ラインハルトに転生したヤン・ウェンリーは戦争をしたくない   作:山田 川田

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第2話 イゼルローン要塞1 左遷されたい

アスターテ星域から帰還したヤン――ラインハルトに転生した彼は、憂鬱だった。

この後は怒られるだろうな。めんどくさい。

 

帝国軍の宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥のもとへ出頭した。

「ラインハルト・フォン・ローエングラム、帰還しました」

「よくぞ犠牲を出さずに帰ってきた」

 

あれ?

 

「敗北して敗走することは誰にでもできる。しかし、不利を悟り退却することは、誰にでもできるわけではない」

 

あれ? 褒めてる。

 

「報告書には、撤退の理由として戦略的判断とあるが、他に理由はないのか?」

「ありません」

「そうか」

 

あれ? 怒ってない?

 

ミュッケンベルガーは、ラインハルトを見つめた。

 

才能はある。だが、敗北を知らない若者だった。

しかし、今回の撤退で、負けを認めて退くこともできると分かった。しかも、他人のせいにせず、すべての責任を自分で負う覚悟がある。

 

ミュッケンベルガーは声を低くした。

「この後、二人との面談がある」

「……」

「余計なことは言うな。黙って言うことを聞いていろ」

「……」

 

え? 何?

 

「いいな、余計なことは言うな。黙って言うことを聞いていろ」

「……はい」

 

◇

 

ヤンは軍務尚書エーレンベルク元帥と統帥本部総長シュタインホフ元帥から、散々批判された。降格とか左遷とか言われたが、仕事が楽になるから、その方がありがたい。

 

武人の誇り、帝国の栄誉、軍人としての責務。

 

そんなもののために、人が死ぬ必要はないだろう。

 

そう言いたかったが、ミュッケンベルガーから余計なことを言うなと言われていたし、めんどくさいので黙っていた。

 

憂鬱な時間だった。

 

◇

 

ラインハルト――ヤン・ウェンリーに転生した彼は、新たに編成された第13艦隊の司令官に任命された。

そして、第13艦隊はイゼルローン要塞の攻略を命じられた。

 

数か月後。

 

イゼルローン要塞は、帝国と同盟を結ぶ宇宙航路、イゼルローン回廊に位置している。

その回廊で、同盟軍の艦隊が要塞の駐留艦隊と対峙していた。

 

ラインハルトは作戦図を確認した。

 

「作戦は説明した通りだ。中央の主力と両翼の分艦隊はフィッシャー准将が統括する。私は別働隊を率いる」

 

ムライ参謀長が確認した。

 

「中央は、敵より数が少ないので防御に徹するのですね」

「そうだ。敵の中央を引きつけておけ」

「両翼は?」

「敵と交戦し、戦線を維持する。最初は無理に前進する必要はない」

「承知しました」

 

ラインハルトは作戦図の端を指さした。

「私はここから敵の側面に回り込む。敵右翼が混乱したところで左翼は総攻撃を行う」

「はい」

「敵右翼を撃破した後、私は敵の後方を迂回して敵左翼を攻撃する。そのタイミングで右翼が総攻撃を行う」

「その間、中央は後退しつつ敵の攻撃に耐えるのですね」

「もっとも危険な任務だ。私が両翼を撃破するまで耐えてくれ」

「はい」

 

幕僚たちは作戦図を見つめた。

 

「両翼を失った敵中央を、最後に包囲するということですか」

「その通りだ」

 

ラインハルトは立ち上がった。

 

「では、始めよう」

 

◇

 

戦闘が始まった。

 

同盟軍中央の主力は防御陣形を取り、帝国軍の攻撃を受け止めた。

 

両翼では分艦隊が前進し、帝国軍と衝突した。

無数の光線が宇宙空間を走る。

 

帝国軍は同盟軍中央への攻撃を強めたが、同盟軍は陣形を崩さなかった。

 

「帝国軍中央、攻撃を継続しています!」

「予定通りだ。ゆっくり後退しろ」

 

