別にそんなことは無いように思えた。

 

 やっぱりみくるちゃんは、名探偵に向いてると思うけどな。

 

 その後、幸野が呼んできたのはカメラマンの宇都見将太と、想田の友人である藤井ともかの2人。そして、幸野を含めると該当する人物は全部で3人という事だった。ひとまず、ティアラが無くなったという事実を伏せた上で、明智達は3人からなぜこの部屋を出入りしていたか話を聞いた。

 

「僕は、花嫁さんを撮りに来たんだ。」

 

 宇都見はなんともカメラマンらしい理由だった。特に怪しそうなところは無い。続いては藤井だ。

 

「私は、まりにお願いがあってきたの。」

「お願いとは?」

「ブーケをともかの方に投げて欲しいって。」

「ブーケトスだ‼」

 

 小林が藤井に聞く中、想田の言葉に思わず明智は反応してしまった。すると、明智の反応を見て嬉しくなったのか、藤井は上機嫌に笑みを浮かべるとさらに話を進める。

 

「そ、花嫁さんが投げたブーケをキャッチすると幸せをおすそ分けして貰えるの。ずっと憧れだったんだぁ。」

「お願いって、アリなんだ。」

 

 藤井の願いに、カメラマンの宇都見は思わず苦笑いする。確かに、普通ならそんなお願いはしない、気持ちは分かる。

 

「OKって言ってくれたよね。」

「ともかが珍しく遅刻しないで来てくれたから、つい。」

 

 想田も宇都見と同様に苦笑いしていたものの、表情が何処か嬉しそうだった。それは、普段遅刻する友人が、今日に限っては遅刻せずに自分を祝いに来てくれてことが大きかったのかもしれない。とはいえ、ブーケを自分の方へ投げてくれというお願いを聞いてくれるような仲なのを見ると、友好関係は良好と言える。怪しいとは思えない。最後は幸野だ。

 

「私は式の準備で、部屋に出入りしていました。」

 

 幸野は簡潔にそう答えた。幸野に関してはティアラを探している姿を2人で確認している上に、わざわざ自分たちの提案を受け入れてこの場を設けてティアラを探すのに協力してくれている。そして何より、見た限りでは顧客の要望に全力で答えようとする仕事熱心な人だった。これが自分がティアラを隠した上で疑われないようにする演技だとは思えない。そうなると、今の段階で誰が怪しいのか2人には見当もつかなかった。

 

「ところで、ここへ出入りしていた時の事を聞きたいっていう話だったけど、何かあったのかい?」

 

 理由を言わずに集まってもらったのだから当然の疑問だ。宇都見からの疑問に、小林が代用のティアラを手に持ちながら説明を始める。

 

「実は、今日この部屋に置いてあったティアラが紛失しました。探してはいるのですが、まだ見つかっていません。どなたか心当たりはありませんか? 色は違いますが、こういう形のものです。」

 

 そう言われた宇都見と藤井は互いの顔を見合わせて困ったような顔をしていた。その表情を見た想田は何か知っているんじゃないかと思い、名乗り出やすいように自分が犯人を断罪したい訳ではないことを強調する。

 

「もし、壊したという事でしたら別に責めたりするつもりはありません。知っていることがあればどうか名乗り出て教えて下さい。お願いします。」

 

 想田は2人に対して座ったまま頭を下げた。しかし、それでも名乗り出てくる様子は無い。本当に知らないのか、はたまた隠しているのか、人の心が読める訳ではない明智と小林はどうなのか判断に困ってしまった。そもそも、仮に盗んだとしても動機が分からない。想田は紛失したティアラのことについて高価ではないと言っていたため、盗む価値は無い筈だ。しかし、それは想田が知らないだけで本当は高価だったという可能性もある。そうなれば、盗む価値はあるだろう。とはいえ、今の段階でティアラの正確な価値は分かっていないため、安易な判断は出来ない。ならば嫌がらせという線はどうだろうか。軽く見た感じだと宇都見は想田とは初対面のような雰囲気を出していたし、藤井は本当に想田と仲が良さそうだった。幸野さんは言わずもがな。ならば違うのか。いや、そもそも刑事や探偵ドラマのように判断するには現段階ではあまりに情報が足りていない。今になってそれが分かった明智と小林は思わず冷や汗をかいてしまう。

