帰る気ゼロの幻想入り、小賢しくPythonと罠で里の便利屋(詐欺師)になる。 作:サトウケン
ケンのゲスすぎる攻撃方法に、「弾幕ごっこのルールと美学を汚した」と、あうんはケンの頭上に思いっきり脳天に響く一撃を喰らわせた。
そしてあうんはケンを人里に送り届けたのち、「妙な事したら霊夢さんと私でしばく」と忠告をしその場を去った。
ケンは幻想郷のシステムに文句を吐きながらも、「鈴奈庵の小鈴」という人物は話が分かる人物ということで、何やら計画を始めるようだ。
人里入り口付近
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博麗神社を半強制的に追い出されたケンは、いたずら妖精・獣型の妖怪だらけ’’の一般人が歩くにはあまりにも危険な山道を抜け、人里の入り口まで、あうんに案内され無事に到着できた。
霊夢とあうんの事をバカにしつつ、地図に目印をつけてもらっているので、真っすぐ「鈴奈庵」を訪ねることにしたケンだったのである。
ケン「あ”~”頭がいてえな!普通の女の子にしか見えないのにどんだけ力強いんだよ、まじで頭が潰れるかと思ったぜ、あのバカ力狛犬が...いつか絶対あの田舎神社の貧乏巫女と一緒に「Ctrl+Alt+Del」で強制的に消し飛ばしてやる...
でもまあ、今は「鈴奈庵」とかいう本ならなんでも揃ってるっていう貸本屋に真っすぐ向かうとするか!フハハハハ!楽しみだぜ、この俺の’’符’’と技術本さえあればバカ力だけの、ノータリンどもなんぞ一ひねりにしてくれるわ!!」
人里の住民は妙な男がいると、ケンを避けるような目で見ている。
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火の見やぐら~鈴奈庵
ケンは、地図の人里にマルをつけてくれていた、「鈴奈庵」のマークを頼りに、’’ボロボロの草履と幻想郷に見合わないような圧倒的軽装’’で鈴奈庵までたどり着いた。
見た目だけで言えば完全な不審者だ。
貸本屋「鈴奈庵」そう書いてある立て看板と、入り口には昔ながらの格子戸の引き戸と、3つに割れたのれんが掛けられている。
構造は日本の伝統的な和風建築のような、「厨子二階(ずしにかい)」と呼ばれる構造だ。
ガラガラガラ....
ケン「すんませーん、本を借りたいんですけども」ケンは店の静かな雰囲気に飲まれ、少し小声気味に、のれんを分け、引き戸を開けて入店した。
入り口の敷居をまたぐと、そこは靴を履いたまま入れるアスファルト(のような建材)の土間になっている。
いかにも「昔ながらの本屋」といった感じだ。
ケンは初めての入店なので、ジロっと本屋の全容を記憶しようと店の端々に目をやる。
店に入ってすぐ横手には、着物と割烹着を着た、いかにも「実家の店を手伝う看板娘」といった素朴な雰囲気を漂わせている少女がいた。
どうやらこちらに気付いていない様子で、夢中になって、何やら物語のような本を読んでいる。
「大丈夫なのだろうかこの子?」とケンは、経営態度を心配した。
ケン「すんません店員さん、ここって色んな本が置いてあるって聞いたんだけど、俺、欲しい本があってね。ちょっと訪ねていいかな?」
ケンは若干ふらんになりつつも、看板娘(おそらく本居 小鈴)に声をかける。
看板娘「はい、いらっしゃいませー。鈴奈庵にようこそ!
どんな書物をお探しですか?私の能力で欲しい本なら一発でわかりますよ!」
愛想よく対応をする。この子もどうやら能力をもっているらしく、本に関するもののようだ。
きっと小鈴ちゃんで間違いなさそうだ。
ケン「本を探してるんだけど、もしかして君が小鈴ちゃん?」
小鈴「はい、私が小鈴ですけども?どこかで私の名前を聞かれました?あと、なんでそんな訳の分からない状態なんですか?」
小鈴は訝(いぶか)しんでいる。それもそうだ、見慣れない服装な上に全身がボロッボロ過ぎるのだ。なんか汚いし。
こちらに探りをいれてくる。
ケン「やっぱりか!実はな、博麗神社っていうあっちのてっぺんの山から下りてきたんだよね俺!で、訳あってそこにいる博麗霊夢とかいう貧乏巫女に神社から追い出されちゃったんだよね。」
ケンは事のあらましを説明した。
幻想郷に来た経緯、博麗神社のこと、妖怪獣道のこと。上手いこと自分が被害者っぽく語った。
小鈴「なるほど...そんな酷いことが...ってなるわけありますか!霊夢さんは置いといて、あうんさんがそんなめちゃくちゃな暴力を振るう訳ないじゃないですか!大方貴方がその、妙な符で好き勝手やって怒られたんでしょ?なんか貴方から底意地の悪い雰囲気を感じますし...
