アイドルオーディションに異常性欲者がきた 作:あるふぁせんとーり
「いやぁ……弟さん有名人じゃないですか。テレビで見ましたよ、甲子園」
「あは、そうなんです。両親に似て、めっちゃいい子なので……私と違って……」
「えー、そんなことないよ! 弟くんもすっごくカッコよかったし!」
挨拶回りの帰り、僕はリンさんとマナカさんを連れて夕食を食べていた。
リンさんのお母様が教えてくれた個室の焼き鳥屋だ。
少し値段帯は高めのお店ということもあって多少の持ち出しにはなるかもしれないが、彼女達はアイドルなのだからこれも必要な出費だろう。
「ごめんなさい、マネージャーさん。わざわざこっちまで来てもらって」
「いえ、一度くらいは挨拶もしておかないと。せっかくの機会ですし」
今日はたまたま仕事先がリンさんの地元、しかもマナカさんの実家もその近所ということが判明したためお二人の提案で、大事な娘さんを預からせてもらうという意味でもそれぞれの御実家に顔を出すことになった。
どちらも円満な家庭で歪みの根源のような見当たらず、やはり怪物というのはそういうものなのだと実感させられる。
リンさんの双子の弟は今年の春の甲子園でも準優勝した、僕でも度々名前を聞くほどの名門校のエースで、大学リーグでも相当に期待されているとのことだった。
贔屓の球団が指名してくれたり、なんてこともあるのだろうか。
少し楽しみだ。
「っていうかすっごく意外! リンちゃんおんなじ高校だったんだ!」
「ですね。あ、完全に入れ替わりにはなっちゃってますけど……」
「ねー、それだけ残念。リンちゃん何部入ってた?」
「私は、友達に巻き込まれて生徒会の手伝いを……」
「あ私も〜! 頼み事断れないタイプで、色んな部活のマネージャーとか手伝ってたから」
なるほど。
やはりマナカさんの歪みは一朝一夕のものではないらしい。
考えてみるとリンさんが今年19になったばかりで、マナカさんが今年22になるのだから、この二人は三学年違う。
傍から見ればそうは見えないが、けれど自分の三学年上の先輩というものを思い出してみると全然別次元の生き物だったことを思い出す。
それが社会に出ればこうして同じ領域になるのだから少し奇妙なものだ。
「お二人とも、女子校出身だったんですね」
「そうですそうです! マネージャーさんは共学と別学どっちでした?」
「僕は共学です。本当に、地元の普通の。だから女子校とか、そういうのの雰囲気はあんまりピンとこないですね」
「あ〜、そうなんですか。女子校ってほんと自由なんですよ! ね、リンちゃん!」
「そう、ですね。私、結構陰キャみたいな感じだったんですけど、でもからかわれたりとか、イジられたりとか、そういうのも特になくて。過ごしやすかったと思います。ただ……いえ、なんでも」
なるほど。
今のリンさんがこうなってしまったのは環境のせいかもしれない。
とすればほんの少しは被害者な部分もあるのだろうか、なんてことを考えたところでリンさんの対象は性別を問わないことを思い出した。
純然たる加害者だ。
というかマナカさんのご両親の認識が「引っ込み思案で不器用」、リンさんの家庭での認識が「少し頑張りすぎるところがある普通の娘」といった感じなので、本当に偽装に成功しているらしい。
きっとそこまで含めての怪物なのだろう。
僕は空になった皿をまとめながら考えた。
「それじゃ、お二人はもう少し休んでてください。僕は少しお手洗いに」
「あっ、大丈夫ですよマネージャーさん。ここ、私の知り合いの方がやってるお店で、さっき挨拶したら今日はタダでいいって、言ってくださったので」
「……歪みってすげぇ……」