 

 どうしよう、このままじゃティアラの在りかが分からない。

 

 そう明智と小林が思ったところで、ポチタンが目を覚ました。

 

「ポチ!」

 

 突然、明智に紐でぶら下がっていたポチタンが置いてあるブーケの元へ浮遊しながら動き出す。

 

「えちょっ⁉ ポチ‼ポーチ‼」

「ちょっ、あんなさん⁉」

「どうしたんですか⁉」

「ええ⁉」

「ジャンプ⁉」

「な⁉」

 

 いち早く気づいた明智はポーチになっていたポチタンが勝手に喋って動いたと悟られぬよう力強く叫びながらポチタンが動き出した方向へ思いっ切り跳ね上がった。こんなかわいいポチタンを実験動物にする訳にはいかない。突然の奇行に驚いた面々だったが、明智は素早い判断でポチタンを誤魔化すためにもお構いなしに道化を演じる。ポチタンが向かおうとしていた先、すなわち跳ね上がった先にあったのは、今日の式で使うであろう白い花を束ねたブーケだった。着地後、明智はバランスを崩して何処かへ手をつこうとして思わず右手をブーケの中へ突っ込んでしまう。

 

 ズボッ

 

「「「「あ、ブーケが⁉」」」」

 

 周りが驚愕する中、明智だけは冷静だった。そして、手を突っ込んだ先に明智は手に花ではない何か硬い物が当たったことに気づく。

 

 これは?

 

 恐る恐る中から取り出してみると、それは先ほど写真で見せられた自分たちが探しているはずの青い宝石が嵌った銀色のティアラだった。まさか、目覚めたポチタンはこれに反応したとでもいうのだろうか。予想外の展開に明智は思わず声を上げた。

 

「あ、あった、あったよ‼」

「私のティアラ⁉」

「ブーケの中から出てきた⁉」

「そんなことがあるのかい?」

「誰が何のために?」

「…………。」

 

 それぞれが思い思いの反応をする中、藤井だけは無言だった。普通だったら、仲の良い友人の紛失物が見つかれば喜んだりホッとしていそうなところだが、藤井は無言な上に露骨に都合の悪そうな顔をしていた。それは流石に怪しすぎる、そう感じた小林は周りにどう思われようとも気にせず、これまでの状況を整理して藤井を問い詰める。

 

「ともかさん……まりさんのティアラをブーケの中へ隠した犯人はあなたですね。あなたはまりさんに自分にブーケを投げて欲しいと頼んでいましたが、それはまりさんからブーケを受け取った後に中に隠したティアラを抜き取るためだった。違いますか? 」

「あ、それならしっくりくる。」

「…………。」

 

 明智がなるほどと感心する中、藤井は俯き無言を突き通す。それを見た想田は、慌てて友人を庇いに小林の前に立った。

 

「止めて下さい‼ これは何かの間違いです。私の友人のともかは、そんなことするはずがありません‼」

「確かに。君の友人ともかなら、そんなことしないだろうね。遅刻だってするだろうし。」

 

 まりの擁護する声を聞いた藤井は不敵な笑みを浮かべるとようやく口を開く。さっきとは違い、藤井の表情からは悪意のようなものが感じ取れた。

 

「え?ともか何を……。」

「だって僕は、ともかではないんだ。」

 

バサリ‼

 

 藤井が一瞬で変装を解くと、中からは黒のシルクハットを被り怪盗の衣装に身を包んだ、薄い緑色の長髪で赤い瞳の美青年が姿を現した。右頬には黒い星型のフェイスペイント、よく見れば瞳の奥には四芒星のマークが入っている。相手が只物では無いことを明智と小林は予感した。

 

「僕はニジー。怪盗団ファントムの、怪盗さ。惚れ惚れする変装だっただろう?」

「怪盗団、ファントム?」

 

 怪盗団ファントム、何かの組織だろうか。妖精の存在を知っていた小林が知らないという反応をしているのを見ると、最近新しく設立された組織なのかもしれない。いや、犯罪集団の組織が設立されちゃ駄目だろう。明智が内心ツッコミを入れる中、ニジーは話を続けている。

 