...でも、その符については気になりますね。自身の秘められた能力が開花したり、才能で伸ばすタイプじゃなくて、文字を入力することで符を顕現させるわけですか。
なるほど!合点がいきました!!だから私の元を霊夢さんは案内したんですね!」
なぜか超絶興味津々だ。
ケン「そういうことらしいな、だから俺はここで俺の符を『強化』するために本を探しに来たわけなんだが」
ケンはそう話す。すると店内にいた里の住民の噂話が聞こえてくる。
住民A「そういえば、前に迷い込んできた外の世界の人間、寺子屋の審査に落とされて里の外へ追い出されたらしいぜ・・・その後はまあ、妖怪の晩餐だろうな」
ケン「(は・・・?俺守り手って言われて連れてこられたのになんだその制度・・・?)」
ケンはここに来た経緯を少し思い返してみる。紫の件、博麗神社から叩き出された件。
そうするとある答えに辿り着く。
住民B「そうみたいねぇ。なんだかパっとしなかったしね。しかもやたら専門用語とかウンチク垂れてうるさかったし...」
なにやらウザイ人物だったみたいだ。
ケン「...あれ?俺もしかして面白半分でこんなところに突っ込まれたのか?」
ケンの現代ネット環境で最適化された(最悪の方向に)頭脳がCPU100%でフル回転した。
ちなみにそれもそうだろう、変質した肉体とスマホはどうしても、幻想郷という環境に辻褄が合いすぎているのだ。まるでこの世界に順応し、変革をもたらせ!と言わんばかりの条件だ。
そして今まさに、ケンの「超合理主義」は生き残るために最適な答えをはじき出そうとしている!
ガラガラガラ....
教師風の女「こめんください。小鈴、頼まれていた歴史書の修復だが...」
入ってきたのは、青と白を基調とした服に身を包み、頭に四角い学帽を載せた女性だ。
教師風の女「む?何者だ?やけにボロボロだし、見慣れない顔だな?外来人か?怪しいな、それにその、体に纏わりつく半端な妖気...貴様何者だ?」
教師風の女はケンに対して警戒センサーがビンビンだ。
ケン「!?(こいつもしかして、さっきの噂話の審査官的なやつじゃないのか!?だってここに来るとき塾的なもの(寺子屋)は一個しか見当たらなかったぞ...)い、いや!俺は怪しい者じゃなくてだな!!ていうかなんなんだお前!急に人の事怪しいだとか半端だとか!どこに俺が怪しい要素があるんだよ、根拠を出しやがれ根拠を!お前の発言からは整合性も取れないし、身元審査の客観的な段取りも~~~...!!!」
ケンはパニックになって早口詠唱を始める
教師風の女「えぇい!屁理屈ばかりぬかすな!うるさいわ!」
ーーー瞬間、まるで物理法則を無視したような、超質量の激しい頭突きがケンの鼻先に飛んできた。
ボコォォォオン!!!!!!!!!!!!!!
