瀬名が東京駅に到着して、東京の高専の迎えを待つ。
指定した時間になっても来ない。連絡もつかない。
(どういう事……?)
東京は関西と違って都心だけあって、呪術師のレベルが高い。京都は古都であり、聖地なので呪術師の量。こっちは質だ。まあ、五条悟がいる時点で意味は無いが。
兎に角、迎えを待っている。その間に京都の先輩とスマホで連絡しておく。
東京着きました、と一報を送ると。
同じグループの兄弟子が一言。
『無駄足だったな』
という反応をした。何だろう。
詳しく問うと、到着した少し前、肝心の宿儺の受肉体が殉職。任務中に死んじゃったらしい。
(あら……)
特に思うことも無い瀬名。呪術師ではよくあること。
然し宿儺の器と評される呪術師を殺せる呪霊とは、特級か。聞いたら曰く、名無しの特級。
勝てないと踏んだ器が抵抗して宿儺諸共死亡した。
報告書にはそう記載されているようだ。
(ご先祖様のご主人って、史上最強の呪術師じゃないのかな)
聞いていた話と違う。
負けている。死んでいる。
おかしな話だ。そもそもバタバタしていたとはいえ、宿儺の復活に上層部は相当慌てていただろう。
瀬名はご先祖様が使用人故、常に仕えている以上言うことは言われたら従う縛りだ。
破れないために、上京したのに。
任務に託けて、謀殺でもしたのかなと思うぐらい呪術師界隈の闇は知っている。
九十九にもよく聞く。上層部は基本的に信用できないし自衛は自分でやれ。
京都校の先輩も、そこは分かっている。
幼少期から共に鍛錬してきた兄弟子は、上京しているならどうせ何時もの推し活に行くから案内してやると言う始末。
高田ちゃんという長身のアイドルのドルオタの兄弟子は給料が良いからと推し活によくこっちに来るらしい。
推しの拠点が東京故に地方民には不利だとぼやくし。
慣れたもんである。流石ドルオタ、そろそろ拠点をこっちに来ようと本気で思っているそうだ。
終生の好敵手も東京にいる。彼にとって、都合がこっちの方が良いのだが楽巌寺が、推し活理由で拠点の引っ越しを認めない。
週末は大体東京に行く兄弟子に了解とだけ伝えておく。
他、先輩の女子グループにも報告。
楽しんできてねという流派の同じ先輩に、東京の高専には知り合いもいるしそいつに適当に聞けば良いと投げやりの旧知の親戚。
三年の先輩は、京都は問題ないからそっちで過ごしていていいと任せろと言ってくれる。
と、やり取りをしていると。
「や、遥々京都からお疲れさま」
爽やかなイケメンが笑って声を掛けてきた。
黒い高専の服装に目隠しの此奴は。
「どうも、五条さん」
五条悟。東京の最強の呪術師で、常に実力と権力と財力で好き勝手しているこの界隈の台風。
噂はかねがね。宿儺の復活に上層部が秘匿死刑を実行しようとしたら妨害したり、去年も爆弾の生徒を起こした交流会の不祥事を揉み消したり。
信用できない御三家の当主。汚い呪術師そのもの。
瀬名も京都の人間だ。五条悟に押し付ける上層部も大概だが、基本的に信用できない東京の高専の呪術師。
だらけた一級の日下部、特級の五条。
教師がこれでは意味が無い。教える教師は他にも居るが、皆等級が生徒よりも低い三級などで、そもそも手本にならず普通の授業ぐらいしか役に立たない。
天才過ぎて教鞭に向かない悪い手本の筆頭五条。
シン・陰流の師範の一人であり、門下生にシン・陰流を伝授することは出来るが生徒にそれがいない日下部。
但し知識量は豊富であり、性格以外は一級に相応しい。
五条が数少ないさんづけで呼ぶ相手。実力は確かで、一級で術式のない術士は日下部だけだ。技量と知識だけでだらけている割りに叩き上げの実力者。
統括すると、京都の高専は東京よりも量が多い。特に御三家の禪院が居るので呪術師の数は圧倒的だ。
対して、東京の高専は特級が二名も居る。五条と唯一の生徒で特級の乙骨。質が圧倒的に高い。
但し、停学処分の三年がいるなど、問題も多いが。
「わざわざ来たのに、ゴメンね? 悠仁……最近、死んじゃって。瀬名が来たのも無意味になっちゃったんだけど」
虎杖悠仁。器の少年だったという。五条は何処か達観したように言う。
