アイドルオーディションに異常性欲者がきた 作:あるふぁせんとーり
「……はい、はい。それでは失礼します。はい……」
人間というのは出世するにつれて話が長くなるものなのだろうか。
「オーディションの選考が終わったからリストに目を通すように」というだけの電話が終わったのはけたたましい着信音がなってから30分を越した辺りだった。
出来立てのアイドル事業部はまだ僕一人がマネージャーとして在籍しているだけで、使い回しの事務所にぶつ切りのクリックだけが響く。
送られてきたPDFを開くと、真っ先にため息が零れた。
というよりはため息を零すことが僕に出来る最大限の自己防衛だと思った。
そこに並んだ名前は6つ。
バイト先を全部潰したらしい自分の名前もあやふやなバカ、面接中に競艇中継と競馬中継を同時に聞いた上で大負けしていたギャンブル中毒者、CDを全て買うと豪語した破滅願望持ちの狂った金持ち、ハーフだのアニーだの偽名だの後先を考えない嘘を重ねまくっていた虚言癖、働きたくないし何もしたくないのにオーディションを受けにきたなんかヤバい人。
「……「一之宮 鈴」」
そしてアイドルを露出の道具としか思っていない異常性欲者。
数日経った今でもあの景色は鮮明に思い出せるし、おそらく一生思い出せる、それくらい怖い景色だった。
視界に映っていたのは突っ伏した安っぽい黄色のデスク、嗅いだのは履歴書の紙の匂いだけだったが、10カウントごとに床に捨てられていく布の音が何が起きているかを簡単に説明してくれた。
インターネットでは巨乳のことを「凶器」だの「暴力」だの言葉で表現することがあるが、本当にあれほどまでに暴力的な使い方が存在していいのだろうか。
幸運にも防犯カメラは不調を起こしてまともに機能していなかったこと、日頃から心配になる低さの設備費にもあのときばかりは親にも直接伝えたことがないほどの感謝を捧げたと思う。
何より、僕の苦し紛れの返事に満足したらしい帰り際。
最後の面接者であった彼女は部屋を出てから、10分ほど空けて一度戻ってきて、一言置いていった。
「トイレ、綺麗でしたね」
脅迫だろう。
まだ法が追いついていないだけで何らかの犯罪に決まっている。
通報しなかっただけ感謝されてもいいくらいだ。
だが今すべきことは彼女の言葉が何の犯罪に当たるのかを考えることじゃない。
僕は意を決し、電話帳から上司へと掛け直した。
◇◇◇
結論から言えばこうだ。
彼女達のような社会不適合者をアイドルグループとしての活動を通じて更正させるということが、この『宗教法人ハッピィハッピィ』の理念上喜ばしいことであるということ、ついでに彼女達6人の顔立ちが恐ろしく整っていたこと。
十中八九後者の理由の方が強いと思ったけれど、まあハッピィ様の決定なら仕方ない。
そう覚悟を決めて顔合わせのスケジュールを調整したり、もしかしてご家族に挨拶に行くのが礼儀だったりするのだろうか、と調べてみたり、安いパイプ椅子で背中と腰を痛めながらもパソコンに向かっていると、事務所のドアを叩く音が響いた。
「おう、おつかれ」
「あ、小泉さん。おつかれさまです」
昔からよくしてくれる先輩、小泉さんだった。
彼は「差し入れ持ってきた」と机に牛丼屋の袋を置く。
時計を見るともう21時手前、僕は彼に言われるままに一旦作業の手を止めた。
「すいません、わざわざ来てもらっちゃって……」
「いやいや、後輩が頑張ってるんだから様子くらい見に来るよ。どう、順調?」
「どうでしょうか……」
「はは、まあ新規事業なんてそんなもんだよ。それだけ期待されてるってことじゃないかな」
「そうだといいんですが……」
「……そうだ。インセンティブの話とかってもうしたの? せっかく無茶振りされたんだし、それくらいの恩恵はあってもいいんじゃない? よかったら俺が通しておくよ」
インセンティブと言われても、正直僕に相場観みたいなものは全く備わっていない、というか利益が出るのかすらも分からない。
僕は温玉までつけてくれた牛丼大盛りを頬張りながら考え、適当に指を三本立てた。