ケン「ウッ”!?」
鈍い音と共に、ケンの体は鈴奈庵の土間を3メートルほど真後ろへ吹っ飛び、積み上げられていた古雑誌の山に顔面から突っ込んだ。
ケン「何しやがるんだこの暴力メスゴリラァ!!!(またこういう連中かよ!俺が何したってんだこの脳筋ゴリラ!)」
教師風の女「口を慎めェ!!!里を乱すような屁理屈ばかりの害虫など、一秒たりとも里に置いておけるか!!」慧音は冷徹な眼差しで、鼻血をダラダラと垂らしながら悶絶するケンを見下ろした。
教師風の女「日の暮れる刻限までに寺子屋へ出頭しろ。それまでに貴様の身元を保証する『雇用主』か『引き受け人』が見つからなければ...里のオキテに従い、即刻結界の外へ追放する」
女は続ける。
教師風の女「それと、(住人AとBに声をかける)聞き取り調査を行っているので、後ほど寺子屋の相談室に来てもらってういいですか?」
それだけを言い残し女は歴史書をカウンターに置くと、風のように去っていった。
静まり返る店内。ケンは鼻を押さえ涙目だ。
ケン「なあ、小鈴ちゃん!帳簿管理とか人材管理に悩んでなぁい!?!?(鼻がいてぇよ!!マジで痛え・・・!! ダメだ、この世界の奴ら論理的思考力ゼロのバーサーカーしかいねえ!! レスバじゃ命は守れねえ!! 日暮れまでに定職と身元引受人を確保しなきゃ、ガチで妖怪の胃袋行きだッ・・・!!)」
小鈴「え?え!?いやいやその前にその鼻大丈夫なんですか!!!?というか、さっき本を探してるってさっきおっしゃってましたけど!??」
ケン「いいから聞いてくれ! 君一人でこの店番しててクソ忙しいだろ!? 業務改革だよ! 俺がこの店を劇的に効率化してやる!!」
ケンは必死に営業トークを始めた。命を懸けた営業トークが始まる。
小鈴「ほんとに大丈夫なんですかその鼻...!?あの、まあ、確かに私一人でものすごく忙しいといえばそうですね、お兄さんってもしかしてそういうの得意なんですか?私、実は実家のお手伝いなんですけよ、だからもしお兄さんが帳簿管理が得意だったら凄く助かります!!(でも怪しいからさっさと追い出してやる!)」
ケン「そうかい!!じゃあ小鈴ちゃんは、お手伝いってことは、お父さんかお母さんがお店を持っているのかな?そこに掛け合ってもらっていいかい?帳簿の山を持ってきてくれないか?すぐにでも処理しつ尽くしてやるから!!」
小鈴「えっ、でも父が帰ってくるのは日が暮れてからですし、そもそも本当にお兄さんがそんなことできるのか……(怪しすぎるから、父が帰ってきたら追い出してもらおう)」
ケン「分かった、じゃあ今すぐその帳簿を片付けるからさ!!?その前に俺の’’符’’に関係しそうな本を見させてくれないか?」
そうするとケンは蔵書を漁り、見事にpython入門書を見つけた。
「2010年代〜2020年代前半の一般的な初心者本」のようだ。
ケン「あったあった、じゃあこれを使って帳簿の管理能力を見せるから待っててくれ!!(クソォ....ここでしくじったら俺の人生が完全に終わる..妖怪の腹の中に納まりたくなんてねえから、こんな帳簿の山は跡形もなく全部消し飛ばしてやる!!!)」
小鈴の瞳に浮かぶ警戒の色を、ケンは見逃さなかった。
信用されていない。このままじゃ日暮れに慧音に放り出されて晩餐確定だ。
ケンは霊気で構成されたキーボード(’’符’’)を構築し、スクリプトを組み始めた。
初心者丸出しの必死のスクリプトだ。
『# ====================================================================
# 鈴奈庵にあったPython入門書「第5章」までの知識だけで作った帳簿システム
# ====================================================================
print("=== 鈴奈庵 帳簿管理システム(試作版) ===")
# 入門書第4章「リスト(配列)」の知識
# 二次元リスト(リストの中にリストを入れる)でデータを表現
# 要素:[名前, 本のタイトル, 状況(0=貸出中, 1=返却済), ツケ(文)]
chobo_list = [
["稗田阿求", "幻想郷縁起の資料", 0, 0],
["霧雨魔理沙", "魔法のキノコ図鑑", 0, 450],
["博麗霊夢", "お賽銭が集まる本", 0, 1200],
["謎の狢(マミゾウ)", "外の世界の経済学", 1, 0]
]
# 変数の初期化(入門書第2章:計算)
total_books_lent = 0
total_tsuke = 0
print("\n--- 現在の貸出状況を計算中... ---")
# 入門書第5章「forによる繰り返し」と 第3章「ifによる条件分岐」
for row in chobo_list:
# リストから1人分のデータを取り出す
name = row[0]
book = row[1]
status = row[2]
tsuke = row[3]
# status が 0(貸出中)の場合だけ処理する
if status == 0:
total_books_lent = total_books_lent + 1 # 初心者特有の泥臭い足し算(+=を使わない)
total_tsuke = total_tsuke + tsuke
print(name + "さんが『" + book + "』を貸出中(ツケ: " + str(tsuke) + "文)")
# レスバ知識(論理的思考)の応用:1000文以上の踏み倒しリスクを検知
if tsuke >= 1000:
print(" ⚠️【システム警告】" + name + "はツケが多すぎます。回収を推奨します。")
print("\n----------------------------------------")
# 入門書第1章・第2章:数値と文字列を結合するために str() で変換する初心者あるある
print("現在貸出中の合計冊数: " + str(total_books_lent) + " 冊")
print("鈴奈庵が回収すべきツケの総額: " + str(total_tsuke) + " 文")
print("----------------------------------------")』
ケン「どうだい小鈴ちゃん、きっとこんな外来人の話なんて怪しさ満点だろうけど、これを見たら一目瞭ぜ...?