「まさかこんな偶然で僕の仕掛けが台無しになるとは思わなかったよ。だが、問題は無い。」

 

 そう言ってニジーは目にも止まらぬ速さで明智の隣を通り過ぎた。一瞬、なぜ自分のところにわざわざ来たのか疑問に思った明智だったが、直後手に持っていたものが無くなっていることに気づくと、奪い取るためだったと痛感する。

 

「しまった、ティアラが⁉」

「追いかけます‼」

 

 ニジーが外へ逃げたのを確認した小林は、急いで後を追った。ここで見失ってはティアラが取り返せなくなってしまう。明智も靴を履いていないのもお構いなしに、相変わらず足下に気を付けつつ全力で小林の後に続く。今の時刻は12時、式が始まるのは13時。もう時間が無い、早くティアラを取り返さなければ。ニジーは追手を撒くためなのか人気の無い山道のような場所を突き進んでいた。全力で追いかけているものの、ニジーの脚力は自分達よりも遥かに強く、このまま追いかけていてもすぐに見失ってしまいそうだ。

 

「は、速い⁉」

「このままじゃ、追いつけないよ⁉」

「ポチーー‼」

「な⁉」

 

 このままでは追いつけないと悟ったポチタンは、またもや明智を引っかけたまま加速を開始する。今度の加速は最初の時よりも速く、それを感じた時には明智の足が地面から浮いてしまいそうになっていた。

 

 嘘⁉ このままだと飛ぶ⁉ 飛んじゃう⁉

 

 それを見た小林は今度は置いて行かれないようにと、ポチタンに引っ張られた明智の足が地面から離れたところで明智の身体にしがみつく。すると。

 

「「うわあああああああ⁉」」

 

 ポチタンは一気に急加速し、引かれる2人はついに空を飛んだ。数秒もしないうちに、気づけば先を走るニジーをあっという間に追い越してしまう。そして、ニジーの先へと2人は着地し、回り込まれたニジーは足を止める。直後、ポチタンの頭から伸びていた紐は消滅する。周りを見渡すと、いつの間にか3人は木々に囲まれた大広間に立っていた。今いる場所に不自然な感じがしたものの、今はそれどころではない。

 

「はあ、困ったベイビーだね。」

 

 ニジーはやれやれといった具合に明智と小林を見つめるも、余裕の表情は崩さない。それは、自分たちの存在が脅威にすらならないと言っているように思えた。その態度に苛立ちを覚えつつも、明智は強気でニジーに訴える。

 

「ティアラを返して‼」

「出来ない相談だよ。このティアラにはマコトジュエルが宿っているんだもの。」

「マコトジュエル?」

「花嫁がティアラを大切にする想いが、マコトジュエルを引き寄せたのさ。」

 

 そう言ってニジーは盗んだティアラを見せると中から手品のように特殊な形をした宝石のような物を取り出して見せた。

 

「このジュエルを頂くのが、ボク達の目的。そうだ、ティアラの代わりに素敵なショーをお見せするよ。嘘よ覆え、いでよハンニンダー‼」

「ハンニンダー‼」

 

 一瞬の出来事だった。何をしたのか分からなかったが、ニジーの掛け声とともにティアラが巨大な化け物へと変貌する。眼と髭の付いた巨大なティアラに手足が生え、マントを羽織り黒のシルクハットを被った化け物。全体的なデザインは怪盗をモチーフにしているのが分かった。

 

「ファントムが新たに開発したハンニンダー、さ。さあ、ショウタイムだよ。ベイベー‼」

「ハン、ニン、ダー‼」

 

 ニジーの掛け声とともに、ハンニンダーが動く。ハンニンダーが両腕を勢いよくクロスさせると、紫色の斬撃が横方向へ飛び、近くにあった木々をいともたやすく切り倒した。こっちを直接狙ってこなかった辺り、今のは威嚇射撃みたいなものだろうが、これ以上関われば今度はこちらを狙ってくるかもしれない。

 

「う……うわぁ。」

 

 攻撃で木々が切り倒される有様を見た小林は、狼狽え、怯えていた。無理もない、あんなものを見せられれば自分だって普通に怖い。それでも、明智はティアラを諦めることはしたくなかった。自分達は、あの想田の助けになるためにここまで来たのだから。

 

