ラインハルトに転生したヤン・ウェンリーは戦争をしたくない   作:山田 川田

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第3話 イゼルローン要塞2 左遷は楽しい

ヤン――ラインハルトに転生した彼は、遠征艦隊の司令官を解任され、宇宙艦隊司令長官付きに回された。そして、当面は司令部での待機を命じられた。

仕事もない。

戦史の研究をすると言って、図書館へ行った。

 

大量の歴史書。宝の山だ!

 

帝国の歴史書には、同盟では読むことのできなかった資料も数多くあった。

ヤンは興味を引かれた一冊を手に取り、椅子に腰を下ろした。読み終えると、また別の本を取りに行く。気がつけば昼食の時間を過ぎていた。

 

戦争の指揮をしなくてもよい。

事務作業もしなくてよい。

一日中、読書を続けられる。

 

なんて幸福な時間だろう。

 

◇

 

ラインハルト――ヤンに転生した彼は、作戦図を確認した。

同盟軍は帝国軍を四方から包囲していた。帝国軍の艦艇は中央に押し込められ、まともな艦隊運動ができなくなっていた。

 

「敵艦隊に降伏を勧告しろ」

「はっ!」

 

帝国軍に通信が送られた。

 

『貴艦隊は完全に包囲されている。これ以上の抵抗は無意味だ。直ちに降伏せよ。降伏した将兵の生命と安全は保障する』

 

帝国軍司令部では、幕僚たちが司令官を見つめていた。

 

「閣下、これ以上の戦闘は不可能です」

「降伏などできるか!」

「しかし、すでに両翼は崩壊しております」

「全艦、戦闘を継続せよ!」

 

◇

 

その回答は、同盟軍にも伝えられた。

 

「敵司令官、降伏を拒否しました」

「そうか」

 

ラインハルトは敵艦隊の配置を確認した。

 

「敵の旗艦はどれだ?」

「中央後方の大型戦艦です」

「旗艦だけを攻撃する」

「ほかの艦艇は?」

「攻撃する必要はない。旗艦を集中砲火しろ」

 

同盟軍の砲火が、帝国軍旗艦に集中した。

 

「敵の攻撃が本艦に集中しています!」

「回避しろ!」

「周囲に味方艦が密集しています。回避運動で衝突の恐れがあります」

 

次々と光線が旗艦の防御スクリーンに命中した。

 

「防御スクリーン、出力低下!」

「機関最大! この場を離脱する!」

「前方にも味方艦がいます!」

「構わん! 進路を開けさせろ!」

 

旗艦が加速を始めた。

 

しかし、前方の艦艇も回避しようとして進路を変え、旗艦の行く手を塞いだ。

 

「前方の艦と衝突します!」

「方向転換! 回避せよ!」

 

巨大な戦艦が急減速し、進路を変えた。

 

その間にも、同盟軍の砲撃は続いていた。

 

「防御スクリーン、限界です!」

「左舷に被弾!」

「機関部に損傷!」

 

さらに数本の光線が旗艦を直撃した。

 

「艦内各所で火災発生!」

「動力炉に異常!」

「総員、退艦――」

 

次の瞬間、旗艦が巨大な爆発に包まれた。

 

「敵旗艦、撃沈!」

 

ラインハルトはすぐに命じた。

「砲撃を停止しろ。もう一度、降伏を勧告する」

 

帝国軍では、司令官を失った各艦が混乱していた。

 

『貴艦隊の司令官は戦死した。これ以上戦う必要はない。降伏せよ』

 

しばらくして、一隻の帝国軍戦艦が砲撃を停止し、降伏信号を発した。

続いて、別の艦も砲撃を停止した。

やがて帝国軍中央の各艦から、次々と降伏信号が発せられた。

 

「敵艦隊、降伏を開始しました!」

 

ラインハルトは作戦図を見た。

「よし。降伏した艦艇には攻撃するな。乗員を保護しろ」

 

こうして、帝国軍主力艦隊は降伏した。

 

◇

 

戦闘が終わり、鹵獲(ろかく)した帝国軍艦艇が集められた。

 

「提督、想定より多くの艦艇を鹵獲できましたね」

「ああ。各艦が早めに降伏したので、陸戦隊を敵艦に乗り込ませて制圧する必要がなかった」

「予定どおり鹵獲艦艇をイゼルローン攻略に使用するのですね?」

「そうだ。無人にして自動操縦に切り替える。各艦に爆薬を搭載して要塞へ突入させる」

「……全部ですか?」

「そうだ。鹵獲した艦艇を丸ごと使う」

 