ん?霊夢のとこにマークがついてるぞ?1200文の踏み倒し!?wwwww特大不良債権じゃねえかwwwww」
小鈴「(えええええええええええっっっ!? ちょ、写し出されてるのって、昨日私がつけた最新の貸出記録も全部合ってるじゃん!? 霊夢さんまたツケ踏み倒す気だったの!?)」
小鈴は口元を手で押さえ、ガタガタと震えた。
小鈴「(ていうか、嘘でしょ!? 月末に私が何日も徹夜して、そろばんはじいて泣きそうになりながらやってた集計が……たった一瞬で終わった!? なんか底意地が悪そうで、慧音先生に一撃でぶっ飛ばされた情けない不審者だと思ってたけど……この人、実務能力だけは超絶優秀なんじゃ……!?)」
ケン「小鈴ちゃんよ、どうだい?この能力があれば家計管理から、お店の帳簿管理まで超実務的にこなせるぜ?今片づけた帳簿の山はこれで全部かい?」
小鈴「はい!それで全部です!!あとごめんなさい、本当は心底疑ってました...でも!その能力は本当に「業務カイカク?」につながりそうなので、真剣に掛け合ってみます!」
ケン「(キタコレ~!へっ!こんな簡単なコード引いてやればこんな計算ちょちょいのちょいだぜ。現代の知識サイコ~!!)掛け合ってくれるのかい!!!本当に良かった・・・
雇ってくれなんて言わないから、とりあえずここの二階の物置でもいいから住ませてくれないかな、掃除でも雑用なんでもするからさ!」
ケンは見事に入門書を片手に、セコい能力で小鈴に取り入った。
その後も、入門書と能力を用いて、店の帳簿や人材管理・在庫管理を徹底的に潰していった。
そして――。
窓の外が茜色に染まり、人里に夕暮れの鐘がゴーンと鳴り響いた頃。
ガラガラと引き戸が開き、店の奥からどっしりとした足音が響いた。
経営者風の男「ただいま戻ったぞ、小鈴。・・・む? なんだこの整然とした帳場は。それに・・・その鼻に紙を詰めた見慣れない男は誰だ?」
本居(もとい)家の経営者――小鈴の父親が、怪訝そうに眉をひそめて帰宅したのだった。
ケン「(完璧としか言いようのない土下座)はじめまして!!鈴奈庵のオーナーさんですよね!!?わたくし、ここの帳場の処理を行ったものなんですけども!!先刻、青と白の着物の教師風の女性に「身元を保証しなければ〇す」と脅されまして!!!
なのでここで雇ってもらえませんでしょうか!?わたくしこの通り、帳簿の管理から家計の管理まで得意としておりまして!!!!!なんとか雇っていただけませんカァ!?」
ケンは慧音の発言を誇張気味にすり替えて説明をした、それもありえないぐらいの被害者面で。
これ以上ないくらい最悪に歪曲させて。
冷たい床に這いつくばり、まるで地面に向かって丁寧に話しかけいるかのような様相で、営業トーク(懇願)を始めたのだった。
小鈴父「ふむ...。君の言い分は分かった。確かに怪しさ満点と言われればそうだな。それと小鈴、聞いていいか?...本当にこの男は帳簿を片付けたんだね?(なにやら底意地の悪さを感じるが、優秀なのは間違いないんだろうな...)しかし、慧音先生がそんなことを言うのかね?」
ケンの仕事と、慧音に対しての悪質な歪曲した説明を訝しんでいる。
そして、父親が怪訝そうに大福帳を開いた。
そこに並んでいたのは、これまで小鈴が何日も徹夜してそろばんを弾き、それでも合わずに頭を抱えていた売掛金・買掛金・貸出在庫の、完璧な一覧表だった。
小鈴「そうなの、超怪しいでしょ?でもね!でもね!本当にあの帳簿の山を見事に粉砕してくれたんだよこのお兄さん!!」
小鈴の目は、この実務能力は明らかに店の最高に助けになると、超打算的思考で目をハートにして語っている。
小鈴父「ふむ?どれどれ?(処理された帳簿を確認する)な、なんだこれは……!? 数ヶ月分のツケも在庫照合も、寸分の狂いもなく計算されている……!?