「なんとかしないと。」

「なんとかって……無理ですよ。あんな化け物相手にどうしろって言うんですか。私達は、名探偵プリキュアじゃないんです。」

「名探偵、プリキュア?」

 

 名探偵プリキュア……また知らない単語が出てきた。今日は怪盗団ファントムといいマコトジュエルといい、ハンニンダーといい、馴染みのない言葉を聞くことが多い。そして今のこの状況。まるで自分がアニメや漫画の中の世界にいる気分だ。本当に今が現実なのかと疑いたくなったが、足の裏から痛みが感じられるため現実なのを痛感する。ティアラを取り返すには、まずあの怪物をどうにかしなければならない。だが、そんなことは果たして可能なのだろうか。

 

「さあ、探偵ごっこはお終いだよ。怪我をしたくなければ僕を見逃して大人しく自分達の家に帰るんだ。別に誰も責めはしないさ、君達はただの子供で無力なのだから。」

 

 ニジーの余裕に満ちた声が響く。警告をしてくれるあたり、組織の邪魔をしなければ危害を加えるつもりはないらしい。本当はティアラを取り戻したいが、気持ちだけではどうにもならないことも分かっている。実際小林の言う通り、あんな巨大な化け物を相手にして丸腰の自分達に何が出来るというのか。明智が諦めようとした時、ポチタンが自身に何か呟いてきた。

 

「たちゅ、けて。」

 

 ポチタンのセリフに、明智は思わず固まった。赤ちゃんになったはずのポチタンが、喋った。それも、「助けて」という言葉だ。そういえば、ポチタンは出会って最初、自分に対して一緒に来て欲しいと言っていた。そこからは色々あった。急にペンダントが光ったと思えば、知らない場所に飛ばされて小林と出会い、ポチタンに連れられた先で人助けをすることになって、盗まれたものを取り返そうとしたら、今度は巨大な化け物と対峙している。一人ではどうにもならない絶望的な状況。そこまで考えると、ポチタンが自分をここまで連れてきて何をさせたかったのか、今になって分かった気がした。

 

 そっか、助けて欲しかったんだ。

 

 非常に迷惑な話だが、きっとポチタンはこの状況をどうにかするために不思議な力で自分をここまで連れてきたのだろう。とはいえ、連れてこられた自分は生まれてこの方14年、特殊な力に目覚めたこともない上に戦う力も無い。しかし、そんなことはポチタンも重々分かっているはずだ。それでも自分を連れてきたという事は、この状況を打破できる何かがあるということなのだろう。不意に、明智はさっき小林の言った言葉思い出す。

 

 なんとかって……無理ですよ。あんな化け物相手にどうしろって言うんですか。私達は、名探偵プリキュアじゃないんです。

 

 それは逆に言えば、名探偵プリキュアならどうにか出来ることを示している。そう思った明智は覚悟を決める。今まで知らなかったが、自分の住む世界は実は妖精や怪盗団ファントム、マコトジュエルの存在する不思議な世界だったらしい。そんな世界ならば、奇跡の1つくらい起こしてくれてもいいじゃないか。

 

「だったらなろう‼ 名探偵プリキュアに‼ 」

「え?」

 

 明智の突然の宣言に小林は驚いていたが、ニジーは世迷言だと鼻で笑い明智のことを見下した。

 

「はっ、何を言い出すかと思えば、名探偵プリキュアになるだって? 流石にあり得ないよ。君達は名探偵どころか探偵ですらない、探偵気取りの真っ赤な偽物だ。」

「それでもなる‼ 私は、ティアラを取り返したい。困っているまりさんを、助けたい‼」

「強がっているようだけど、君も本当は怖いんだろう?」

 

 ニジーに言われ、小林も明智の姿を観察する。ニジーの言う通り、確かに明智は自分と同じように恐怖で手が震えている。しかし、恐怖で手が震えていようとも、明智は歯を食いしばり、その決意に満ちた目は決して諦めなど感じさせなかった。

 

「そうだよ、怖い。でも大丈夫。私は……一人じゃない‼ みくるちゃんが一緒だから‼ 」

「え⁉」

 

 明智は力強く宣言すると、左手で隣にいた小林の右手をギュッと握る。明智が怖くとも強くいられた理由、それはまさかの自分の存在だった。

 

