ラインハルトに転生したヤン・ウェンリーは戦争をしたくない 作:山田 川田
アスターテ星域から帰還したヤン――ラインハルトに転生した彼は、憂鬱だった。
この後は怒られるだろうな。めんどくさい。
帝国軍の宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥のもとへ出頭した。
「ラインハルト・フォン・ローエングラム、帰還しました」
「よくぞ犠牲を出さずに帰ってきた」
あれ?
「敗北して敗走することは誰にでもできる。しかし、不利を悟り退却することは、誰にでもできるわけではない」
あれ? 褒めてる。
「報告書には、撤退の理由として戦略的判断とあるが、他に理由はないのか?」
「ありません」
「そうか」
あれ? 怒ってない?
ミュッケンベルガーは、ラインハルトを見つめた。
才能はある。だが、敗北を知らない若者だった。
しかし、今回の撤退で、負けを認めて退くこともできると分かった。しかも、他人のせいにせず、すべての責任を自分で負う覚悟がある。
ミュッケンベルガーは声を低くした。
「この後、二人との面談がある」
「……」
「余計なことは言うな。黙って言うことを聞いていろ」
「……」
え? 何?
「いいな、余計なことは言うな。黙って言うことを聞いていろ」
「……はい」
◇
ヤンは軍務尚書エーレンベルク元帥と統帥本部総長シュタインホフ元帥から、散々批判された。降格とか左遷とか言われたが、仕事が楽になるから、その方がありがたい。
武人の誇り、帝国の栄誉、軍人としての責務。
そんなもののために、人が死ぬ必要はないだろう。
そう言いたかったが、ミュッケンベルガーから余計なことを言うなと言われていたし、めんどくさいので黙っていた。
憂鬱な時間だった。
◇
ラインハルト――ヤン・ウェンリーに転生した彼は、新たに編成された第13艦隊の司令官に任命された。
そして、第13艦隊はイゼルローン要塞の攻略を命じられた。
数か月後。
イゼルローン要塞は、帝国と同盟を結ぶ宇宙航路、イゼルローン回廊に位置している。
その回廊で、同盟軍の艦隊が要塞の駐留艦隊と対峙していた。
ラインハルトは作戦図を確認した。
「作戦は説明した通りだ。中央の主力と両翼の分艦隊はフィッシャー准将が統括する。私は別働隊を率いる」
ムライ参謀長が確認した。
「中央は、敵より数が少ないので防御に徹するのですね」
「そうだ。敵の中央を引きつけておけ」
「両翼は?」
「敵と交戦し、戦線を維持する。最初は無理に前進する必要はない」
「承知しました」
ラインハルトは作戦図の端を指さした。
「私はここから敵の側面に回り込む。敵右翼が混乱したところで左翼は総攻撃を行う」
「はい」
「敵右翼を撃破した後、私は敵の後方を迂回して敵左翼を攻撃する。そのタイミングで右翼が総攻撃を行う」
「その間、中央は後退しつつ敵の攻撃に耐えるのですね」
「もっとも危険な任務だ。私が両翼を撃破するまで耐えてくれ」
「はい」
幕僚たちは作戦図を見つめた。
「両翼を失った敵中央を、最後に包囲するということですか」
「その通りだ」
ラインハルトは立ち上がった。
「では、始めよう」
◇
戦闘が始まった。
同盟軍中央の主力は防御陣形を取り、帝国軍の攻撃を受け止めた。
両翼では分艦隊が前進し、帝国軍と衝突した。
無数の光線が宇宙空間を走る。
帝国軍は同盟軍中央への攻撃を強めたが、同盟軍は陣形を崩さなかった。
「帝国軍中央、攻撃を継続しています!」
「予定通りだ。ゆっくり後退しろ」
その頃、ラインハルトの別働隊は大きく迂回していた。
「敵右翼の側面に到達します」
「よし。攻撃開始」
別働隊が一斉に砲撃を開始した。
帝国軍右翼は、正面の同盟軍と交戦している最中だった。
そこへ側面から新たな攻撃を受けた。
「敵の増援です!」
「どこから現れた!?」
「側面から攻撃されています!」
帝国軍右翼は陣形を変更しようとした。
「側面の敵に砲撃を集中しろ!」
「正面の敵はどうしますか?」
「正面は現状を維持しろ!」
側面へ向きを変える艦艇が増え、正面の防御が薄くなっていった。
ここで、同盟軍の左翼が総攻撃を開始した。
「正面の敵が前進してきます!」
「防御陣形を立て直せ!」
「側面からの攻撃も続いています!」
側面を向けば、正面が手薄になる。正面を守れば、側面から撃たれる。
「後方の艦艇を側面へ回せ!」
「後方にも被害が広がっています!」
「では、どうすればいい!」
帝国軍右翼は次々と艦艇を失い、陣形が崩れていった。
「敵右翼、戦線崩壊!」
ラインハルトは短く答えた。
「次だ」
別働隊はそのまま帝国軍の後方へ進んだ。
◇
帝国軍左翼では、同盟軍との激しい戦闘が続いていた。
「敵が崩れそうです」
「よし! 中央に増援を要請しろ。一気に突破する!」
そのとき、後方から砲撃が始まった。
「後方に敵艦!」
「何だと!?」
「右翼を突破した敵が、こちらに回り込んできました!」
帝国軍左翼は前後から攻撃を受けた。
ここで、同盟軍の右翼が総攻撃を開始した。
「後退しろ!」
「後方にも敵がいます!」
「では、どこへ退けばいい!」
帝国軍左翼の陣形が崩れた。
次々と艦艇が撃破され、残存艦は中央へ向かって後退を始めた。
「敵左翼、戦線崩壊!」
ラインハルトは作戦図を見た。
帝国軍の両翼は崩れ、残る主力は中央に集中していた。
「なんとか間に合った。次は敵中央の後方へ移動する」
「これで味方中央も助かりますね」
「まだだ。包囲を完成させるまでは油断できない」
別働隊は再び進路を変えた。
◇
帝国軍中央では、同盟軍への攻撃が続いていた。
同盟軍中央の陣形は、後退を続け、今にも崩れそうに見えた。
「右翼との連絡が途絶えました!」
「左翼も後退しています!」
「何が起きている!?」
司令官が作戦図を確認した。
両翼の部隊は崩壊し、敗走した艦艇が中央へ押し寄せていた。
「まさか……」
正面には同盟軍中央がいる。
左右からも同盟軍の分艦隊が迫ってくる。
さらに後方には、ラインハルトの別働隊がいた。
帝国軍中央は四方を囲まれていた。
「全艦、攻撃開始!」
同盟軍が一斉に砲撃を開始した。
帝国軍は反撃したが、四方からの攻撃に対応できなかった。
「左側面に被害!」
「後方からも攻撃されています!」
「陣形を維持できません!」
帝国軍の艦艇が陣形の内側へ次々と後退を始めた。
進路を変えようとする艦艇が入り乱れ、隊列は急速に崩れていった。
「右へ回避しろ!」
「駄目です! 味方艦がいます!」
「衝突するぞ!」
巨大な戦艦が急減速した。
そのすぐ横を、別の艦艇がかすめるように通過した。
「距離が近すぎます!」
「各艦、間隔を取れ!」
だが、後続の艦艇も次々と押し寄せていた。