それに……博麗の巫女のツケが千二百文!? あいつ、うちの店でもそんなに踏み倒してたのか!?いくら里を守護しているとしても、こんなのは罷り通らん!!」
妙に納得している。それもそうだろう、小鈴は霊夢のツケについて頻繁にグチをこぼしていたのだ。
そして商人家系の父親の観察眼が、ケンの「ただ飯食らいの居候ではなく、圧倒的な実務コスト削減要因」としての価値に目が眩む。
小鈴父「よし、寺子屋にはうちの帳簿係として身元引受の書類を出してやろう。二階の物置を使っていい」
ケン「旦那さぁん!!!わたくしを雇って頂けたら、霊夢への合法的な催促状の作成から、仕入れの在庫回転率の最適化、さらには家計の経費削減まで、すべてこの『符』で秒速処理してみせます! 給料なんて二の次でいい! 寺子屋への身元引受と、二階の物置部屋さえ恵んでいただければァ!!」
ケンは完璧なプレゼンをした。生き残るための必死の生存戦略。泥臭すぎる交渉だが、一筋の光明が差し込んだ瞬間だった。
小鈴父「・・・。いいだろう。ちょうど帳場の人間手が足りなくて頭を抱えていたところだ(小鈴も助かって、俺の株もうなぎ登りに決まったな)。慧音先生のところには、うちの『帳場見習い』として私が話を通してやる」
ケン「ッッッッ!!!!!ありがとうございまァァァアアアス!!!!!!!!!」
ケンの土下座は、地面が抉れるほど、そしておでこが削れるほどの土下座に進化した。
ケン「(勝った……!! 首の皮一枚繋がったぞオイ!! へっ、ざまあみろ! これで俺は合法的な『鈴奈庵の従業員』だ!! 妖怪の晩餐なんて冗談じゃねえっつの!!ハハハハハ!!見てろよあのバカ頭突き教師が!俺に楯突いたことを、里中の晒し者にして後悔させてやるぜ!)」
小鈴父「だがな、ケンとやら」
立ち上がろうとしたケンの前に、父親が奥の棚から「ひときわ分厚く、年季の入った黒い表紙の帳簿」をドンと置いた。
小鈴父「君のその符の力、もう一つ試させてもらいたい。・・・実は、寺子屋と稗田家から預かっている、『人里の古い過去帳(住民記録)』の照合が長年放置されていてね。虫食いや抜けが多くて困っていたんだ。これも、君の力で綺麗に整理できるかい?」
ケン「(……ん? 寺子屋と稗田家が絡んだ、人里の過去データ……?)」
ケンの脳内に、先ほど住民が話していた「審査に落ちて消えた外来人」の噂がふっとよぎった。
「稗田家ってなんだ?トラブルの元じゃないだろうな?」ケンの脳内に嫌な予感がチラつく。
ケン「(もうこれ以上トラブルに遭いたくねっーつーの!てかよ、雇った瞬間に仕事投げるとか、こいつもこいつでどうにかしてやがるな。普通オリエンテーションとかあんだろうが普通!!)」
ーーーその日の夜・ケンの部屋(二階の物置部屋)
二階の物置部屋には大量の蔵書が眠っていた。
ケンは小鈴母から受け取った煎餅(せんべい)布団を敷こうと、本の山をかき分けて、本の壁に四方を囲まれる形にはなるが、寝具のスペースを確保した。
蔵書の整理中にケンは謎の気配(煙のようなものや謎の鳴き声)などを感じ取ったが、ここは幻想郷。ここまで来る間に体験した理不尽と比べれば、大したことはなかった。
ここは昼間でも薄暗く感じるような圧倒的な蔵書量(天井まで届く整理の行き届いた本の山)なので、本の匂いで満ちているし、レスバ趣味のクズ野郎のケンにとっては、この閉鎖的な空間はむしろ居心地が良い。そしてむき出しの梁が『屋根裏部屋』のような倉庫や、蔵といった独特な雰囲気を醸し出している。
ケン「ふぅ...片付けるのに2時間(体感)はかかったな。これで落ち着いて休めるな!