その頃、ラインハルトの別働隊は大きく迂回していた。

 

「敵右翼の側面に到達します」

「よし。攻撃開始」

 

別働隊が一斉に砲撃を開始した。

 

帝国軍右翼は、正面の同盟軍と交戦している最中だった。

そこへ側面から新たな攻撃を受けた。

 

「敵の増援です!」

「どこから現れた!?」

「側面から攻撃されています!」

 

帝国軍右翼は陣形を変更しようとした。

 

「側面の敵に砲撃を集中しろ!」

「正面の敵はどうしますか?」

「正面は現状を維持しろ!」

 

側面へ向きを変える艦艇が増え、正面の防御が薄くなっていった。

 

ここで、同盟軍の左翼が総攻撃を開始した。

 

「正面の敵が前進してきます!」

「防御陣形を立て直せ!」

「側面からの攻撃も続いています!」

 

側面を向けば、正面が手薄になる。正面を守れば、側面から撃たれる。

 

「後方の艦艇を側面へ回せ!」

「後方にも被害が広がっています!」

「では、どうすればいい!」

 

帝国軍右翼は次々と艦艇を失い、陣形が崩れていった。

 

「敵右翼、戦線崩壊!」

 

ラインハルトは短く答えた。

「次だ」

 

別働隊はそのまま帝国軍の後方へ進んだ。

 

◇

 

帝国軍左翼では、同盟軍との激しい戦闘が続いていた。

 

「敵が崩れそうです」

「よし! 中央に増援を要請しろ。一気に突破する!」

 

そのとき、後方から砲撃が始まった。

 

「後方に敵艦!」

「何だと!?」

「右翼を突破した敵が、こちらに回り込んできました!」

 

帝国軍左翼は前後から攻撃を受けた。

 

ここで、同盟軍の右翼が総攻撃を開始した。

 

「後退しろ!」

「後方にも敵がいます!」

「では、どこへ退けばいい!」

 

帝国軍左翼の陣形が崩れた。

 

次々と艦艇が撃破され、残存艦は中央へ向かって後退を始めた。

 

「敵左翼、戦線崩壊!」

 

ラインハルトは作戦図を見た。

 

帝国軍の両翼は崩れ、残る主力は中央に集中していた。

 

「なんとか間に合った。次は敵中央の後方へ移動する」

 

「これで味方中央も助かりますね」

「まだだ。包囲を完成させるまでは油断できない」

 

別働隊は再び進路を変えた。

 

◇

 

帝国軍中央では、同盟軍への攻撃が続いていた。

同盟軍中央の陣形は、後退を続け、今にも崩れそうに見えた。

 

「右翼との連絡が途絶えました!」

「左翼も後退しています!」

「何が起きている!?」

 

司令官が作戦図を確認した。

 

両翼の部隊は崩壊し、敗走した艦艇が中央へ押し寄せていた。

「まさか……」

 

正面には同盟軍中央がいる。

左右からも同盟軍の分艦隊が迫ってくる。

さらに後方には、ラインハルトの別働隊がいた。

 

帝国軍中央は四方を囲まれていた。

 

「全艦、攻撃開始!」

 

同盟軍が一斉に砲撃を開始した。

 

帝国軍は反撃したが、四方からの攻撃に対応できなかった。

「左側面に被害!」

「後方からも攻撃されています!」

「陣形を維持できません!」

 

帝国軍の艦艇が陣形の内側へ次々と後退を始めた。

進路を変えようとする艦艇が入り乱れ、隊列は急速に崩れていった。

 

「右へ回避しろ!」

「駄目です! 味方艦がいます!」

「衝突するぞ!」

 

巨大な戦艦が急減速した。

 

そのすぐ横を、別の艦艇がかすめるように通過した。

 

「距離が近すぎます!」

「各艦、間隔を取れ!」

 

だが、後続の艦艇も次々と押し寄せていた。

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