…………前提として、瀬名は幼少期から呪術師をやっている。
同じく特級の九十九を師匠で、他にもシン・陰流の師範もそこに入るし、兄弟子とは小学校時代からの付き合いで兄弟子にシスターと呼ばれるほどの仲の良い。
その長年の経験で分かる。五条が庇う相手を殺される真似をされて、平常心を保てるかと言われたら嘘だ。
九十九から聞いている。こいつは改革を進める推進派の立場。相反する現状の保守派とは不仲。
折角の生徒を謀殺されてキレない訳がない。
「本当に死んでます?」
思うのは、本当に死んでいるのか。
謀反を起こして叛逆の五条になろうと思えばなれるのにやらない理由。思いつくのは、子供時代から生きているこの世界特有の呪術師の直感。
死んでないだろうという疑心。
「……瀬名は長いこと呪術師やってるから、やっぱり僕の対応に違和感感じるよね? 九十九さんが教えただけあって、生徒の中でも呪術師の経歴が長いもん」
「知っている限り、五条さんが上層部を許すほど甘くはない、とは思います」
東京の高専の連中と違い、盲信もしないし過度に任せもしない、フラットな意見で言うなら違和感を覚える。
死んでいるなら、残った呪物の処理をどうするのか。
楽巌寺は死んだと聞いて死んでいて欲しいから信じるだろうが、相手はご先祖様のご主人、宿儺の器。
何が起きても、不思議ではないと瀬名は思う。
「白神は宿儺の使用人だから、縛りの認識で直感で分かるんだろうね。まあ、否定はしないでおくよ」
けんもほろろで笑って誤魔化す五条。
つまり、生きているかまた生き返った可能性大。
無意味ではない、と。東京の高専に移る瀬名を連れて、迎えのセダンに乗っける五条。
後部座席に乗っかった彼が言うと、向かい出す。
「さて。瀬名は恵と会うのは初めてだっけ」
「五条さんの引き取った、真打ちの呪術師ですよね? そうです」
同じ十種影法術の呪術師、本家の真打ち。
五条に子供時代から奪われて、長い間鍛錬や下積みを経験している一年生の二級。
瀬名も二級。
これは実際に補佐として長年現場で活動を認められた上で、一年生のは最初から二級を任された。
条件が違うが、対等な立ち位置。
実際京都校の時に既に単独任務を数回終えている。
面倒臭いことこの上なく、やりたくはないが。
「恵は君のこと、小さい頃から親戚だとは知ってるし術式も知ってる。でも優劣をつける気はないってさ。先に言ってくれと言われてる」
「そうですか……」
同じ術式とはいえ、向こうは正式な十種影法術。
その気はなくとも、どうしても劣等感は感じる。
「あぁ、でも式神の調伏の数は圧倒的に瀬名が上だよ。恵、調伏出来てるの玉犬と脱兎、鵺、蝦蟇だけだから。大蛇は死んじゃったしね。玉犬も一匹だけになってる」
「私の半分って……。円鹿は? 貫牛は? 虎葬は? 満象は?」
「まだ出来てない。瀬名みたいに自由に出来るわけじゃないんだよね。縛りが厳しいから」
真打ちは、拡張術式で式神の融合が出来る。
殺された式神の能力を継承したりは知っていたが、融合させてデメリットを踏み倒したり出来る。
「継承は知ってますけど、融合も出来るんですか」
旧式は殺されても復活できるので、事実上無制限。
基礎能力の底上げの代償と言えども、大蛇の喪失や玉犬の弱体化は痛いだろうに。
「そう。拡張術式は旧式で言う、影縫いかな」
拡張術式が旧式が影縫い。
降霊の要領で、式神の能力を自分に纏う事が出来る。
この際、複数出来るので本人の戦力が上がる。
よく使う瀬名の十八番の拡張術式。
「他にも真打ちは他人や自分の影に侵入できたりもするし、落とし穴みたいにも出来る。物を影に格納もできる。ま、格納したらその重さは引き受けるんだけどね」
「詳細が微妙に違いますね。私も格納は出来ますけど重さはかかりませんよ?」
真打ちは影への侵入まで出来るのか。
落とし穴の奇襲も。随分と器用な。
こっちは精々影への呪具の格納程度なのに。
だけどその異次元ポケットの存在は大きい。
無数に突っ込めるし、重さに制限がない。
そこが出力の低い旧式の取り柄でもある、と五条は言った。