それにしても、流石貸本屋なだけあるな。この蔵書の量には圧倒されちまうな。売ったら全部でどんぐらいになるんだろうな?」
ケンは脳内で勘定を繰り広げながら、片付けた蔵書の山をぐるりと見まわして、少し悦に浸っている。
...コンコンコンコン
小鈴「ケンさん!あの、この蔵書の山についてなんですけども・・・」
なにやら小鈴はケンに伝えたいことがあるようだが、モゴモゴしている。
引き戸がほんの少しだけ開き、隙間から小鈴がそろりと顔を覗かせた。
階下に両親がいるのを気にしているのか、その声はひそひそ声で、どこか落ち着きがない。
ケン「蔵書?ああ、片付けたけどどうしたんだ?梁(はり)のスキマとかに積めなかった本を差し込んだりして、寝る場所ぐらいは作ったけど。」
小鈴「あ、いえ、それはありがとう。でも違うんだ!あのね...そのぉ~...」
小鈴は何か言い淀んでいる。
ーーー突然、小鈴は部屋に忍び込む。そして抜き足差し足で戸をピシャリと閉めた。
そして、部屋の隅。
ケンが先ほど「変な煙や奇妙な鳴き声がした」と感じて避けておいた、ひときわ分厚い風呂敷包みの前へ小走りで向かう。
小鈴「わぁ良かった!無事だったぁ”~!!」
ほっと胸を撫で下ろす小鈴。その手つきは、まるで宝物を扱うかのように異様なほど慎重だった。
ケンは煎餅布団に尻もちをつきながら、間抜けな顔で小鈴を見ている。
ケン「(慎重に部屋に入ってきたと思ったら、さっきのやべえ気配を醸し出してた風呂敷を大切そうに見つめてやがるな?もしかして、親にも言えないような’’とんでもねえ代物’’なのか?)」
半妖となっているケンの、霊気感知センサーがバチバチと警告をならしている。
この風呂敷の中身はやばいと、決して触れてはいけないと。
ケン「おいおい、なんだそのヤバそうな風呂敷!こんな大きな貸本屋に、そんな危険な匂いのする代物があるんだよ!」
小鈴「一応父さんや母さんには、買ったり読んだりするのは止められてないんだよね...
だからたくさん集めちゃったんだ。えへへ。だってさ!お兄さんも面白そうって思わない!?危険そうな本の中身ってどうなってるんだろう。読んだらどうなるんだろうって!」
小鈴の、本への熱量が徐々に高まってきている。ケンがレスバに全神経を集中し、全力で相手に嫌がらせをしようとしている時の雰囲気に酷似している。
ケン「おい!冷静になれよ!!親に止められてないからってこんな怪電波垂れ流しの危なすぎる本なんて集めるなよ!!さっきからその本の妖気に中(あ)てられて頭がズキズキいてぇんだよ!