「了解」と彼は爽やかに頷き、そして牛丼を食べ終えて颯爽と去っていった。
この調子なら僕も今日中に残りのメンバー一人を決めて帰れるだろうか。
そんなことを考えてもう一度パソコンを開こうとした時、咎めるようにスマートフォンが激しく鳴り響いた。
「『……と──友永まな……がま──が愛佳を合格にしろ──』」
ノイズとともに、なんとか判別できる程度の言葉が聞こえ、あっという間にまた沈黙する。
確認してみると部長からだった。
電波が悪かったのだろう、特に掛け直すこともなければ、指示された彼女、マナカさんは元々僕が合格者候補として考えていた方だ。
僕はパパっと素早く合格者のファイルへそのデータを移し、これで定員七人もピッタリと埋まった。
社会不適合者だらけのアイドルグループ『ネガティヴハッピィ』のメンバーはこうして集められた。
ユウヒ
AGE─18歳
HEIGHT─158cm
BIRTHDAY─12月9日
まんまるな瞳が人々に元気を与える。
美貌と親しみやすさを兼ね備える国民的アイドルの資質を持ったネガティヴハッピィの情熱センター。
ちょっと抜けてておっちょこちょい。
セナ
AGE─21歳
HEIGHT─160cm
BIRTHDAY─5月16日
歌ってよし、踊ってよし、まさに『王道』と呼ぶにふさわしい万能アイドル。
ネガティヴハッピィのセンター兼頼れるリーダー。
優等生すぎるのがたまにキズ。
ハナコ
AGE─20歳
HEIGHT─162cm
BIRTHDAY─2月19日
気品ある容姿と言動が特徴的。
常に優しく微笑みを絶やさない透明感抜群のアイドル。
お嬢様育ちということもあり、ちょっと世間知らずな一面も。
クロエ
AGE─19歳
HEIGHT─152cm
BIRTHDAY─7月17日
日本とイギリスのダブルという個性を持つグローバルアイドル。
まるで人形のような可憐な容姿と、
たどたどしい日本語があいまって守りたくなる愛らしさ。
マナカ
AGE─21歳
HEIGHT─156cm
BIRTHDAY─1月17日
美少女ながらも、
どこか親しみやすい雰囲気が特徴の癒し系アイドル。
少し内気で控えめな性格が、ほっておけない魅力になっている。
アヤセ
AGE─22歳
HEIGHT─171cm
BIRTHDAY─7月1日
モデル並のスタイルに、クールなビジュアルが特徴。
言葉数も少なく表情も読めないミステリアスなアイドル。
神秘的な魅力に注目が集まっている。
リン
AGE─19歳
HEIGHT─169cm
BIRTHDAY─4月9日
ちょっぴり悪い子な雰囲気と抜群のスタイルが特徴的なダウナー系アイドル。
第一印象とは裏腹に根は人懐っこく、
内に秘めたアイドルへの思いは誰よりも強い。
おびただしく、むごたらしくバカ。
善良で勤勉な両親の下に生まれた突然変異のバカ。
基本的に何も理解していないが、いつも元気で楽しそう。
真面目で礼儀正しく優秀な人間だが、
ギャンブルに対する欲求のブレーキだけが完膚なきまでに故障している。
親族友人の縁、大学の学費、すべてをギャンブルで失った。
善良で優しく穏やかな性格だが、金銭感覚と倫理観が消滅している。
恵まれすぎている自分の人生を儚み、
あえて成功しそうもないアイドルの道を目指す。
虚言癖バリバリの日本人。
たまたま見た目がハーフっぽいだけ。
整合性のない嘘を無限につき続けるタイプの嘘つきで、バレても何一つ悪びれることはない。
どこで手に入れたかわからない謎の人脈の持ち主。
その繋がりは運営サイドの認知を遥かに超えており、
政治・経済・芸能、あらゆる分野の権力者に愛されている。
恵まれたビジュアルと引き換えに労働意欲が完全に枯渇している。
巧みな弁舌と、謎の説得力で、
働かないためであればあらゆる計略を用いることを惜しまない。
大学受験に失敗し、性欲が暴走してしまった可哀想な爆乳。
性的な目で見てくれるのなら対象は老若男女も種族も問わない。
彼女にとってアイドルとは盛大な◯慰行為である。