「旧式の強みは真打ちよりも単体として術式のパワーは低いけど諸々の制限がないことだね。加えて瀬名は白神の人間だから手持ちの呪具が誰よりも多い。しかもどれもこれも歴史のある名作の模造品。後は影縫いのお陰で式神に慣れている。恵にはない強みだよ」
移動しながら五条は語るに、瀬名と恵は互いに切磋琢磨出来ると思う。
旧式、真打ちの分け隔てを無くして欲しい。
あと、御三家のいざこざを持ち込むのも止めてくれ。
本人がそう望んでいる。
「分かりました。伏黒君の言うとおりに接します」
東京の高専に到着。降りると、敷地を案内される。
一年生の担任は五条だという。……アテにしないでおこうと思う。いい加減だし。
「まぁ、気軽に過ごして。こっちの生徒は同級生居るんだし」
「京都にも新田君が居ましたよ。まあ、ほぼ居ないんですけど」
京都校の一年の新田は優秀でマグロ状態で関西を動いている。引っ張りだこで見たこと無い。
対して、こっちの生徒は京都ほどの柵はない。
気軽に過ごせと言って、校庭に連れて行く。
そこには生徒達が模擬戦をやっていた。
「おーい、みんなー。転校生、来たよー!」
五条が大声で呼ぶと、露骨に嫌そうな顔をする一同。
瀬名に、というより五条に、だ。
呼ばれて集まる面々。
後は頼むと五条は去って行った。
「おう、瀬名。久し振りだな」
見知った顔が居た。禪院家の一人、真希。
幼少期から呪術師をやっている瀬名の馴染みだ。
最近じゃ恨み節を妹から買っている姉の方。
「真希さん、どうも。ご無沙汰してます」
適当に挨拶する。真希が紹介すると、一同なるほどという。
「へえ。真希さんの言ってた武器商人の家柄って、あんたか。ねえ、私にも何か譲ってよ」
早速絡んでくる女子。
名乗れと言うと、一年の釘崎野薔薇。
同じく呪術師の経歴はそれなりというタイプ。
「良いけど、高いよ。私の呪具」
瀬名が渋々、屈んで影に手を突っ込んで探す。
その様子に、真希の事前の言っていた通り呪術師としては、非常に慣れている人物だと皆は知る。
「そこを何とか。ハンマーとかない?」
「槌はあんまりなぁ……。在庫あったっけ」
木槌でもいいか、と問うとそんな燃えたら終わりのものどうしろとと文句を言う。
「いや、これ有名な神社のご神木から切り出して作られた木槌だから燃えないし。破魔の効果があるから雑魚なら殴れば一発だよ」
「野薔薇、瀬名に呪具もらおうとするな。こいつの実家からとんでもねえ額の請求書来るぞ」
高い買い物になるというと、模造品なのにとぼやきながら野薔薇は止めると言った。
面々は狗巻という無言の二年にパンダという二年、何故動物が居るのかは置いといて。
「……こうして顔を合わせるのは初めてだな、白神」
「そうだね、伏黒君」
ウニ頭に無愛想な雰囲気の生徒、伏黒恵。
もう一人の十種影法術。
「いざこざは無し。お互い、宜しく」
「あぁ。……早速聞きたいが、お前式神全部調伏できてるって本当か?」
「うん。八岐大蛇も、もうそろそろ応えてくれると思うけど」
互いに十種影法術について聞く。
旧式のルール、真打ちのルール。
「爆蜂に、鎌鼬? 本来は火と風も居たのか」
「出涸らしの蝦蟇とか、抜け殻の大蛇に上書きされてるからね。でも大蛇、居ないんだって?」
「まぁな……。その分はフィジカルでカバーしている」
苦い顔で、彼は調伏のコツを聞きたいらしい。
言えることは、とりあえず強い呪具持って調伏すれば大抵何とかなる。
「確かに違反はしてねえけど、それお前以外出来る方法じゃないだろ。白神の家だから出来る芸当だし」
「何なら貸そうか? 村正あたり使えば、伏黒君でもできるでしょ」
「有名な呪詛付きの刀じゃねえか。呪具は武術習ってないと意味が無い。今真希さんにやって貰ってる最中だ」
現在、先の悠仁死亡につき全員で鍛錬中らしい。
恵が言うに、次が満象の調伏を目指している。
巨体の象をどうするかは、攻略法あったらまた教えて欲しい。
「うん、とりあえず皆さん宜しくお願いします」
今日から東京の高専の一年。このメンツと、やっていくのだった。