「みくるちゃん。一緒になろうよ、名探偵プリキュアに。名探偵プリキュアだったら、みんなを助けられるんでしょ?」

「そうかもしれませんが、でも、私が……名探偵プリキュアなんて。」

「みくるちゃんはさ、まりさんを助けたい? それとも諦めて家に帰りたい?」

「そんなの、助けたいに決まっています‼ 私の夢は、名探偵になることなんですから。」

「へへ、助けたい気持ちは私とおんなじだ。でも、今のままだと私達は何もできない。それでも助けたいっていうなら、奇跡の1つでも起こすしかないんだよ。私一人じゃ無理だけど、みくるちゃんが一緒ならきっと出来る気がする。」

 

 明智にそう言われても、小林は自分が名探偵プリキュアになれるとは思えなかった。しかし、明智はそんな自分でも一緒なら出来ると信じてくれている。たとえ怖くて逃げ出したいと思っても、自分と一緒なら大丈夫だと言ってくれている。今まで周りが無理だと否定する中、彼女だけは自分なら名探偵になれると信じてくれた。嬉しかった、救われた気がした。出会ってまだ間もないというのに、そんな彼女のことを考えると心が温かくなり勇気が湧いてくる。

 

 助けたい気持ちは同じ……だったらもう、悩む必要なんてないじゃないですか。答えはとっくに出ているんですから。

 

 そう思うと、今まで悩んでいたことが全て馬鹿らしくなり、小林は思わず笑みをこぼしてしまう。

 

「みくるちゃん?」

「ええ、なりましょう。名探偵プリキュア、一緒に‼」

「うん‼」

 

 明智と小林のやり取りを見ていたニジーは、2人が諦める気が無いことを悟り、大きく溜息をついた。これだけの戦力差を見せつけられても、どうやらあの2人は諦める気が無いらしい。このまま逃げたとしてもまた妖精を使って追いかけてくることが容易に想像できたため、ニジーは仕方なく実力行使で追い払うことに決める。

 

 もう少し脅かしてやれば、流石に諦めがつくだろう。

 

「しょうがないベイビーだ。ならば痛い目に遭ってもらおう、行け、ハンニンダー‼」

「ハンニンダー‼」

 

 ニジーの指示を受け、ハンニンダーは明智と小林を狙い攻撃を仕掛けてくる。今度の攻撃は斬撃ではなく単調な動きの突進。ちゃんと逃げ道も用意してある、ニジーも本当に自分達に危害が加わると分かれば、流石に諦めて逃げるだろうと思っていた。しかし、予想は外れ、明智と小林は互いに手を強く握り合うと、正面を向き、逃げるどころか迫り来るハンニンダーの方へ一歩踏み出してしまう。何の力も無いのにあの巨体に立ち向かうのは、無謀以外の何物でもない。

 

 何なんだあのベイビーは⁉ 頭でもおかしくなったのか⁉

 

 ニジーが2人の予想外な行動に動揺する中、明智と小林は一緒にハンニンダーを見る。ハンニンダー確実にこちらを狙ってきている。このまま逃げなければ蹂躙されてしまうだろうに、不思議と恐怖は無かった。もちろんそれは、恐怖を克服したからでも、死を覚悟したからでも無い。2人の中にあるのは、絶対に自分達の手でまりさんを助けたいという思いただ一点のみ。普通だったら、そんなものがあったところで何の解決にもならず、跳ね飛ばされて終わりだっただろう。しかし、今回だけは違う。2人の強い純粋な心が、今にも奇跡を手繰り寄せようとしていた。ポチタンの選んだ明智あんなと小林みくるは、特別だったのだ。

 

「「まりさんのティアラは、私達で、取り返す‼」」

 

 2人の感情が爆発した瞬間、奇跡が起こった。明智の感情に反応するかのように首に下げていた明智のペンダントが飛び出て強く光った。それと同時に、小林の感情に反応するかのように小林のポケットに入っていたペンダントも外へ飛び出て強く光った。2つのペンダントを見ると、色も形も大きさも全く同じデザインをしていて、同じものが2つあるように思えた。

 

「私のと。」

「同じ?」

 

 直後、2つのペンダントが形状を変化させ光を放つと、2つの光は共鳴し、明智と小林を光で包み込み、周囲を強い光で溢れさせる。

 