ムライ参謀長が絶句した。

 

「貴重な艦艇です。わが軍で運用するという選択肢も――」

「敵から奪った艦艇を敵の要塞へ叩き込む。これ以上、有効な使い道があるか?」

 

「しかし、要塞の主砲があります」

「だから全艦艇で突入させる。数が多いほど確実だ。全部を撃ち落とすことはできない。たとえ半分が撃破されても、残りの半分は突入できる」

「……そうですが」

「以前にも無人艦を突入させる作戦があったが、失敗した。投入した艦艇が少なすぎたからだ」

「……」

 

「十分な数の艦艇を鹵獲できた。味方艦艇を使う必要はなくなった」

「それは使わない方が――」

 

◇

 

翌日。

 

イゼルローン要塞。

 

直径六十キロメートルの巨大要塞。その表面は水のように流動する金属で覆われ、敵の砲撃から本体を守っていた。艦艇はこの流体金属層を通過して、要塞内部へ出入りする構造になっていた。

 

要塞主砲トールハンマーは、一撃で多数の艦艇を撃破できる強力な兵器だった。さらに、流体金属の表面には多数の浮遊砲台が配置され、接近する敵艦艇を迎撃する。

 

難攻不落を誇る、帝国軍最大の要塞だった。

 

「帝国軍艦隊、接近!」

 

管制室に報告が入った。

 

「駐留艦隊が帰還しました! 高速で移動しています」

「高速で移動?」

 

要塞司令官シュトックハウゼン大将はスクリーンを見た。

 

帝国軍の艦艇が、次々と要塞へ向かっていた。

 

しばらくして、新たな報告が入った。

 

「同盟軍艦隊を発見!」

「何だと!」

「味方艦隊の後方から接近しています!」

 

シュトックハウゼンはスクリーンを睨んだ。

 

「追撃されているのか!」

「そのようです!」

 

「砲撃戦用意! 主砲も準備させろ!」

「はっ!」

 

要塞内に警報が鳴り響いた。

 

「駐留艦隊を盾にして敵軍が接近することは阻止せよ!」

「了解しました!」

 

司令官が通信担当を振り返った。

 

「駐留艦隊からの報告は?」

「それが……情報が錯綜しています」

「どういうことだ?」

「通信はありますが、要領を得ていません。各艦から断片的な信号が送られてくるばかりです」

「断片的?」

「艦隊司令官戦死、組織的な艦隊運動不能、通信妨害を受けている、などです」

 

「無能どもめ!」

 

司令官はスクリーンを睨んだ。

 

「敵軍の位置は?」

「敵は射程外にとどまっています」

「そうか。味方艦隊の収容準備を急げ!」

 

帝国軍の艦艇が要塞へ近づいてくる。

 

「味方艦隊、さらに接近!」

「収容順序を伝えろ!」

 

スクリーンには、何隻もの帝国軍艦艇が映っていた。

 

しかも、速度を落とす気配がない。

 

「逃げるからといって、一度に来るな! 収容の順番があるだろう!」

 

「味方艦隊、減速しません!」

「何をやっている?」

 

そのとき、新たな報告が入った。

 

「味方艦隊、流体金属層に侵入!」

 

「何隻だ?」

「次々と侵入しています! 後続の艦艇も減速せずに向かってきています!」

 

「敗走してきたとはいえ、ひどいものだな。そんなに敵が怖いのか? それにしても……」

 

流体金属層には、なおも帝国軍の艦艇が次々と飛び込んでいた。

司令官は呆れた。

 

「まあいい。流体金属の中なら、敵の砲撃も無効だ。無能どもめ!」

 

「味方艦艇、さらに沈降しています」

「何? なぜ停止しない?」

 

「要塞本体に着底しました!」

「待て……何かおかしいぞ」

 

次の瞬間。

 

数千隻の帝国軍艦艇が一斉に大爆発を起こした。

 

要塞全体が激しく揺れた。

 

「外壁に損傷!」

「流体金属層が大きく乱れています!」

「浮遊砲台、沈没!」

「トールハンマー、使用不能!」

 

「要塞本体の被害は!?」

「各所で外壁が破損! 内部施設にも被害が出ています!」

 

司令官はスクリーンを見つめた。

 

味方だと思っていた数千隻の艦艇は、跡形もなく消えていた。

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