少なくとも俺が居候してるしてる間はその本は封印しとけよ!!」
小鈴「ちぇっ。外の人だから『妖魔本』に興味津々だと思ってたのに、つまんないの。
お兄さんが苦しいなら、しばらくは出さないけど。あーあ、残念だなぁ」
小鈴はふくれ面をしながらも、大事そうに風呂敷包みを元の隙間へと押し込んだ。
どうやらケンが「親にチクるような真面目な人間ではない(というか、そんな余裕がない)」と悟ったことで、小鈴の中でケンへの警戒ランクが『ただの無害で情けない居候』へと急降下したらしい。
ケン「自分でもやばいって自覚あるなら大したもんだ、大人なんて意外とつまんないもんだぜ?外も内もそんなかわんねーよ。じゃあ俺は親父さんから任された過去帳の整理するから、お前はさっさと寝ることだな。」
小鈴「ま、いいや!とにかくこの本たちに乱暴なことしないでね。あ、それとお父さんに頼まれた過去帳だけど……あんまり無理しないでね?」
ケン「あん?過去帳がどうかしたっていうんだよ?」
小鈴「うーんとね、稗田(ひえだ)の阿求ちゃんから預かってるやつなんだけど、古い時代の記録って、たまに『おかしな抜け』があるんだよね。虫食いっていうか、最初からページが破られてるみたいな?阿求ちゃん、すごく頭がいいのにその話を聞くといつも誤魔化すんだよね」
小鈴「あたしはもう寝るから!ケンさんもおやすみ!!」
小鈴はパタパタと小走りで部屋を出ていき、引き戸が閉まった。
階下へ降りていく足音が消え、二階の物置部屋には再び埃と古書の匂い――そして部屋の隅から漂う微弱な妖気のノイズだけが残された。
ケン「なんだったんだあの本は、頭がかち割れるとこだったぜ。
ふーん...稗田ねぇ。稗田の阿求っていうのが居るんだな?そいつがこの過去帳に一枚噛んでやがるのか。あの慧音とかいう頭突きバカと一緒になって管理か。何かキナ臭い秘密でもありそうだな。」
半妖になったことで、徐々にだが、ケンの警戒センサーが強化されている。
ケン「フンッ!じゃあ早速この過去帳の虫食いと破れたページを参照してやるとするか。
親父さんにはでかい恩があるしな。ただ働かせ方が気に食わねーんだよな。俺は奴隷じゃねーよバカジジイめ」
ケンは霊気で構築されたキーボードを叩き始める。
ケン「よし。構文はさっきと同じだ。二次元リストにぶち込んで日付と名簿の整合性をチェックするだけの、小学生でも書けるスクリプトだ。」
『# 過去帳データクレンジング用スクリプト(試作)
# 要素:[年代, 氏名, 身元(里の人間/外来人), 記録状況]
print("=== 人里過去帳・整合性エラーチェック開始 ===")
# 誕生・受領ログがあるのに、死亡・転出ログがない「行方不明者」を検知する
for record in kakocho_data:
year = record[0]
name = record[1]
status = record[2]
note = record[3]
# 外来人の記録を抽出
if status == "外来人":
# 寺子屋に引き渡された記録のあと、記録が途絶えている場合
if "寺子屋受領" in note and "退去" not in note and "死亡" not in note:
print(
"⚠️【不整合エラー】"
+ year
+ "年: "
+ name
+ " の記録が受領後数日で完全消失しています。"
)』
⚠️【不整合エラー】1998年: 外来人A の記録が受領後3日で完全消失
⚠️【不整合エラー】2003年: 外来人B の記録が受領後1日で完全消失
⚠️【不整合エラー】2008年: 外来人C の記録が……
⚠️【不整合エラー】2011年: 外来人D の記録が……
⚠️【致命的エラー】第〇〇期:住民台帳の約12ページ分が『存在しなかったこと』に改ざんされています
ケン「……は?」
ケンは、能力で構築したcmdかた垂れ流されるログを確認した。
そこには、いくらスクロールしてスクロールしまくっても、警告が止まらない。
数十件。いや、百件を超える「外来人」たちの記録が、寺子屋に連れて行かれた直後、まるで世界から消しゴムで消されたかのように、不自然な空白となって途切れていた。
ケンの背筋に、形容しがたい悪寒が走る。
ーーー瞬間、ケンは住民たちの会話を思い出す。
住民A『寺子屋の審査に落とされた外来人は、里の外へ追い出されて……妖怪の晩餐だろうな』
何度もケンの脳内でエコーする。
ケン「お、おいこれって長い時間でできた虫食いとかそんなもんじゃない...!!」
更にケンの背筋に耐えがたい悪寒が走る。
ケン「これは意図的に、『外来人』を間引きしてる血なまぐさい証拠なじゃねぇかよ...」
ただのデータ集計のつもりだった。
しかしケンが暴いてしまったのは、寺子屋の上白沢慧音と、人里の支配層である稗田家が、何百年もかけて隠蔽し続けてきた――「幻想郷というシステムの、一番汚いゴミ箱」そのものだった。
今回も重厚になってしまいました!
サトウケンが鈴奈庵に転がり込んで、なんと幻想郷のきったねえシステムそのものに気付いた瞬間でした!!
毎回ドでかいやらかしをしてくれますけど、幻想郷の裏側まで覗いてしまうなんて誰が想像したんでしょうか?
これからサトウケンは、この裏側の真実に足を踏み入れて何を為すのでしょうか。楽しみですね!
それではまた次回!