「ぷいきゅあー‼」

「一体何が⁉ 」

 

 遠くで2人を見守るポチタンが叫ぶ。周りが光で見えなくなる中、ニジーは必死に光の先で何が起こっているのか確認しようとするも、光が邪魔で確認できずにいた。そして光が収まった時、光の中心だった場所に人間が2人立っていることに気づく。片方は紫、もう片方は桃色がメインカラーな2人組。髪型や髪の長さも服装もガラッと劇的に変化しており、何より感じた異様な気配はニジーの危機感をくすぶる。それでも、あの2人組が元の明智と小林であることをニジーは見逃さなかった。

 

 あの2人、まさか変身した? 奇跡を起こしたとでもいうのか⁉

 

 明智と小林は見事変身し、明智はキュアアンサー、小林はキュアミスティックとなった。そう、2人は名探偵プリキュアになったのだ。

 

「ハンニンダー‼」

 

 変身にかかった時間は一瞬。変身が終わり2人が前を見ると、今にもハンニンダーがこちらへ突っ込んで跳ね飛ばそうとしているところだった。しかし、焦ることはしない。

 

「「はあああああああ‼」」

 

 2人はハンニンダーを迎え撃つと、ハンニンダーの胴体を狙って押し返すように同時にパンチを入れる。

 

「ハンニンダ⁉」

 

 息ビッタリのコンビネーションから繰り出されるパンチは、ただ突っ込んで走っていただけのハンニンダーを勢いよく突き飛ばし、木々に激突させてしまう。凄まじい威力だった。この小さな身体からあの巨体を吹っ飛ばすほどの力が出ることに、アンサーとミスティックは驚愕する。

 

 これなら、いける‼

 

 2人は顔を見合わせて深く頷くと、突き飛ばしたハンニンダーに目を向けた。そうしている間にも不思議なことに、今の自分に何をどこまで出来るのか、何をどうすればどんな技が出せるのか、この形態の基本スペック情報が頭の中にどんどん流れ込んでくる。そして、それらを全て瞬時に理解してしまった。この姿になってから頭の回転が随分速くなっている気がする。とても凄いことなのだろうが何だか気持ち悪い。おそらく、隣でミスティックも内心自分と同じように驚いているだろう。

 

「この程度じゃ倒せないよ、ハンニンダー‼」

「ハンニンダー‼」

 

 ニジーは気持ちを切り替えると、ハンニンダーにすぐさま指示を出す。すると、起き上がったハンニンダーは両腕を素早くクロスさせて紫色の斬撃を飛ばし2人を狙い打った。しかし。

 

 斬撃がゆっくり見える。これなら、避けられる‼

 

 アンサーは地を蹴ってハンニンダーを目指しつつ、身を翻して紙一重で躱し、ミスティックはハンニンダーのいる方向へ高く飛んでハンニンダーの攻撃を躱して見せた。さらに。

 

「はあ‼」

 

 バン‼

 

「ハンニンダッ⁉」

 

 ハンニンダーの懐に潜り込んだアンサーは、思いっ切りハンニンダーを蹴り飛ばすと、ミスティックのいる上空へと飛ばしてしまう。

 

「ミスティック‼」

「任せて‼」

 

 アンサーの合図を聞いたミスティックは上空で体を捻ると、ハンニンダーが丁度こちらへ飛んできたタイミングで今度はハンニンダーを思いっ切り蹴り落とした。これだけ強く蹴っても痛みが何一つ無い。この体はどれだけ丈夫なのだろうか。

 

 ドン‼

 

「ハ、ハンニン、ダ……。」

 

 ミスティックが地面に着地しアンサーが合流すると、地面に叩きつけられたハンニンダーは余程ダメージがあったのか、すぐに起き上がることが出来ず、仰向けになって地面の上で藻掻いていた。動けなくなった今がチャンスだ。

 

「これで決めよう‼」

「ええ‼」

 

 合流したところで2人はジュエルキュアウォッチを取り出すと、技を発動するために分針を11まで指で動かした。すると、並んだ2人は相手を貫き浄化する一つの光となり、高速でハンニンダーへ向かっていく。

 

「「これが、私達の、アンサーだぁ‼」」

 

 ズボッ

 

「「キュアット解決‼」」

 

 貫かれたハンニンダーは、爆発するかのように紫と桃色のような光に覆われると浄化され、マコトジュエルとティアラを残してその場から姿を消してしまった。その様子を見たニジーは苦い表情をして撤退の判断を下す。

 

「くっ、今日は幕を下ろしておこう‼」

 

 ボン‼

 

「「いなくなった。」」

 

 ニジーは足元に煙球を投げると、緑交じりの煙と共に姿を消してしまった。ということは、今回はもう安心して良いのだろう。アンサーが安心したところで、ミスティックは思い出したように歓喜余ってはしゃいでいた。

 

「やったやった‼ 凄い、凄いです‼ 名探偵プリキュア‼ 私のなりたかった、名探偵プリキュアになれたんだー‼」

「これが、名探偵プリキュア……。」

 

 全然想像してなかったけど、まさか魔法少女みたいなものだったとは……。でもまあ、いっか。ティアラは取り返せたし。

 

 アンサーがティアラとマコトジュエル拾い、緊張が解けてホッとしたところで大事なことを思い出す。式が始まるまで、もう時間が無い。

 

「は、そうだ‼ 早くティアラを届けに急がないと‼ 」

「あ、そうでした‼」

 

 その後、2人はポチタンを連れ、急いで式場へ戻った。急ぐあまり、変身を解除せずアンサーが想田にティアラを渡そうとしてしたため、その前にミスティックが待ったをかける。何でも、ミスティックの話では名探偵プリキュアの存在は妖精と同様、一般人には秘密にしないとダメとのこと。そのため、2人は姿を見られない且つ気づかれるようにこっそりティアラを想田のいる控室に置いてその場を去ることとなった。とはいえ、ちゃんと届けられたのかを確認するためにも、式の始まる時間に2人は結婚式場の屋根に上り、上から想田の式を見守った。新郎と歩く想田はとても幸せそうな笑顔でバージンロード歩き、その頭には取り返したティアラが乗せられている。自分達は、ちゃんと助けることが出来たのだ。

 

「よかった、式に間に合って。」

「これで一件落着ですね。」

 

 式を眺めていると、本物の藤井が遅刻してから式に入ってきていた。ニジーが変装がバレないよう本物を最悪始末したんじゃないかと思ったが、そんなことは無かったようだ。元気な姿の藤井を見たアンサーは嬉しくなると大きく背伸びする。これで後は、自分のことを考えるだけだ。現時刻は13時、誕生日パーティーの開始時刻も13時、つまりもう始まっている。間に合わないと悟ったアンサーは大きく溜息をつくと、ミスティックに愚痴をこぼした。

 

「はあ、2027年1月24日。今日は私の記念すべき14歳の誕生日パーティーだったのに色々あり過ぎて疲れちゃったよ。時間にも遅れちゃったし。」

「はい? 今日が2027年1月24日? 何を言っているんですかあなたは。今日は1999年4月2日、春ですよ。」

「へ?そんなまさか。」

「見て下さい。桜だって咲いています、ほら。」

 

 ミスティックの指差した先には確かに桜が咲いていた。しかも満開。1月の冬であればまずお目に掛ることの出来ない光景だ。ということは、ミスティックの言う事は正しいという事になる。いやでもまさか、仮に今が強引に春だという事を飲み込んだとしても、流石に1999年は無いだろう。1999年だと2027年から28年前という事になる。それでは本当にタイムスリップだ。しかし、こんな時にミスティックが冗談を言うとは思えない。アンサーは恐る恐る、ミスティックに確認を取った。

 

「今って2027年じゃないの? 」

「はい、今は1999年です。平成だと11年ですね。」

「令和じゃなくて? 」

「はい、平成です。あと、れいわって何ですか? そんな元号存在しませんよ。ふふ、おかしなことを言うんですね、あんなさんは。」

「は、はは……。嘘だ……嘘だそんなこと‼」

「あんなさん⁉」

 

 自分がタイムスリップしたことが分かったアンサーは、その場に崩れ落ち蹲ってしまった。元の時代に帰る方法は分からない。頼みの綱であるポチタンは赤ちゃんのまま。自分はこれからどうすれば良いというのか。

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